リアクション
* 「と、いうことだ」 一色は、ミラと共に騎狼を駆りながら、上述のことを説明する。 護衛計画の案を作ったのは、パートナーのミラだった。 「まあ。あなた、昇進おめでとうございます」 「何かその台詞……軍人という感じがしなくないか?」 夫婦みたいだし。一色はミラをからかった。ミラはちょっと赤くなるのだった。 ミラは女王の加護を用い、一色はランスを手に、警戒しつつ三乃砦と各砦を行き来したが、オーク兵には出遭わず。追従するにゃんこ兵。今までは戦場を駆けたが、今日の二人は平和であった。 「ミラ。これからのことでも話そうか?」 「……戦の、ですわよね? もうからかおうったって無理ですわ」 「ブヒヒヒ」 ミラはさっさと先へ行ってしまった。 7‐03 古兵と新兵と、そしてパートナーと 一乃砦から、本巣へと至るまでの丘陵帯。 続々、北岸の方から、丘陵を渡って北へと逃げてくるオーク。 どうやら、一乃砦における勝負は無事決したらしいと見える。 本巣まで、逃げられると思っているのだろう。 だが…… さっと手を挙げる青。 「それぃ! 一兵たりとも逃すでぬぅおゎいい!!」 空気が変わる。 丘陵から現れた青率いる一隊に、凍りつくオーク。 容赦なく、攻め込んでいく教導団。 それまでの穏やかな丘陵が、瞬時に戦地となった。 「これが本当の戦場なんだ……」ようやく得心したアクィラも、はっとして銃を抜く。 「えぇい何をしておる、アクィラ。今こそ出番であろう!」 に、と笑いかける青。 「ようし!」 アクィラに、すでに迷いはなかった。 こういう役目を引き受ける者あってこそ、確実な勝利が掴める筈だ。 また、逆にどんなほつれ目から、戦が負けに転ずることもあるかも知れない。 青とアクィラは、本巣や砦攻めの間にあって、見事にこの役目を果たしたと言えそうだ。 それからすぐに、アクィラは、クリスティーナと連絡を取り合った。 クリスティーナは、本巣の様子を伝えてくる。 すでに、先手の騎狼部隊が戦場を走り、敵の投石器を潰し、集まっている兵を撹乱して戻ってきたという。主力部隊が投入され、前方はすでに乱戦になりかけていて、後方にまで戦場の熱気は伝わってくると。クリスティーナは、冷静とまではいえない様子だが、できる限り的確に伝えようとしてきている。それよりも、先ほどの戦いの熱気が冷めやらないのは自分の方だと、彼女と話していてふとアクィラは、気づいた。クリスティーナの言葉から、本巣の戦いの様が少し見えてくる気がして、アクィラはまた、血が騒いだ。が、今は自分に与えられた任務をこなすしかないんだ。こうして、実戦の中で学んでいかないと……と。報告を終えると、クリスティーナが心配になり、会いたいという思いも。彼女も、心細く思っているんじゃないだろうかな…… 「ぬぅおゎにぉを悩んでいるね、若者!」 「あ、青殿。いえ、これからもお願いします!」 「……。 どうしたんであろう。黒、何かあったろうか?」 「いえいえ、野武さん。少年は何かを掴みつつあるのでしょう。アクィラ殿、良いことです。でも、まだまだこれからでありますぞ!」 7‐05 プリモ温泉へGO! 「久多さん。温泉へ行きましょうか」 「……え、は、はい?」 砦の最上階。 向かい合う、騎凛と久多。 「久多さん? どうしました? 温泉、行きません?」 「……こんな昼間から、え、や。じゃなく、……任務は?」 「んー。暇ですし。ちょうど、温泉に行きたいなと」 騎凛と久多、砦の階段をつたつたと下りて行く。 (結局ついて行くことになったぞ……騎凛がこんな積極的だとは。これなら再ナンパする必要もなく、……じゃなく。 騎凛嬢の護衛として、当然の行動。フッ。) 砦の門を出る二人。 門番、騎凛に、「これは騎凛様。どちらまで?」 「温泉行ってきます」 「(え、騎凛、ちょっ……)!!」 騎狼にまたがる騎凛。 門番A「お、おい。警護に付いていかなくていいのか……?」 門番B「それとも、遠慮した方がいいのか……?」 「久多さん。行きましょう、後ろに乗ったらどうですか?」 