天御柱学院へ

なし

校長室

蒼空学園へ

黒羊郷探訪(第2回/全3回)

リアクション公開中!

黒羊郷探訪(第2回/全3回)

リアクション



3-05 夏野からの電話

 バンダロハムの町中も、通りを横切っていく教導団の部隊や、教導団に雇い入れてもらおうと出てくる食い詰め等、それに逃げ惑う人々で、騒然となっていた。
 境界の戦線も、黒羊旗に傭兵の一部が合流したことで、後退しつつある。
 前回、パートナーのフォルテ・クロービス(ふぉるて・くろーびす)と、ウルレミラ見物を楽しんだ夏野 夢見(なつの・ゆめみ)
 夜は焼肉でも食べて、酒場にも行ってみたいし、ということでそのままフォルテを護衛にバンダロハムへと来ていた。その間、アーシャ・クリエック(あーしゃ・くりえっく)は本営で、彼女から何かあったとき連絡を受けるため、ずっと待機させられるはめになっているのだが……。
「なんか兵隊がいっぱいいるんだけど、戦争でも始まるの?」
 酒場に入った夏野。
「ああ。あの兵隊は、ウルレミラに来ている教導団ってとこの野郎どもさ。北の境界には、黒い軍隊が来ている。やつら、それとやり合おうってのさ。
 兵隊だけじゃない、ここバンダロハムの傭兵連中や、食い詰め浪人も動き出している」
「黒い軍隊、と言いますのは?」
 フォルテが聞く。
「あれは、最近勢力を増しているっていう黒羊郷の兵だとさ。
 それが何故、今ここにまで軍勢率いてやってきたのかはわからねえ。でも、教導団がウルレミラに来ていたってことと無関係じゃないだろう?
 教導団もここ近年、ヒラニプラに基地を作って我が物顔している。
 黒羊郷と言えば、昔からヒラニプラにあった黒羊教の本拠だ。
 俺が思うに、この二つの間で大きな戦争になるんじゃなかろうかねえ。これが発端になってさあ……
 バンダロハムもどちらかに付かないわけにはいかねえだろうな。ちっ。戦争に巻かれるのはごめんだね」
「ふむふむ。でも、嫌だねー。罪もない私ら民が戦禍をこうむるなんて。
 これもみーんな、お上が悪いんだよね!」
「そうだな。だが、……あの傭兵どもが、貴族の手先としてのさばっているうちは、大きな声では言えないがな。
 あの貴族、自分に都合の悪い連中は傭兵を使って消しちまうからな」
「じゃあ、このバンダロハムでの諸悪の根源は」
「あの、丘の上にでかでかと館を構える……」
「貴族、ってことになるんだ」
 夏野は、酒場を出ると、携帯でアーシャに電話する。
 今の話を戦部さん・クレアさんに伝えて……と。
「じゃあ、フォルテ?」
 夏野とフォルテはこのまま、バンダロハムで宿を取るつもりだ。
「最近してないんで」
 な、何を?



 本営。
 アーシャから、夏野の伝言を受け取った。
 クレアは、ややうつむいて、述べる。
「バンダロハムを占領してしまうことで、多方面から受ける反発がないというのなら、それもまた一つの道か……。
 しかし、侵略戦争という形になるのは避けたかったが……」
 考え込む、本営に残る生徒等。
 すると……
「何も考えずにドンパチするのも好きなんですけどね何も考えずにドンパチするのも好きなんですけどね何も考えずにドンパチするのも好きなんですけどね」
「い、戦部さん……?!」
 戦部が壊れた?
 とりあえず、パルボンに本陣の指揮を任されたのだが、戦部の描いた戦の図を具現化するには、もう一歩前線に出てみるしかなかった。
「我も出るぞ」
「え、戦部殿も出陣なさるのですか?」
「うむ。
 少し予定と違うが、本陣のバンダロハムに突入。敵へ降伏勧告する。
 最悪そのまま市街戦へ移行、占拠する」
「い、戦部さん……」
「これで三日月湖は我らの……」
「な、なんかこの台詞?」
 戦部、出撃する。
「一条、クレア。本営はそなたらに任せたぞ」
 戦部は、どかどかと本陣を出て行った。
「戦部……。
 ん? 一条……」
「で、状況は?」
 一条は玉座に座っていた。
「……。あれ? そ、それがしは何故、戦部殿と一緒に出撃準備をしているのであろう?」
 道明寺。
 道明寺は、ぼそりと、「前線を見たい欲求もある」
 しかし、「そ、それがしは「野いちごを摘みに」で最初の1ターンで戦闘不能になるゆえ、行っていいわけが……」
 ウルレミラでお菓子を食べて歩いていたパートナーのイルマ・スターリング(いるま・すたーりんぐ)も、道明寺の隣へ来る。
「麿が玲を援護する!!どすなぁ〜(ほわほわ)」
 右隣には、戦部。
「……」
 二人に引っ張られて、道明寺は初めて前線を味わいに。出撃だ。
 ……ともあれ、こうして本陣はクレアが預かることとなり、一条は戦部の例の産業振興策の方を引き継ぐ(?)こととなった。
 しかし。本営にも、危険な影がしのび寄りつつある。

