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ラスボスはメイドさん!?

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ラスボスはメイドさん!?

リアクション


アンコク魔法使い一味
 刺客の攻撃をくぐり抜けたまゆみ一行は、さらに洞窟の奥へと歩を進めた。
「あら、ここは……」
 しばらく行くと、通路が開け、大きな空洞……広場のようになっている。
「これは……絶対に何か出ますわね」
 まゆみはあごに手を当て、つぶやいた。
「ふふふふ……よく分かったな! さすがは勇者まゆみ!」
 ばさあっ! ちょっと長すぎるローブを引きずり現れたのは、ゆずきだ!
「む! アンコク魔法使いですわね!」
「その通り! 我らはアンコク魔法使い『ユ・ズーキ魔法団』だ!」
 ゆずきは、魔法団員……数名の仲間を引き連れてきている。
「どうしてあなたは、私たちに危害を加えるのです? 剣士ことのはや、洞窟のモンスター達とは動機が異なるようですけど……」
「我らが狙っているのは……おまえが身につけているその『伝説のメイド服』じゃ!」
 勇者まゆみが身につけているのは、ジャタの森の奥にある遺跡に眠っていた、5000年前のシャンバラ女王に仕えていた侍女が使っていたといわれている、伝説のメイド服だ。
「これがあなたの狙いなの?」
「その通り! 世界に散らばる『伝説のメイド装備シリーズ』を全て揃えれば、強大な魔力が手に入るのだ!」
 ……という設定を、ゆずきは昨夜寝ないで考えたのだった。
「このメイド服は渡せませんわ!」
 一歩後ずさりするまゆみ。
「もちろん、すんなり渡してくれるとなど思っておらぬわ。力づくでも奪い取ってくれる!」
 ゆずきの周囲にいた魔法団員が、揃って前へ進み出た。
「ゆけっ! ユ・ズーキ魔法団の精鋭達よ!」
「ははぁっ! では、まずは私が行きますですぅ!」
 先方を名乗り出たのは、ユ・ズーキ魔法団のアンコクメイドメイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)
 パピヨンマスクで素顔を隠し、箒をぶんぶん振り回している。
「うむ。ではメイベルよ、ゆけ!」
 ゆずきの指示でメイベルは、たたっとまゆみの前まで走ってきた。
「いっくぞぉ〜〜! かくごっ、勇者まゆみ〜!」
 メイベルの攻撃に備え、身構えるまゆみ!
「てや〜〜〜!」
 メイベルの攻撃は……その手に持った箒をぶんぶん振り回して迫ってきた!
「ほ、箒?」
 魔法団というくらいだからてっきり魔法攻撃を想定していただけに、箒による直接攻撃は意外だった!
「えいえいえいえいえい!」
 怪我をさせてはならない、と頭では分かっていても、あまり加減方法を知らないメイベルは、けっこうな勢いで箒を振り回している!
「ぜえ、ぜえ……ちょっと……きついですわね……」
 逃げ回るまゆみの息が切れてきた!
「まゆみちゃん、お疲れね。回復、回復!」
 白波 理沙(しらなみ・りさ)が、疲れた様子のまゆみに駆け寄って『ヒール』をかけた。
「た、助かりましたわ」
 ふうっと息を吐くまゆみ。
「落ち着いてもいられないわよ。ほら、まだ敵さんが……」
 ぶんぶん。理沙が指さした先には、まだ箒を振り回しているメイベルがいた。
 だが……。
「ちょ、ちょっとつかれたぁ……」
 ぶん……ぶん……ぱた。
 メイベルはとうとう疲れて、箒を落として座り込んでしまった。
「ゆ、ゆずき様ぁ。このくらいでよろしいでしょうかぁ?」
 メイベルは涙目でゆずきを見た。彼女なりに頑張って盛り上げたのだ。
「お疲れ様でした。よく頑張ってくれましたね」
 ゆずきは、ローブのフードを持ち上げ、にっこり笑顔でメイベルをねぎらった。
「お役目が終わったのね? それじゃ、ノーサイドよね」
 すっかり疲れてしまっているメイベルを、理沙は手をさしのべて立ち上がらせた。
「すぐに直してあげるから」
 理沙は、立派に役目を終えたメイベルにも『ヒール』をかけてあげた。
「あ、ありがとうございますぅ」
「ゲームの後はみんな仲良し。たまには、こういう感じの冒険もいいわよね」
 理沙は、楽しそうに微笑んだ。