「あの……行ってきます」 門番A「くっ!!」 門番B「蒼学生め、蒼学生め……!!」 かくして、温泉着。 「あ、あれ? 何か工事中とかなってるな。騎凛、こりゃ駄目だな。日を改めるか」 「ええ。プリモさんが、すでに技術科温泉の開発に着手されていますから。 プリモさん? いらっしゃいますかー??」 「あ、騎凛ちゃん。あたしはここだよー」 ヘルメットをかぶり、ぶ厚い温泉計画書を携えた、技術科所属プリモ・リボルテック(ぷりも・りぼるてっく)が現れた。 「どうです? 温泉の進み具合は」 「うん、とてもいい感じだよ♪ 今、西の宿屋さんや、東のお店やさんの方々にもお集まり頂いていて、温泉に出店してくれるための話し合いの方も着々と進んでいるよ」 温泉の脇に建てられた仮設の温泉開発本部には、"鉱山の町から技術と温泉の町へ"という、スローガンが掲げられている。 「あのスローガンはあたしが書いたんだっ」 「へえー」感心する騎凛。 本部から、峡谷で宿や商店を経営してきたシャンバラ人達が出てくる。 「これは隊長殿。プリモさんのアイデアは素晴らしいものがありますね。私どもにとっては、この温泉など、時に老人が湯治に訪れたり、手負の獣がおったりというばかりのところでしたが、ここを温泉の町にしてしまおうとは」 「これで教導団が更に出資してくだされば、この峡谷そのもの一帯が、あのスローガンどうり、温泉の町として生まれ変わりますな。はっはっは」 「お、おか、お金がないのでお金がないので」 「もう一方の、技術の町、っていうのを見落としたらいけないよ。 ここは鉱山が近いわけだから、そこで見つかる機晶石や希石の研究に役立てるため、技術科の研究施設も作っちゃいますね」 「エ〜〜ン。お金……」 「そうすれば、ひいては南西分校の弱点である軍備を補うことにもつながるかと」 「あ、それはなるほどですね。 んー、お金、どうしましょうねぇ。困ったわ……」 「技術科としての見地から……機晶石等を研究していく上で、出力が低いとか小さくて仕えない欠けらとかを、携帯ストラップとか温泉の元とか、お土産として売るのも忘れずに、だよ!」 「あ、それは…… 儲かるかも知れませんよ。ウフフ」 騎凛の目がキラリと輝いた。へへへ……宿やお店を出すシャンバラの経営者も、にやつきを隠せない。 「んー、でもまずは、どうやって金を作るかなんですよねえ、かねを。 このあたりは、集落の方で活動されている佐野さん達や、鉱山制圧に向かった沙鈴さんや皇甫さん達が、何とかしてくださるといいのですけど……」 「じゃあ、騎凛ちゃん。あたし達は、開発計画の方を進めていきますね?」 プリモは、宿屋、お店の人達と、再び本部の中へ入っていった。 「久多さん。開発計画は無事進んでいるようですね。では、帰りましょうか?」 「……」 工事現場から、ヘルメットをかぶったにゃんこ達が現れた。ミャオリ族の工兵だ。 「あっ久多ニャ」 「久多が来たニャ」 「あっ久多ニャ。来たニャ」 ぞろぞろと、集まってくるにゃんこ。 「そ、そうだな、帰ろうか。こらにゃんこ、しっしっ」 プリモが、今度は女将の格好で、再び出てくる。 「騎凛ちゃん。せっかくですから、温泉に入ってく? 仮設の宿泊施設に、お布団も二つ敷いておきますね」 * 帰りの道。 「あのな、騎凛……実際のところ、俺はまじめに教導団に尽くしたいと思い、この戦いに参加してるんだ」 「ええ、そうなのですね」 「最近は、教導団に入れればとも、考えるようになってさ」 と、ちょっとおあつらえ向きに出てくる、オーク三、四匹程。 「オオォォォォク!!」 「くっ……まかせろ!」 スパ スパ スパー ン。 「一、二、三……」ナギナタに突き刺さるオークの首。 「……」 「オノレェ死ネォォォォク!!」 茂みから、騎凛をボーガンで狙うオーク。 「させるか、」スプレーショット! どざっ、「……ふぅ。 