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海上大決戦!

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海上大決戦!

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 ところ変わって、こちらは【シーゴースト】。飛空挺で味方ボート部隊に先行するのは、葉月とミーナだ。
「ミーナ、作戦はいいですね?」
「分かってるよ。ワタシと葉月とで互いに逆方向から大砲の砲手を攻撃。その後すぐに離脱でしょ」
「そう。敵の大砲は味方のボート部隊に対して驚異です。僕たちに与えられた役割は大きい。なんとしても成功させましょう」
「うん。うまくいったら、いいこいいこしてね」
「しょうがないですね。それでミーナが頑張れるのなら、約束しましょう」
「やった」
 二人は互いの健闘を祈って軽く抱き合った後、別々に分かれる。
 葉月は、海賊船に向かって水面ギリギリを飛んでいく。この高さをこのスピードで移動すれば、そう簡単には大砲に狙われない。そうして海賊船の目の前まで接近すると、急上昇しつつ氷術で人工的な霧を発生させた。
「うわ、なんだ、霧か?」
「いや、何者かが急に出てきて、何かするのが見えたぞ!」
 突如視界を奪われ、海賊たちは混乱する。葉月とは反対側の方向でも霧が発生し、海賊たちの声が上がった。
 葉月はすぐにその場から離脱し、ボートで待機する仲間たちに合図をする。
「ミーナの方も作戦に成功したようです。乗り込むなら今です。後はよろしくお願いします!」
「ナイスだ葉月。よしアメリア、俺たちの出番だぜ!」
「待ちくたびれたわ」
 芳樹はバーストダッシュでボートから海賊船に飛び込む。アメリアも同様に後に続いた。
「さて、僕の役目は終わりですね。ミーナでも探しに行くとしましょうか。方向音痴なあの子のことですから、迷っているかもしれません」
 葉月はミーナがいるはずの方向を目指した。
 葉月の予想は当たっていた。
「あれ、ここどこだ?」
 霧を発生させる作戦を成功させたまではよかったものの、ミーナは自分自身も霧の中で方向感覚を失ってしまったのだ。
「えーと、とりあえずこっちに行けば、船からは離れられるよね……」
 ミーナは手探りで進む。すると、すぐ近くで海賊の声が聞こえた。
「うわ、逆!? あーもう、どうしよう」
 そのとき、ミーナは自分を呼ぶ声に気がついた。
「ミーナー! ミーナー!」
 聞き覚えのある声だ。
「葉月?」
 ミーナが声のする方向に飛んでいくと、やがて霧の合間から葉月の姿が見えた。
「ミーナ! よかった。探しましたよ」
「葉月ー」
 ミーナが葉月の胸に飛び込む。
「やっぱり迷っていたんですね」
「あはは」
「でも作戦は成功です。よくやりましたね。それでは、約束ですから」
 葉月がミーナの頭をそっとなでる。ミーナは最高に幸せそうな顔をした。
 
「とりあえず乗り込むのには成功したな。葉月たちのおかげだぜ」
 海賊船に侵入した芳樹は、光術で呼び出した小さな光を明かりの代わりにして、辺りを見回す。
「既に壊されてる大砲もいくつかあるみたいだな……アメリア、まだ壊されてないやつを探すぞ」
「分かったわ」
 芳樹たちは、霧の中で動揺する海賊たちに気付かれぬよう、そっと船内を移動する。
「お、あの大砲まだ壊れてないな。あれを狙うぞ」
 芳樹は一つの大砲に狙いを定め、その前に立っている砲手にそっと背後から近づいていく。砲手は後ろにまで注意が回っていないようだった。
「後ろから悪いな」
 芳樹はカルスノウトの鎬で砲手の後頭部を強く叩く。不意をつかれた砲手は、声も上げずに崩れ落ちた。
「よし、アメリア、うまく――」
 芳樹が振り返った瞬間、霧の中から芳樹の眼前に何かが飛び出す。
 間一髪、アメリアがそれをハーフムーンロッドで受け止めた。甲高い音が鳴り響く。
 最初芳樹には何が起こったのか分からなかったが、やがて自分は海賊に襲撃されたのだと気がつく。アメリアがいなかったら、海賊のカトラスは芳樹の顔面を完全にとらえていただろう。
「ちいっ」
 海賊は飛び退り、再び霧の中へと消える。
「芳樹」
 アメリアが箒を見せた後上を指さし、芳樹に合図をする。二人は箒に乗って空中で待機した。しばらくすると、霧の合間から先ほどの海賊の姿がうっすらと見えてくる。辺りをきょろきょろと見回して、二人を探しているようだ。
 アメリアは口に指を当てて静かにするよう芳樹に促すと、海賊目がけて思いきり雷術を浴びせた。
「ぐわっ」
 海賊はうめき声を上げて倒れ込む。
「一撃か」
 芳樹が驚いたように言う。
「霧で体が濡れているから、雷術が有効だと思ったの」
「なるほど、頭いいな。それにしても助かったぜ。ありがとう」
「芳樹は私の命に代えても守るわ」
 真顔でそんなことを言われ、芳樹は思わず目をそらす。
「さあ芳樹、本来の目的をまだ果たしていないわ。大砲を壊しにいきましょう」
「あ、ああ」
 今度は十分周りを警戒し、二人は大砲を壊すことに成功する。その後もいくつかの大砲を壊し、数人の砲手を行動不能にすることができた。
「霧が晴れてきたな。アメリア、そろそろ終わりにしようぜ」
「そうね。そうしましょう」
 二人は海賊船を後にする。
「ふう。途中危ない目にあったけど、最低限の仕事はできたな。真紀たちのほうはどうだろう」
「きっとうまくやってるわよ」

