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オークスバレー解放戦役

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オークスバレー解放戦役

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第9章 オークスバレー大攻防

9‐01 乱戦

 森を抜けると、主戦場となる、本巣を前にした平地。
 先ほどそこを一駆けした騎狼部隊に続き、本巣攻めの主力部隊が続々攻め込んでくる。
「敵両側面に、丘陵があり。そこに、魔道師とハーフオークが展開しているわ」
 久我グスタフに支えられながら、アリーセが報告する。
「前面には、守備隊が集結。門の上には……機晶姫がいるわ!」
 すれ違って、剣・銃を抜き進んでいく獅子小隊ら。
 その中から、香取翔子、
「レーヂエセイバーズより騎狼部隊へ!
 我々は敵前線部隊を食い止めます! 騎狼部隊は二次突撃を敢行されたし!」
「火の機晶姫は、私たち獅子小隊が引き受ける」
 中央を行くのはイリーナ。
 それを受けて騎狼部隊、森の前面で展開し、
「では、私達はそのまま側面の攻撃に移るぞ」手綱を引き、イレブンが剣を上げる。
「ようし、イレブン、右の丘陵は俺が引き受けるぜ」ランスを持ち直し、デゼル。
「相良殿!」「う、うん」相良、グランもそちらに続く。
「じゃあ僕たちは、左へ」「Ok! イレブンさん、前衛は任せて」騎士の菅野、ミューレリアも再び、馳せる。
「皆さん、待ってください!」メイベルは再攻撃に出る皆にリカバリーをかける。
「メイベルさん、皆が暴れすぎないようお願いね!」アリーセはそのまま、報告を行う役目で後方へ駆けて行く。
 ベルフェンティータは、戻ってきた騎狼たちを、労わる。
(ごめんね……お前達に人の争い何て関係無いのに……
 ……あの馬鹿の馬鹿の馬鹿の馬鹿の馬鹿のホクトが無茶苦茶して。
 お前達だけでも無事に戻っておいで……)
「え、お、俺かよ……しかも五回も馬鹿って聞こえたような……って、無視か?!」
 騎狼たちにヒールをかけながら、絶対零度のダイアモンドダストが吹きそうな眼差しで一瞥するベルフェンティータ。
「えっ」
 傷ついたシャンバラの兵たちにヒールをかけながら、絶対零度のダイアモンドダストが吹きそうな眼差しで一瞥するベルフェンティータ。
「俺何かしたっけ……」駿河は、すでにベルフェンティータのカースト制の最下層に位置付けられているのだもの。仕方がなかった。
 騎狼部隊は方向を転じ、丘陵へ向けて走った。
「気を取り直し、……魔道師め、覚悟しやがれェ、ッラァ行くぜ!?(ああ、ベルフェンティータ)」駿河は右へ、
「ロブ?」「射撃ができる俺も相手は魔道師だ、ならば」「私たちは左ね!」
 ロンデハイネの部隊から、中軍があがってくるところだ。
 すでに前方は、両軍入り乱れての乱戦となった。
 まず、御鏡焔が、レーヂエセイバーの一隊と共に、向かってくる部隊へ、突っ込んだ。
 前回の戦いで、(少々無理やりに)突撃に慣れた御鏡、今回は率先して、オークを切り崩していく。
 獅子小隊も、レーヂエセイバーズと攻め上がる。
「ナナ様? 大丈夫で御座ろうか?!」
「な、何とか、まだ今は、大丈夫です。わっ」
 二人の後ろで、迫っていたオークがばたん! と倒れる。
「狙撃は……相手が気づく前に戦闘不能にするのでありますよ……」
 クリスフォーリル・リ・ゼルベウォント(くりすふぉーりる・りぜるべるうぉんと)
 そして彼女の横にいるやけに重たそうな機晶姫は……
 今回、カートリッジを持てる限り、様々な外部装甲に収納し、"歩く火薬庫"と化したクレッセント・マークゼクス(くれっせんと・まーくぜくす)
 かなり、目立っている……。
 歩兵が激突している中で、ソルジャーの香取は銃床で、ド突き攻撃で突っ込んでいっている。
「ソルジャーは後方で、援護射撃に備えんか!」
 ゾルバルゲラの軍も競り上がってきている。
 香取、更に近付いたオークには頭突きをお見舞い。
「アイタタ……久しぶりにぱっちぎ(頭突き)すると星がチラつきますね」
「……。それに貴様、参謀科の香取だな? 後ろで大人しくしとらんでいいんかい」
「だから軍人がこの程度の戦闘で敵に後ろ向けろと?
 それに実戦経験のない参謀は、机の上で空言しか論じれないと思いますしね」
 そう言うと、元不良グループのリーダーは、オークの死体を乗り越えていった。
「フン。ソルソお前も頭突きしてでも突き進むことを学べ」
「貴公は下がることを学べ。本巣に攻め込むのが役目ならば、力を少しは温存しておくがいい。早く、岩造のところへ戻れ」
「フェイト!! 行くぞ!」「はぁぁぁぁー!! 岩造様!」岩造、フェイト、その横を抜け突進していく。
 部隊長らに付き中軍に位置したウィザードカインも、すでに乱戦の真ん中に入りつつある。
「……ふむ、これが戦場か」
 一帯を見渡すカイン。
 両側、幾らか距離を隔てた丘陵には、ハーフオーク兵がいるが、まだ動いてこない。
 魔道師が打つ妖しいリズムが、聞こえ始めている。ハーフオークの戦意を上げているらしい。
 だがそこへ、騎狼部隊が間もなく達しようとしている。
 傷ついた兵は、中軍の辺りまで下がってきて、プリースト職にあたる守護天使らによる治癒を受けている。守護天使らの中心には、クリストバル ヴァルナ(くりすとばる・う゛ぁるな)の姿が見える。傷を負った兵らを案内し、守護天使らを率先し自らもヒールにあたる。
 カインは再び前方を見た。教導団は乱戦の中徐々に陣容を整えつつあり、まとまった動きを見せている一団がある。
 