「むむ……。我が精鋭を倒すとは、やるな! だが! 精鋭はまだいるぞ。ゆけっ! 魔影星のカゲノ!」
「はっ! ゆずき様!」
 次に現れたのは、魔影星のカゲノこと影野 陽太(かげの・ようた)
 プロレスマスクで素顔を隠し、漆黒のコートとシルクハットが闇に光る。
「今度はあなたが相手ですね!」
「ふ。我らが同志・メイベルの敵を討たせてもらう。まあ、奴は我らユ・ズーキ魔法団において、一番の新人。彼女を倒せたとて、油断せぬことだ」
 ぐっ。カゲノが身構える。今度こそ、魔法団の名にふさわしい魔法攻撃のようだ!
「はあぁぁぁぁ! くらええぇぇぇぇぃ!」
 ぴかああぁ! カゲノの手から、鋭い光がほとばしる!
 攻撃性は抑え、光らせるだけに専念した光術だ。
「ま、まぶしいっ!」
 暗闇に目が慣れていたまゆみは、突然の光に思わず目を閉じてしまった!
 ところが……!
「ま、まぶしい!」
 サングラスの装着を忘れたカゲノは、自らの光術でまゆみ同様視力を一瞬失っていた……。
「しまったぁ……」
 しばらく、お互いに動けない。
 ところが、先に視力が回復したのは、まゆみの方だった。
「まゆみお嬢様、大丈夫ですか?」
「うう……ん」
 まゆみがゆっくりと目を開けると、目の前にはまゆみのメイドとして付き従っていた浅葱 翡翠(あさぎ・ひすい)の姿があった。
「間に合って良かったです」
 翡翠の手には、給仕用に持ち歩いているクロスとタオルがある。カゲノが強い光を発した瞬間、そのクロスとタオルを利用して、まゆみの目を覆ったのだ。
「ありがとう、助かりました」
「もったいないお言葉。まゆみ様がご無事で何よりです」
「素早くタオルが出るなんて、さすがはメイドですわ。メイドのあなたにしかできない防御でしたね!」
 そこは、普段メイドのまゆみ。主人に何かあったらすぐに反応できるよう常に心がけるべきがメイドのあるべき姿だと知っている。だから、この翡翠の動きの素晴らしさは、誰よりも理解できたのだ。
「さあ、まゆみ様。敵の視力が失われているうちに、反撃を」
 翡翠はそう言うと、一歩後ろに引いた。
「……では!」
 まゆみは剣を持ち、カゲノに向かっていった!
「とぉりゃああぁぁ! ぴな・スラーーッシュ!」
「ざくっ!」
 効果音は、カゲノ自身が発した声である。
「ぐはぁぁ……!」
 まるで時代劇役者のような、見事なやられ方で、魔影星のカゲノはぱったりと地面に倒れた。
「むっ! カゲノよ、大丈夫か?」
 ゆずきがカゲノのもとに駆け寄る。
「申し訳ありません。ゆずき様」
「いや、よくやった。もう休んでおれ。ここで大怪我でもされては、『冷たそうに見えて、本当は優しくて、たぶん照れ屋』な女性に顔向けできん」
 演技口調は崩さないが、ゆずきはふっと柔らかく笑った。
「あ、いや、そんな女性は……いないですって……」
 焦って鼻の頭をぽりぽりとかく陽太だった。

