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擬人化イコン大暴れ!?

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擬人化イコン大暴れ!?

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第三章:魔法少女のペン

 「オレたちの分の昼飯まで用意してくれてたとは。助かったぜアイリ」
 シリウス・バイナリスタがアイリの料理に舌鼓を打ちながら言った。
 「ほんに、こんなうまい料理を毎日食っておるとは、うらやましいやつじゃのう寿子」
 アレーティア・クレイスが寿子に言う。

 「アイリちゃんのご飯は世界一、パラミタ一なのです☆」
 寿子がそう答える。漫画を描き終えた彼らはアレーティアが用意した昼食を食べていたのだ。


 寿子の部屋に新たな訪問者がやってきた。
 キャロライン・エルヴィラ・ハンター(きゃろらいん・えるう゛ぃらはんたー)トーマス・ジェファーソン(とーます・じぇふぁーそん)アルキタス・オルニス(あるきたす・おるにす)の三人である。

 「寿子! 頼まれてた短編一話分、下描きしてきたよ!」
 「キャロラインちゃん、ありがとう〜!!」

 新刊を落としてしまうかもしれないと嘆く寿子に自分が短編を一話作り、そこに寿子の過去の没原稿やイラストを組み合わせて入稿できるように保険をかけることをキャロラインは提案していたのだ。

 やってきた三人の前にアイリが料理を盛った皿を持ってきた。
 「寿子の急なお願いに応じてくれてありがとうございますキャロラインさん」
 「こちらこそお昼ごはんまで用意してもらちゃって……あ、それでさっきのメールに『お昼ご飯は食べましたか?』って返事くれたんだ」
 「アイリちゃんの美味しいご飯を食べればペン入れもすいすい進みます☆冷めないうちに召し上がれ☆」

 「じゃあ、僕たちはご飯も頂いたし、『擬人化イコンたち』を探しに出かけるか」
 黒崎天音が皆に号令をかける。
 「食器の後片付けは私たちにお任せください。寿子くん、アイリくん、部屋の留守番は私たちに任せて」
 トーマス・ジェファーソンが彼らにそう言う。
 「うんうん。僕たち三人で原稿を仕上げてるから。みなさん、擬人化イコンたちを寿子さんの原稿に」
 アルキタスもそう言って彼らを見送った。



 アイリの料理でお腹いっぱいになった三人はテーブルを片づけると、原稿のペン入れ作業に入った。

 「これが噂の『魔法のインク』……書き味は抜群だし、乾くのもすごく早い!」
 キャロラインは興奮気味に続ける。
 「しかも『描いたものが具現化する魔法のペン』だなんて……魔法少女、女の子なら憧れない訳、ないよねっ」
 「シャロン、むやみに具現化させないでくださいよ……って、なにこの内容」
 ジェファーソンが原稿にベタを塗りながら言う。
 「このストーリーはねぇ、人魚姫にヒントを得たんだよね〜」
 「私の”パールヴァティ”がどうしてこんな二重人格……」
 「だって、うちの”パールヴァティ”はだいぶ改造してあるんだもん。
 元の性格と改造後の性格の2人の擬人化イコンストーリーっていいじゃない?」
 「”パールヴァティ”が姉の”ブルースロート”に対して実らぬ『百合的な』恋を――」
 「そうそう、実らない恋に悩んで”パールヴァティ”と”ドゥルガー”の二人になって具現化。
 そして”ブルースロート”に言い寄る男性を排除する事で、その実らぬ想いを置き換えて満たしていく倒錯したストーリーだよ?」




 「――シャロン? 『魔法少女』の力を使っていますね? その状態で『魔法のインク』を使ったりしたら!」
 キャロラインを叱責するジェファーソンをなだめるようにアルキタスが言う。
 「いいんじゃないの? この”パールヴァティ”と”ドゥルガー”なら”イーグリット”と”アサルト”に勝てそうだし。
 それに”ブルースロート”の双子でそっくり美人さんなんだしさ」


