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鏡の中のダンスパーティ

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鏡の中のダンスパーティ

リアクション

【9】
 シュピーゲルが鏡のあった部屋から出てくるのを、ヴェルチェ・クライウォルフ(う゛ぇるちぇ・くらいうぉるふ)は待っていた。さっきまで鏡の中の自分と語り合い、そして踊っていた。
 鏡の中の自分は、俯き加減な女の子で、ヴェルチェが話した恋愛話を真剣に聞いては驚き、また悲しんだり喜んだりもしていた。感情に素直な、でもそんな自分を恥ずかしがってしまう子。
 ひとしきり話をしたところで彼女にも話を振ると、顔を真っ赤にして「好きな人なんていません」と言ってきた。あまりにいないと連呼するので、居るのだろうとヴェルチェは思う。
 そんな彼女は今、ヴェルチェの後ろに隠れるようにして居た。ヴェルチェが主催者であるシュピーゲルに会いたいと言ったから。人見知りの気がある彼女は、主催者ともあろう相手を前に、平然としては居られなかったのだ。けれど、ダンスホールに一人きりで待っていることもできず、ついてきた。
「主催者がどんな相手でも、悪い人じゃないわよぅ? そんなに怯えなくてもいいのに」
「で、でも……瀬蓮さんを、水晶にしちゃったり、したじゃないですか」
「謝ってたし、結局誰もケガしてないし、いいじゃない♪ 反省しているならいいと思うわよ♪ それに主催者が居なかったら、この素敵なパーティはなかったと思うと、あたしはお礼を言いたいって気持ちのほうが大きいわ」
 言って、俯いている彼女の頭を撫でた。怖くないわよと言うように。
「それにほら。本当に嫌な相手にお礼を言おうなんて、きっと誰も思わないわよぅ。でもここには、あたし以外にも人が居るから」
 ヴェルチェはそう言って、ちらりと先客を見た。自分が来るよりも先にここに来ていた女の子。
 待田 イングヒルト(まちだ・いんぐひると)は、見られているなんて思いもせずに鏡の中の自分と手をつないで待っていた。
「出てきてくれませんね」
「悪いことしたって自覚があるから、余計に出て来づらいんじゃないかな」
「ずっと待ってたら、少しだけでも会えますよね」
「うん。きっと、会えると僕は思ってる」
「二人で信じてたら大丈夫ですね」
「うん」
 その言葉に根拠はなかったけれど、二人は待っている。
 主催者を捜して歩いていたイングヒルトは、偶然に鏡の中の自分と出会った。お手洗いに行って帰る途中道に迷ったなんて、なんだかうっかりしていて、自分みたいだなと思った。まあ、実際に鏡の中の自分なのだが。
 二人は廊下にも関わらず、その場ではしゃぎ、また質問祭をして、主催者を一緒に捜そうと言うことになった。結果、今に至る。
「出てくるまでにらめっこでもします?」
「わーらうーとまーけよー」
「あっぷっ」
「「ぷぅ」」
 くだらないことをしていると思ってる。
 だけど、すごく楽しいと思ってる。
 そんな相手に会えた、今日のこの時間を作ってくれた主催者に、どうしても会ってお礼が言いたかった。
 にらめっこ開始から、ややして。
 ドアが、開いた。
「あ」
「え」
「出てきた」
「……!」
 四者四様の反応をして、ドアを見る。先に瀬蓮が出てきて、続いて、瀬蓮よりもいくらか背の高い人物が現れる。顔を仮面で隠していて、一見しただけじゃ性別がわからなかった。
「主催者さんですか?」
 とことこと寄って行って、イングヒルトが声をかけた。仮面の人物はこくんと頷く。
「お礼が言いたかったんです」
「……お礼?」
「あたしも。今日、もう一人の自分に会えてよかったと思ってる」
 ヴェルチェもそれに続いて礼を言った。
「……でも、わたしにはお礼の言葉を受け取る資格なんて」
「え、言葉をもらうのに資格なんているのか?
 不意に上がった声に、その場に居た全員が振り返る。橘 カオル(たちばな・かおる)が双子のようにそっくりなもう一人の自分と一緒に立っていた。
「あ、オレたち、キミと話したくて来たんだ」
 カオルはシュピーゲルに微笑みかけて言う。戸惑うようにシュピーゲルは瀬蓮を見たが、瀬蓮は微笑むだけで何も言わない。
「だから、お礼なんて……」
「オレ、話に夢中だったから何があったのかよくわかってないんだけどさ。キミが何の目的でこのパーティを開いたのであれ、オレが感謝してるのは事実なんだ。だって鏡の中のオレに会えたのは本当だし、それによってオレらがかけがえのない時間を過ごせたことも本当で、すごく嬉しかったし楽しかった」
「そうなんですよー! 私も、私と会えて楽しかったんです! お互いパートナーの苦労話したり、励まし合ったりできて!」
「さっきはにらめっこしてたんですよ。何をしても、すっごい楽しいです」
「あ、わた、わたしも。素敵な自分と話ができて、嬉しかっ」
「素敵だなんてやぁねぇー♪ もっと褒めて♪
 ……こほん。そういうわけで、ここに居るわたしたち全員、あなたに感謝しているの」
 ヴェルチェの微笑みを受けて、シュピーゲルは仮面に手をかけた。外された仮面から見えた顔は、なんてことのない女の子だった。十代半ばくらいだろうか。美少女や美女と言っていい、整った顔。
「わたしのしたことを、認めてくれるの?
「認めるっつーか。キミがした行為が善であれ悪であれ、オレたちにとってはプラスだったんだよな。過程でもそうだし、結果でもそうだろ? 悲しそうにしてるのはキミくらいだ」
「いっぱい、迷惑をかけた」
「それでもありがかたったですっ!」
「楽しかったわよ♪」
「――あ、りが、とう」
 消え入りそうなほど小さな声で言ったシュピーゲルに、全員が声をそろえて言った。
「「「それはこっちのセリフ」」」


