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第7章 フラットカブトを手に入れろ!


 愛美の発見や容体、フラットカブトの必要数などの情報が、薫によって洞窟組にもたらされた。
「それでは、一刻も早くフラットカブトを採って、こんなところから出るべきですわ」
 荒巻 さけ(あらまき・さけ)が、岩陰に阻まれてよく見えない洞窟の奥を見つめる。
「賛成だ。愛美がそんな状態なら、ぐずぐずなんてしてられるかよ!」
 今にもフラットカブトを目指して走り出しそうな様子に、ダリルが2人を止めた。
「最初に少し、ダメージを入れておきましょう。もしかすると危険を察知して逃げるかもしれません」
 ダリルは全ての大蛇にダメージを与えようとバニッシュを使った。術は発動したものの、やはり倒すとまではいかない。しかも光の衝撃を受けた大蛇達は、逃げるどころか臨戦態勢を取り始めた。
「……すみません、怒らせてしまったようです」
「でもほら、ダメージは与えたわけだし!」
 ルカルカが落ち込むダリルを慰める。
「これで倒しやすくなったってことだろ、行くぜ!」
「待て、レイディス!」
 フィーネの制止を聞かず、レイディスはグレートソードで大蛇の巣へ突っ込んだ。
「レイ、避けて!!」
 ルカルカが叫んだが、レイディスは岩場の影にいた大蛇に気づかず、腕に噛みつかれてしまった。
「っ…こ、このっ!」
 レイディスは、大蛇を切りつけるが、それでも大蛇は彼を放すまいとますます牙を食い込ませる。
 走り寄ったフィーネが、レイディスに食らいついている大蛇の目をエペで貫く。
 たまらずレイディスから離れた大蛇に、ルカルカが火術を放った。
「……全く、世話の焼ける子さね」
「悪ぃ…皆…俺、守れなくて……」
 皆のために、歯を食いしばって倒れる事を拒むレイディスを見て、セシリアの怒りが爆発した。
「……お主ら。私の仲間に、いったい何をしてくれてるのじゃあああ!!」
 叫びざま、サンダーブラストが洞窟内に降り注ぐ。

「今のはだいぶ効いたようだな」
 芳樹が冷静に大蛇の様子を見ていた。
「でも奥の大蛇にはまだ余力がありそうですわ……」
 さけが残念そうに言う。

「レイ、しっかりするのじゃ!」
 セシリアを初め、仲間たちがレイディスを心配そうに覗き込む。
「ひどい汗。ダリル、カルキノス、レイをお願い」
 カルキノスは背中にくくりつけていた担架を広げ、レイディスを乗せる。
「いや、この子は私が運ぼう」
 フィーネの申し出を、ルカルカが止めた。
「動かしたら毒が早くまわっちゃう」
「わかった。2人とも、頼んだよ」
「心配するな」
 ダリルが、幸運を祈るようにルカルカにパワーブレスをかける。
「ありがと!」
「くれぐれも気をつけろよ」
 2人は担架を持ち上げると、洞窟の外へと急いだ。


「無暗に突撃するのは危険でござる」
 薫が皆に思いついた案を手短に話した。

 この洞窟の曲がり角からフラットカブトのある場所まではおよそ20メートル。岩が突出しており、入口側よりも死角が多い。
 まずは集団で進んでフラットカブトへの道を開き、4組が5メートルほどの間隔で広がりながら、互いの死角を補い、フラットカブト採取者の帰り道を確保しようというのだ。

 かくして、急きょ、グループが組まれ、協力体制がとられた。
 1組目が、アルフレートとテオディス、葉月とミーナ、芳樹とアメリア。
 2組目が、炬とドットとエリン、セシリアとファルチェ、フィーネ、ルカルカ、黎次とルクス。
 3組目が、アリア、ショウとアクアとガッシュ、焔とアリシアとルナ。
 4組目が、翔子、イーオンとフェリークス、京と唯という風に別れた。
 そして、フラットカブト採取組の、さけ、雷蔵が4組目と共に行動する。

 イーオン・アルカヌム(いーおん・あるかぬむ)が、用意しておいた松明に火術で火をつけると、暖かいオレンジ色の光が洞窟内を照らした。

「よーし、虎穴には入らずんば腰折れず!…って何か違う気もするけど、張り切っていくぞー!」
 まずは先頭の4組目、翔子がスプレーショットで道を開く。翔子の弾丸を運よく避けた数匹の大蛇がこちらへ向かってくるのを見て、後ろからアリアが先頭の大蛇に火術を飛ばし、それを牽制した。
「殲滅させる必要はないわ、とにかく被害者を最小にして、フラットカブトを早く回収しないと!」