 ……ひた、ひた、ひた。



3-05 そこにいたのは……

 北の森に達した林田。
 途中まで同行した緒方の姿はそこには見えない。
 林田は光学迷彩で姿を消すのだが、緒方はすでに別の場所で別行動に移っているようだ。
 林田と一緒にいるのは……
「こた、またていさつするお。
 みるのは、くろいひつじさんの、えらいひとらお。
 ねーたんといっしょに、こうがくめいさいするお。
 すぷりぇーしょっとしにゃがら、かえるんれすね」
「そういうことだ。行くぞ、コタロー」
 北の森は、静かだった。すでに日も落ち、辺りは暗い。バンダロハムで行われているだろう戦闘の音も、ここまでは聞こえてこない。
 林田は、森の中心、敵陣営に達した。
 それに……どうやら、ここにはさほどの敵兵は残っていない。せいぜい、100いるか、いないか……となると、先の300、300で東西から三日月湖を落とすつもりか。
「数でいけば、うまくすれば対等に渡り合える可能性は充分ある、か。
 できるだけのことをやってみるしかない」
 それから、「……! あの指揮官らしい風体の横にいる者は。まさか。と、なると。事は簡単には運ばんかも知れんが……!
 洪庵、そっちはどうだ? ……そうか、準備OKだな。では、とにかくやってみるしかない」
 林田は覚悟を決めて、銃を取る。



「軍師殿!」
「ああ」
 まただ。森奥で、スプレーショットの音が、立て続けに響く。
 北の森の黒羊兵らに、動揺が走る。
「軍師殿、大変なことになりました。いつの間にか、軍勢に背後を取られております!
 森を抜けたところに、迫っております。ど、どうやらかなりの数……!」
「……ふむ」
 駆けつけると、西の一帯に、赤々と松明が揺れている。
「いかが致しましょう。
 こうなればすぐ、西回りの軍を呼び戻すべきでしょうか」
「……。いや、ここに見張りを配備し、あの西の火がこちらへ近付いてくるようであれば、俺に知らせるのだ。
 動かないうちは、捨ておけ」
「はっ」
「教導団にも策士がいたものだな。しかし……フ」
「軍師殿?」
「いや……この一戦は頂くぞ」
 ――この道満、パラミタデビューして最速、職を失うわけにはいかぬ……フ。



 林田は、松明を燃やして待っていた緒方のもとへ合流。
 緒方、「え……僕のかけた手間が……」
 大量の松明の真ん中で崩れる緒方。
「気落ちするな。これで相手には、手強い軍師がいることがわかった。
 まだまだ手はあろう。負かしがいがあるというもの」
「どーまん どーまん」
 それからジーナに連絡し、北の森本営の兵数はそう多くないことを伝える。
 それから、敵の軍師の名をジーナが皆に伝えると、イレブンやデゼルらに驚きが起こっていた模様。
「それもそうであろうな。
 ここで敵本陣の注意を引き付けつつ、今は騎狼部隊の攻撃がうまくいくことを願う他あるまい」



