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リアクション
皆から少し離れた場所で、岡間 信一郎(おかま・しんいちろう)とパートナーの機晶姫シーマ・アール(しーま・あーる)、信一郎に声をかけられて協力することにした倉田 由香(くらた・ゆか)とパートナーのドラゴニュートルーク・クライド(るーく・くらいど)、白波 理沙(しらなみ・りさ)とパートナーのシャンバラ人チェルシー・ニール(ちぇるしー・にーる)、クレア・シュミット(くれあ・しゅみっと)とパートナーの守護天使ハンス・ティーレマン(はんす・てぃーれまん)、樹月 刀真(きづき・とうま)とパートナーの剣の花嫁漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)、そして香取 翔子(かとり・しょうこ)は、『スナジゴク一本釣り大作戦!』を敢行しようとしていた。
まず、フック付きのワイヤーロープを持ったハンスが、わざとざくざく音を立てて歩き回る。ワイヤーロープは途中で分かれて理沙と月夜の小型飛空艇、クレアと翔子の軍用バイクに端を固定してある。スナジゴクの口にフックを引っ掛けて、小型飛空艇と軍用バイクで引っ張り、スナジゴクを砂の外に引き出し、残りのメンバーで袋叩きにしようと言うのだ。
「まぁ、そのスナジゴクがどんだけのものか知らないけど、弱そうなミャオル族が怪我だけで済んでるんだから、こっちに全く勝ち目が無いってわけじゃないと思うのよね」
言いながら、理沙は念のためにと腰につけた命綱を小型飛空挺につけている。
「いや、油断は禁物だぞ」
クレアは、自分のではなくパートナーのハンスの命綱を軍用バイクにつける。
作戦に従って、ハンスはフックつきワイヤーロープと命綱を引きずって、ざくざくと砂漠を歩いて行く。すると、目の前で砂が舞い上がった。
「来ましたね!」
ハンスは身構えたが、予想以上に砂の勢いが強く、スナジゴクの頭がどこにあるのか良くわからない。その間に、足元の砂がどんどんえぐれて来る。
「!」
ハンスはたたらを踏んだ。飛び上がって逃げようと考える間もなく、崩れる砂に巻き込まれて穴の底に滑り落ちる。だが、おかげで、スナジゴクがどこに居るかは判った。
目の前で、頭と前足を振り動かして、砂を舞い上げている。その目が、ハンスをとらえた。口元で、鋭い牙がカチカチと鳴る。
「この口にフックを引っ掛けろと……?」
ハンスはさすがに眉をひそめた。クレーンゲーム機のようにフックをぶら下げて引っ掛ける方法もあるが、手を離したらワイヤーがたるんで外れそうだ。しかし、手に持っているフックを引っ掛けるとなると、牙の間に手を突っ込まなくてはならない。
「手伝います!」
命綱をつけた刀真が斜面を滑り降りて来たその時、スナジゴクがハンスに襲い掛かった。刀真はとっさに、身を屈めたハンスの頭ごしに、牙の間にカルスノウトを突っ込んだ。
ガキィィィィン!
金属音と共に、牙がカルスノウトの刀身を挟んで止まる。その一瞬の隙に、ハンスはスナジゴクの口にフックを引っ掛けた。
「引いてください!」
穴の外に向かって叫び、刀真を庇うように砂の斜面に身を伏せる。それと同時に、スナジゴクが激しく暴れ始めた。激しく砂を巻き上げながら、穴の底に引っ込もうとする。ワイヤーを引っ張り始めた理沙、月夜、クレア、翔子は、のたうつ蛇のように波打ち揺れるワイヤーに、逆に振り回されることになった。軍用バイクはまだ後輪が滑って蛇行する程度で済んだが、空中にいる飛空艇の方は縦横無尽だ。理沙と月夜は、悲鳴を上げて飛空艇から放り出され、砂の上に落ちた。もちろん、操縦者が居なくなった飛空艇も墜落する。
「これじゃ完全に砂の上に引きずり出すのは無理ね……。仕方ないわ、スナジゴクが砂から頭を出しているうちに、みんなで攻撃しましょ!」
信一郎に言われて、由香とルーク、チェルシー、シーマは穴の縁に駆け寄った。
「まだ穴の中にハンスと刀真がいるから、危なくて火術や雷術は使えないね……。ルーク、作戦変更! ドラゴンアーツで砂を吹き飛ばして!」
スナジゴクにリターニングダガーを突き刺し、そこにルークの雷術を落としてもらうつもりだった由香は、穴の中の様子を一目見て叫んだ。刀真の命綱がつながっている月夜の飛空艇は、操縦者を失って墜落、ハンスの命綱がつながっているクレアのバイクは、スナジゴクに加えて月夜と理沙の飛空艇までおもりになってしまい、スナジゴクがもぐらないようにするのが精一杯で、ハンスを引っ張り上げる余裕がない。ハンスと刀真は、スナジゴクが蹴散らす砂になかば埋まったまま、まだ穴の底にいるのだ。至近距離に雷を落とせば、二人とも無事には済まないだろう。
「わかった、任せろ!」
ルークは手のひらをスナジゴクに向かってかざした。砂が吹き飛んで視界がクリアになったところで、由香が甲殻の隙間を狙ってリターニングダガーを投げる。
