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空賊よ、風と踊れ−フリューネサイド−(第1回/全3回)

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空賊よ、風と踊れ−フリューネサイド−(第1回/全3回)

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終章



 蜜楽酒家。
 生徒たちは酒場に戻り、ささやかな宴に興じていた。
 あるテーブルでは、小鳥遊美羽が己の手柄を自慢している姿が見られた。
「みんな、見てなかったの? 最後にお腹ブルブルくん、捕まえたの私なんだよー!」


 ……動力部爆発後、大型飛空艇。
 身体がボロボロになりながらも、ブルはまだ無事だった。
「い、いででで………、ち、ちくしょう……!」
 爆発で甲板に吹き飛ばされた彼は、格納庫へとゆっくりと這う。小型飛空艇で脱出しようとしている。大型飛空艇はすでに安定を失い傾きつつあった。プロペラがほとんど停止し、今回転しているものは、ただ惰性で回っているものを残すだけとなった。
 ゆっくりと床に手を伸ばすその先に、フリューネの足下があった。
「いよいよ、お仕舞いね、ブル」
「ま、まだだ! まだ俺は終わっちゃいねぇ!」
 ブルは最後の力を振り絞り立ち上がった。もはや満身創痍の状態だ。
「フリューネ! てめぇにゃ俺は負けねぇぞ!」
「相変わらず威勢だけはいいんだから……!」
 ブルは拳を握りしめ、フリューネはハルバートをその小さな肩に担ぐ。
 と、その時だ。
「お腹ブルブルくん! 逮捕ーっ!」
 小鳥遊美羽の放り投げた網が、ブルの頭にすぽっとかぶさった。
「な、なんだこりゃあ!」
 満身創痍のブルは網を振りほどく力もなかった。
「えっへへへ! 捕まえたー!」


「……って感じだったんだよ! すごいでしょー!」
 そう言うと、美羽は席を立ち、とことこ走っていった。
「お腹減っちゃった。なんか食べ物注文してくるね」

 ◇◇◇

 あるテーブルでは、月島悠が目撃した決闘について話していた。
「大型飛空艇が沈んだ後だ、亮司とフリューネの間に一悶着あったんだ」

 ……雲海。
「あんたも空賊なんだよな、この場でおとなしく投降してくれないか?」
 雲海の上で、佐野亮司はフリューネと対峙していた。
 亮司の訴えに、フリューネが耳を貸すとも思えない。
「この私を捕まえるつもり?」
「聞こえなかったのか? 俺は投稿するように言ってるんだぜ?」
 フリューネは無言で亮司を見つめた。
「……なら、義賊といえど空賊は空賊、商人としても輸送科としても見逃すわけにはいかないな」
「言っておくけど、私は敵には容赦しないわ」
 ハルバートをくるくると回し、亮司に突きつける。
 向山綾乃を後ろに下げ、亮司は小型飛空艇の出力を上昇させた。
「行くぜ! フリューネ!」
 先に動いたのは亮司だった。
 急速接近し、至近距離で火術の炎を浴びせかける。
 だが、フリューネを乗せたペガサスは上昇し、その攻撃をひらりとかわした。
「くそっ! 待ちやがれ!」
 慌てて亮司は方向転換する。
 だが振り返った瞬間、ハルバートが飛空艇の前部に突き刺さった。
 制御系が死に、飛空艇の浮力がゆっくりと消えていく。
「私に空中戦を挑んだのが間違いよ」
 亮司は険しい表情を浮かべ、雲海へと沈んで行った。
「覚えておけよ、フリューネ!」
 亮司は指を突きつけた。
「いくら義賊なんて呼ばれてても結局は空賊、荷物を奪われた方から見れば、結局、自分のところに荷物が戻ってこないんだからどっちも変わらないんだ。お前みたいなやつはいつか必ず俺が捕まえてやる」
 綾乃はその後を追って、救出に向かった。
「亮司さん! 今助けに行きます!」


