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リアクション
大事なパートナーと共に
「すご〜い、あっちの木もこっちの木も、真っ赤だね!」
ファル・サラーム(ふぁる・さらーむ)がうれしげに紅葉の山を走る。
「あまり走るな。転ぶぞ」
「だーいじょぶ!」
早川 呼雪(はやかわ・こゆき)の忠告もなんのその。
ファルは元気に走って行く。
「……ファルは大丈夫でも、弁当が崩れてそうだな……」
ちょっと頭を痛めながらも、呼雪はファルを止めることはしなかった。
せっかく楽しそうなのだ。
少々のお弁当の崩れくらいは気にしまい。
ファルは三人分のお弁当と水筒を持ってくれているわけだし。
「……紅葉の赤は、戦場で流れる血の色と違うのですね」
「ああ、違うよ。もっと美しい赤だ」
ユニコルノ・ディセッテ(ゆにこるの・でぃせって)の言葉に、呼雪が静かに答える。
戦闘型量産シリーズだったユニコルノは、記憶というと、戦場のものしかない。
なので、最初に思いつく赤はその赤になる。
呼雪の声で目を覚ましてから、薔薇の学舎でそれまでとは違う穏やかな日々を送っているが……それでもそれまで培われた記憶や知識はなかなかに抜けないのだろう。
「呼雪の瞳とも違う色合いです」
「そうかな」
「ええ。でも時々垣間見える……」
優しい印象はどこか似ている気がします。
そう言いかけて、ユニコルノは口を噤んだ。
呼雪にどう反応されるか分からなかったからだ。
「…………?」
ユニコルノが口を噤んだのは分かったが、呼雪は強いて言わせようとはせず、ユニコルノを促した。
「行こうか。ファル一人で先に行ってしまうから」
「はい」
呼雪の言葉に素直に頷き、ユニコルノが歩きだした。
「今日はちゃんとタコさんウィンナー入ってるよね?」
「ああ、ちゃんと入っている」
以前にお弁当を取り違えてしまったがあったので、ファルはそれを気にしているらしい。
呼雪も恥ずかしい思いをしたが、ファルも残念な思いをしたと聞いたので、その罪滅ぼしに今日はファル向けのお弁当にしてきた。
「わーい、混ぜご飯のおにぎりだー!」
「あの時は悪い事をしたと思ったからな」
「からあげもミートボールも! わーいわーい! コユキ、ありがとうー!」
「……子供ですね、ファルは」
「ボクはユノちゃんよりお兄ちゃんなんだぞ!」
えへんと胸を張るファルだが、ユニコルノはうさぎリンゴに気を取られてて、全く聞いていなかった。
2人でワイワイやる様子を見ながら、呼雪は真っ赤に染まった紅葉を眺め、無意識にマフラーの端を触っていた。
ジャケットの上に巻かれた、長い長い真っ白な手編みのマフラー。
これをプレゼントしてくれた人との楽しかったあの時を思い出す。
ぼやきながらも、楽しげな姿を見るのは悪くないな、と思った。
「皆で旅行なんて、いいなぁ……か」
京都土産の手毬飴をあげた時の、彼の言葉を思い出す。
(それにしても……)
ぐるぐる巻きにした長いマフラーを持って、呼雪は小さく笑う。
「長すぎだぞ、本当に」
他のあれこれから首筋を守って欲しい、とか笑って言った彼だけど、どこか本気だったのかも知れない。
それともそう思いたいのか。
「恋、か……」
今まで抱いたことのなかった気持ちだから、良く分からない。
でも、このマフラーを2人で半分ずつ巻いて、肩を抱き寄せられた時のことを思い出すと、胸の奥で何かが動く。
そして、相手のことを、何かあった時は命を懸けてでも何かしてやりたいと思っている。
物思いにふける呼雪を、そっとユニコルノ見つめる。
多分、呼雪はあの人のことを想っている。
大切な人が誰かのことを想ってることに、いろいろ複雑な思いを抱くユニコルノだったが、自分が守れる部分は守りたいと思っていた。
「あー、おなかいっぱい。うとうとしたきちゃったー」
不意にファルが声を上げ、二人の意識がそちらに向く。
「寝るならちゃんと羽織るものをかけろよ」
呼雪は優しく言葉をかけるのだった。
「ほら、二人してもう早くしなさい」
ギルガメシュ・ウルク(ぎるがめしゅ・うるく)はなかなか山道を歩こうとしないエル・ウィンド(える・うぃんど)とホワイト・カラー(ほわいと・からー)を急き立てるように叱咤した。
しかし、エルはどこか心ここにあらずな感じで。
ホワイトの方も、そんなエルを横目で見ながら、何か落ち着かなそうだったり、考えごとをしているようで。
せっかくの行楽日和なのに、二人の表情はちっともそうは見えなかった。
「ペケだけが元気ですね」
「ワン♪」
ホワイトにリードを持たれた犬のペケが元気に返事をする。
ギルガメシュを先頭にペケに引きずられるようにして、エルとホワイトは紅葉の山に入って行った。
「気のせい……うん、きっと勘違い」
いつもはその金色の服に見合うだけの明るさをもったエルなのに、どこか普段と違った様子だ。
エルは自分の頬に触れ、その時の感触を思い出す。