「よくも理沙さんを……わたくしが毎回ボケてばかりいると思ったら大間違いですわよ?」
小型飛空挺に飛び乗ったチェルシーが、降りそそぐ砂をものともせずにチャージを敢行し、こちらも甲殻の隙間にランスを突き込む。
「倒したら、ちょっと味見させてね?」
シーマも、カルスノウトを構えて斜面を駆け下りて行く。
「ちょーっと予定が狂ったけど、でも袋叩きには違いないわよね!」
信一郎はライフル内蔵のエレキギターを構え、ルークが立て続けに砂を吹き飛ばしている間に精密射撃だ。とうていまともに当たりそうにないいい加減な形状の武器だが、どういうわけか精密射撃もできるらしい。
しかし、
「そろそろ、バイクが限界っ……!!」
翔子が悲鳴を上げた。下が柔らかい砂地なので、一か所でタイヤが回り続ければ、その場所だけ砂がどんどん掘れてタイヤが埋まっていく。その分摩擦も増えて行くので、エンジンに負担がかかるのだ。
「残念だが、こちらもだ……!」
クレアも叫ぶ。
「みんなっ! 総攻撃よっ!」
信一郎の号令で、生徒たちはいっせいに攻撃した。だが、スナジゴクの死に物狂いの抵抗も激しい。翔子とクレアのバイクのエンジンがオーバーヒートを起こす寸前、やっと、スナジゴクは動きを止めた。
「ハンス!」
クレアはバイクから飛び降り、命綱をたぐった。
「いや、ひどい目に遭いました……」
砂まみれになったハンスと刀真が、よろよろと斜面を上がって来る。
「理沙さん! 理沙さん!?」
チェルシーは砂の上に振り落とされた理沙に駆け寄った。幸い、大きな怪我はないようだ。由香とルークは、月夜を助け起こしている。
「うーん……色々と予想外のことが起きちゃったわね。今日はこれ以上戦うのは無理みたい」
皆の様子を見て、信一郎はため息をついた。
後方で控えていた救護担当の生徒たちは、俄然忙しくなって来た。ぐったりした武尊に続いて機械油と砂の混合物まみれで軽い火傷も負った津波、のびてしまった正義、と次々と担ぎこまれて来る。しかも、日が昇って気温が上がってきた。
「うわー、何でこんなことになっちゃったの? とりあえず洗うねー」
ミルディア・ディスティンは『至れり尽くせり』で用意してあった、水が入ったバケツを津波のところに持って来た。
「申し訳ございません、こちらに洗剤がございますので……」
ナトレアが荷物からオレンジオイル配合の強力住宅用洗剤を取り出す。
「あの、いくら何でも、顔はそれだとまずいんじゃないかな? えーっと……」
ミルディアはゴソゴソとポケットを探し、オリーブオイルを取り出した。……どう見ても瓶が医療用ではなく、調理用のものだが。
「クレンジングオイルの代わりになると思うのよね。いきなり強力洗剤よりはいいでしょ?」
「ちょっと、『ヒール』もしておきますね」
その横で、和泉 真奈が言う。
「ありがとうございます……」
まだ目も開けられない状態のまま横たわっている津波が、ぺこりと頭を下げる。
「「どういたしまして!」」
ミルディアと真奈は揃って微笑んだ。
一方、メイベル・ポーターとセシリア・ライトは、一番ダメージが大きい正義をヒールしていた。
「正義の味方をヒールする私たちって、ヒーロー番組のヒロインみたいですぅ」
「うーん……でも、最近は戦うヒロインが主流じゃない?」
「戦うヒロインも良いですけど、私のキャラクターではないですぅ。やっぱり、戦場で白衣の天使ですよぅ」
二人とも、きゃっきゃうふふと妙に楽しそうにしているが、スナジゴクに思い切り吹き飛ばされて砂に突っ込んだ正義は、傷は塞がったもののまだ気絶したままだ。
その脇では、高谷智矢が武尊の様子を見ていた。
「こちらの方は光条兵器の使いすぎだそうですから、しばらく休ませておけば良いでしょう。『SPリチャージ』を使える方がいらっしゃれば一発なんですが……。コウジ、これを水に濡らして絞って、額に乗せてあげてください」
「はーいっ!」
タオルを渡され、白河童子は張り切って濡れタオルを作り、武尊の額に乗せた。
「……ご苦労さま。ゆっくり休んでね」
武尊の手を取って、シーリル・ハーマンは小さく微笑んで囁いた。
日が高くなる頃、今日はこれ以上は戦うのは難しいと判断した生徒たちは、一組また一組とミャオル族の村に向かった。
「おお、もうスナジゴクを退治して下さったのですかニャ? ありがたいことですニャ」
ミャオル族たちは、ひれ伏さんばかりに生徒たちに感謝した。
「いや、まだ残っているスナジゴクが居ると思う。飛空艇とか空飛ぶ箒を持ってる奴に、上空から良く探してもらった方が良いだろう」
生徒の意見に、村長は深々と頭を下げた。
「願ってもないことですニャ。よろしくお願いいたしますニャ」
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