 最初の5メートル地点で、1組目が道を死守すべくそれぞれ大蛇を警戒する。
「フラットカブトを持つ者が安心して戻ってこられるよう、道を死守するぞ!」
 アルフレートの言葉に、皆が頷いた。
 早速、スルスルとこちらに近づいてくる大蛇に、ミーナとアメリアが雷術を落とす。
 二人の傍らでは、葉月と芳樹が己のパートナーを守るべく気を張っている。
(ね、こういうのって、ちょっといいよね?)
 ミーナがこっそりとアメリアに耳打ちする。アメリアはパートナー達に気づかれないよう小さく笑い、頬を染めて頷いた。
 やはり女の子としては、大切な人に守られるというシチュエーションには、どんな状況であれ、ときめいてしまうものなのだ。

 いきなり洞窟の岩肌から大蛇がどさりと落ちた。ミーナとアメリアが術を使う暇もないほど素早く近づいてくる。攻撃される! そう思った瞬間、アルフレートが、鎌首を持ち上げた大蛇の隙を狙って、右腕でドラゴンアーツを使い、大蛇の顎下から岩壁を目がけて掌底を撃ち込んだ。岩肌に抑え込まれた大蛇は身体をくねらせ、アルフレートから逃れようともがく。
「くっ!」
 そこに反動も加わり、今にも掌から大蛇が滑り落ちそうになる。
「アルフレート!」
 テオディスが大蛇の首元を押さえつけ、毒壺の部分を傷つけないよう、力まかせにねじ切った。
 首を失った胴が、うねうねと未練がましく蠢く。
「助かった」
 アルフレートの言葉に、テオディスが頷く。
「おまえの闇は、俺が引き受ける。好きなように動け」
 テオディスは、彼女が失った左目と左腕の死角を埋めるように、アルフレート左斜め後ろに背を向けて立つ。
「そうさせてもらおう」
 テオディスからは見えなかったが、アルフレートの顔には、微かに笑みが浮かんでいるように見えた。


 2組目のいる10メートル地点でも、すでに戦いは始まっていた。
「戦いは避けたかったんだがな……」
 要請を断れなかった焔が苦々しく言う。
「焔、やさしいもんね!」
 アリシアが自慢げに微笑んだ。
 焔は仕方なく『漆喰』を握り、女性陣の護りに就く。

「とっておきの、いっくのじゃー!!」
 先へ進んだ者達の後を追う大蛇に、セシリアの火術が投げつけられた。
「させませんよ!」
 違う大蛇がセシリアを狙っている。ファルチェがそれをグレートソードで阻止した。
「はっ!」
 ルカルカは、大蛇が素早く首を伸ばしてくる動作を見切って避けながら、ダリルがパワーブレスで上げてくれた攻撃力を使い、光条兵器のライトセイバーを振るう。ダリルが傍にいない今、SPを使いきるまでが勝負だ。
 近くの大蛇がゆらりと首をゆらし、ルカルカに向かって牙を剥く。牙から毒液が吐きだされたと見るや、焔が用意していた分厚い布で毒液を払い、刀を振り下ろした。光条兵器の刀身は焔の意思に従い、大蛇の皮膚の内側のみを斬り裂き、体液が漏れ出るのを防いだ。
 しかし、このやり方では、払った時に毒が飛び散る可能性がある。幸いな事に、分厚い布は使い捨てるつもりで沢山用意してある。焔は、大蛇に布を被せて毒液の噴射を防いでから斬り付ける方法に切り替えた。

「あ、消えちゃう!」
 ルカルカの光条兵器がSPを使い果たし、花嫁の元へ戻ってしまった。
 SPが切れた今、火術も使えない。手持ちの武器といえば、エンシャントワンドぐらいだ。そんなルカルカに、黎次とルクスが駆け寄る。
「助けあうための、グループでしょう」
 黎次の言葉に、ルカルカが笑顔を見せる。
「ありがとう! 私には、まだドラゴンアーツも残っているから、足手纏いにはならないよ!」
 教導団生は、多少の事では諦めないものだ。