3-06 続々・境界戦

 林田との連携を図るつもりだった騎狼部隊は、まだ前線までは到達していない。
 前線では、苛烈な戦闘が繰り広げられている。
 バンダロハムの境界にたどり着いた、神楽崎 俊と妹達。
 すでに、教導団側と黒羊側入り乱れての戦場となっている。後方には多くの浪人が倒れ、じりじりと、黒羊の軍勢が押し出してきている。戦線は境界から町中にまで及びつつあった。
 黒尽くめの敵は、半ば味方勢を包み込んでしまっている形らしい。
 これなら、迂回して側面を突くべきか。
 とにかく、ここにいる味方と共同でことにあたらないと。俊は、戦う者らの方へ、駆ける。
 一方、先頭集団は、敵の包囲に組み込まれてしまっている。厳しい戦いだ。
「……く!」
 坂下のわき腹を、鋭い突きの一撃がかすめた。血が伝う。
「おめえの腕じゃよー俺様に勝とうなんてよー無駄だからよー、さっさと斬られちまいな!」
 パルティザンをかまえる傭兵。
「……フハハッ。やるじゃないか。
 だけど、撤退指令が出るまでは、押されても退かねえよ!」
 坂下のスイッチが入った。グレートソードを握り直し、反撃に出る。
 前線に来た、獣人のパン。戦況を見る。「そろそろ、まずいかな……?」
 離脱するときは、腕のマシな連中で三つの隊を作り、一撃離脱戦術で別々に敵に一当てさせ他の離脱を助ける。カルラの与えた戦術だった。
 しかし、まだ戦い慣れないパンも、乱戦の最中、手練れの猛攻を防ぐのに、精一杯になっている。
「う、うおっ」
「! あぶのうございます!」
 フェイトの狙撃。パンを背後から狙った忍を見事ぶち抜いた。
「あ、あんたは……」
「フェイトでございます。岩造様があちらで苦戦してございますわ、どうか、ご加勢を!」
「あ、ああ。仕方ねえ、助けてやるか。フェイト、恩に切るぜ」
 敵側面から、切り込んでいく、神楽崎 俊。
「沙織、ソフィア、後方支援を頼む!」
 黒羊の兵が、阻もうと槍を繰り出してくるのを、避けて反撃する。
 沙織も、メイスを振るって何とか相手を牽制する。
「義兄さんには、近付かせません!
 ソフィア大丈夫?」
「うん! 大丈夫! ……おにーちゃんおねーちゃんに負けないようにがんばるよ!」
「立て直さないと、このままではやばそうだな。指揮官はどこに?」
 後方では、何とか浪人達を立て直そうと指示を出しているらしい大型の機晶姫と、小さなドラゴニュートの姿がある。
「見たところ、あれが指揮官と副官だろうか?」
 近付いていく俊。
 同じように、傭兵勢の中にも、相手指揮官を探す者があった。
「ええい、邪魔ね! 雑魚に用はない!」
 カタールで、周囲の食い詰めどもを次々薙いでいく。
「……いた!」
 後方で浪人らに指示を出す者の背後に近付き、牙を剥く。メニエスの吸血鬼、ミストラルだ。
 俊がそれに気付くが。
「あ、あぶない! 避けて!」



 貧民窟の方から、バンダロハムの街を抜けて本営の方へ戻るのは、比島 真紀(ひしま・まき)サイモン・アームストロング(さいもん・あーむすとろんぐ)
 二人はすでに、密かな任務を終えて、本営へ戻るところだ。
 すでに、町は混乱状態にあり、戦線以外のところでも、何かしらの暴動が起きたりしている。もともと治安の悪い土地だ。戦に乗じての強盗などもあるだろう。
 物を盗り合っている住民たち。ときおり、路に倒れているの者も見かける。
 生きるために傭兵になった過去のあるサイモンにとっては、懐かしくも嫌悪すべき光景。
 サイモンは、時折出遭う食い詰めを掴まえては、情報を聞き出す。
「そうなんだね。まだどちら側にも付いていない浪人集団が一つ、か。その集団は……」
「サイモン、何か来るであります!」
 丘の上に向かって、なだれ込んでいく食い詰め集団だ。その先頭にいる二人は、……教導団の軍服?
 どどどどど。
「あぁぁっ、俺たちは龍雷連隊なんでね。龍雷連隊、突撃せよ!」
「♪るんらら〜」
「龍雷来来!」「龍雷来来!」
 どどどどど。
「……な、なんでありますか?」「……な、なんだろね」
「サイモン、また何か来るであります!」
 今度は、丘上の方から駆けてくる、女魔道師率いる傭兵集団だ。
「急げ、もう間もなく境界だ!」
 そして反対側から……
「メニエス様!」
「ミストラル!」
「メニエス様、龍雷連隊の指揮官を捕えました!」



