First Previous |
2 |
3 |
4 |
5 |
6 |
7 |
8 |
9 |
10 |
11 |
12 |
Next Last
リアクション
「こうやって出かけるのはツァンダ夏祭り以来だな」
「う、うん……」
カルナス・レインフォード(かるなす・れいんふぉーど)の言葉に、アデーレ・バルフェット(あでーれ・ばるふぇっと)はぎこちなく頷く。
夏祭りのときは元気いっぱいに屋台を回っていたアデーレだが、今日はどこか落ち着かなげだ。
それはあの時の約束があるからだ。
『今日は……ここまで、続きは次のお祭りでね……』
キスさせてくれと叫んだカルナスの直球に対し、アデーレは頬にキスし、そう答えたのだ。
女好きのカルナスだが、アデーレだけは特別な存在だった。
だからこそ、今日この日まで無理にキスは迫らず、アデーレとの約束の時を待ったのだが。
(覚えてくれているのかな、続きの約束)
紅葉を見ながらも、カルナスはそれが気になった。
それはアデーレも同様で。
(夏祭りの時のキスの続きの事……覚えているのかな。ほっぺの次だから……当然……うぅ、恥ずかしいなぁ……)
自分の想像に、アデーレ自身が照れてしまう。
夏祭りの時まで、アデーレはカルナスを特に意識していなかった。
仲の良い友人、と思っていた。
でも、頬にキスした夏祭りのあの日から、カルナスを男性としても意識するようになっていた。
「…………」
2人は紅葉の中を歩いた。
時折交わす会話はいつものごとく楽しげだったが、2人ともどこか緊張をしていた。
そして、夕日の時間。
2人は人気の無い見晴らしの良い場所に移動した。
「夕日、すごい綺麗だね!」
アデーレが元気にそういうと、カルナスは頷いた。
「ああ。今日はアデーレの弁当もうまかったし、いい日だったぜ」
「うん、楽しかった!」
にっこりとアデーレが笑う。
「でも、忘れものが……」
「え?」
「約束……覚えてるか?」
カルナスの言葉に、アデーレの頬が染まる。
夕日を受けているせいか、よりアデーレの顔が真っ赤に見えた。
「…………覚えてるよ」
小さな声でアデーレが答える。
でも、カルナスは無理強いしようとはしなかった。
「アデーレの気持ちがそうじゃなければ……」
カルナスは気持ちを推し量るように見つめる。
ドキドキとする胸を押さえながら、アデーレは消え去りそうな声で言った。
「カルナスがして欲しいならしても……いいかも」
「……アデーレ」
どちらからともなく、2人の唇が重なった。
紅葉の山で、ついにあの日の約束が果たされたのだった。
「はあい、お嬢さん、可愛いね! 百合園の子に会えるなんて、さすがに今日はたくさんの人たちが来てるだけあるね」
フェデリコ・フィオレンティーノ(ふぇでりこ・ふぃおれんてぃーの)がニコニコとメイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)に声をかけた。
「いつも男の園だから。こうやって女の子がたくさんいると、それだけでうれしくなるよ」
「男の園と言うと、薔薇学の方ですわね?」
フィリッパ・アヴェーヌ(ふぃりっぱ・あべーぬ)の問いかけに、うんうんと頷く。
「そうだよ。ウォーゲームは好きだが、実際にやるのは嫌なので薔薇の学舎に入ったんだ。でも、男しかいなくてさ、結構、後悔しているよ……」
長身の騎士様はフィリッパを見て興味を持ったが、フリッツたちの一団に呼ばれてしまった。
「おっと……フランツィーがフリッツと一緒に行きたいとかいうせいで、僕はでかい男同士の一団で紅葉狩りだよ」
フェデリコは肩をすくめて笑った。
「おしゃべりしたいのだけど、フランツィー達についていかなくちゃいけないからね。残念! また会おうね!」
「はいはーい。また、どこかで!」
セシリア・ライト(せしりあ・らいと)が手を振って、それを見送る。
「元気な方でしたねぇ」
メイベルが彼を見送り、小さく微笑する。
「もしよかったら一緒にと思いましたが、向こうは向こうでお忙しいそうですわね」
フェデリコの加わった一団は、2m近くと背の高い男同士で、一番背の高い男の隣を奪い合っている。
「紅葉をのんびり見る……だけでは、みなさんなさそうですわぁ」
他人事のように、メイベルはいろんな人の紅葉狩りデートを見守る。
もっとも、メイベルにとっては本当に他人事だ。
なにせ恋に恋するところにさえ行っていないメイベルなので、友人たちが恋に思い悩むのさえ、イマイチ実感がわかない。
「さ、それじゃ、お弁当にしようか!」
フィリッパが事前に下調べしておいた、紅葉を見ながらご飯が食べられるベンチに着くと、セシリアがお弁当を広げた。
「いいですねぇ。こんな綺麗な紅葉いっぱいの中で、セシリアの手作りを弁当を食べると、いっそう美味しそうです」
「ふふふ、まだまだ花より団子だね!」
メイベルをそうからかいながら、セシリアは内心苦笑するとともに、どこかでホッとしていた。
まだ恋に興味がないメイベルだけど、興味を持ってしまえば、少しずつ変わってしまう。
パラミタ大陸に来て4か月。
恋のような新しい出来事が起きてもおかしくないが、メイベルのマイペースさのおかげで、変わらぬ日々を送っている。
今はこの変わらぬ状況でゆっくりと過ごしたいと、三人は紅葉の中のお弁当を楽しむのだった。
First Previous |
2 |
3 |
4 |
5 |
6 |
7 |
8 |
9 |
10 |
11 |
12 |
Next Last