「……あ、」
 焔にくっついていたアリシアの目に、焔を狙っている大蛇が映った。とぐろを巻き、首を縮めている。飛び掛る前の動作だ。そう思った瞬間、アリシアは焔を庇うため、その小さな身体を投げ出した。
「だめーっ!」
「アリシア!」
 その無謀な行動に、ルナが制止の声を上げる。
 大蛇はアリシアの想像通り首を伸ばし、アリシアをかばった焔の肩に牙を突き立てた。
「ほ…ほむら……?」
「……っ!」
 ガクリと膝をつく焔に、小さな女の子が二人、為す術もなくしがみつく。
「なんだ、また毒にやられた奴がいるのか」
 ダリルが軍用バイクのサイドカーにレイディスを乗せて学園へ戻ったのを見送り、カルキノスが戻ってきた。けが人の救出をしたいという影野 陽太(かげの・ようた)も一緒に洞窟へ来た。
「ルカ、大丈夫か!?」
 カルキノスの言葉に、ルカルカは親指を立てて見せた。
「あ、あの…っ、あのっ!」
 アリシアが同様してうまく言葉にならないのを見て、ルナが代弁する。
「お願いします、私達のパートナーを助けて下さい」
 カルキノスと陽太は顔を見合わせて頷いた。
「もちろんです。俺は救護のために来たんですから」
 いつもは頼りなく見える陽太の笑顔が、この時ばかりはとても頼もしく見えた。
「よし、じゃあ、運ぶか」
 カルキノスと陽太が焔を担架に乗せて持ち上げ、陽太の小型飛空艇のある場所を目指す。アリシアとルナも一緒に戦線を離脱した。


 3組目の炬は、パートナーのドットに囮役を命じた。
「皆から離れた場所に、大蛇をひきつけるんです。でも、あなたは弱いんですから、やられないようちゃんと逃げてください」
「プルルルル(わかったよ)」
 機械音と共に、旧式家庭用ゲーム機から投影されるドット絵のホログラムの下にある黒い枠に、白地で文字が表示された。
 ゲーム機が1メートルほど浮かび上がり、大蛇の頭上を頼りなげに揺れて誘う。炬にはやられないようにと言われたが、ここはやはり正々堂々と戦いたいものだ。
「プルルル ルルルルルル ルルルルルル(へびどもオレはここだ! かかってこい!!)」
 威勢の良い文字が黒枠に浮かび上がる。しかし、電子音の音量は変わらないので、イマイチ盛り上がりにかけた。ところが、囮役としては適任だったようで、数匹の大蛇たちが同じように首を揺らしてドットの行方を見つめている。
「プルルル ルルルルルルルルルルルルルルルル(そんなにオレさまの じつりょくが こわいのか!)」
 文字が最後まで表示された瞬間を狙ったように、大蛇が勢いよくドットに噛み付いた。
「プル プルルルル(あ…やばいかも)」
 バランスを崩したドット君が大蛇の群れの中に落ちていく。
「だからちゃんと逃げて下さいってお願いしたのに! レベルの低い時の自動戦闘モードは本当に使えません! 姫さん、私に『みょるにる』を!」
 炬に応えて、エリンが、みょるにると名付けた光条兵器、青白く輝く巨大なピコピコハンマーを炬に渡す。
「どぉぉぉっせぇぇぇぇぃぃ!!」
 炬は、みょるにるを手に取りドット目がけて振り下ろした。
「プルルルルル ルルルルルルルル(ひえぇ! おたすけ〜〜〜!!)」
 みょるにるが大地に振り下ろされると、ピコォーンと重低音なピコ音が洞窟内にこだまする。ドットはかろうじて、みょるにるの攻撃をかわしたが、攻撃をかわしたのはドットだけではなかった。炬の左横から大蛇が牙を剥く。素早く対応できるほど、みょるにるは軽くない。
「きゃあっ! 勇者様!!」
 エリンが最悪の事態を想像して目を閉じた時、アリアの火術が大蛇を包み込んだ。火に巻かれた大蛇は、のたうちまわり、炬たちから離れて行った。アリアはドットを拾い上げて炬に渡した。
「大丈夫?」
「た…助かりました……」
「さあ、皆を守る為にがんばりましょう」
「はい!」
 炬の尊敬の眼差しを背中に感じ、アリアは一抹の不安を感じた。
(大丈夫かしら、この組……)