 ロンデハイネの兵を預かり、本巣へ攻め寄せるクレーメック。
 一通り攻め、敵の力を推し量ると、
「退け! 退くのだ! 敵の勢いは思ったより、強い」
 クレーメックは兵を退かせる。
 それに乗じて、なだれ込んでくる、オーク勢。
「敵ハ壊走シタゾ! 本巣ヲ守ル、オークドモ、今コソ、討ッテ出ヨ!!」
 本巣の門前に、守備隊長バウバウの旗が見えた。
「脆イ! 敵ハ脆イゾ!! 一気ニ蹴散ラスノダァァァ!!」
「バウバウ殿。この逃げ方はどうもおかしいぞ。手応えがなさすぎる」
 バウバウの横には、魔道師の姿がある。
「何ヲ。臆シタカ! コノ機ヲ逃シテ何トスル! マア、貴様ハ我等オーク族戦士ノ武勇、ヨク見テオルトヨイワ!!」
「(フン。ただの蛮勇などに付き合ってられぬ)」
 本巣からだいぶ突出した状態まで追ってくるオーク勢。
「……もういいだろう」
 クレーメックが向きを変え、すうっと手を上げる。





 本巣両面の丘陵帯は、二撃目に転じた騎狼部隊が、押している。
 そこにいる敵は、ハーフオークと、それを操る魔道師だ。
 それに……?
「目威部婁!! ヒャッハッホゥゥゥゥ……我は怒鳴堵濁酢憤怒一世! また逢えて嬉しいゼエエ!!」
 メイベルの前に、モヒカンのどでかい野郎が立ちふさがった。
 メイベル、「……」。
 な、何あいつ……? ミューレリアはその男に驚くより、
「ちょっ……メ、メイベルが、パラ実の生徒さんとお友達だったなんて、こ、これは驚きだぜ」
「……セシリア」
 メイベルが、似合わずちょっと低めの声で言い放つ。
 だっ それに応ずるように無言で駆けるセシリア・ライト。
「ヒャッハァァァァァ今日は一騎打ち大会だぜェェェエエ?! まずは可愛いセシリアライトちゃんから血祭りにあげちゃおっかなァァァヒャッハァ♪」
 セシリアの手にモーニングスターが現れた。
 どんっ
 ギャ!!?
 ゆらっと、メイベルが動いた。次の瞬間には、続いて突撃するメイベル。
 モーニングスターに打たれて頭から血を流す怒鳴堵とすれ違う。
 ウァァァン!!!
「め、め、……めいべるおまえこんなにつよかったなんて、、ほ、ほれたぜ。ぐばっ」
 落狼する怒鳴堵。勝ったのはメイベルだ。メイベルは怒鳴堵濁酢憤怒一世を血祭りにあげた。
「おおっ あっちにも、戦うプリーストだっ」
 負けじと、メイスでオークを破壊していく、カッティ。
「く、くっ。イレブンはちょっと負けそうだ」

