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ラスボスはメイドさん!?

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ラスボスはメイドさん!?

リアクション


勇者と楽しいモンスター
「なんだか……肌寒くなってきましたわね」
 先ほどまでの場所より、明らかに温度が低いようだ。
「不気味な感じがします……」
 ぶるりと、まゆみは身を震わせた。
 この寒さは、瓜生 コウ(うりゅう・こう)が、弱い氷術を放って温度調整したものだった。
「コウ様、いい感じですタイ。次は光りモノをお願いします!」
 コウの傍らで、ゆずきが楽しそうに演出指示を出している。
「冒険には、油断できる時は一時もないってことだ。まゆみちゃん……それを知ってくれよな!」
 コウは、次なる演出のため、意識を集中した。
「ゆずきちゃん。いいタイミングで合図してくれ!」
「了解! 任せて! もうじきともちゃんの班のモンスターさんが出るから、そのタイミングでぴかっといきましょう」

「うふふ……来た来た。さあ、盛り上げますよっ!」
 岩陰から、ともがまゆみの様子をうかがっていた。
 コウの演出にあわせ、数名のモンスター役が飛び出す算段になっていた。
「とも様。この度は、よろしくして頂ければ幸いにございます」
 とものモンスター班に加わった殿坂 御代(とのさか・みしろ)が、挨拶にやって来た。
 ……のだが。
「ひ、ひええぇぇぇ!」
 ともは悲鳴を上げ、ずるずると後ろに下がった。
「どうなさったのです、とも様」
「ち、近付かないでえぇぇぇ……」
 御代は、自分の顔を確認し、鬼の面をつけっぱなしだったことに気が付いた。
「おや、面を付けたままでございました、申し訳ございません」
 面とはいえ、木彫りでリアルな彩色がなされている般若面は、確かに怖い。
「ふっ、ふっ。おおい、そろそろ来るんじゃないかい?」
 腕立て伏せで筋肉を起こしているのはラルク・クローディス(らるく・くろーでぃす)。この後、ミノタウロス役で出ることになっている。数分間の筋トレで、ラルクの筋肉はムキムキっと盛り上がっていた。
「えっと……」
 ともは慌てて、まゆみの位置を確認する。
「……そろそろスタンバイをお願いします!」