 アクアがエペを構えて前衛を務める中、ショウは仲間を追う大蛇に弓を射かけ、弱らせたところで雷術を使うという戦法をとっていた。
 彼はアリアと違い、フラットカブトを早急に手に入れるためならば邪魔者を排除する事にためらいはなかった。
「アクア、光条兵器を!」
 ショウの求めに応じて、アクアの中から、緋色の片手に収まる銃剣が現れる。ショウは、ためらいなく銃口を大蛇に向けた。
「やっぱり後より前で戦う方がいいな」
 元々剣士のショウは、後ろでアクアの心配をしているより、やはり前を護る方が落ち着くようだ。仲間を狩るショウ達を一際大きい大蛇が見下ろしている。後ろにいたガッシュが、横から銃を撃ち込んで大蛇の気をそらした。
『はぁっ!!』
 アクアとショウが、タイミングを合わせて大蛇の頭部を攻撃したが、それよりも大蛇の口が開いたのが、紙一重で早かった。アクアが力いっぱい隣のショウを身体で突き飛ばす。その瞬間、毒液がアクアの胸元を濡らしていた。
「アクア!」
「お姉さん!!」
 ショウとガッシュがアクアにかけより、急いで大蛇から引き離す。
「どいてーっ!! とぅおおおおおおっっっ!!」
 炬の掛け声とともに、みょるにるがアクアを襲った大蛇を押しつぶした。
「大丈夫?」
 アリアがショウ達に駆け寄った。
「あなた、上着をかしてちょうだい!」
 アリアがショウの上着をはぎとり、ショウとガッシュに向こうを向くように指示を出す。これ以上毒に触れないよう、アクアの衣服を取り去るとショウの上着で彼女をくるんだ。
「私の小型飛空艇で運びましょう! 炬さん、ここをお願いできますか?」
「任せて下さい!」
 アクアを抱きかかえたショウとガッシュを伴い、アリアは洞窟の外へ向かった。
「よし、頑張るよ、ドット君、姫さん!!」
 アリアは炬の声を背に祈った。
(どうか、これ以上、ミイラとりがミイラとりになりませんように……)


 ようやく、4組目が無事にフラットカブトの群生場所までたどり着いた。
「これは……」
 翔子が感動に声を震わせる。
「すごいのだわ……」
 京もその光景に目を見張った。
「確かに素晴らしい眺めだが、今は見とれている場合ではなかろう! 後ろで何人か毒にやられたようだぞ。採取組、早く採って走れ!」
 イーオンが松明を水たまりの底の柔らかくなっている部分に突き刺して固定し、パートナーのドラゴニュート、フェリークス・モルス(ふぇりーくす・もるす)と共に大蛇の攻撃に備えた。
 禁猟区を発動させていた京が敵の気配を察知した。
「来るのだわ!」
 京とイーオンがエンシャントワンドを構え、京のパートナーの唯も小弓に矢をつがえる。
イーオンのパートナー、フェリークスは、いつでも指示に従えるように構えた。
 しばらくして、岩陰から3匹の大蛇が姿を現した。
「えーいっ! 冬眠しちゃえ! なのだわ!!」
 京が氷術を使い、大蛇の周りの温度を急速に下げていく。動きの鈍くなった大蛇に、唯の放った矢が突き刺さった。それでも獲物に向かってもがく大蛇の姿に京は言い知れぬ不気味さを感じた。
「さっさと、片づけて、こんなところ、おさらばしてやるのだわ!」
 今度は、攻撃としての氷術が大蛇にとどめを刺した。

「フェリークス、合わせろ!」
「イエス・マイロード」
 イーオンとフェリークスが同時に火術を大蛇に放つ。火に包まれた大蛇は隣の大蛇を巻き込んで、もつれ合うように暴れている。
「きゃっ!」
「京!」
 唯が京を腕の中に庇った。

