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■ エピローグ ■



「ああもう、また逃げられた!」
 ホワイトアウトの気配が大気に消えた頃、魔女の姿も一緒に消えたことにルカルカはダリルに振り返った。
「例によって破名か」
 瞬時に姿を消すことができる人間で、魔女と関係があるのはあの悪魔かと推測を立てる。
「面倒よねぇ。何とかならないかしら」
「そうだな。あれはやっかいだな」
 考えこむダリルは今回の顛末を末端に軽く記録しておく。この後の処理をしなくてはならない、被害者は多いのだ。
「くそぉ、またか。今度こそ必ず潰す」
 弄るような違和感は拭えず、犯人が知っている魔女と知れば恭也の決意は増々と固くなるというもので、次会ったらどうしてくれようかと目を細めた。
「で、まだ握ってるのかい?」
 数分で術が解けると宣言されて、メシエはエースに問うた。
「んー、じゃぁ、ちょっと離してみようか」
 魔女が言っていたのが真実か確かめるためにエースはそっとメシエと距離を取った。
 ルシェードが逃げたと聞いてがっかりしているのはクレアだった。レオーナが一箇所に留まり懸命になっているのがあと数分も続かないことを知って、本当に本当にがっかりだ。
 一目会い、是非ともレオーナをこのままにしてくれるように頼もうと思ったのにと、落胆する。平穏への希望が消えて、さてどうしようと、どこかでゴボウを挿しているレオーナを探した。
 情報サイトに物凄い勢いで書き込んでいく蒼也の指がぴたりと止まった。
 あんなに思考を埋め尽くしていた疑問が綺麗に解けた。というか、普段なら知っていることも不思議に思う魔法が解けて、むしろすっきりだ。
「何だったんだろう……」
 その呟きの言葉は携帯に打ち込むことはなかった。
「ああ、もう、できなーーい」
 叫んで眠りから飛び起きたセレンフィリティにセレアナは彼女の額に熱を測るように手を添える。
「具合はどう? まだ、作業する?」
「れ? そう言えば、そうでもない……」
 熱意を失ってセレンフィリティは首を傾げて、傍らの米袋を見た。
 恋の魔法が溶けたミルディアはおろおろしていた。
「ごめんなさい。もう少しお待ちになって」
 そう言ったフィリシアの剣幕に後ろのほうで繰り広げられている地獄絵図へと振り返る勇気が持てない。最初こそ聞こえたジェイコブの声も今は聞こえず、ミルディアはただただおろおろするばかりだった。
 そっと頬に添えられた手のぬくもりにさゆみは目を開ける。ぱたぱたと頬に涙が落ちてきて慌てて体を起こした。すかさずアデリーヌはさゆみに抱きつき、その胸に顔を埋める。
「アディ?」
「もう、あんなことはしないでください。わたくし……あんな思いはしたくありませんわ……もう失いたくないの……大切な、あなたを……」
 アデリーヌの告白に、さゆみは思う所があったのか、ゆっくりと目を閉じると彼女を抱きしめ返した。
「……く」
 気絶から回復した弾にノエルはホッと胸を撫で下ろした。
 横になっている自分に弾は目を瞬く。
「あれ、僕……」
 どうにも前後の記憶が無い。何がどうなって気絶したんだろうか。呟く弾に、ノエルは何もありませんでした、安心してくださいと柔和に微笑んでみせた。
 へたりと、ネージュはその場にへたり込んだ。
 精神的葛藤に苛まれた体が開放され、同時に全身の緊張が緩んだ結果だった。
 ともすれば犯罪ぎりぎりだったかもしれない場面をなんとか避けられたことに安堵する。
 ちらりとパートナーを見ると彼女は相変わらず淑女の微笑みを浮かべていた。
「凄い、世界かもぉ」
 これを共有と呼べるものかはわからないが、紫蘭の世界の一端を垣間見えた気がして、何とも名状しがたい気分だった。
 へーい、そこの人、一緒にお茶しなーい。という感じで挙げていた手をフレンディスは、すっと下ろした。ベルクに振り返る。
