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学生たちの休日2

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学生たちの休日2
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    ☆    ☆    ☆
 
「イルミン、冬の鍋祭りです!」
 寮の自室に勇気ある挑戦者たちを招いて、志方 綾乃(しかた・あやの)は、高らかに宣言した。
 鍋と言っても、恐怖の闇鍋である。何が恐ろしいと言って、若干名の欠席者が出るほどの恐ろしさだ。
「では、まずは具材様の御入鍋です!」
 照明を消すと、志方綾乃は部屋の中央にあるこたつの上に乗った鍋に、どぼとぼと具材を投げ込んだ。そして、さっさとカセットコンロの火をつける。
 狭い室内にたくさんの人間、そしてカセットコンロ。集団自殺だと思われてはまずいので、部屋のドアは換気のために開け放したままだ。
「……刺激臭が酷いです」
 御薗井 響子(みそのい・きょうこ)が言うように、すでに部屋の中には異様な臭気が漂っている。そして、それが廊下へと流れ出していることに、まだ誰も気づいていなかった。
「……すでに、臭気指数は一〇〇を超えています」
「ぞんなごどいばれでもばがらだいよ」
 鼻をつまんだまま、ケイラ・ジェシータ(けいら・じぇしーた)が御薗井響子に言った。
「まったく、綾乃ときたら、容赦ない味つけをしていたからのう」
 袁紹 本初(えんしょう・ほんしょ)が言ったが、半ば嘘である。だし汁は、家庭科1の袁紹本初が担当している。食中毒を起こされては困るという理由から、胃薬や整腸剤や二日酔いの薬、頭痛薬、栄養ドリンク剤、スポーツドリンク、ウーロン茶、塩こしょうに、隠し味としてカレーパウダーまでもが投入された謎だし汁なのだ。
「それで、誰から食べるのですかな」
 にまにましながら、赤羽 美央(あかばね・みお)が訊ねた。仕込み段階の異様な臭いをかぎつけて、急遽参加してきた者だ。
「まあ、じゃんけんでいいんちゃうか」
 日下部 社(くさかべ・やしろ)の提案で、じゃんけんで順番が決められた。
「うっ、いきなりわらわが一番ですかな」
 ちょっとしまったという顔で、赤羽美央が言った。
「ふふふふふ、ささささ、ずずずいっと、潔くです」
 志方綾乃ににこやかにすすめられて、暗闇の中、赤羽美央は意を決して鍋の中の物を割り箸でつまみ上げた。
 結構固い。そして丸い。
「理由はないが、まだましなような気がするのじゃ」
 そう言うと、大胆にも、赤羽美央はそれにかぶりついた。ブシューッと、生暖かい柑橘系の汁が飛び散る。
「ミカンなのじゃ」
「あ、それわらわのじゃ」
 提供者である袁紹本初が、手を挙げて叫んだ。
「まともな物にあたったようですね。では次の方」
「えっと、誰じゃ」
「あなたですよ、袁紹」
 とぼけようとする袁紹本初の背中を、志方綾乃がトンと押した。
「いや、わらわは後でも……」
「だめです」
「ううううう……」
 志方綾乃に半ば強要されて、しかたなく袁紹本初は箸を手に持った。この鍋の破壊力の一端は、袁紹本初には分かりたくないほどによく分かっている。
「誰じゃ、こんな物をいろいろ入れおって……」
「早く食べなさい」
 ぐるぐると鍋の中をかき回す袁紹本初を、志方綾乃が叱った。
 観念したのか、袁紹本初が何かをつまみあげる。
 ぐにゃりと柔らかい。いや、ほとんど溶けかかっているらしく、箸から解け落ちて、お椀の中にべちゃりと落下した。
「い、嫌じゃー、こんなものー」
 抵抗する袁紹本初だったが、そういう子には強制執行である。数人に手足を押さえ込まれて、無理矢理口の中に何かが流し込まれた。
「甘い! 甘いけど、謎のだし汁がしみこんで、ぐわあああああ……」
 こてりと、袁紹本初が撃沈した。
「たぶん、私の入れたカリントウですな。な〜む〜」
 赤羽美央が、袁紹本初の冥福を祈る。
「さあ、何でもござれです」
 御薗井響子が、おっとこ前に潔く鍋から何かをつかみあげた。
 でろんとした魚のようだ。
「……臭気指数計測不能」
 そう言うと、御薗井響子はパクンとそれを食べた。
「……発酵食品のようです」
「私の入れた、シュールストレミングですね」
 志方綾乃が、魚の正体を告げた。
「鬼か。なんという凶悪な物を……」
 日下部社が絶句する。さっきからこっそりと皆の食べる物や、食べた人そのものにキュアポイゾンをかけていたのだが、臭いだけはどうすることもできない。
 だいたいにして、シュールストレミングとは、世界一凶悪な異臭を放つ発酵食品だ。缶詰の中で発酵させたニシンなのだが、発酵時のガスで缶詰がぱんぱんにふくれあがるという代物である。不用意にこれを開けようとして起こった悲劇は、列挙にいとまがないと言われている。幸いにして、今回の物は前日に志方綾乃が森の外れで開けた物のようで、幾分臭気はおさまっているらしい。そうでなければ、大変なことになっているはずだ。もっとも、缶詰を開けたというその場所では、野生生物の死屍累々の姿があったかもしれない。
「とりあえず、男は度胸や。ここでウケをとらねば名が廃る」
 そう言うと、日下部社は大胆な箸使いで何かを取りあげた。
 また、何かでろんとした球体のような物だ。だが、とろとろで、早くも崩れ始める。
 日下部社はあわてて、それを口に入れた。
「あちちちちち、甘い、熱い。これあんこと餅やんけ」
「……塩豆大福です。人体に害はないと推測します」
 御薗井響子が、あてにならない保証をした。
「まあ、だし汁を吸ってない物は、比較的安心だよ」
 そう言うと、順番が回ってきたケイラ・ジェシータは箸を持った。
「はははは、いくよ」
 声とは裏腹に、ちょっと箸先がふるえている。
 ぐんにゃりと柔らかい物をつかみあげた。
 箸の中で崩れてしまいそうなのだが、何とか形をとどめて踏みとどまっている。
「い、いただきます……」
 意を決して、ケイラ・ジェシータはそれを口に含んだ。
 じゅっと、だし汁が口の中いっぱいに広がる。
「うげげげげ……、水、水ぅ……」
 あわてて水で口の中の物を胃に流し込むと、ケイラ・ジェシータは袁紹本初の隣にばったりと倒れ込んだ。
「おかしいなあ、俺が入れたのはフランスパンのはずだから、そこまでの破壊力はないはずなんやけど……」
 日下部社が、不思議そうな顔をする。いや、破壊力抜群なのは、具材ではなく、この場合謎汁と化しただし汁である。
「じゃあ、最後は私ですね。いきまーす」
 満を持して、志方綾乃が箸を入れた。残る具材は、泣いても笑っても一つである。
 プルルンとした、比較的ちゃんとした食べ物らしき物が見つかる。
「いただきまーす」
 志方綾乃はそれを口の中に入れて噛んだ。甘い汁が、口の中に飛び出してくる。
「見た目は、あれだけど。中身は一応高級ベルギーチョコレートの餃子だ……」
 倒れてうめいたままのケイラ・ジェシータが解説した。
「終わったようですな」
 明かりをつけると、赤羽美央が犠牲者二人を見下ろした。
「まさかあ、これからが本番です」
 志方綾乃がニッコリと笑った。
「や、やめるのじゃ、綾乃……」
 倒れたままの袁紹本初が、何とか逃げ出そうともがく。
「では、第二部、雑炊祭りです」
 そう言うと、志方綾乃は鍋の中でどす黒く泡立つ謎汁の中に冷や飯を入れていった。
「さあ、たーんとめしあがれ」
 