「任せて!」
 翔子がスプレーショットを放ち、2匹はようやく動かなくなった。
 炎が大蛇の身体を燃やし、異臭とともに明るさをもたらす。

 皆の背に守られながら、雷蔵とさけが、フラットカブトの白い茎に手をかけた。
「…くっ!」
 フラットカブトは、まるで抵抗をするかのように地面にしがみつき、引き抜くのは想像以上に困難だった。
 それでも何とか、ひとつ、またひとつと手に入れる。
「あ、そっちより、むこうの大きい方のがいいと思うよ」
 どこかから声が聞こえる。
「誰だ!」
 雷蔵の誰何の声に、隠れ身を使ってここまで辿り着いたあーる華野 筐子が恥ずかしそうに岩陰から姿を現した。もっとも、段ボールを被っているので表情はわからない。
「『薬の作り方が載っている本』に載ってたのと同じようなものを持って行った方がいいと思うよ!」
 いろいろ聞きたいことも言いたいこともあったが、それよりフラットカブトが優先だ。さけと雷蔵と筐子は、物色しながらフラットカブトを抜いていく。3つ目を手に入れたところで、雷蔵は、さけにそれを渡した。
「まずは、愛美と先にやられた森探索組の分を持って行ってやってくれ」
「わかりましたわ!」
 さけは絶対に落とすまいと、フラットカブトを握りしめ、バーストダッシュで外を目指した。途中には、その行く手を決して妨げさせはしないと尽力する者達の姿があった。

 雷蔵と筐子は、さらに3つを引き抜き、雷蔵はそれをすべて筐子に託した。
「洞窟組の分だ。持ってってやってくれ! 俺は予備の分を採っていく」
「わかった!」
 筐子が再び隠れ身を使って外へ向かおうとした時、岩陰から大蛇が襲いかかってきた。もう一歩早かったら危ない所だった。蛇は鎌首をこちらへ向けて、筐子に狙いを定めている。大きな口が開いたその時、毒をかけられると思った筐子が身構えた。
「筐子殿の危機でござる!」
 筐子の肩に乗っていた5寸程の体長の英霊、一瞬 防師(いっしゅん・ぼうし)が、えいとばかりに大蛇の口の中へ飛び込んだ。
 反射的に口が閉じられる。防師は、大蛇の体内を滑り落ちながらランスを突き刺した。内臓を傷つけられる痛さに、大蛇がもんどりを打つ。
 腹の中からは「くらえ、寸釘キーック!」なる声が聞こえたような気がした。
「って、どうやって助けるの!?」
 筐子ともう一人のパートナー、剣の花嫁のアイリス・ウォーカー(あいりす・うぉーかー)の武器は銃だった。防師を信じて待つか、イチかバチかヤってみちゃうか……。2人は人生の岐路に立たされた。その時、げふっと、大蛇が小さな塊を吐きだした。
「こ、…こばこ殿ぉ〜…拙者、やりましたぞ〜……」
 大蛇の消化液にまみれたのか、ちょっぴり溶けかけてるような気がしなくもない防師を筐子が拾い上げる。腹の具合が良くなった大蛇が、再び筐子を襲おうとした時、アイリスがスプレーショットにシャープシューターを掛け合わせ、愛用のトミーガンで、大蛇に浴びせた。
「行って下さい、筐子さん! ここは私がくい止めます!」
「わかった。気をつけて!」
 アイリスの声に押されて、筐子は防師とフラットカブトを手に、出口に向かって全速力で駆けだした。

「次っ!」
 光は、ヒットアンドウェイ戦法で攻撃を繰り返し、皆をサポートする作戦をとっていた。気がつけば、入口の大蛇はあらかた片付き、奥ではまだ皆が戦っている。
「ボクは戦うぐらいしかできないけど…だからこそ、やるときはやるんだ!」
 せめて一太刀だけでも、皆の為に。光は、携帯電話を取りだした。

 光が覚悟を決めて奥へ入ると、地面に伏していた大蛇がゆるり…と体を起こし、誰かの背後を狙った。
「させるか! ええいっ!!」
 大型の両手剣をとる光条兵器が大蛇の脳天から顎下を貫き、頭を地面に縫い止めた。
「や、やった!!……のか?」

「よくやった! ついでにそのまま横に避けろ!!」
 アルフレートの命令に、光の身体は言葉通りに動く。
「ごめーんっ! あとで謝るからーっ!!」
 筐子が、光が先ほど倒した大蛇の胴を踏みつけ、怒涛の如く外へと駆けて行った。
「大丈夫か?」
「は、はい」
 アルフレートが右手で光を立ち上がらせてくれた。
(あ、この人…左目と左腕が……)
 だから左の後ろの蛇に気づかなかったのだと光が納得する。
「まったく、私の闇を引き受けるんじゃなかったのか」
「………」
 返す言葉もない。テオディスに、アルフレートが言葉を続ける。
「次は頼むぞ」