「ああ、さっきのトラップではちょっと失敗してしまいました……」
 用意してあった罠のほとんどに引っかかったまゆみは、さすがにうかつだったと反省しているようだった。
「初めての冒険なのに、まゆみさんは頑張っています! 落ち込むことありませんよ」
 まゆみを元気付けようと、フィル・アルジェント(ふぃる・あるじぇんと)が、明るく声をかけた。
「最初は、このくらいできれば大丈夫なのでしょうか……」
「ええ大丈夫! まゆみちゃんは凄いですよ!」
 ぽふぽふっと、フィルがまゆみの肩を叩いた。
 にこっと笑ってこたえるまゆみ。少しは元気が戻ったようだ。
「それにしてもやっぱりこの辺りは寒くて不気味ですね。いかにも何か出そうな感じ……」
 そう。もちろん何か出るのである。
 ピューーーー……。
「きゃっ!」
 突然、洞窟の中に甲高い笛の音が響き渡った!
「……待ちわびましたよ! 勇者まゆみ!」
 笛の音でまゆみを立ち止まらせたのは、耳の尖ったモンスター……和輝だ。
「出ましたわね!」
 まゆみは素早く身構える。
「ここであなたを待っていました。さあ、我らの仲間の餌食になっていただきます!」
 和輝が叫ぶと同時に、ピシャァっと稲妻が走った!
「いいタイミングだっただろ!」
 演出担当のコウが、光らせる程度にセーブした光術を放ったのだ。
 それを合図に、とものモンスター軍団が飛び出した!
「ふっふっふ。待ってたよ!」
「あなたは……犬神とも!」
「こんなに奥まで進んできちゃって。我らの警告の意味、あまり分かっていないようだな!」
 びしっ! ともはまゆみを指さした。
「そろそろ本気で行くぞっ! ミノさん、オニさん……こらしめておやりなさいっ!」
 最後の部分だけ、人気印籠系時代劇の台詞と間違えてしまったが、ともの呼びかけにこたえミノタウロスとオニ……ラルクと御代がまゆみの前に立ちはだかった。
「侵入者は排除するのが鉄則だ。それ故貴様らを排除させてもらうぜ!」
 ミノタウロスが凄む。
「わ、ちょっと強そう……こわい……」
 筋肉隆々のミノタウロスと、恐ろしい般若面のオニを前に、さすがのまゆみも少々ビビり気味のようだ。
「ふふふ、ここで我が糧になるが貴公の定め!」
 オニがまゆみに近付いてくる!
「や、やああぁぁ! こわいからこないでぇぇ!」
 面とは分かっていても、やっぱり般若面は怖い。まゆみは走って逃げ回った!
「ふふふふふふ。さあ、観念しなさい!」
 オニがまゆみを追いかける。これが本当の鬼ごっこ……?
「さて、じゃあ俺は勇者の仲間から相手をしてやろうかな」
 やるならリアルに。そして簡単にやられたら面白くない。これが、ラルクの考えである。
「覚悟しな! 勇者一味よぉ! 翻弄してやるぜ!」
 ミノタウロス・ラルクは『軽身功』を使い、その筋肉質な体に似合わぬ素早さで右へ左へと走り回った!
「ひえええぇぇぇ……!」
 逃げ遅れ、ミノタウロスの至近に取り残されてしまったフィル。
「まゆみさん……助けてーーー!」
 フィルは、大声でまゆみに助けを求めた! もちろんこれも計画通りのこと。
「はっ! フィル様!」
 オニから逃げ回っていたまゆみは仲間のピンチを見て、勇気を振り絞った!
「こわくない……こわくないっ!」
 まゆみは逃げるのをやめ、オニに向かい合った!
「むっ! どうしようというのです?」
「もう逃げないっ! くらえ……ぴな・ブレーーーード!」
 まゆみは、御代に向かって剣を振り下ろした!
「ぐはあぁぁ!」
 斬られた演技で、御代は地面にばたっと倒れた。
「ふふ。さすがは……勇者まゆみ。見事な有機でした……!」
 がくっ。御代の、力尽きる演技は見事だった。
「あっ、フィル様!」
 ミノタウロスにじりじりと距離を詰められているフィルのもとへ、まゆみは急いで走った!
「仲間をいじめるモンスターは、許さないですっ!」
 剣を手に、まゆみはミノタウロスに向かっていった!
「ぐ、ぐあ、ぐあああああ!」
 避けているのではない。その逆で、ミノタウロスはまゆみの攻撃に当たりに行っているのだ。まゆみが目を閉じて闇雲に繰り出す攻撃を、完全に見切ってわざと当たりに行く技術は見事だ!
 数発の攻撃が、ミノタウロスにヒットした!
「ちっ……なかなかやりやがるな……。勇者まゆみ……あんたの……勝ち、だ」
 ずぅん。ミノタウロスを倒した!
「ああ、助かりました、まゆみさん」
 フィルがまゆみに駆け寄った。
「お怪我はありませんでしたか?」
「はい。まゆみさんは命の恩人です。ありがとうございました!」
 フィルの無事を確認し、まゆみにもようやく笑顔が戻った。
「ここまでは計画通り。さて、最後の仕上げに行こう!」
 展開を見届けたともは、忍び足で立ち去った。