「はい、どいてどいて。うっ、ほんとに酷い異臭ね」
 天城紗理華が、風紀委員を連れて、寮の一室に入っていった。その後に、なぜか大勢のプリーストが続く。
「何があったのかな」
 メモを片手に、マコト・闇音が訊ねた。
「異臭騒ぎだと聞いてるが」
「食中毒だったんじゃ……?」
 おいしい鍋を堪能したばかりのブラッドレイ・チェンバースとリヒャルト・ラムゼーが、野次馬に混じって言葉を交わし合った。
 
    ☆    ☆    ☆
 
 そして、平和?な一日が終わる……。
 
 

担当マスターより

▼担当マスター

篠崎砂美

▼マスターコメント

 お待たせしました。
 ちょっと、鬼のように各種調整や年末進行などが関係して、かなり時間的に手こずりました。もっとも、文章量が相変わらず半端ない(鬼か、この量……7万字超えてるじゃん。本来の倍だ……)ので、このシリーズは大変です。
 文中でいろいろと設定蘊蓄がありますが、たいていは波羅蜜多ビジネス新書がらみですから、マニュアルではないので信憑性は100%ではありません。御注意ください。
 十二星華がらみの情報もちらほらありますが、私のシナリオ内設定としては、本シナリオ内の情報はすべて後世による創作としています。ですので、正確な情報にはわざとなっていません。まあ、すべて嘘というわけでもないのですが。そのため、まるっと鵜呑みにして他マスターへのアクションへの理由にすると没にされる危険性があります。

 しかし、今回いろいろあちこちでラブラブ書かされたんで、結構もだえ苦しんでます。反撃として、アクションかけた中の人が、なるべくもだえ苦しむようにしてみましたが、はてさてうまくいっているかどうか。

 NPCたちが、旧キャラ新キャラ含めていろいろと暗躍していますが、すべての答えは、そのうち明らかになるだろうということで、読み物的にぼんやり覚えておいてもらえると、後々のシナリオの深みがまします。ただ、それを知らなくても、不利になることはありません。
 海賊(飛空挺持ってても空賊ではない)の連中が結構気に入ったので、絡んでくる日が楽しみです。

 とりあえずは、ゴチメイたちのキャンペーン(回数未定。ぉぃ)を次やる予定です。いろいろ複雑怪奇な仕掛けがしてあるので、お楽しみということで。ストーリー自体は、ものすごくシンプルな一話完結ですので、お手軽に気のむいた話数に参加できます。

追記 口調修正。句読点修正。誤字脱字修正。漢字調整。固有名詞の太字化。難しい漢字のルビ追加。一部加筆修正。ちょっとおまけつけました、運良く無理矢理使えた物だけなんでごめん、Vは脳内再生かマルチウインドゥでよろしく。
 ちなみに、執事君とメイドちゃんも、実はちゃんと名前あります。
 闇鍋、学生時代にほんとにやったことあります。