 洞窟の入口で、脱出してくる者達に情報を聞き、負傷者の数やフラットカブトの数を数えていた薫は、筐子の脱出を見届けると、今とばかりに洞窟内へ走った。

「目標達成! 撤収ー! 撤収するでござるー!!」
 薫の声が洞窟内に響き、1人、また1人と出口に向かう。

「ルカ、撤収だとよ。まだ生きてるか?」
 カルキノスがルカルカを捜してやってきた。
「うん、なんとか……」
 皆、疲労を気力で支えて戦っている。
「カル、右後方!」
 ルカルカの言葉に、カルキノスは迷わず拳を繰り出し、大蛇にカウンターパンチを決める。
「……ったくよぉ、蛇のくせに竜族に牙剥いてんじゃねぇぞ、おらぁ!」
 カルキノスが地に落ちた蛇の頭を足でぐりぐりと踏みにじった。
「さすがに、本物のドラゴンアーツはすごいな。もっと修行しなくちゃ!」
 ルカルカに新たな目標ができたようだ。


 その頃、洞窟から大蛇を誘い出していた巽は、ティアと共に木の上にいた。
 木の下には、最後まで撒けなかった大蛇が一匹、あたりの様子を窺うように首をしきりに動かしている。
 木の上に登ってきたら、そのまま飛び降りて撒くつもりだったのだが、これでは、着地したとたんに毒液にやられてしまうだろう。
「早く、よそへ行ってくれればいいんだが…」
 愛美の安否や、フラットカブトが採取出来たかどうかも気になるところだ。
「もうっ、ヤニ臭いのが身体に染みついちゃうよ……」
 ティアが、巽に愚痴り始めた。
「皆の状況もわかんないし、愛美だってどうなってるのかわかんないし……」
「悪かったな」
 巽の子供をあやすような態度に、ティアは頬を膨らませて抗議した。
「それもこれも!……タツミが、無茶するから……」
「悪かったな、心配掛けて」
「もう、あんまり、無茶しないでよね……」
「努力する」
「もうっ!……はぁ。保冷材、もう温くなっちゃったね」
 ティアの言葉に、巽がひらめいた。
「それだ!」
 巽はティアに、シーツにしまってある保冷材を捨てるように言った。
「ヒーローとしては、こんなところにゴミ捨てちゃだめだよ!」
「あとで拾いにくる」
「絶対だよ?」
 保冷材を木の下に落として、しばらくすると、大蛇が木の上の獲物の体温を感知して、木を登り始める。
 巽は、木から飛び降りるタイミングを見計らった。

「ったく、最後の最後で何やってんだ」
 雷蔵が、腕の中の翔子を責める。
「だっ…て、カブトが……」
 薫の撤収の合図を聞いた雷蔵は、あと1株だけ採っておこうと、フラットカブトを引く手に力を入れた。その目の前に、大蛇というには小さい蛇が岩肌から滑り落ち鎌首をもたげた。危険を見てとった翔子は、蛇を素手で掴んで放り投げるという暴挙に出た。毒液は、翔子を逃がさなかった。
「おい、大丈夫か?」
 翔子の意識が薄れていく。

 最後に洞窟を出たイーオン達は、小型飛空艇を止めた場所へと向かった。
 薫が人数を数えて、誰も洞窟内に残っていない事を確認した。

 イーオンは小型飛空艇の後ろに翔子を乗せ、フェリークスの後ろに雷蔵を乗せた。満席ならば仕方がないと、京と唯が彼らを見送る。
「あなた達も歩いて戻るんですか?」
「そんなこと、見てわかるのだわ」
 親しげに声を掛けてきた炬を、京が冷たくあしらう。珍しく頑張っていた京は、あの洞窟の中で見おさめだったらしい。苦労性の唯が残念そうなため息をついた。
「プルルルルルルルルルルルル(はやく ガッコウに もどろうぜ)」
 ドットが炬に声をかけると、京が黄色い悲鳴をあげた。
「すごいのだわ! このゲーム機! テレビが無くてもプレイ出来るのだわ!?」
「えへへ、この子は、ボクの機晶姫のドット君です」
「プルルルル ルルルルル(ドット だよ よろしくな)」
「すっ…すごいのだわ!!」
「もしかして、ゲーム、好きなんですか?」
「え?……ええ、まぁね」
「ふーん。でも、きっと、ボクほどじゃないですよね」
 炬と京の間で、火花が散ったような気がした。
「気が変わったのだわ。一緒に帰ってあげるのだわ」
「嬉しいなぁ、ボクも今のうちに色々話しといた方がいいような気がしたんです」
 二人は笑顔とは裏腹に、荒い足取りで学園へ向かった。
 パートナー達はなんだかお互いに気を使いながらその後を追った。