 その真紀は水中から海賊船に接近し、船底に時限爆弾を仕掛ける作戦だ。同じく破壊工作を行う予定の閃崎 静麻(せんざき・しずま)とはあらかじめ打ち合わせをしており、互いに反対側から行動する。
 できればエリザベートからスキューバダイビングの機材一式を借りたかったのだが、『なに甘えたことを言ってるですかぁ。そのくらい自分でなんとかしなさい。ボートを貸してやるだけありがたいと思えですぅ』と言われてしまった。息が続かないので、海賊船に接近するまでは海面近くを泳ぐしかないだろう。
「それではサイモン、ボートをよろしくおねがいします」
「うん、気をつけてね」
 サイモンは【シーゴースト】のボートに一人残る。真紀たちが無事戻ってきたときのために、ボートが沈まないよう敵の攻撃を避けるのが彼の役目なのだ。
「いってきます」
 真紀がボートから綺麗に海に飛び込むと、ドラゴンアーツを応用した泳法でぐんぐん進んでいく。多くの生徒が大砲の無力化に尽力してくれたおかげで、この時点ではさほど大砲を気にする必要はなかった。
「ほお、面白いものを見つけてしまったのう」
 高速で接近してくる真紀を見てそう言ったのはファタ・オルガナ(ふぁた・おるがな)だ。彼女は人の嫌がることをするのが好きであり、また、氷術がどこまで応用できるのか試したかったので、海賊の仲間に加わった。
「なになにー? マスター」
 パートナーのファム・プティシュクレ(ふぁむ・ぷてぃしゅくれ)がファタに尋ねる。
「あれじゃ」
 ファタが真紀を指さす。
「わあ、すごーい。お魚さんみたーい」
「どれ、早速試してみるかの。まずはこれからじゃ」
 ファタが術を唱える。すると、無数の氷塊が真紀の上に降り注いだ。
「な、何事でありますか!? いたっ、痛いであります!」
 氷塊は見事に真紀に命中する。
「ふむ、まずまずじゃな」
「マスターかっこいー!」
 真紀の異変にサイモンも気がつく。
「なんだあいつ。真紀の邪魔をして。そらっ!」
 サイモンはファタに向かって火術を放つ。だが、ボートの上は不安定で、ファタをとらえることはできなかった。
「おや、仲間か。捻りのない火術じゃな。さて、次はあの術を試そうかのう」
 ファタは嬉々として次の呪文を唱え始めた。
 
