天御柱学院へ

なし

校長室

蒼空学園へ

エクリプスをつかまえろ!

リアクション公開中!

エクリプスをつかまえろ!

リアクション


第1章 オープニング

 ケテルとマルクトの双子と、天文部への入部を希望する面々、『スターゲイザー』の場所の調査チームに立候補してきたメンバーが集まっていた。
「ケテル、『スターゲイザー』の場所って、全く皆目検討もつかないのか?」
 黒い髪を束ねたウィング・ヴォルフリート(うぃんぐ・う゛ぉるふりーと)が、温和な表情を浮かべながら質問する。
「天文部にある文献には、いくつか記載があるの。ただ、それらしい資料を集めるのだけで、私たち、必死だったの。パラミタでもエクリプスが観測できる、そう判ったのが、つい最近なのよ。だから調べる時間も全くなかったってわけ。だから朝礼でみんなにお願いしたの」
 ケテルの見た目の美しさに反比例するかのようなつっけんどんな言葉遣いに、周囲は驚きを隠せない。ケテルの言動に双子の弟、マルクトはヒヤヒヤした表情でそんなケテルをいさめている。
「ケテル、もうちょっと言い方っていうものがあるだろ?」
「ケテルってあんな子だったんですね…」
 天文部に入部した代々剣士の家系ですらりとした風貌の菅野 葉月(すがの・はづき)がびっくりして呟くと、パートナーのミーナ・コーミア(みーな・こーみあ)もアーモンド型のつり目の瞳をぱちくりさせ、うんうんと首を縦に振った。ミーナ自身は日食自体に当初興味がなかったが、ケテルの「とても美しい日食だと、昔の文献では書かれているの。しかも人々の愛に灯をともし、生涯の絆をもたらすとも書いてあるわ」という言葉に、葉月を振り向かせたいと言う気持ちが沸き上がり、俄然やる気を出していたのだ。
「意外…」
「時間もないことだし、今から調べよう」
 赤い髪が美しい十倉 朱華(とくら・はねず)が手を挙げた。
「では、私は朱華のサポートを」
 聖者の絹衣を纏い、整った容貌のウィスタリア・メドウ(うぃすたりあ・めどう)も続く。
 いろいろな意見が出される中、やや小柄だが、黒い髪と青い瞳が特徴的な清泉 北都(いずみ・ほくと)が呟く。
「基本的に太陽と月の位置を調べれば判る筈だね。だけど、この世界の日食は僕らの世界とは異なるんだろうか?」
「確かに北都、貴公の言うことは正論ですね。我はその当たりも含めて、ちょっと図書館に周辺の地図や資料が無いか、調べてきましょう。みなさんは天文部の資料に当たって下さい」
 風森 巽(かぜもり・たつみ)ティア・ユースティ(てぃあ・ゆーすてぃ)がくるり、ときびすを翻して、図書館に駆けだしていく。
「ねーさま、私たちもいきましょう」
「ええ」
 サイドテールに、ミニスカとオーバーニーが良く似合う久世 沙幸(くぜ・さゆき)が妖艶なムードを漂わせる藍玉 美海(あいだま・みうみ)とその後を追う。
「俺たちはこちらの本を調査しよう」
 ぼさぼさの髪の毛をかく鈴倉 虚雲(すずくら・きょん)の言葉に、集まっていた面々は天文部の膨大な資料を調べ始めた。古い資料も含まれているため、埃やカビの匂いが立ちこめている。
「エクリプスが見られる日は決まっています。ちょうど1週間後。時間がないため、徹夜の作業になります。早い段階で出発したいので、大変だと思いますがお願いします」
 マルクトはみんなに頭を下げた。その側でケテルが作業工程のチェックに入っていると、天文部の扉を叩く者が現れた。
「天文部部長ケテル・ティフェレトと、副部長マルクト・ティフェレトですか」
「あなたは…」
「私は、シャンバラ教導団放送同好会会長ミヒャエル・ゲルデラー博士(みひゃえる・げるでらー)。そしてこちらが私のパートナー、アマーリエ・ホーエンハイム(あまーりえ・ほーえんはいむ)。そこにいらっしゃるのは、天文部の美しき双璧、ケテル・ティファレトと、マルクト・テイファレトですな。すでに『事前通告』が御神楽 環菜(みかぐら・かんな)校長から伝えられているはずですがな、お耳には入っていますかな」
「ええ、聞いています。ようこそ。私たち蒼空学園天文部に協力していただけるとのことで…ですけれど、軍事でその名を轟かすシャンバラ教導団の方々が私たちのプロジェクトに参加となると、さすがに不穏な感じがするのだけど、いかがかしら」
 ケテルのその美しい笑顔によってオブラートで包まれているが、実のところ、非常に鋭い言葉が飛び出した。
「ええ。確かにそうお思いになるでしょうな。しかし、私たちはあくまでもマス・メディアの立場として来たのです。この皆既日食は蒼空学園のものだけではなく、パラミタ全土のものでもあるわけですな。これをパラミタ全土に記録映画として、配布する予定がございますな。機材も一流のものを揃え、また、君たちへの協力も惜しみませんですな。私たちの申し出を断るのは、何より蒼空学園天文部の利益に反すると思いますがな」
 これまた笑顔で食らいついてくるミヒャエル・ゲルデラーに、ケテルはきゅっと結んでいたへの字口をふっと緩めた。
「判りました。確かに、校長からもあなた方の協力を受け入れるよう、指示されています。その技術力も魅力的ですし、なにより人手が足りません。早速ですが、今から資料調査へのご協力をお願いします」
「ケテル! はるばる遠方から来たお客様だ。今日は、ゆっくりしてもらうべきじゃないのか」
「マルクト、甘いわね。一刻の猶予もないのが現状よ」
「マルクト様、私たちは大丈夫ですわ。ねえ、ミヒャエル」
 端正な佇まいの吸血鬼、アマーリエがにっこりとほほえみかけると、その場にいた男子全員がくらくらっとなってしまった。
「そうです、レニの言うとおりですな。大丈夫です。ではさっそく、私たちもお仲間に入れていただきましょう。どこから手をつければよろしいですかな」
「では、こちらからお願いできますか?」
 パートナーのカティア・グレイス(かてぃあ・ぐれいす)に隠れて資料捜しに参加していた久沙凪 ゆう(くさなぎ・ゆう)が、二人を案内した。