「でも、ほっぺにチューって、ボク言ったしな。あの時、ホイップちゃん、唇を手の甲で押さえてたし、恥ずかしそうだったし……えと……」
紅葉デートは断られてしまったし、他の人と同じようにナンパしてるだけだと思われてたようだけど……。
カガチもエルは本気だってホイップちゃんに話してくれたみたいだし……。
また思索に入りかけたエルを、ギルガメシュの声が引き戻す。
「さて、いいところにつきましたよ。お弁当を広げなさい、エル」
「あ、ああ、うん」
ギルガメシュに命じられて、エルは慌ててお弁当を開く。
ホワイトの作ったお弁当だ。
3人+1匹分がしっかりと入っている。
「さ、ペケの分もあるよ」
少し元気を取り戻したエルが、ペケにご飯をあげる。
ペケはうれしそうにご飯を食べ、ホワイトは目を細めて微笑みながら、でもどこか寂しそうにその様子を見つめている。
「…………」
ギルガメシュはそんなホワイトの様子が気になった。
しかし、ご飯時に深刻な話はと思ったのか、三人は努めて明るくお弁当を食べ、食べ終わると、エルがホワイトに甘え出した。
「おなかいっぱいだなあ。ホワイトホワイト〜」
シートの上で、コロンとエルが転がる。
「膝枕して〜」
「何言ってるんですか、もう」
「だって無性に寂しいのだもの。秋なせいかな。なんだろうなあ〜」
そう言いながらも、エルは無理を押そうとはしなかった。
いつもエル自身が自由に他の女の子のことを追いかけているのに、ホワイトやギルを縛るのはまずいんじゃないかと思っているからだ。
だから、外で、他の人から見える状況で、恋愛っぽいことをやるのを、無理は出来ないと思っていた。
「……秋だから寂しいとか、膝枕して欲しいとか、もう情けなさすぎますね」
「ホワイトだって、寂しいとかそういうことないの?」
「…………」
何か言いたげなホワイトだったが、一度口を開きかけて、閉じ、エルのそばに座った。
「今回は特別ですからね!」
「わあい」
エルは喜んで、ホワイトの膝枕に乗り、目を閉じた。
すると、ほどなくして、本当に寝てしまった。
「……疲れていたのですかね」
2人の様子を見ていたギルガメシュがそう呟く。
「いろんな事件にエルは飛びまわってますからね」
金色の髪に触れ、ホワイトはエルをじっと見つめる。
先日もエルが金色のタキシードを身にまとい、アーデルハイトにプロポーズをして、その手の甲にキスをしたのを思い出し、ギルガメッシュが心配そうな表情を浮かべた。
「……エルの女癖が心配?」
「いえ……」
それが気にならないわけではないけれど。
でも、ホワイトは今、違うことを考えていた。
「私は今、幸せですが不安になります。どんなに楽しい時間もいつか終わりがきます。この幸せはいつまで続くのだろう……って」
今日こうやってみんなで紅葉の山に来られたのはうれしい。
エルが自分の膝枕で安らいでくれるのもうれしい。
だけれども……。
そっと、横で楽しそうに遊んでる犬のペケを見る。
「犬のペケは私達よりも早く死ぬかもしれませんよね」
「そうですね。犬の寿命は人間より短いですから」
「寿命……」
種族が違えば、寿命が違うのは当たり前。
そんなことは分かっている。
でも、それならば、自分とエルはどうなのだろうと考えてしまう。
「エルもいつかは年を取って死ぬでしょう……」
不吉な言葉にギルガメッシュは驚いた顔をした。
「そんなのはいつか分かりません。確かに地球人の方が私たちより寿命が短いかもしれませんが」
「……ええ」
「今考えても仕方ないですよ。寿命なんて逆に言えばなるようにしかならないのですから」
望んで変えられることではない。
無理に伸ばそうとすれば歪みができる。
ギルガメッシュはそう思ったが、ホワイトの表情を見ていると、それ以上うまく言えなかった。
そして、二人のそんな会話を知らず、エルは眠りから覚めて、伸びをした。
「あーー、良く寝た。ん、そういえばホワイト」
「はい?」
「紅葉の山に来る前からずっと……普段と何か違うけど、どうかした?」
「え……」
ホワイトがどう答えようか悩んだとき、ギルガメシュが後ろからエルを蹴とばした。
「な、なに!?」
「誰のせいだと思っているのですか、誰の」
エルを踏みながら、ギルガメシュが気合い注入をする。
そんな様子を見て、ホワイトはくすくす笑った。
「ちょ、痛いけど、これも良いようなって……あっ」
ホワイトの笑顔に気づき、エルも相好を崩す。
「良かった。ホワイトが笑ってくれた」
「え?」
「女の子は笑顔が一番なのだ☆」
ニカッと笑うエルを見て、ホワイトも微笑む。
そして、頬笑みをたたえたまま、ホワイトはエルに尋ねた。
「エル。今、幸せですか?」
「うん」
エルは迷わずに即座に応えた。
「ホワイトもいて、ギルもいて、ペケもいて、天気も良くて、ホワイトのお弁当も美味しくてだもの。とても幸せだよ」
その言葉に、ホワイトは柔らかな頬笑みを浮かべた。
「ありがとう、エル」
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