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リアクション
「あのダブルビームサーベル。彼が”アサルトくん”、か」
黒崎 天音(くろさき・あまね)が傍らのアイリ・ファンブロウに確認した。
「はい、間違いないです。寿子の描いた”アサルト”です」
「他の学校に遊びにくるのもいいもんだね。寿子さんの同人誌は全部一気読みさせてもらったし、
『具現化した擬人化イコン』に遭遇できるとはね。しかし”アサルトくん”、イケメンだね〜」
アイリが答える。
「”アサルト”は今回が初登場になる他校生です。体格もよく、力もあります。
本来はリーダーシップを発揮できるいい性格なんですが、プライベートでは皮肉屋な『設定』なんです」
「ブルーズ。君も漫画を描く身として”彼”はどうかな?」
天音がブルーズ・アッシュワース(ぶるーず・あっしゅわーす)の表情を楽しむように問いかける。ブルーズは複雑な表情をしていた。
ブルーズも天音と一緒に寿子の同人誌を一気読みした、正確には天音に”読むように強いられた”のだ。
「我の絵柄とはだいぶ違うからな……寿子さんの絵柄は今風の洗練された絵柄だろう」
「内容のご感想は?」
ブルーズにわざと問いかける天音がいたずらな笑みを浮かべる。
「……我にはよくわからないが……女性ウケする内容なのではないか……な」
くすくすと天音が笑う。
「笑っておる場合ではないだろう天音。早く彼らに原稿に戻ってもらわないと冬の祭典に寿子さんの新刊が間に合わない」
ブルーズの言葉を背に天音が”アサルト”に歩み寄っていく。
「天音、一体どうするのだ?」
「説得だよ」
天音は微笑を浮かべて”アサルト”に声をかける。
「君、”アサルトくん”だよね?」
「ああ、そうだ。”イーグリットアサルト”だ」
「そこにいるアイリさんは知ってるかな?」
「俺の作者のアシスタントだろう。知っている」
「原稿に戻ってもらわないと、作者の寿子さんが悲しむ事態になるんだ」
「悲しむ事態? 俺に関係あるのか?」
「君たちが登場する新刊。冬の祭典に間に合わなくなるんだよ」
「間に合わなくてもいいだろ。描き直せばいい」
「原稿に戻りたくないんだね?」
「ああ」
「描き直してもいいんだね、君を」
「ああ! 描き直せ!」
「寿子さんの原稿に戻らないなら! 君の双子の兄、『チョコルト×アサルト受』の18禁擬人化BL同人誌出すよ? この『ぶる☆うず先生』が」
「我がか?!」
思わずびしぃ! とブルーズが背後でツッコミをいれた。
「どうする〜どうする”アサルト”くーん? ぶる☆うず先生の画力もかなりのハイレベルだよ? 写実的な絵柄で。
いやあ見てみたいな『チョコルト×アサルト受』!」
「俺が『受け』なわけないだろ!」
「へーえ。そうなんだ”アサルトくん”。でも君って両刀使いなんだよね?」
「悪いのかよ」
「全然。ぜーんぜん悪くない。恋愛には性別なんて関係ないからね
――でもさ、『攻め』だけじゃなくて『受け』の経験も君には必要なんじゃないのかな」
天音が色っぽい声と息を”アサルト”の耳にかける。アサルトが思わず身をよじった。その横顔を見ると耳たぶまで赤くなっていた。
――意外とかわいいじゃないか”アサルト”。ははーん。『初登場』ってなだけあって、実はあんまりご経験がなかったりするんじゃないか?
――ここに寿子がいたら、「このシチュエーション頂きます☆」なんて言って、次の同人誌のネタになってしまってるわ。
天音の”色仕掛け”に赤くなっている”アサルト”を見てアイリは原稿を描くときに発揮される寿子のBL妄想パワーを脳裏に浮かべていた。
「どうかな? ぶる☆うず先生に描き直してもらう? それとも」
「近寄んな!」
”アサルト”が天音、ブルーズ、アイリとの距離を置く。
「寿子には”アサルト”を描き直してもらうことになるかもしれませんが」
アイリは『魔法のタクト』を構えて臨戦態勢に入っている。
「やろうってんだな? いいぜ。 来いよ!」
ダブルビームサーベルを起動させた”アサルト”がアイリ達に向かって構える。その隙に”アサルト”は側面を体当たりされて体勢を崩した。
「ああ? お前も俺と戦うってんだな?」
「お前に恨みは無いが、事態がややこしくなりそうだからな」
柊 真司(ひいらぎ・しんじ)が加勢に入ったのだ。そして真司と一緒にやってきたのはネージュ・フロゥと”百合原うさぎ”だ。
「キラーラビットか!」
天音は『また擬人化イコンが出てきた』と喜びの声をあげる。
「”うさぎ”かよ」
「”アサルト”、原稿に戻りなさい」
「”イーグリット”のお守でもやってろよ、この過保護者が」
「”アサルト”。”イーグリット”には”コームラントさん”という恋人がいることは知っていますよね」
「ああ」
「ではどうして”イーグリット”を自分のものにしようとするのです?」
「うさぎの姉貴には関係ねーだろ」
「関係あります。”コームラントさん”に対抗意識があるのはなぜなのですか?」
「対抗意識? ねーよ、そんなものは」
「”イーグリット”を愛しているからではなく、”コームラントさん”から彼を奪おうとしているのではないですか?」
「違う! ”コームラント”よりも優れた俺の方がふさわしい。選ばれるべきは俺だ」
「ばりばりにあるよな、対抗意識」
「我もそう思うぞ、天音」
天音とブルーズの会話に真司も参加していた。
「なるほど、”アサルトくん”の真の標的は”コームラント”ってことか」
「やっぱり、お前ってかなりかわいいヤツだな。”アサルト”」
「そういう対抗意識は青年の過渡期に必須のものなのだろう”アサルト”。恥ずべきことではないと我は思うぞ」
「うんうん、良きライバルは最良の友というし。競い合って高めあう相手がいるってことは幸せなんだぞー”アサルト”」
「なんだよ! この野郎どもは! ”コームラント”なんか俺の足元にもおよばねーっての」
「素直になれよ、”アサルト”」
「大人になってゆく通過儀礼のようなものだ。認めろ”アサルト”」
「”コームラント”が今回、具現化してなくて寂しいんじゃないか? ”アサルト”」
「……こ、今回はうさぎの姉貴に免じてお前らとは戦わないでおいてやる!」
アサルトは後退しながら急速浮上してその場を飛び去った。
「”コームラント”に対抗意識がある”イーグリットアサルト”……」
桐生理知は寿子と一緒に物陰からその会話を聞いていた。
「はい☆」
「えっとさ、”コームラント”のモデルは山葉聡さんだよね? で、”アサルト”は他校生なんだよね……モデルは」
「もちろん山葉 涼司(やまは・りょうじ)さんです☆」
「――従兄弟だから?」
「”イーグリットくん”が”アサルトくん”にもふらふらしちゃうのは『その血のさだめ』ってとこです☆」
「ウリウリゆってもいいかしら?」
「擬人化イコン達に『イコンにはちょっと無理かな』なポーズをとらせるのもありですよね☆」
「大河原メカをカトキ立ちに……」
「”アサルト”は装甲をきんきらきんにして俺様野郎な王様にすればよかったかも……」
「――永野メカ?」
「相手を『ざっしゅ!』とか呼んじゃうのもありだったかも……」
「今は『MIX』だもんねー、雑種」
「それはもうカップリング三昧な……ふふ腐腐腐」
「――徹夜明けの『腐女子』ハイテンション……恐るべし」
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