ライバル一味、再び!
「ここまではうまくいってるから、次はそっちでお願いね!」
 ともからの報告を受けているのは、剣士役のことのは。
「了解ですわ。こちらはお任せ下さいませ」
 次の持ち場に移動するために走り去っていくともを笑顔で見送ると、ことのはは周囲の仲間の位置や台本の最終確認を始めた。
「まゆみさんたちが来たら、まずは小次郎様が一番手ということで、よろしくお願いいたします」
 次のバトル、一番手を担うのは、剣士ことのはの手下という役所の戦部 小次郎(いくさべ・こじろう)だ。
「私の準備は完璧です。それにしても、普段はこのようなアウトドアなことをしないのに、ことのは殿は疲れませんか?」
「うふふ。そうでもありませんわ。わたくし、旅行やテーマパーク巡りが好きですので、意外と外にお出かけしておりますのよ」
 ことのはは、ネズミ系魔法の国の、年間パスポートを所有するほどのテーマパーク好きである。
「そうでしたか。それでは、実はかなり体力がおありなのですね」
 小次郎はこくこくとうなずいた。
「ええ。ですからご心配なく。……えっと、小次郎様の立ち位置はココで……。あっ! そうそう、召喚獣もスタンバイしなくっちゃ!」
 ことのはの切り札、召喚獣。その正体は……。
「にゃー」
「ああ、召喚獣さん。そんなところにいましたのね!」
 愛猫・ティーカップだ。パラミタトーイボブテールという、手のひらに軽く乗ってしまうくらいの、超小型猫である。
 ひゅん、ひゅんひゅん。ティーカップは、差し出される猫じゃらしを必死に追いかけている。
「あああ、愛らしい……」
 ティーカップのメイク兼お世話係に任命されている七瀬 歩(ななせ・あゆむ)が、猫じゃらしを揺らしていた。
「ふふふ〜、やっぱり猫じゃらしとマタタビは猫遊びの基本だよねー」
「あ、歩様……。遊びもよろしいですけど、準備の方は……」
「大丈夫! 今は出番を控えた役者さんの気持ちをほぐしている……ようなものなの」
 どう見ても、ティーカップを愛でているようにしか見えないが。
「ちゃぁんと出番のめの準備もしますから、大丈夫ですよぅ」
 同じくティーカップのお世話係・桐生 ひな(きりゅう・ひな)が言うが、完全に目尻が下がってしまっている。
「ほぉら、召喚獣のおめかしです〜」
 赤いリボンがついた、今日のための首輪を、ひながそっとティーカップに着けさせた。
「にー」
 かわいいリボンに、満足げなティーカップ。
「やっぱり女の子だね。オシャレが分かるんだ」
 歩が指先でリボンを整えてやると、ティーカップは嬉しそうに、歩の手にすり寄った。
「にー」
「ああ、この召喚獣の破壊力は抜群ですねぇ……」
 そんなティーカップを見て、ひなは完全にふにゃーんとなってしまっている。
「にー」
 ひょい。ティーカップがひなの肩に乗っかった。最近では、ことのはの腕の中に次いで、二番目のお気に入りスポットになっているようだ。
「完全に、ひなさんの肩が指定席みたいだね」
「この肩でよければ、いくらでもどうぞって感じですぅ……」
 歩はひなの肩にぺたんと張り付いたティーカップの頭を、指先でやさしくなでた。
「にーにー」
 ちょっと首を上に持ち上げたティーカップは、歩の指先をぺろんと舐めた。
「ひゃ、くすぐったい!」
 ひなと歩にかまってもらえて、ティーカップはゴキゲンで甘えているようだ。
「というわけで、召喚獣の準備は万端です!」
 ひなが胸を張って、ことのはに言った。
「ふふ、そうですか。では、出番が来たらよろしくお願いしますね」
 楽しそうにしている愛猫を見て、ことのはも嬉しそうに微笑んだ。
「おおいみんな! まゆみちゃん達が向かってきたよ〜」
 偵察に行っていた修次・釘城(しゅうじ・しんじょう)が、走って戻ってきた。
「では、そろそろ本番です。頑張りましょう!」
 ことのはも、再びライバル剣士を演じるべく、立ち上がった!
「よ、よいしょっと……」
「せーのっ!」
 ことのはは修次の手を借りて、再び剣士の衣装を身につけた。
「無理してこんな重厚な鎧を着なくてもいい気がするけどねぇ」
 修次が軽くため息をつきながら、だけども笑顔でことのはに言った。
「こういうのは、雰囲気が大事ですわ。日本人は形から入るものなのです」
 がちゃん! 鎧が鳴る。おそらく、ことのはが胸を張ったのだろう。

「もうだいぶ奥まで来たはずですね……」
 一度地図を確認し、まゆみは一人つぶやいた。
「最深部まではあと少し。きっと最深部に、娘さんたちがいるのですわね!」
 まゆみは、ぐっと拳を握りしめた。
「急いで向かわなくては!」
「……そううまくいくかな?」
 がちょん、がちょん、がちょん。
 重厚な鎧を身にまとったライバル剣士ことのはが姿を現した!
 すんなり歩いているように見えるが、実はことのはの真後ろでは修次が背中を支え、歩行の手助けをしていたのだった。
「こういう機会なんだ。台詞を決めて……楽しめばいいさ」
 修次は小さくつぶやいた。
「はっはっは! また会ったな!」
 ばさあっ! 絶妙のタイミングで、修次がマントをなびかせる。
「剣士ことのは!」
「ふふ。貴様が予想以上に早く進んでくるから、少々驚いたぞ」
 ことのはは、だいぶ演技が上手くなってきたようだ。すらすらと台詞が出てくる。
「そろそろ倒れてもらおうか!」
 ことのはは剣をかまえた。
「お待ち下さい」
 そんなことのはを、小次郎が制した。
「このような相手ごときにことのは様のお手を煩わせるわけにはいきません。……さあ、私と戦う者はいませんか?」
「それじゃあこっちは、私が相手だよ!」
 まゆみ一行からは、小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)が名乗り出た。
「美羽様、大丈夫ですか?」
「大丈夫っ! 勇者様は体力を温存しててねっ!」
 美羽は軽くぴょんぴょんと跳ねて、ウォーミングアップをした。
「いくよっ!」
「お相手しましょう」
 美羽と小次郎が向かい合った。
「はっ!」
 先に動いたのは小次郎!
 ダダダダ! アーミーショットガンを放つ! ただし、弾はゴム弾である。
 ピカッピカピカ!
 まるでアニメのように、ゴム製のはずの弾が撃ち出されるたびにキラツと光っている!
「これで、ゴム弾でも派手に見えるでしょう」
 少し離れたところから、樹月 刀真(きづき・とうま)が光術で、エフェクトを担当していた。
「絶妙のタイミングだねぇ……」
 傍らでそれを見守っていた修次や他のメンバーも、感心しきりだ。
「まあ、それっぽく見えるよう頑張りますよ」
 少し離れたところではことのはが、役を忘れ、まるで映画を見るかのように、戦闘に見入っていた。