 真紀が海賊船に向かって泳ぎだした頃、静麻もパートナーのレイナ・ライトフィード(れいな・らいとふぃーど)と共に海賊船近くのボートにいた。
「やれやれ、なんだってこんな面倒なことをしなくちゃならないんだ。どうせ海にくるなら、砂浜でのんびりしたいもんだね」
「何を言っているのですか。海賊行為などというものを見過ごせるわけがありません!」
「ホント、あんたはクソ真面目だなあ」
「静麻が不真面目すぎるのです!」
 声を張り上げるレイナに、ボートの上で寝転がっていた静麻は体を起こす。
「はいはい、分かりましたよっと。どうせやるなら、ちゃっちゃと片付けちまおう」
「手抜きは許しませんよ」
「分かってるって。ほら、行くぞ」
 静麻は隠れ身を使いながらバーストダッシュで、レイナは攻撃がきてもかわせるようジグザグにバーストダッシュして、海賊船へとたどり着く。
「思ったより簡単に乗船できちまったな。こりゃ楽で助か――ん?」
 さっさと破壊工作を行おうとした静麻は、反対側の海で見知った顔が船の上の生徒から攻撃を受けているのに気がつく。
「比島……」
「どうしたのですか?」
「いや、やっかいなものを見つけちまった。仕方ねえな」
 静麻は、ファタが大けがをしないよう、腕をかすめるように狙ってハンドガンを撃つ。しかし、ファタはくるりと振り返ると、空中に作った氷の結晶の壁でこれを防ぐ。
「これも使えるの」
「ねーねーマスター、ファムとキスするー?」
「おお頼むぞ。お前は本当にかわいいやつだのう」
 ファムはアリスキッスでファタの魔力を回復させる。
「あんたなかなかやるじゃん」
 静麻がファタに言う。
「お褒めにあずかり光栄じゃ。お礼に新作をご披露しよう」
 ファタはそう言うと、槍状の氷を作り出して静麻に投げつける。
「どわっ」
 静麻がこれを避けると、氷の槍は静麻たちが乗ってきたボートを貫いてバラバラにした。
「うーむ、やはりこの術は危険じゃのう」
「おま、いきなり何すんだ! 危ないじゃねえか!」
「静麻、この人危険です!」
 レイナがカルスノウトを構えて戦闘態勢に入る。
「あははー、おにいちゃんとおねえちゃんビビってるー」
 そのとき、ようやく海賊船にたどり着いた真紀が甲板に上がってきた。
「あ、あなたですね! 自分を弄んだのは。任務遂行の前に、報復を敢行するであります!」
 真紀は頭にできたたんこぶを押さえながら言う。わなわなと震えてひどく興奮した様子だ。普段は冷静な真紀だが、コケにされたのがよほど屈辱だったらしい。
「覚悟はできているのでしょうね」
 レイナがファタに詰め寄っていく。
「3対2、いや1.5か。戦いたいわけではないし、術は十分試せたしの。欲を言えばもう少し他人の邪魔をしたかったが……まあこんなもんじゃろ」
 ファタはうんうんと頷くと、
「行くぞ、ファム」
 素早く箒で舞い上がった。ファムも翼で飛び、ついていく。
「待ちなさい!」
 レイナが空を見上げて叫ぶ。
「待てと言われて待つやつがいると思うか?」
「おねえちゃんたちばいばーい。楽しかったよ。今度はもっといっぱいファムと遊ぼうねー」
「くう……」
 逃げていくファタとファムを見つめながら、真紀は悔しそうな顔をする。
「もういっちまったんだからいいじゃねえか。それより俺たちにはまだやることがあるだろ」
 結局静麻になだめられ、真紀は渋々本来の作業に戻った。真紀は一瞬で船底まで潜り、実に手際よく時限爆弾を取り付けた。
 静麻とレインも船体を爆破し、船を後にする。彼らはファタにボートを壊されてしまったので、【シーゴースト】のボートに乗せてもらうことにする。
 【シーゴースト】のボートにむかってゆっくり泳いでいる途中、レイナは笑みを浮かべながらちらちらと静麻の方を見る。
「なんだよ」
「いえ、なんでもないです」
「気持ち悪いなあ」
「ただ、静麻ってなんだかんだ言いながら優しいのだな、と思っただけです」
「はあ」
 真紀はドラゴンアーツ泳法であっという間に静麻たちを追い抜いてしまうと、ボートに帰ってくる。サイモンが彼女を出迎えた。
「お帰り。大変だったね。役に立てなくてごめん」
「いえ、サイモンは立派にボートを守ってくれました。それで十分です。それより……」
 真紀は真剣な顔で言った。
「自分、今度から泳ぐときはヘルメットを着用しようと思います」

「いやあ、愉快じゃった愉快じゃった」
「ゆかいじゃったゆかいじゃったー」
 ファタたちは真紀と対照的にご満悦で空を飛んでいる。
「そうじゃ、忘れとった」
「んー?」
「もしかしたら、海賊に味方したかわいい少女が逃げ遅れているかもしれぬ。戻って少し見てみよう」
 ファタたちが船に戻ると、ちょうど呆然としている玲奈とジャックの姿が目に入った。
「おねえちゃんもファムとキスするー?」
 ファムは甲板に降り立つと、レイナのところまでトコトコ歩いて行き、キスをする。
「え? え? むぎゅう……」
 ジャックはぽかんとしてその光景を見ていた。
「同じイルミンスールの少女ではないか。ほれ、乗るがよい」
 玲奈は訳が分からないままファタの箒に乗せられる。
「では行くぞ」
 ファタたちが飛び去り、ジャックだけが甲板に取り残された。
「あの、俺は?」
「おにいちゃん、がんばっておよいでねー」
「ジャックー」
 玲奈の声が悲しく木霊した。