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海上大決戦!

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海上大決戦!

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 第1章 開戦

 雲一つない空に穏やかな波、頬をなでる風。今日のパラミタ内海はとても気持ちがいい。――大砲の音が鳴り響いていることを除けば。
 
 海賊討伐に向かった生徒たちがパラミタ内海の沿岸に位置するルトラ族の村についた直後、海賊が村を襲いにやってきたのだ。彼らはすぐさま異変に気がつくと、船に近づいてくる生徒たちに向かって砲撃を開始した。
 織機 誠(おりはた・まこと)城定 英希(じょうじょう・えいき)ジゼル・フォスター(じぜる・ふぉすたー)遠鳴 真希(とおなり・まき)ユズィリスティラクス・エグザドフォルモラス(ゆずぃりすてぃらくす・えぐざどふぉるもらす)は【子分相手班ボートA】を結成していた。
「いくぞっ! 我らイルミン海上保安隊!!」
 英希のかけ声とともに、彼らは行動を開始する。海賊船の側方に砲門があると想定し、海賊船には前方から近づいていく。予想通り海賊船の船首には船首像があるだけで砲門はなかったが、甲板上から砲撃を受ける。攻撃の数が少ないとはいえ、ボートは機動力も低く、一撃でも被弾すればひとたまりもない。ボートを漕ぐ誠と真希は必死そのものだった。
「このままだとそのうち当たっちゃう! 援護よろしく!」
「そうですな」
 真希の言葉にジゼルが答え、弓で応戦する。ボートはぎりぎりのところで砲撃を交わしつつ、ゆっくりながらも船に迫っていった。だが次の瞬間、状況は突如一変する。
「うわっ!」
 一同が叫び声を上げる。船上からファイアストームが飛んできたのだ。
「今日は思う存分暴れさせてもらうわよ」
 ファイアストームを放ったのはメニエス・レイン(めにえす・れいん)だった。彼女はエリザベート・ワルプルギス(えりざべーと・わるぷるぎす)の鼻柱をへし折ってやりたいと考え、また、生徒相手に本気で魔術を使ういい機会でもあったので、海賊の側に取り入ったのだ。
「な、どうしてうちの生徒が……海賊の味方をするなんて許せませんね」
 メニエスの姿を見て誠が顔をしかめる。
「そんなこと言ってる場合じゃないって! いくらなんでも大砲と魔術の両方は避けきれないよ。ああ、ほら次がくる」
 慌てる英希の視線の先では、再びメニエスが攻撃の態勢に入っていた。
「ふふ、どんどん行くわよお」
 だが次の瞬間、パートナーのミストラル・フォーセット(みすとらる・ふぉーせっと)が勢いよくメニエスに飛びついた。
「メニエス様、危ない!」
 二人は船の上に倒れ込む。その上を何かが通り過ぎていった。
「……いたた」
 メニエスがゆっくりと体を起こす。
「申し訳ありません、メニエス様。突然のことでしたので」
「ううん、ありがとうミストラル。それより今のは?」
「光条兵器だと思われます。メニエス様を狙おうなどという不貞な輩がいるようですね」
 ミストラルが狙撃のあった方向を見据えて言う。
 メニエスを攻撃したのはダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)だ。彼はルカルカ・ルー(るかるか・るー)カルキノス・シュトロエンデ(かるきのす・しゅとろえんで)とともに戦場後方に位置取るボートに乗っていた。
「やるじゃない、ダリル」
「たいしたことではない」
 笑顔を浮かべるルカルカに、ダリルは冷静に答えた。
「ようし、ルカルカも負けてらんないな」
 ルカルカは競艇選手のように座って体勢を安定させると、空に向かって火矢を構える。
 ルカルカの標的は二つ。一つは生徒を狙う敵だ。急降下爆撃は熟練者でもなければ精度が低く、飛行物は下からの攻撃にもろいので容易に撃墜されかねない。そう考えたルカルカは爆撃隊を狙う者を火矢で狙い撃つ。火矢を用いるのは、延焼も狙うためだ。
 もう一つの標的は海賊船そのもの。帆やマスト、舵輪、船腹といったところを狙う。ダメージよりも延焼を目論む為、小型軽量の小弓で連続射出を行う。
 カルキノスは、ルカルカが放つ矢がより高い精度で命中するよう、小船後方で錘の代わりをしてより船を安定化させる。
「かわいい猫にも爪はあるのよ」
 生徒たちの援護を援護し海賊船を沈めるべく、ルカルカは次々と火矢を放ち始めた。