 そんな効果のおかげで臨場感が増した戦闘は、なおも続いていた。
「とうっ!」
 美羽は素早く横に避けた!
 小次郎と美羽、二人がすれ違う瞬間。
「このあとキックするんで、当たったフリする方向で」
「了解しました」
 ほんの2秒。美羽と小次郎は、打ち合わせを行ったのだった。
「勇者まゆみ様の邪魔をするやつは、許さないもんね! くらえーーーーっ!」
 ふわっと空中に飛び上がった美羽。高い位置から、鋭いハイキックを繰り出した!
 ひゅん!
「ぐ、ぐはっ!」
 小次郎はよろけた。
 美羽の足は小次郎の顔面すれすれを、当たらないように蹴り抜いたのだ。
 よろけたのは、小次郎の見事な演技。
「今だよ! まゆみ様、とどめをどうぞっ!」
 美羽はまゆみに、とどめ役を譲った。
「で、では。ぴな・ブレーーード!」
 ひゅん。まゆみの攻撃が空を切る。
「う、うわああぁぁぁ!」
 絶妙のタイミングで当たったフリをする小次郎。
「や、やりますね……くっ」
 小次郎はがっくりと膝をついた。
「……小次郎よ! もうよい、下がるのだ」
 ことのはは、小次郎に駆け寄って言った。
「申し訳ありません、ことのは様」
「いや、よくやった」
 次にことのはは、小次郎の耳元で小声で「おつかれさまです」と囁いた。
「まゆみ様、お見事!」
 美羽は満面の笑顔で、まゆみに向かってぐっと親指を立てた。
「美羽様のおかげですわ。ありがとうございます!」
 まゆみも、親指を立ててそれに答えた。

 勝利に喜ぶまゆみを、苦々しげに見つめることのは。
「仕方がない。では……最強の召喚獣を呼び出してくれるわぁ!」
 ことのはは、剣を天にかざし、叫んだ。
「さあ出てこい! 魔神の酒器との異名を持つ恐ろしき魔獣よ!」
 シャーーー! 派手なスモーク演出。
「ま、魔獣ですって? いけない、みんな気をつけて!」
 まゆみは警戒を強め、召喚獣の登場を見守った。
 スモークの中から現れたのは……。

「にゃー」

 もちろん、赤いリボンのティーカップだ。
「はっはっは、魔獣カップ様のお出ましだ!」
「覚悟しろ〜〜っ!」
 魔獣の従者……という設定で、ひなと歩はやはりぴったりとティーカップにくっついていた。
「あ、あら……。かわいい魔獣さんですわね」
 まゆみは思わずほっこり笑顔になった。
「かわいいだなんて、魔獣をばかにするなですっ!」
 ひなは、肩に乗っていたティーカップを、そっと地面に降ろした。
「さあ、カップ……じゃなくて魔獣よ! おまえのチカラをみせてやれ!」
 歩が叫ぶ!
「にゃー」
 ごくっ……。敵も味方も、全員が息を呑んで、ティーカップの次の動きに注目した。
「……にゃー」
 ぴた。ティーカップは、歩にくっついたまま動かない……。
「あ、あれ? もしかして、さっきまで持ってたマタタビの匂いするのかな?」
「にゃー」
 ティーカップは、一歩も動こうとはしなかった。
「……ま、ま、魔獣すら怯えて近付かないとは。これが勇者まゆみの恐ろしさか!」
 歩は、とりあえずきれいにまとめることにした。
「今日は……これくらいにしてやるですっ!」
 ひなは、ひょいとティーカップを抱き上げた。
「さらばだっ!」
「にゃー」
 最後だけは元気に鳴き、魔獣ティーカップと、従者歩とひなは、足早に立ち去ったのだった。
「……きっ、切り札の魔獣すらはねのけるとは、なんと恐ろしい! 勇者まゆみ!」
 ことのはは、言いながら既に走り出していた。
 もちろん、一人では走れないので修次が支えている。
「ここは引いてやる! また会おう!」
 がちょん、がちょん、がちょん。剣士ことのはは立ち去った……。

『ライバル一味を撃退したまゆみ一行。剣士ことのはの戦力もあと僅かであるはずだ! 最終決戦は近い……』