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ラスボスはメイドさん!?

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勇者まゆみの旅立ち

『世界中に散らばる伝説のメイドアイテムを求め旅をする勇者まゆみとその仲間達。目的の品があるとの噂を聞きつけ、ここ空京を訪れていた!』

 どこからともなく聞こえてくる声は、隠れ身を使ってナレーション担当をする如月 佑也(きさらぎ・ゆうや)のもの。若干棒読みではあるが、オープニングを読み上げた。

「さあ、冒険の始まりですよ!」
 肩プロテクターなど、いくつかの装飾を施した『伝説のメイド服』を着た勇者役まゆみが先頭に立ち、同行者たちに声をかけた。
 勇者まゆみのパーティとして集まっているのは、今回の冒険体験に協力を申し出てくれた、ぴなふぉあ常連客を中心としたコントラクターたち。
 協力者は、まゆみ一行チームと、敵チームに分かれて、この冒険を盛り上げる予定になっていた。

「あの……もしや勇者様では?」
 道行く勇者まゆみ一行におそるおそる声をかけてきた者がいる。
「私、この近くの村に住んでいる者です」
 村娘役、ソア・ウェンボリス(そあ・うぇんぼりす)だ。
「いかにも、勇者まゆみですわ!」
 すっかり勇者になりきっているまゆみ。
「ああ、やはり勇者様! 村を代表して、勇者様にお願いがあるのです」
「どうなさったのですか?」
「私の住んでいる村には、時々悪者がやってきて、村人を生贄としてさらっていくのです……」
 ソアによると、悪者は定期的に村を訪れ、村を襲わないかわりとして一人ずつ生け贄を奪っていくのだという。
「今日はまた一人、生け贄を差し出す日なんです……」
「まあ、それは許せませんわ!」
 その時!
「ヒャッハー! 今回の生け贄ちゃんが、こぉんなところにいたぜぇ!」
 多数のゴブリンとともに現れたのは、南 鮪(みなみ・まぐろ)
「あ、あなたが、彼女の村からいつも生け贄をさらっているのね?」
「へっへー。今回はそのお嬢ちゃんをいただいていくぜぇ」
 多数のゴブリンがまゆみ一行の前に立ちふさがっている隙に、鮪は素早くソアの腕を掴み、引き寄せた。
「きゃあああ」
「ま、待ちなさい!」
「おぉっと、動かない方がいいぜぇ。このお嬢ちゃん、ここでイタイことしちゃうぜぇ?」
 人質をとられ、まゆみは動くことができない。
「きゃ〜、まゆみちゃんたすけて〜」
 まゆみが悲鳴を聞いて振り返ると、仲間の久世 沙幸(くぜ・さゆき)が、ゴブリン軍団に囲まれていた!
「大事な仲間になにをするっ! ゴブリンめっ!」
 ぶんぶん!
 まゆみが剣を振り回しながら、沙幸の方へ突っ込んでいく。
「ギッ!」
 攻撃は一発も当たっていないが、ゴブリンは見事に吹っ飛んだ。……なかなかの演技派のようだ。
「沙幸様、大丈夫?」
「ありがとう、まゆみちゃんは私の命の恩人だよ〜」
 ぐらっとふらついた(演技)沙幸を、まゆみが抱きとめた。
「しっかり!」
「う、うん。大丈夫。それよりも、あの娘さんが……!」
 沙幸が指さした方向。
 ゴブリンがまゆみの気を引いていた間に、ソアを確保した鮪が、じりじりと後退しているところだった。
「ゆ、勇者様! 勇者まゆみ様……助けて!」
 ソアが思わず叫んだ。
「なにぃ。おまえ、伝説の勇者まゆみか。ヒャッハー、こりゃおもしれぇ!」
 鮪がにやりと笑う。
「対応によっちゃ、お嬢ちゃんを無事に返してやらなくもないぜぇ」
「なんですって……?」
「指示は追って出す。それじゃあな!」
 鮪はソアを連れ、立ち去ってしまった。

「ああ、大変なことに……」
 がっくりと肩を落とすまゆみ。
「あきらめないで、まゆみちゃん!」
 沙幸がまゆみの肩を叩き、励ました。
「こういう時こそ、勇者のチカラでなんとかしようよ!」
「沙幸様……」
 そこへ、ひらひらと一枚の紙が舞い落ちてきた。

『娘を助けたければ、秘伝のオムライスレシピを持って洞窟まで来な! 来なければこいつとお楽しみだァ〜!』

「さ、さっきのやつからのお手紙ですわね!」
 手紙を握りしめ、まゆみは顔を上げた。
「ぴなふぉあの勇者にのみ伝わる秘伝のオムライスレシピと引き替えだなんて。だけど……彼女の命にはかえられない!」
 まゆみは仲間達を振り返り、拳を突き上げた!
「必ず彼女を助けます! 洞窟へ行きましょう!」
 おお〜っ! と、声をあわせる仲間たち。
「と、ところで……洞窟ってどこにあるんですの?」
「それは私がお教えしますわ」
 どこからか声が響いてくる。
「ど、どなたですか?
「私はメイドの妖精。困ってるメイドさんを助けてあげるのが使命なの〜」
 声の主は、メイドの妖精役のナナ・ノルデン(なな・のるでん)
 光学迷彩を使用して姿を隠し、まゆみに話しかけている。
「……では妖精様。洞窟の場所を教えてくださいませ」
「おやすいご用です。このまま真っ直ぐ進み、公園の管理人室……じゃなくて不気味な廃墟の裏手に、目指すべき洞窟があります」
「わかりました! ありがとう、妖精様!」
「いいえ。メイドの妖精は、素敵なメイドの味方なのです〜」
 厳密に言うと、今のまゆみは勇者なのだが、まゆみも、周りの者も、気にする者は誰もいなかった。ナナの演技力の高さに感心していたため、突っ込むのが申し訳なく思えた者もいたという。
「それではまゆみさん。頑張って……」
 妖精ナナの声が聞こえなくなった。ここでのヒントは全て伝え終わったようだ。
「感謝しますわ! メイドの妖精さん!」
 まゆみは、空に向かって叫んだ。
 そして、メイドの妖精が教えてくれた方向を見て、気持ちを引き締めた。
「あの娘さん……無事だとよいのですが……」

『ひょんなことから人助けをすることになった、優しき勇者まゆみ。この先どんな冒険が待ち受けているのだろうか!』