「ああもう、ちょこまかと小賢しい!」
 ファイアストームを連発するもなかなか誠たちのボートに当たらず、メニエスは苛立ちを見せる。そんな彼女にロザリアス・レミーナ(ろざりあす・れみーな)は甲斐甲斐しくアリスキッスで魔力を回復させる。
「頑張ってね、おねーちゃん」
 ミストラルがダリルの攻撃に注意してメニエスの盾となり、メニエスは【子分相手班ボートA】の迎撃に専念、ロザリアスがメニエスの回復に徹するという作戦を三人はとっていた。だがやはりメニエスは集中しきれず、【子分相手班ボートA】の接舷を許してしまう。
「さあ、お乗りください」
 ユズが誠から借りた空飛ぶ箒に誠を乗せ、船上に向かう。次いでジゼルと真希がロープを括り付けたつるはしを船にひっかけ、船とボートをつないだ。誠を船に乗せ終えたユズは次に英希を運びにかかる。海賊たちもメニエスたちも当然これを妨害しにかかったが、ルカルカやダリルの狙撃、ジゼルや誠の援護のおかげで、英希も無事乗船する。ユズはジゼル、そして最後に真希と船上に運び、【子分相手班ボートA】のメンバーは全員乗船に成功した。
「ふん、しょうがない。こうなったら正々堂々と相手をしてあげましょう」
 メニエスが不適な笑みを浮かべる。
 と、ロザリアスがいきなり英希に向かって走り出した。しかし、彼女は英希の目の前までやってきたかと思うと派手に転び、泣き出してしまう。
「うわあん、いたいよお」
「ちょ、ちょっと君、大丈夫?」
 これにはつい英希も一瞬気を抜いてしまった。
 ニヤリ。その瞬間、仕込み竹箒で一閃。ロザリアスが英希のみぞおちに一撃を加えた。
「うっ……」
 思わずうずくまる英希。それを見てロザリアスは実に楽しげに笑い声を上げる。
「きゃはは! 引っかかった引っかかった! バカじゃないのぉ!!」
「だ、騙したね……許さないよ!」
 頭に血の上った英希は、杖を振り回して敵に突撃していく。こうして少々間抜けな形で、船上の戦いは幕を開けた。
 真希とユズは海賊たちの相手を引き受けることにする。真希はまずディフェンスシフトで味方の防御力を上昇させると、ランスを構えて海賊の一人に立ち向かう。
「ユズ、行くよ!」
「任せてください」
 カトラスを武器とする海賊相手に、真希はランスのリーチを生かして戦いを優位に進める。ユズは箒に乗り、真希が一対一の状態を保てるように火術で他の海賊たちを牽制した。
「混戦に弓は不向きですな」
 ジゼルも援護に回る。彼女は一人戦場を離れ、船の端から海賊たちを狙って弓を放つ。
 味方のサポートを受けながら、真希は少しずつ相手を追い詰めていく。あとがなくなって船の縁に背中をぶつけた海賊は、一瞬後ろを振り返った。真希はこれを見逃さない。
「えいっ!」
 真希が海賊の武器目がけて渾身の一撃を繰り出す海賊は慌てて横に飛びこれを交わしたが、今度はユズが見逃さなかった。彼女は攻撃に真希を巻き込まないよう、敵が真希から離れるのを待っていたのである。体勢を崩した海賊に、すかさず火術を放つ。
「ぐわっ」
 火術の直撃を受けて海賊が怯む。
「真希様、今です」
「やあっ!」
 非情に徹しきれない真希は、武器でとどめをさすことはせず、海賊にナイトシールドを使っての体当たりを浴びせる。海賊は見事に吹っ飛ばされ、海の中へと落っこちた。
「ぶはっ、げほっ、た、助けてくれ。溺れるー!」
 海に投げ出された海賊は手足をじたばたさせ、大声を出す。
「え、ど、どうしよう。ユズ、助けてあげて」
 予想外の事態に動揺した真希が、心配そうな目でユズを見つめる。しかしユズは冷徹に言い放った。
「真希様、海賊が泳げないはずはありません。助けようとしたところを襲うつもりでしょう。真希様は少しお優しすぎますから、気をつけてください」
「そ、そうなんだ。ありがとうユズ。騙されちゃうところだったよ。それじゃあ、この調子でどんど海賊を海に落としていこう」
 真希はそう言うと、次の相手に向かってゆく。
「ちょ、ちょっと待って! 俺本当に泳げな……」
 その後ろで海賊はゆっくりと海に沈んでいったが、それに気がつく者は誰もいなかった。