「我が精鋭を二人も倒すとは……。勇者ゆずきよ、貴様の実力を見くびっていたようだ」
 ローブをひるがえし、ゆずきは走り出した!
「作戦の練り直しだ! 勇者まゆみよ、また後で会おう!」
「ちょ、ちょっと待ちなさい!」
 ゆずきの後を追おうとするまゆみ。
「待ちなさい!」
 ゆずきとまゆみの間に立ちふさがる者がいた。
「あた……私は謎の魔術師」
 ユ・ズーキ魔法団の蒼空寺 路々奈(そうくうじ・ろろな)だ。
「わが主の邪魔をさせるわけにはいかない!」
「くっ……! どうやらあなたを倒さなくてはいけないみたいですね」
「そういうこと。ここから先は私の出す謎を解かなければ通すことはできないわ」
 クイズ対決……ということだ。
「謎は全部で3つ。全てに答えてもらう」
「……いいわ。さあ、出してみてください!」
 まゆみも、クイズ対決に乗ってきた。
「第一問! ことのはちゃんが飼っている猫の『種類』は?」
「名前ではなくて種類、ですのね。簡単! パラミタトーイボブテール!」
 即答するまゆみ。
「……正解。では第二問。ともちゃんが伝承している拳法の流派は?」
「これも簡単! 一子相伝の七つ星拳法!」
「……く、正解」
 路々奈は悔しがる演技をしてはいるが、もちろんまゆみがすぐに答えられる問題をチョイスしているのだ。
「では最終問題。『伝説のメイド服』を守っていた、強力な番人は何だった?」
「あ、それは確か……」
 しばらく考えるまゆみ。やがてぽんっと手を叩いた。
「何度も聞かされました。答えは、キマイラさんですね!」
「せ、正解だわ……ぐはあっ!」
 路々奈は何故かダメージを受けた様子で、ふらついた。
「く……くくくっ。私なぞユ・ズーキ魔法団の中でも一番の小物よ。さらなる地獄を味わうがいい……がくっ」
 ぱたっ。路々奈は迫真の演技で、地面に倒れた。

「まゆみ様! あの魔法使いは、向こうに走って行きました!」
 翡翠が一本の小道を指さした。
「まだそれほど遠くへ行っていないはず! すぐに追いかければ……」
 その時!
 ぼんっ!
「きゃああぁぁ!」
 ゆずきの足元に、火の玉(マッチの火くらいの大きさ)が2、3個落ちてきた!
「ここから先には行かせない!」
 ゆずきが時間稼ぎのために残した刺客・ファニー・アーベント(ふぁにー・あーべんと)が立ちふさがった。
「もうっ! 早く追わなくちゃいけないのに……」
「そう簡単に行かせないよ。ユ・ズーキ魔法団の魔王とも呼ばれているこのファニーが空いてだよ!」
 ファニーは再び火の玉を投げつけてきた!
 ほわんほわん。小さな火の玉が、まゆみの方に落ちてくる!
「あっ」
 ファニーはできるだけまゆみに当たらないようにしたつもりだが、ひとつの火の玉がまゆみの方に向かってしまった!
「きゃっ!」
 ぽわん。火の玉はまゆみをかすったが、まゆみは何ともなさそうだ。
「こんなこともあろうかと、『禁猟区』をかけておいて正解だったな」
 まゆみの後方でふうっと息を吐きながらつぶやいたのはクレア・シュミット(くれあ・しゅみっと)だ。
「大丈夫だとは思うが、怪我はないか?」
「確かに火の玉がかすったのに……大丈夫でしたわ」
 まゆみは不思議そうに首をかしげた。
「怪我がないならよかった」
 クレアはふっと笑った。
「クレア様のおかげですね。ありがとうございます」
 まゆみはぺこっと頭を下げた。
「勇者が仲間に『様』をつけるものおかしいであろう。それよりも、あの敵と早く対決するといい」
 クレアは、まゆみの無事を確認すると、後ろに下がった。あくまで役目はまゆみを守るだけで、肝心のバトルはまゆみに楽しませようと考えているのだ。
「今度はこちらの番です! ぴな・ビーーーム!」
 まゆみは剣を振り、ビームを放つ動作をした。
「ビーム……か」
 後方からクレアがそっと光術を放ち、それらしく見えるように演出した。
「きゃああぁぁ!」
 ファニーは見事な演技で、ビームが当たって吹っ飛ぶ様を演じた!
「な、なかなかやるわね。くっ……ゆずき様、申し訳ありませ……ん」
 ぱたっ。ファニーは倒れた。
「勝てた……。けど、魔法団は見失ってしまいましたわ……」

『魔法団の目的は、ゆずきの持っている伝説のメイド服だった! これで奴らの攻撃が終わりとは思えない……。どうなる、勇者まゆみ!』