3-07 進軍レーゼ部隊

「レーゼ殿!」「レーゼ殿!」
 ずぶずぶ、……。
「……」
 その頃、レーゼマン率いるレーゼセイバーズは、戦線への到着が遅れていた。
 彼らは、沼地を進んでいたので……。
「……おっと。くっ、メガネが落ちそうだ。
 頑張れ! もうひと息だ。いいか、私達の到着が勝利を決するのだぞ」
 ずぶずぶ、……。
「……」「……」
「な、なんだ。どうした、お前達」
「レジーヌ殿!」「レジーヌ殿!」
「お、おい。離反か!」
 レーゼマンのもとには、レジーヌ・ベルナディス(れじーぬ・べるなでぃす)が応援に駆けつけた。獅子小隊には体験入隊したこともある彼女だ。彼女は……実は、前回も遠征軍に随行してずっといたのだが、規律を重んじ、真面目で人見知りが激しい故に……つまり地味で目立たなかった、ということだ。
 ナイトらしく鎧兜完全防備のため、沼地に沈む、沈む……。
 でも、沼地に沈もうが、引っ込み思案なので絶対に兜は深くかぶって顔を隠す。
 レジーヌは、パートナーのエリーズ・バスティード(えりーず・ばすてぃーど)を斥候として、携帯で連絡を取りつつ前線に向け先に進ませている。
「エリーズ殿!」「エリーズ殿!」
 五名のレーゼセイバーズと先行するエリーズ。
 この五名は、エリーズセイバーズになった。
「レーゼマンはロリコン……」「レーゼマンはロリコン……」
「レオンハルトは眼帯ビームが出る……」「レオンハルトは眼帯ビームが出る……」
「そう。そうよ。皆、よく覚えておいて」
「ロリコンはパラミタの敵……」「ロリコンはパラミタの敵……」
「眼帯ビームでレーゼマンを倒す……」「眼帯ビームでレーゼマンを倒す……」
 エリーズは、携帯でレジーヌに電話した。
「レーゼマンはロリコン。こちらエリーズ」
「レーゼマンはロリコン。こちらレジーヌ」
「レジーヌ、もうすぐ龍雷連隊に到着するよ」
「ええ。了解」
 レーゼマン、「……」
 レーゼマンへの、仲間や兵の人望は厚いもののようだ。
 そこへ、沼地をすーーっと、軽やかに船でやって来たのは、セオボルト・フィッツジェラルド(せおぼると・ふぃっつじぇらるど)
「レーゼマン。なにやらヤバイようなので助太刀してあげましょう。なんだか可哀想ですし」
 彼は可哀想なレーゼマンのために、臨時指揮官である彼から授かった作戦案を持ち、あるところに接触を持ちに行っていたのだが。
「お、おお。セ、セオボルト。私がヤバくて可哀想に見えるか。そ、そんなことはないのだぞ」
 ずぶずぶ、……。
「我が隊……戦地に……ずぶずぶ、ずぶずぶ……」
「レーゼ殿!」「レーゼ殿!」
「……。そうですな」
 すーーっ。
 セオボルトが遠ざかっていく。
「ちょっちょっと待て。セオボルト! そ、その、非常に助かる」
「……。そうですな」
 すーーっ。戻ってくる、セオボルト。
「大事なセイバーズを放ってはおけません」
「セオボルト殿!」「セオボルト殿!」
「……全軍、速やかに船に乗り込めぃっ!」
 こうしてレーゼ部隊は船を得て、沼地を行軍する。
「ふぅっ。セオボルト、本当にすまない。感謝している」
「いえ、何の。ヤバクて可哀想なレーゼマンを仲間として見過ごすことはできませんから」
「しかし、このような船が得られるとは。これは一体?」
「ええ。このセオボルトがお話ししましょう」