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快晴開催! ヴァジュアラ湾の感謝祭!!

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快晴開催! ヴァジュアラ湾の感謝祭!!

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「さぁて俺も、そろそろ行くぜ」
 同じく水中にて声を発したのは蒼空学園のローグ、黒霧 悠(くろぎり・ゆう)である。含気薬の効用時間も残り僅かに迫っていたが、悠は落ち着いた様子で、光精の指輪から人工精霊を呼び出した。
「よし、頼むぞ」
 浮島の深海中央部分から、悠は人工精霊と共に水面まで一気に上昇していった。
 人工精霊が水面を飛び出した。主候補である魚人がそれを視界に捉えた時、べちゃっという音が足元に聞こえた為に、魚人の顎は上下に忙しく動く事となった。魚人の足元は粘性を持つ液体によって囲まれていた。
「はぁっ」
 雅刀の腹での一撃を、魚人は太い腕で受け止めたのだが、踏ん張る為に右足を後ろに下げたのが間違いであった。
 ローションを踏んでコケまして〜 悠が仕掛けた大量のローション道を〜 滑る滑るは魚人殿〜 真っ逆さまに海へ飛び込んだとさ。
「力が全てでは無いのニャ」
 そう言い零した口を押さえるも悠は、つり目を輝かせていた。称号を手にする為の第一歩を、悠は会心の出来で踏み出したのだった。


 湾内、外れの岩場の入り口には、数名の生徒たちが集まっていた。
「おや? 君が来るなんて、めずらしい事もあるものだね」
「そんな事は無い、それは……、偏見というものだ」
 薔薇の学舎のローグ、黒崎 天音(くろさき・あまね)の笑みかけに、イルミンスール魔法学校のメイドである姫神 司(ひめがみ・つかさ)はブラックコートの裾を摘みながらに応えた。
「そなたこそ、ただ言われるままに召集に応じた訳では無いのだろう?」
「もちろん、女王器や鏖殺寺院に興味があってね。ノーム教諭が色々と知っているようだから話を…… って、どこに行くんだい?」
「帰るのだ」
「帰る? でも君、【モルモット】の称号持ちなんだろう?」
「そなたが証人となるであろう。『必ず顔を出す』は達成したからな」
 背を見せたまま司は集まりから離れていった。その背を心配そうにパートナーで守護天使のグレッグ・マーセラス(ぐれっぐ・まーせらす)が追いていた。
「司、足早に去るにしても、直接挨拶くらいはした方が良いと思いますよ」
「義務は果たしたのだ、問題はない。それよりも、折角の祭りだ、楽しもうではないか」
 去り行く司の姿を捉えて首を動かした時、蒼空学園のウィザード、御凪 真人(みなぎ・まこと)は、その視界に百合園女学院のセイバー、桐生 円(きりゅう・まどか)の姿を捉えたのだった。
「あぁっ、君は」
「ん? あぁ……、いつかどこかで……、だったよねぇ」
「円ぁ? 知り合いぃ?」
 見下ろす身長から円の顔を覗き込んで、円のパートナーで英霊のミネルバ・ヴァーリイ(みねるば・う゛ぁーりい)が訊ねると、同じくパートナーで吸血鬼のオリヴィア・レベンクロン(おりう゛ぃあ・れべんくろん)が肩を震わせて小さく笑った。
「そうか、ミネルバは、あの授業には参加していなかったんだねぇ〜。少し前に彼らと遊んだのよぉ〜」
「えぇー、ずるいー、ミネルバちゃんも遊びたかったー」
「この子たち、倒れるのがとっても上手いんだから〜」
「それ以上の侮辱は、許しませんわ」
 バスタードソードを二人に突き付けたのは、真人のパートナーでバトラーのセルファ・オルドリン(せるふぁ・おるどりん)である。これを見てもオリヴィアは笑みを浮かべたままであった。
「許さないのは良いけど〜、また勝っちゃうよぉ〜」
「どうかしら、待ち伏せや不意打ち以外の戦い方が出来るんなら、ぜひ見せて欲しいものだわ」
「ストップ、ストップです」
 今にも斬りかかりそうなセルファの腕を掴んで真人が止めた。
「すみません、ノーム教諭の強制的な呼び出しにイラついてるだけなんです。ほら、セルファ、剣を下して」
 セルファは腕だけをゆっくりと動かし、剣を下した。よく見ればヘキサハンマーを握るオリヴィアの腕も、いつでも動き出せるよう力が込められていた。睨み合いは続いているが、真人の仲介で即発だけは避けられたようである。
「ムダに疲れるのは止めておくれよ、労働効率を下げる事になるからねぇ、くっくっくっ」
 集いし有志と特選隊とモルモット一同の視線が、続けて出発を告げたノーム教諭へと向けられた。洞窟を修復する事を目的とした一団は、なかなかに人数が揃っている。
「あぁ、そう言えば君、」
 言って、教諭は真人を指差した。
「黄水龍が空けた通路の岩壁を氷術で強化するように言ったのに、あっさりと双岩を剥がされたのは……、確か君、だったよねぇ」
「えっ、あっ、はい? はぁ」
「もう一度、今度こそ責任を持って岩壁を氷術で冷やし尽くしておくれ。剥がれた岩壁の表面は炎症を起こしてるだろうからねぇ、くれぐれも丁寧にやるんだよぅ、くっくっくっ」
 真人とパートナーを残して、ノーム教諭と一行は水中洞窟へと続く岩場への歩みを始めた。
 真人に口を塞がれていたセルファは、真人の手を振り払って声を荒げた。
「納得いかない! どうして私たちのせいにされるのよ」
 鏖殺寺院のフラッドボルグが黄水龍を操り、青刀の双岩を攻撃させた。その威力に岩壁が耐えられずに、双岩の片岩が圧し出されたのだから、正確に言っても真人たちのせいではないのだが。
「まぁ、良いじゃないですか、誰よりも早くに任務を貰ったんですから。これも一種の信頼の証ですよ」
「……、バカじゃないの」
 セルファは踵を返して背を見せ、真人はその後を追いながら、青刀の双岩を目指し歩んだ。