とにかく、騎凛に護衛は要らんのかも知れんが……蒼学の俺でも教導団のために戦うつもりは、ある」 「久多さん……」 7‐04 誰が為に戦うか 本巣近くの北の森では、教導団の思惑とは全く別に、独自の戦いを繰り広げる者達もあった。 本巣総攻撃の前にも登場したこの二人だが、それぞれどんな想いで、その戦いの場に至ったのだろうか。 「!? おい、カーマル!」 「えっ」 カーマルに銃を向けるラルク。「な?! なんだって、ボクにっ、あっ」 だんっ カーマルの背後で、地に伏すオーク。 「ちっ……馬鹿野郎! 背後は一番重要だろ! ……オラ、背中合わせて死角無くすぞ!」 カーマルの方に歩み寄るラルクに、今度はカーマルが銃を向け、 だん だんっ ラルクを挟み打とうとしていたオークを撃ち倒す。カーマル、引け目を見せる様子なく、 「お互い様だ」 「は! まさか俺が助けられるとはなーもっと修行しなきゃいけねぇな」 「よく言う、この状況ですら修練の一環だろうに」 「あ? ばれたか? まぁ、強くなりたいからな……こういう死線をひとつやふたつくぐりぬけねぇとよ!」 この……体力バカめ。 「ははは! ……ん? 何か余計なこと、言ったか?」 「い、いや? 何も」 「……若干オレはぶられてる気がするのは気のせいだろうか??」 まぁ、そんなこと気にする余裕は無いか……二人のやり取りを見守りつつ、自身も、迫り来るオークとドラゴンアーツで戦うディスガイス。 彼は、思う。 しかし、カーマルは知っているのだろうか、ラルクが、誰のために強くなろうとしているのか、ということを。 それとも、ラルクの求める本当の強さ、とは何か? 「砕音……俺はもっともっと強くなる。お前を守れるぐらいにな!」 7-05 俺の名は 誰が為に戦うか、と問われれば。己が為に戦うと、答えるのだろう。 オークスバレー某所。 「地獄ノ水先案内人、オーク四天王ガ一人、土ノ ブブリカイネ トワ、我ノコトダ! ウフフフ……貴様ノォ顔ニ死相ヲ見タリ!! ユクゾ、クルーゾォォォォ!!!!」 「……オークの歴史の最後の一ページに、俺の名を刻むが良い…… ……俺はクルード・フォルスマイヤー(くるーど・ふぉるすまいやー)だ!! ……」 妖しく手招くブブリカイネ。剣を抜き放つクルード。 ガッ 閃光が飛び交う。打ち合う二人。 「……むう……」 クルードのカルスノウトが、ボロボロと錆び、腐り落ちていく。 「ウフフフ。クルーゾ? 勝負アッタ、カナ? サア、コッチエオイデナ? ウフフフフフフフ、地獄ノ入リ口迄ナラ、付イテッテアゲルウフフフフフフフ」 「……さて……今度の奴は少し楽しめそうだな……もう一度言う、俺はクルード……覚えておくんだな……貴様が地獄へ行く前に……」 クルードは、ふっと笑うとカルスノウトを投げ捨てた。 「……俺にはこんなものはもう要らない…… ユニ!銀閃華だ!……【閃光の銀狼】の爪牙……見せてやろう……その身に刻め!【駿狼】!」 「はい!任せてください!行きます!……銀の炎が、この世の全てを照らし出す……銀光の華よ、開け!」 ユニ・ウェスペルタティア(ゆに・うぇすぺるたてぃあ)の胸から、光る銀閃華の柄が現れる。「クルードさん、抜き取ってください!」 光条兵器を受けとると、クルードは高速移動してオークに迫った。 「オノレ! コシャクナ若造共ガ!! 二人仲良ク地獄ヘ新婚旅行スルガイイ!!」 ブブリカイネの黒い右手が剣に触れるが、銀閃華はその輝きを失うことはない。 「ナニ!! 光条兵器ダト、クッ、ソノ女、剣ノ花嫁カ……!!」 クルードは、ただ静かに微笑んだ。その後ろで見守るユニ。 「冥狼流奥義!【銀狼連牙斬】!」 冥狼流奥義・銀狼連牙斬……すなわち、爪狼連牙斬(前回の最後に使った技)を銀閃華で使った技が炸裂する。 ブブリカイネが四つ切りになった。 「……一人殺った……これであと、三人、いや何人でもいい……もっと強いやつ、俺のところまで来い……このクルード・フォルスマイヤー、いつでも相手になってやるぞ……」 |
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