「マスター、私どうしてなんぱなんてしていたんでしょう?」
「え?」
 聞きたいのは俺の方だと、ベルクはまた振り回されたと全身の力が抜ける自分を自覚する。
 空気さえ凍りそうな緊張感は次の瞬間には跡形もなく消え去った。
「ふぅ」
 元の穏やかさを取り戻したオデットにフランソワは目を瞬いた。
「オデット?」
「許すことにしたの。考えてみればただのナンパなのよね」
 あそこまで真剣に怒るなんてどうかしてたわと気を取りなおしたオデットはフランソワにさっさと行きましょうと誘った。
 最後の涙を指で拭いて、ゆかりはゆっくりと息を吐いた。
「マリーもう大丈夫です」
「本当? 何か甘いものでも頼む?」
 呼吸を整えるパートナーにマリエッタは今度こそオーダーを頼もうと片手を挙げた。
「うー……」
 頭が痛いなぁという感覚が本格的な頭痛に変化してきた。眉間に皺を寄せる弥狐に沙夢はパートナーの頬に手を添えた。
「大丈夫?」
「あ、質問。うん、大丈夫」
 頑張って答えてくれる弥狐に沙夢はありがとうと彼女の頭を撫でた。
「大変だったよね。頭をたくさん使ったでしょ? ココアでも飲みに行く?」
 気遣う沙夢に今までとは違う聞き方に気づいた弥狐はぱっと顔を明るくして大きく頷いた。
「で、何に怒ってたんだよ」
 強制的な眠りから起きた永夜に司狼とロイメラは顔を近づけた。
「何にって言っても……なんだろう」
 頭が真っ白になるまで怒り狂っていた永夜の答えは酷く曖昧だった。
「と、魔法が解けたみたいだ。よかったこれで家に帰れる」
 ずっと目を閉じていた話相手が漸くその目を開ける。ほぼ同時にルーシェリアの心も平穏を取り戻した。
「じゃぁ、僕はこれで。今日は誘ってくれてありがとう」
 伝票を持っていく相手をルーシェリアは呆けた顔で見送る。自分の伝票も一緒に持っていかれていたことに気づいたが後の祭りだった。
「でー、それで爆弾があったら困るなぁって」
「で、本当に爆弾はあるの?」
「……あ」
 忍の指摘にのるんは小さく声を漏らした。うずくまって動けなくなる程自分を苛んでいた心配の種は、そこにあるように思えて全く無いことに気付かされたのだ。
「爆弾なんてこんな所にあるわけないよね」
 照れ笑いして、付き合ってくれた忍にお菓子コーナーに行かないかとのるんは誘った。
 家の玄関を閉めて、リアトリスはそのまま扉にもたれかかった。
「疲れた……」
 目を閉じて、超感覚だけで家に帰るのがこんなに大変とは思わなかった。途中人にはぶつかるし、側溝につっかかるし、信号のある場所とか心休まる暇が全く無くて、緊張の連続だったのだ。
「あれ?」
 いつの間にか恋がしたい気分が払拭されていて、あの感覚は何だったのだろうかとリアトリスは脱力感に襲われる。
「で、破名を信用するなとはどういう意味だ?」
 問い詰める和輝から逃げるようにルシェードは『ダンタリオンの書』の後ろに隠れた。
「そこまでは教えなぁいぃ」
 きゃらきゃらと子供のようにはしゃぐ少女にアニスの不信は募る一方だった。
 魔女の考えは一体どこにあるのだろうか。
 ただわかったのは、彼女がご機嫌だということだけだった。



 さて、彼女の実験は何をもたらしたのだろうか。

担当マスターより

▼担当マスター

保坂紫子

▼マスターコメント

 皆様初めまして、またおひさしぶりです。保坂紫子です。
 今回のシナリオはいかがでしたでしょうか。皆様の素敵なアクションに、少しでもお返しできていれば幸いです。
 魔女の悪意の表れか、場面場面で過剰表現がされています。
 今回の出来事が今後皆様の人生にどのような変化をもたらすのか。影響が無ければ良いとは少なからず思ってはおります。


 また、推敲を重ねておりますが、誤字脱字等がございましたらどうかご容赦願います。
 では、ご縁がございましたらまた会いましょう。