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第五章 ショッピングは大人気

「わぁ……すごいです」
 シャンテ・セレナード(しゃんて・せれなーど)は初めて乗る空飛ぶ箒に感動し、姫北 星次郎(ひめきた・せいじろう)の背に捕まりながら、風景を楽しんだ。
「本当にすごいです、薔薇の学舎があんなに小さく……」
 自分が待っていた校門前がすごく小さくなっていくのを、シャンテは感動しながら見ている。
「喜んでくれてうれしいよ」
 いつもイルミンスールにいるせいか、誰もが空飛ぶ箒を持っているのが普通と感じていた星次郎からすれば、シャンテの反応の方が箒から見える景色より新鮮だった。
「それじゃ、もう少し高くなるのでしっかりつかまって」
「はい、高いところ大好きなので、大丈夫です」
 そう言いながら、シャンテは星次郎のサマーセーターにちょっと顔をつけて、くっついた。
 
 二人の向かった先は、ショッピングセンターだった。
 ウインドウショッピングをして、互いにこれが似合う、あれが似合う、といった感じで合わせた後、喫茶店に入り、二人で会話を楽しんだ。
「いつも文通だから、こうやってすぐに返事が返ってくるって、不思議な気分ですね」
 シャンテの微笑みにつられるように、星次郎も整った顔立ちに笑みを浮かべた。
「そうだな、紅茶繋がりで始まった文通だけど、お互い学校が違うこともあって、会うことがなかったから……」
「でも、文通で話してるせいか、初対面な気もしませんよね」
 青く優しげな瞳に親愛の情を浮かべるシャンテ。
 その瞳を星次郎はじっと見つめた。
「……何か?」
「いいや、文通だと見ることができないシャンテの瞳を見つめてる」
 星次郎の言葉に、シャンテの頬が少し赤くなる。
 しかし、ここが喫茶店だということを思い出したのか、星次郎は見つめ合うのをやめ、会話を再開した。
「シャンテは休日は何を?」
「お茶会を開いて、うちのパートナーのリアンや他の薔薇の学舎の生徒さんと、お菓子と紅茶を頂きながら談笑しています」
「優雅だな、さすがに」
「そうでしょうか?」
 小さく首を傾げながら、シャンテは逆に星次郎に「パラミタに来て良かったと思うこと」を問いかけた。
「ありきたりだが、色々なものとの出会い……かな」
「もの、ですか?」
「ああ。人だけじゃないんだ。地球にいたら一生見ることもなかった景色だったり、な」
「そうですね、パラミタにはパラミタにしかない景色がたくさんありますものね」
 シャンテはかつて自分のいたフランス・アルザス地方と似た風景を思い出しつつ、紅茶を飲みながら、星次郎に語った。
「僕はリュートの弾き語りが趣味……というか習慣なんです。音楽が全般的に好きで、いつでもリュートを奏で、歌っているのですよ」
「そうなのか。俺は本を読んだり、ガーデニングをしたりかな」
「ガーデニングがご趣味ですか。そういえば……好きなタイプとかは?」
「好きって言うのは……ああ、なるほど」
 シャンテの表情から意味を読み取った星次郎は、ゆっくり考えて答えた。
「好きなタイプとは違うかもしれないが……俺は将来の夢というのが漠然としているから、そういうものに向って頑張っている人は尊敬するというか、応援したくなるな」
「応援したくなるって素敵ですね」
 星次郎の言葉に、シャンテは笑顔で答えるのだった。

 2人はアンティークショップに行ったりして、その後を過ごし、日没前に、星次郎がシャンテを薔薇の学舎の正門まで送った。
「今度はパートナーも含めて四人で出かけたいな。シャールをシャンテに紹介したい」
「ありがとうございます。リアンもきっと会いたがってると思います」
 微笑んで答えてくれるシャンテに感謝しつつ、星次郎はシャンテにティースプーンをプレゼントした。
「これは……?」
「ティーセットを買っていたから、それに合うものをって思って」
「わあ……うれしいです。ありがとうございます」
 思いがけないプレゼントに、シャンテは今日一番の可愛らしい笑顔を見せた。
「あ、でも、もらいっぱなしじゃ悪いから……、今度、お菓子を用意して、紅茶をいれますから、ぜひ飲みに来てください」
「ああ、楽しみにしてるよ」
「本当に、本当ですよ?」
(学校が違うから、しばらく会えなくなる)
 と、名残惜しい気持ちのシャンテが、そう問いかける。
 星次郎はそのシャンテを安心させるように、頬笑みを浮かべた。
「大丈夫、本当に来るよ」
 そう約束して、星次郎はイルミンスールに帰っていった。

                ★

「……よし、バッチリじゃ!」
 蒼空学園のセシリア・ファフレータ(せしりあ・ふぁふれーた)は、鏡の前でくるっと一回転し、自分の淡い青色のワンピースをチェックした。
 いつもはこういう服をほとんど着ないので、おかしいのではと心配したが、少しすると自分でも見慣れてきた。
 今日はスフィーリア・フローライト(すふぃーりあ・ふろーらいと)フタバ・グリーンフィールド(ふたば・ぐりーんふぃーるど)と一緒にお出かけする日。
 セシリアとスフィーリアは、同じ年の仲の良い友人だったが、学校が蒼空学園とイルミンスール、と違ったため、なかなか一緒に遊べる機会が少なかった。
 なので、今日は一緒に出かけられるとあって、目一杯楽しもうとセシリアは張り切っていた。
「さ、それでは出かけるのじゃ!」
 セシリアはポーチをつけ、元気に出かけた。

