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リアクション
●第二章 その行動は未来に
イルミンスールの森付近で大規模な戦闘が繰り広げられている最中、数名がそれぞれの目的のため、行動を起こしていた。
(生産拠点として機能しているとすれば、そこを狙うのは戦略において有効。……けれども、これだけの仕掛け、あたし一人では流石に解除は難しそうね)
カヤノが仕掛けた魔術により、永久に融けない氷に閉ざされ、今は氷の魔物を生み出す拠点と化してしまった『イナテミス』。
それを見下ろせる位置に、九弓・フゥ・リュィソー(くゅみ・ )とマネット・エェル( ・ )が佇む。一度彼女たちは、魔物に気付かれないように仕掛けを解除すべく手を尽くしてみたものの、元々イナテミスに仕掛けられた物は十数人の力を借りてできた物、九弓一人が解除できるほど簡単な代物ではなかった。
(だとしても、せっかくここまで足を伸ばしたからには、何か一つでも有効策を打っておきたいわね。いつまでも町の人が無事とは限らないでしょうし――)
瞬間、白の長袖ドレスに身を包んだマネットが、一人学校に残り九弓たちの支援を受け持つ九鳥・メモワール(ことり・めもわぁる)からの通信を受信する。
「もしもし、鳩ね――九鳥? 何か分かったの?」
「九弓、いま九鳥のこと鳩ねえって……まあいいわ。今さっき、アーデルハイト様から有用な情報をいただいたわ。利用できるかどうかは分からないけど、そちらに送るわね」
マネットを介して、九鳥の言葉と彼女が調べて判明した結果が送られてくる。それを一読して、九弓がなるほど、と頷く。
「これならば、あたし一人でも橋頭堡を築くことくらいできそうね。マネット、今の情報を記録しておいて。あんたならできるでしょう?」
「はい、分かりました、ますたぁ☆」
ローブを翻して、九弓が再びイナテミスへと向かう。イナテミスにある三つの門のうち、左側の側門に辿り着いた九弓が、九鳥から送られてきた資料を参考に魔法陣を描いていく。
(本来はこれに篝火を焚いて、火の属性の魔力を高めるのだけれど……今は魔物に気付かれないように隠蔽して……うん、これで完成ね)
マネットが周囲を警戒する中、作業を終えた九弓が反対側の側門へ向かう。そこでも同じように魔法陣を描き、一見何も変わっていないように隠蔽をして、最後に一際大きい正門へ向かう。
(ここは門が大きいから、二つ用意しておきましょう。後はこの魔法陣をそれぞれ結び付けて……できたわ、これで完成ね)
魔物が接近してくる前に退避した九弓が、イナテミスの現状を九鳥へ報告する。気付かれて策が水泡に帰す前に、実行に移す必要があるでしょう、と。
一方、この前の救出劇の舞台となった、そして『雪の精霊』レライアがいる『氷雪の洞穴』では、というと。
「お願いします、レライアさん! カヤノさんを止めるために、力を貸してください!」
最奥地で佇むレライアに対し、フィル・アルジェント(ふぃる・あるじぇんと)が声を張り上げる。パートナーのセラ・スアレス(せら・すあれす)、そしてシェリス・クローネ(しぇりす・くろーね)共々、ここまでやってくるのに少なからぬ傷を負いつつも、その声に弱々しさといったものは微塵も感じられなかった。
「……なぜ、あの子を助けたいと思うのですか? あの子はあなた様方人間に無視できない災いを振り撒いています。それでもなお助けたいと思うのは、なぜですか?」
レライアの問いに、少しの間を置いてフィルが答える。
「……確かに、カヤノさんはイナテミスを襲い、今またイルミンスールに襲い掛かろうとしています。でも、カヤノさんは誰も殺してなんかいないんです。殺すつもりで私たちと戦ったわけではないんだと思うんです。……偽善で、夢物語だっていうのは分かっているつもりです。でも、私はカヤノさんもレライアさんも、イルミンスールの皆さんも誰も、犠牲になってほしくないんです」
フィルの言葉に、セラは基本的に同調する姿勢をみせ、シェリスはそれほど興味がなさげに、周囲をくまなく見渡していた。
「……あなた様も、そしてあの子も、とても強い想いを持っているからこそ、これだけの事ができるのでしょうか。わたしは、あなた様方が眩しく見えます」
「……レライアさんにもできますよ、きっと。カヤノさんを助けたいと思うのなら、きっと」
フィルが微笑みかけ、それにレライアは俯いて、そしてほんの少しだけ微笑んだ。
それから少しだけ別の話をして、フィルたちは去っていく。彼女たちが得た情報は、レライアが言うには、『アイシクルリング』はかつての『シルフィーリング』同様、『女王の力受け継ぎし器』ではないかということ、カヤノはアイシクルリングの力でああいった行動を取っているに過ぎず、本来は無邪気で可愛らしい子なのだということであった。
(……カヤノ……わたしは、あなたを助けてあげたいわ。でも、今のわたしが思いつける方法は、たった一つ……それはきっと、あなたを悲しませることになってしまう……)
氷雪に閉ざされた地で、時間すらも凍りついたかのような感覚の中で、そしてレライアが取った行動は――。
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