「……ってな事があったんだ。いや、フリューネにケンカ売る亮司もすごいよな」
 そう言うと、悠は席を立ち、バーカウンターに向かった。
「ん? ああ、ちょっと飲み物取ってくる」

 ◇◇◇

 またあるテーブルでは、生徒たちがフリューネを囲んでいた。

「フリューネさん、サインくださいな!」
 エラノール・シュレイクは満面の笑顔で色紙を差し出した。
 フリューネはそれを受け取ると、さらさらっとサインをして上げた。
「まさか、私のサインをねだる子がいるなんてねぇ」
「うう、お宝なのです。一生ものなのです」
 エラノールはサインを抱きしめてほくほくである。
 その様子を「良かったわね、エル」と四方天唯乃が暖かく見つめていた。
「はっはっはっ、フリューネ殿は人気者でござるなぁ」
 椿薫(つばき・かおる)はにこにこ笑った。

「どうしたのじゃ? その怪我は?」
 ファタ・オルガナは樹月刀真の手に包帯が巻かれているのに気が付いた。
「名誉の負傷です。フリューネさんの大切なものを触ろうとしてしまいまして……」
「あははは。次はないからねー」
 ニッコリ笑うフリューネとは裏腹に、刀真は力なく「ですよねー」と笑うのであった。
「ところで、フリューネ殿、好きな忍者は誰でござるかな?」
「いいのぅ〜いいのぅ〜、麗しい女義賊の大切なもの、わしも触りたいのぅ」
「指が惜しいなら、やめたほうがいわよ」
 怪しい視線を送るファタに、フリューネは真顔で答えた。 

「あの、フリューネ様、あなたはどうして空賊になったのですか?」
 浅葱翡翠が質問すると、フリューネは「うーん」と唸って答えた。
「ある宝物を手に入れるため、かなぁ……」
「ところで、フリューネ殿、好きな覗きスポットはどこでござるかな?」
「どんな宝物なの? 素敵なアクセサリーかなぁ……?」
 朝野未沙はうっとりと目を閉じた。
「ううん、船首像よ」
 船首像とは船の尖端にくっ付いている像の事だ。
【ユーフォリア】って名前の像でね。それを手に入れると世界最速の力が得らえるのよ」
「ところで、フリューネ殿、好きなスキンヘッドは……」
「ちょっと、うるさい!」
 フリューネに怒鳴られて、薫はテーブルに顔をうずめた。
「うそうそ、ごめん、怒ってないよ、薫くん」
「薫くんでござると!?」
 むくっと起き上がって、フリューネの手を握りしめた。
 名前を覚えてもらったでござる……!
 この一歩は小さいが、薫にとっては偉大な一歩である。
 とその時、薫の携帯が鳴った。

 ◇◇◇

 フリューネは風に当たろうと席を立った。
 フロアを通る彼女を、ふと、琳鳳明(りん・ほうめい)が呼び止めた。
「ふ、フリューネさん、ちょっとお話いいですか?」
 鳳明とフリューネはフロアの隅に移動し、会話を始めた。
「それで、話ってなに?」
「あ……、あの、フリューネさんは誰のために義賊なんてやってるんですか?」
 注目を集めたいならもっと真っ当で合法的なことをすればいい。人のために尽くしたいなら、強奪などという人を不幸にする行為は矛盾する。貧しい人を救いたいなら、多少のお金をばらまくよりも働く場を提供した方がその後の生活も安定する。鳳明はそう考えていた。
「……誰のため、か」
 フリューネはしばらく迷ったあと答えた。
「誰のためじゃなくて、しいて言えば、平和のためになるのかな」
「平和のためですか……?」
 鳳明はいぶかしんだ。
 平和のためなら、空賊などではなく、他の選択肢があるはずだろう。
 フリューネは嘘を言っているようには見えない。ただ、何かを隠しているような気がした。
「誰のため……」
 鳳明は呟いた。
 この問いがフリューネにとって、どんな意味があるのだろうか……。