 「本当に二人とも”ブルースロート”そっくりの美人で。どうせ。どうせ私なんて」
 ”ガネット”の前には”パールヴァティ”と”ドゥルガー”がいた。

 「このお二人は強烈なシスコンなのです。私なんて、”コームラント”の兄様に全然似てなくて。どうせ兄様も私のことなんて」
 ”ガネット”が”パールヴァティ”の後ろについてゆく。


 「あたし、小さい頃にママと一緒に見た映画で、いつか『魔法少女』になってみたいと思ってた所だから!
 って事で完成した筈の原稿をジェニファーに見せようと思ったら、”パールヴァティ”も、そのもう一つの人格の”ドゥルガー”も消えちゃってビックリ」


 「消えちゃってビックリどころじゃありませんよシャロン! どうするんです『私のパールヴァティ』いいい」
 ジェファーソンが”パールヴァティ”を追いかけて走ってゆく。
 「ジェニファー!」
 キャロラインもジェファーソンについて走り出した。



 ”パールヴァティ”が”ブルースロート”になりすまし、”イーグリット”に話しかけている。

 「――”イーグリット”、あなたの好意はうれしいのですが……私はそれに答えることはできないのです」
 ”イーグリット”が悲しそうな目で言う。
 「先輩……もしかして俺が迷惑でしたか……」
 ”パールヴァティ”が無言でうつむく。
 「先輩、先輩は俺の事が嫌いでしたか」
 ”パールヴァティ”は”イーグリット”の方から顔をそむける。
 「先輩! ”ブルースロート先輩”にとって俺は、俺は」

 「私と一緒に地獄に落ちましょ?」
 「”ガネット”?」
 「あなたも私も不幸。私と一緒に地獄に落ちましょ? ”イーグリット”」
 「このことは……”コームラント”に」
 「伝わるでしょう。私が言わなくても。”イーグリット”、あなたは”コームラント”の兄様からも”ブルースロート”からも
 ……ですから一緒に地獄へ落ちましょ?」
 「――”ガネット”」
 ”イーグリット”はその場に『擱座した』。


 「シャロン……精神的なダメージは原稿にも出てしまうの? 原稿の修正はきくの?」
 「うーん……ヒビが入ってしまってるかも……表情も線とかトーンで暗くなってるかも?」
 「”ドゥルガー”、”ドゥルガー”が気になる! シャロン、”ドゥルガー”を探そう」

 「”ドゥルガー”と”アサルト”ならこちらです。きっと”アサルト”も」
 ”ガネット”が片手にキャロラインをもう片手にジェファーソンを抱えると、急速浮上し、”ドゥルガー”の元に急降下した。


 ”ドゥルガー”は”アサルト”に口説かれていた様子だ。
 「なぁ、”ブルースロート”。俺と付き合おうぜ」
 「お断りいたします。”アサルト”、あなたは”イーグリット”にも口説いていますよね?」
 「今はそんなこと関係ないの。俺は”ブルースロート”の気持ちを聞いてるんだぜ?」
 「あなたのような不義な男とおつきあいなど金輪際いたしません!」
 「不義ってなんだよ”ブルースロート”。まんざらでもなかったんじゃないのか?」
 「不義なる男を許してはおけません!」
 「待て、待てよ”ブルースロート”」

 ”ドゥルガー”は”アサルト”に襲い掛かってきた。”アサルト”が思わずその場から逃げだす。

 「二兎を追う者は一兎をも得ず――でも”うさぎのお姉さま”に頭が上がらない”アサルト”。ふふふふ。私と一緒に地獄に落ちましょ?」
 「”ガネット”?」
 逃げ出した”アサルト”に”ガネット”が並走しながら会話している。
 「”ブルースロート”からも”イーグリット”からも不要と言われて。かわいそうな”アサルト”。あなたも私も不幸。私と一緒に地獄に落ちましょ?」
 「『不義』で『不要』……」
 ”アサルト”はその場に『擱座した』。

 「シャロン。”アサルト”の方も原稿にダメージが出てしまうのでは? 
 ”私のパールヴァティ”のストーリーを作るなら……今回は急ぎで仕方がないですが、次回は私にも声を掛けて。
 パールヴァティを愛機にしている分、最適の監修が出来ると思うわ。シャロン。シャロン? 聞いてますかシャロン……」