 一方、スフィーリアの方はと言うと、朝起きてすぐに、妙にやる気満々のフタバが、タイムスケジュールを確認していた。
「オーケーオーケー、万事私に任せておきなさいな。楽しんでいこう!」
 セシリアとのお出かけた決まったとき、フタバはそう言って、スケジュール帳にさらさらと何かを書きこんだ。
 そこには時間刻みで書かれたスケジュールがびっしりと書かれていた。
「全部回れる……かな」
「言ったでしょ、私に任せておきなさいって」
 くりっとした金色の瞳に笑みを浮かべ、フタバはスフィーリアの背を押して、一緒にセシリアとの待ち合わせ場所に行った。

「は、早いのじゃな、2人とも」
 待ち合わせ場所に10分前に到着いたセシリアは、すでに待っていたスフィーリアとフタバを見て驚いた。
「あ……こんにちは、セシリア」
 スフィーリアが丁寧に挨拶をし、セシリアも「こんにちはなのじゃ、スフィー!」と元気に挨拶を返す。
 しかし、フタバの方も10分前に来たセシリアを見て、驚いた。
「あれー、迷わなかったの?」
「一人の時は迷ったりしないのじゃ! 迷うのはレイがいるからじゃ!!」
 親友のせいですっかり迷子属性をつけられてしまったセシリアが、それを拭おうと弁解する。
「そうかそうか。ま、今日は私が付いてるから、迷いの森だろうとどこだろうと大丈夫だけどね」
 そう言いながら、フタバは作ったタイムスケジュールをセシリアに見せた。
「さ、これが今日の予定だよ」
「わわ……ぜ、全然こういう事考えてなかったのじゃ! ありがとうなのじゃ!」
 ざっと目を通し、セシリアは礼を言う。
 それと共にちょっと表情が暗くなった。
「誘った側なのに全部任せてしもうた……失敗じゃのう」
「なーに言ってんの、楽しむために作ったんだから。気にしない気にしない」
「そうじゃの。まあ、それだけ楽しみにしてくれたってことなのだから、一杯、楽しんでもらうのじゃ!」
「……はい!」
 スフィーリアが優しく柔らかな微笑みを見せる。
 セシリアもそれに釣られて笑みを浮かべ、
「よーし、それじゃ今日は遊び倒すのじゃ!」
 と元気にスフィーリアの手を引いて、ショッピングに向かった。
 
 最初に入ったカフェで、ショッピングセンターの見取り図を見ながら打ち合わせをしたので、三人の買い物は非常にスムーズに行った。
 最初に入ったアクセサリー店では、フタバの提案で3つで1セットの指輪を購入した。
「ねね。折角だからさ、こういうリング買ってみない? 記念になると思うよ?」
 フタバの見せたのは3つを重ねるとハート型になるという変わった指輪だった。
「三人でお揃い……良いのう、そういうの憧れていたのじゃー。スフィーはどうかの?」
「セシリアとフタバとお揃い、って……うれしい、な」
 3人の意見が合ったので、みんなでお揃いのを購入した。
 買った指輪を合せ、ハート型になる、と喜んだりしながら、3人はさらに買い物を勧めた。
「ね、セシリア。この髪留め……どうかな」
「おお、それはスフィーにとっても似合いそうなのじゃ。いつも帽子じゃが、髪留めも良いと思うのじゃ」
「セシリアも魔女の帽子が多いけど、今日みたいなワンピースの日は、こういう髪留めも似合う……よ」
「ありがとうなのじゃー。今日のスフィーの服もとびっきり可愛いのじゃ!」
 セシリアの言葉に、とっておきの服を着てきたスフィーリアははにかんだように笑う。
 女の子たちのお買いものというのは、なかなか前に進まない。
 小物屋さんを見れば、
「あ、あっちのぬいぐるみ、可愛いよね」
「確かに可愛いのう。このぬいぐるみ買ってみようかえ」
 と引っかかり。
 フードコートに言っても。
「いろいろあって決められないのじゃ〜」
「これが……ジャンクフード、なんだ。すごく珍しい、かも……」
 とあちこちに目移りし。
「お揃いの服でも作ってみようかね。どんな色がいいかい?」
「ううむ、服はよくわからぬ……」
 服を縫うのが上手いフタバにせっつかれ、セシリアがスフィーリアにアドバイスをもらいながら布を選んだり。
「この本面白そうだと思うのじゃが、どうじゃろう?」
 と、セシリアがスフィーリアに本を見せると、魔法の師匠であるフタバがニカッと笑い
「思うさま買い物したら、次は勉強ね。今まで以上に厳しいから覚悟しといてね?」
 とセシリアに魔法を教え込むための教本を購入したのを見せると
「望む所、そんなのちょちょいとこなしてやるのじゃっ」
 といった感じでセシリアが元気に答え。
 あちこち回って、朝とは違うカフェに入って、お茶を飲みながら買った物の使い道について話を咲かせ、さらには薬草や香草、食べ物やお菓子などを中心に買い物のラストスパートをする頃には、空っぽにしてきたはずの、スフィーリアのトレードマークの特大バッグが、いろんなものでいっぱいになっていた。
 18時になり、三人は帰宅するために解散となった。
「おもしろかったねー、また遊ぼう!」
「セシリア、ありがとう」
 フタバとスフィーリアの言葉に、セシリアは元気な笑顔を見せる。
「えへへ、今日は付き合ってくれてありがとうなのじゃ。よかったらこれからも、ずっとずっとよろしくなのじゃ♪」
 三人は笑いあい、元気に手を振って、それぞれの帰路についた。