 ◇◇◇

 鳳明と別れ、フリューネは蜜楽酒家の二階テラスに来た。
 そこにいた武神牙竜とリリィ・シャーロックは、フリューネの姿を見ると近付いて来た。
「フリューネ……、今、時間はあるか?」
「大丈夫よ。あ……、何か話がしたいって言ってたわよね?」
「聞きたい事が三つあるんだ」
 牙竜はそう言って、ガラス越しに二階席の様子を見つめた。
「一つ目は、一人で義賊をしている理由だ」
「そうね……、秘密」
「え? そう言うのありなのか?」
 牙竜はトホホな表情で次の質問をする事にした。
「じゃあ、二つ目は、何故、空賊を狙い宝を人々に分け与えるのか」
 フリューネは口元に手を当てて考えた。
「理由は二つあるかな。一つは困ってる人を助けるため、二つ目は……、秘密」
「出たな、秘密」
 牙竜はため息を吐いた。
「三つ目の質問はちょっと訊きづらいな」
「どんな質問でも良いわよ。答えたくなかったら、秘密って言うし」
「……誰か大切な人を空賊に殺されたのではないか?」
 その口調が気を使っているのが、牙竜から感じられた。
「大丈夫よ、そんな事にはなってないから」
 牙竜の胸をどんと叩いて、フリューネは微笑んだ。
「じゃあ、私からも質問するわ。キミは何のために戦うの?」
「子どもの笑顔と未来のために戦う。正義の味方、子どもの守り手として」
 少しの迷いもなく牙竜は言い放った。
 質問を終え、二人は帰ろうとしたが、ふと、リリィが振り返って質問した。
「ねぇ、フリューネ。義賊として満足してる?」
「もちろんよ」
 フリューネははっきりと答えた。

 ◇◇◇

「なかなかいい店ですね、蜜楽酒家は……」
 譲葉大和は空になったボトルをテーブルに置き、新たらしいボトルを空けた。
 彼は二階席から一階ステージのショウを眺めていた。
「やあ、調子はいかがですか?」
「二階はいい眺めですねぇ……」 
 風祭優斗と樹月刀真が、そのテーブルに腰掛けた。
「今、開けたばっかりですが、飲みますか?」
 大和が尋ねると、二人は頭を振った。
「いえ、結構です。それより大和のほうこそ、ちょっと飲み過ぎじゃないですか?」
 テーブルに転がった瓶の数に、優斗は眉を寄せた。
「なに、ただのソフトドリンクですよ……」

 その時、優斗と刀真の電話が鳴った。
「……はい」
 電話に出た二人は、しばらく相づちを打った後、声を揃えて叫んだ。

『なんですって!』

『校長が!』

『さらわれた!?』





つづく
 

担当マスターより

▼担当マスター

梅村象山

▼マスターコメント

マスターの梅村です。
本シナリオに参加して下さった皆さま、公開が遅れてしまいまことに申し訳ありません。
そして、本シナリオに参加して下さった皆さま、ありがとうございました。

連続シナリオですので、今回の結果が二回以降にも引き継がれます。
戦闘に参加された方は、タシガン空峡で一目置かれたり。
蜜楽酒家で情報集めた方は、蜜楽酒家の常連として扱われたり。
フリューネに接触された方は、友好度が上がったり、下がったり、と。
引き継がれる要素があります。

あと気になった事がありましたので、ここに書かせて頂きます。
キャラクターの口調に関してですが、アクションをキャラクター視点で書かれた時に、
パーソナルデータの口調の項目と、食い違いがある場合があります。
その際、マスターサイドでは、パーソナルデータの口調を元に描写する事になります。
そうなると、ご希望に添えない部分が出て来てしまうので、ご注意ください。
相手によって口調が変わる(パートナーや目上の人)設定があるのでしたら、
一言書いて頂ければ、対応する事が可能です。

第二回は十二月後半となる予定です。
萩マスターサイドとのリンクが濃くなっていきますので、お楽しみください。