 誠と英希はメニエスたちと戦っている。
 誠は術者相手にはプロテクトを発動するつもりだったが、メニエスは雷術を使用しており、誠はこの術に対するプロテクトを身につけていない。また、槍という武器の特性を生かすために狭い通路で戦いたかったが、ここではそうもいかない。彼は計算の狂った状態で戦うことを余儀なくされた。
「く、簡単には突破できそうにありませんね……」
「メニエス様の邪魔をしないでくださります?」 
 ミストラルは、誠がメニエスに近づかないように立ち回る。誠の攻撃はなかなかメニエスに届かない。
「城定さん、レインさんをお願いしますよ」
 誠はそう呟いた。
 英希はメニエスと魔術の撃ち合いを展開している。本当なら自分を騙したロザリアスを殴ってやりたいところだが、この状況では自分がメニエスの相手をするしかない。
「ほらほら、どうしたどうした」
 メニエスの雷術が次々と英希を襲う。術を撃つたびに魔力を消耗する英希に対して、メニエスはロザリアスのアリスキッスで魔力を回復する。英希も氷術でメニエスの足場を凍らせるなどして応戦したが、徐々に押されていく。
 このままでは分が悪い。誠と英希がそう思ったときだった。
「これで最後ですな」
 ジゼルが海賊を担いで二人のもとにやってくる。戦いに夢中で二人は気がつかなかったが、見ると近くの海賊たちは味方によって倒されていた。真希とユズもこちらに向かっている。
「形勢逆転ですね。大人しく降参したらどうです? レインさん」
 誠がメニエスに槍を向けて言う。
「私が降参なんてすると思う? まとめてかかってきなさい」
 誠とメニエスが睨み合っている脇で、ジゼルは担いでいた海賊を下ろす。その海賊はなんと、ロープで亀の甲羅的なあの縛り方をされていた。
「ルトラ族の気持ちを味わうんですな。なんなら彼らに特価で売ってやろうか? ふふふ……」
 ジゼルは取り出した札束で海賊の頬をぺしぺしと叩き、恍惚の笑みを浮かべる。
 それを見て英希も海賊に歩み寄った。
「そうそう、亀さんの気持ちを分かってもらうことが大切だよね。おしおきして、改心してもらわないと」
 英希はそう言うと海賊の四肢を氷術で固め、高らかに声を上げながら杖で海賊をグリグリしたり叩いたりする。
「ええのんかぁ? ここがええのんか??」
「ぎゃああ! やめて、やめてください! もうしません! もうしませんからあ!」
 海賊が悲鳴を上げるのをしばらく楽しむと、英希とジゼルはメニエスたちの方を振り向く。
「さあて、ここにもお仕置きの必要な人たちが」
「いるようですなあ」
 二人の顔には悪寒の走るような笑みが浮かんでいた。
「え、何? わ、こっちに来るな!」
 これにはさすがのメニエスも怯む。
「へ、変態ですわ……メニエス様に近寄らないでください!」
 ミストラルに至っては真っ青になっていた。
「しょうがないわね。ミストラル、ロザ、ここは退くわよ!」
 メニエスたちは空飛ぶ箒で船を去っていく。その様子を見つめる誠の気持ちは複雑だった。
「こんな形でも、目標達成と言っていいのでしょうか」
 ちょうどそのとき、三人組を目指す生徒たちが遠くを通るのが見えた。
「あ、皆さん。無事帰ってきて、なんか奢ってくださいよ。いいところを譲ってあげるんですからね」
 誠はかっこよくそう声を張り上げたが、彼らは新たな獲物を見つけていたぶっている英希とジゼルを怪訝そうな顔で見ると、すぐに目をそらして行ってしまう。
「き、決まらない……」
 誠はがっくりとうなだれた。