 ハーフオークが来る。
 スウェーを駆使しハーフオークを避けて、縦横無尽に騎狼を駆るアリシア。
「見つけた」
「ロブ、Ok?」
 アリシアは手綱を引いて、騎狼の引き留める瞬間に、ロブのシャープシューター。一撃で魔道師の頭を撃ち抜いた。
「……さて」
 ロブはもう銃を下げている。魔道師の支配を失い、地にひざをつくハーフオークらを縫って、駆け戻る。ロブは、早速葉巻を取り出していた。

 一方。反対側の丘陵では、駿河が魔道師の位置を確認していた。
 それへ猪突猛進、一気に間合いを詰める。
「はっ、魔法使いは距離を詰められるのは嫌いだろ?
 どっこいこちとら魔法剣士! 最前線こそが俺の戦場よっ!!」
 彼はすでに、光条兵器の剣を両手持ちにしている。
 魔道師は、ハーフオークを盾にしてくるが、駿河はそのまま勢いよく剣を振り下ろした。
「ッらァ!!」
 ザンッ 駿河が狙ったのは、ハーフオークらをすり抜け勿論、魔道師の首だけ、だ。
「魔道師、騎狼部隊が討ち取ったァ!!」
 これでハーフオークたちは敵の戦力としては機能しなくなった。
 騎狼部隊は、そのままハーフオークらを迂回し、戻る。
「イレブン隊長、ほら、魔道師の首はあんたに謙譲するぜっ」


9‐02 チョコチップとハーフオーク達

 丘陵帯の森からは、この戦いの様子を見て、ガーデァ・チョコチップ(がーでぁ・ちょこちっぷ)がただ一人、正気に戻ったハーフオークを助けるため、飛び出した。
 遭遇戦の後に、戦いの行方が気になり峡谷へ入ったガーデァ。
 砦に着いた彼は、以前助けてもらったことへのお礼を述べながら、騎凛やアンテロウムらと、話をしていた。
「この解放戦は避けられぬ戦いですね」
 最初の戦いでは、オークも、傷ついた者は皆助けたいと願ったガーデァ。
 オークは本来戦いを好み、他の種族を襲い殺戮する生きもの……黒軍師匡はそう彼に語っていた。
「坊やを必要としている人たちは、この先にいるよ、か……」
 戦いが始まるとガーデァは、戦地に赴き、本巣の手前で負傷者の治療にあたっていたが、ずっとハーフオークのことは気になっていた。
 オークと人間の戦いは、避けられない。
 でもハーフオークは、操られて駒にされているにすぎないし、両者から虐げられた存在だ。
 教導団も、ハーフオークは襲撃対象としておらず極力戦わないようにしていたが、それでも乱戦や、魔道師を討つ騎狼部隊との押し合いのなかで、傷ついたハーフオークを、ガーデァは一人自らヒールをかけ治療にあたった。
「だいじょうぶ? 村へ、戻りましょうよ。傷ついたひとを連れて……ボクも、一緒に行きますから!」
 自分達ハーフオークを率先して助けている一人の男の子を、戸惑い不思議そうに見つめていたが、彼の言葉を聞いて表情がハーフオーク本来の優しげでどことなく頼りない表情に、戻る。
 実際に、この男の子はまぎれもなく、それを行動で示している。
 ハーフオークは傷ついた者を支え、戦場を離れ始めた。





 騎狼部隊の動き、見事だったな……それに、ハーフオークが、退き始めた……?
 しかし、ウィザードのカイン。彼の前にも、相手が。
 騎狼部隊の攻勢に、ワンドを投げ捨てて逃げてきた敵魔道師だ。
「おっと、逃がさないぜ……といくべきかな」
 立ちふさがり、火術で応戦する。
「カイン殿。そいつの魔法は、貴公が引き受けておいてくだされ」
 味方兵らの槍が、魔道師に突き立つ。
「よ、よし。やったか……」
 中軍付近にはもう、敵の姿は少ない。
 しかし、本巣正面は、押されているのでは? あそこに援軍を遣らないでいいのか?
 ソフソ、「戦の駆け引きはここからじゃて」



9‐03 一騎打ち

 本巣正面。
 クレーメックは、追ってきたオークらに再び向きを転じ、兵を両翼に展開させた。
 そして……

「アアア! オ、御大将、アレヮ……」
「何、何ダ!!」

 教導団の隊が割れて、その中央に、オールバックの冷ややかな男が騎狼に乗って立っている。
 そして騎狼に縛り付けられているのは、四肢をもぎ取られオークの黒い槍に串刺しにされた、二乃砦の守将ハウハウの遺骸であった。今本巣を預かるバウバウの従弟だ。
 冷酷に笑う、その男、マーゼン。
 両脇に侍ったシャンバラの兵が、更に、ハウハウの遺骸に槍を交互に突き刺した。どす黒い血が吹き出る。
 たじろぐ、周囲に取り巻くオークの雑兵。
 後方で指揮を執る、守備隊長のバウバウの指示を仰ぐ。