+++++


『本日はお疲れ様でした。ダンスパーティ、午前零時を以て終了とさせていただきます。素敵な時間を過ごせた方も、その――申し訳なかった方も、お集まりくださって本当にありがとうございました』

 主催者のアナウンスが、終了を告げる。
 それとほぼ同時に、会場全体が光った。光った、と認識したその時、もう自分の部屋に居た。
 中にはパートナーの目の前に居たり(そして怒られたり)。
 ベッドの上に居たり。
 洗面所や化粧台の前などの、鏡の前に居たり。
 夢だったのではないかと思うほど、突然にあのパーティは、終わったのだった。

 後日。
 あのダンスパーティが終わった後、一部の参加者たちの元に一通の手紙が届いた。

『ねえ、わたし。
 あなたはわたしに、「今幸せ?」と聞いたわね。
 そんなの、答えはわかってるんじゃないの?
 だってわたしはわたしなんだから、不幸せなはずないじゃない!」』

 そんな内容の手紙。
 差し出し人の名前はなかったが、受け取った側は誰かからかわかったらしい。



担当マスターより

▼担当マスター

灰島懐音

▼マスターコメント

 二度目まして皆様。ゲームマスターを務めさせていただきました灰島懐音です。
 参加してくださった皆様に多大なる謝辞を。

 今回はMCのみでいろいろお喋りしたりラブラブしたりしてみようぜ。
 そんな中でちょっとした事件が発生しちゃったりするんだぜ。
 そんなお話でした。

 相変わらずの文章力です。拙いです。それでも参加してくださった皆様には感謝感謝です。
 本当に参加ありがとうございます。二度目ましてな方が何人かいらっしゃって、前回のことを思い出しては恥ずかしくなったりウオアァァってなったりしたものです、ってどうでもいいですね、はい。

 今回もなかなかに楽しんで執筆することができました。
 何度も言いますが、素敵なアクションを用意してくださった参加者様のおかげだと思います。本当にありがとうございます。

 それでは、また次も会えることを切に願いつつ、筆を置きます。
 最後まで読んでいただきありがとうございました。