「ウググ……!!」
 バウバウの横合いから、小柄な魔道師が独りごつように語りかける。
「……進退は窮まりましたな。バウバウ殿、これで大将である貴方が出ないわけにはいかなくなった……見事策に嵌められたのです」
 魔道師は冷たく言い放つと、ワンドを振るい、すうっと姿を消した。
「オノレ、オノレ〜〜……!!」

 場は凍りついたかに見えた。
 状況を見守る、クレーメック。
 必ず出てくる、必ず出てくる筈だ。
 チャ、と柄に手を伸ばす、傍らの剣士。彼のドラゴニュートも、どよめく敵陣を睨みつけている。
 やがて、敵陣がにわかにざわつきを高め、オーク雑兵達が両脇にのくと、陣の奥から重装した騎狼にまたがってオークの武将が現れ出た。
「本巣守備隊長バウバウ。オレヲ引キ摺リ出シタトコロ迄ハ認メテヤロウ、」
 両手に短戟を構えるオーク守備隊長。
「ダガ、貴様等ハ俺ニハ勝テヌ! 去レ!!」
 マーゼンをねめつけ、中央にいるクレーメックに視線を移した。が、彼はすぐに相手を悟った。クレーメックの斜め後ろから剣を抜き放ちながら、進み出る者。
「我こそはケーニッヒ・ファウスト(けーにっひ・ふぁうすと)
 せめて、最期はこの手で、勇者にふさわしい死に方をさせてやろう」
 目を見開き、打ちかかるバウバウ。
 ケーニッヒ、剣をかかげる。「いいか、一騎打ちだからな! 手出ししやがったら承知しねぇぞッ!」
 手綱を引く。
 騎狼に乗った両者がすれ違う。
「ちっ」
 敵の突きが瞼の上をかすめたケーニッヒ、血が眼を伝う。
 ニヤリ、踵を返し、再攻撃に出るバウバウ。
「どぉりゃあああッッッ!!!!」
 激突する両者。今度はオークの片手の戟が空に舞った。
「ヌゥゥゥ」
 しかし、依然笑いに満ちたオークの表情、バウバウは二撃目でケーニッヒのわき腹を突いていた。
「……面白れぇ!」
 血がしたたり、息を切らしながらも、笑い返すケーニッヒ。

 ケーニッヒ劣勢と見てとり、矢をつがえる者が兵の中にあったが、
「ヒッ。ザ、ザルーガ殿何を……!」
 雷撃が落ち、それを阻む。
「漢同士の神聖な果し合いじゃあ! 割り込もうとする無粋な輩は許さん!!」
「し、しかし、アンゲロ・ザルーガ(あんげろ・ざるーが)殿。あなたはケーニッヒ殿のパートナーであろう。主が敗れれば何とする。それにこの戦い、我々の勝利がかかって……」
「フンガァァァッッッ!!!!」
 バリバリバリバリ!
「ヒィッ。ヒャーーー」
「兄貴は負けぬ! 兄貴は負けぬぞ……!!」
 ザルーガの見守る先で、手傷の増えるケーニッヒ、いよいよ息が荒くなる。
「ドウシタ、ドウシタ!!」
 鋭い突きを次から次へ繰り出す、守備隊長バウバウ。
「うヌッ」
 ケーニッヒ、戟を脇にはさみ込む、
「!!」
 ケーニッヒの斬撃。
「ええぃオーク守備隊長バウバウ、ケーニッヒが討ち取った!!!」
「フンガァァァッッッ!!!!」
 緊張し見守っていたクレーメック、マーゼンも顔を見合わせるが、すぐ様、
「敵将は討たれた! 全軍突撃だ」
 号令をかけるクレーメック。
「兄貴!」
「おう、……ザルーガ」
 駆け寄るザルーガに、寄りかかるケーニッヒ。かなりの傷を負っている。

 四散するオークに、本巣へ殺到する教導団兵。
 が、突如、本巣から放たれた一閃が、真っ直ぐに大地を切り裂く。
 真っ二つに割れた教導団兵らの中央、炎が長い直線を描いて燃えている。前方に立ち塞がる、門の前に降り立った機晶姫一体。胸に火の印し。

「あれとやり合う、ということ、ですか……」
 敵正門に向かっていた、獅子小隊攻略班、唖然とルースが言う。
「……」
 言葉もなく、レーゼマン。だがすぐに、銃を構え直した。
「……行くぞ」
 イリーナも意を決し、走る。本巣の門へ向かって。