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【2020年はじめ】こたつにみかん、であけまして

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【2020年はじめ】こたつにみかん、であけまして

リアクション

 続々と持ち寄られる差し入れにより、食糧問題という致命的な弱点を克服した炬燵は、いよいよ一晩二晩は居座れるのではないかといった様相を呈していた。
「はぁ〜……炬燵ってこう、一度入ると抜け出せなくなるんだよな。それに蜜柑、そして熱いお茶……たまらんな」
「おぞ〜に、おみかん、おしるこに、おっせち〜……あぁ、お腹が空いて来ましたが、お箸を動かす気力もありません……」
 熱いお茶をすすりながら橘 恭司(たちばな・きょうじ)がほうっ、と穏やかな息をつき、『猫は炬燵で丸くなる』の如く、浅葱 翡翠(あさぎ・ひすい)が至福の表情を浮かべて、半ば無意識に発動させた超感覚の影響でネコミミと尻尾をぴくぴくさせながら、炬燵で丸くなっていた。
「私は入る必要はないが、我が主の様子を見ている限り優れた道具のようだな……あ、お茶どうぞ」
「あ、ありがとう。見かけによらず器用なのね」
 ノイン・シュレーカー(のいん・しゅれーかー)の、機械の身体ながら急須に茶葉を入れ、お湯を少量注ぎ、蒸らす間に湯のみにお湯を満たし、そのお湯を急須に注いでしばし待ち、湯のみに注ぐという一連の動作を完璧に行う様に、サファイア・クレージュ(さふぁいあ・くれーじゅ)が感嘆の声をあげる。
「向こうで羽根突きやってる連中は元気だな……いかん、この発言は爺臭いと思われてしまうな。……だが今更参加する気も湧かないな……」
「もう、動く気力すら全く湧きませんよね……はぁ〜……」
 向こうで行われているハイブリッド羽根突きを、まるで他人事のように眺めながら、恭司と翡翠がどんどんと『たれ』化していく。
「も〜、せっかく面白そうなのやってるんだから、ちょっと見に行くくらいしたらどうなの?」
「うにゃうにゃ……」
 隣に座ったサファイアの言葉も、『たれ翡翠』と化した翡翠には聞こえているのか怪しかった。
「って、聞いてないわね……こら、浅葱? あーさーぎー? 聞こえてるー?」
 サファイアの指が翡翠の頬をぷにぷに、と突付く。
「あぅあぅ、ほっぺ突かないで〜……ああ、いえ、突いても良いです……その代わり私におぞ〜にとか食べさせて〜……」
「……ダメみたいね」
 溜息をつきながらサファイアが、先程まで翡翠を突付いていた指の感触を確かめるように、じっと視線を向ける。
「……分かったわ、浅葱。お雑煮でもお汁粉でも食べさせてあげるから……そのほっぺをもっと突付かせなさい」
 言ってサファイアが炬燵から立ち上がるのを見やって、ノインが同じように器用に動く自らの指を見つめ、そして『たれ恭司』と化している恭司の頬へ持っていく――。
「……………………」
 次の瞬間、恭司の頬はノインの指に大きく凹まされ、滑稽な顔にさせられた恭司は声を出すことも叶わず、視線だけで「何のつもりだ」とノインに問いかける。
「機能に問題はないようだが……経験が必要ということであろうか」
 自らの指を見つめながら呟いたノインが、再び指を突き出したところで、恭司の腕に阻止される。
「何故止める、主よ」
「何かよく分からんが、これ以上放っておくと俺の頬に穴を開けられる気がしたんでな。……仕方ない、向こうのハイブリッド羽根突きとやらに混ぜてもらうとするか」
 やれやれと頭を掻きながら、お茶を飲み干した恭司が炬燵を立って、すっかり遊び場と化している方へ歩いていく。それに続いてノインも後を追った背後では、サファイアがお雑煮とお汁粉をエサ? にして、翡翠の頬を突付いて楽しんでいた。

「兄様、おせち料理を作ってきました。フィオナさんもいないようですから、まったりと過ごせそうですね」
「うん、そうだね。……それにしても、フィオはどこに行ったんだろうか?」
 炬燵の上に並べられたおせち料理を前に、アンドリュー・カー(あんどりゅー・かー)葛城 沙耶(かつらぎ・さや)がまったりとした時間を過ごしていた。ちなみにここに来るまではちゃんと三人だったのだが、フィオナ・クロスフィールド(ふぃおな・くろすふぃーるど)はここに着くなり姿を消してしまったのである。
(フィオナさん、何を企んでいるか知りませんが、あたしにも策というものがありますわ。フィオナさんには邪魔させません!)
 密かにぐっ、と握りこぶしを作った沙耶が、黒豆を皿に持ってその一つをつまみ、アンドリューの口元へ持っていく。
「兄様、どうぞ」
「いや、そこまでしてもらわなくても大丈夫――」
「に・い・さ・ま?」
 断ろうとしたアンドリューだが、沙耶の有無を言わさないとばかりに浮かべた笑顔に言葉を封じられ、渋々とばかりに口を開く――。
「遅くなりましたアンドリューさん、今年もいっぱいお世話しちゃいますね!」
 その時、絶妙のタイミングでフィオナが現れる。安堵するように息をつきつつ顔を背けるアンドリューの耳に次の瞬間、
「先手必勝ですわ!」
 沙耶のそんな声が響いたかと思うと、どこからか取り出した羽子板を振り上げ、宙を舞った羽根をフィオナに向けてスマッシュする。羽子板を直接ぶつけようとしなかったのは、沙耶なりの温情というものであった。
「そうはいきませんよっ!」
 しかしフィオナも『今日のアンドリューさんに甘える権利は羽根突きで決める』を実行するべく準備をしていたため、羽子板は既に手にしていた。意気込み、飛んできた羽根を打ち返すべく振るった羽子板は、しかしフィオナの手を離れ、視線を外していたアンドリューの後頭部を直撃する。運動苦手な者がやらかす初歩的なミスだが、食らった方はたまったものではないだろう。
(あれ、視界が……ハァ、今年もこうなるのかぁ……二人とももうちょっと、仲良くしてほしいんだけどな――)
 どさり、と床に倒れるアンドリュー。その後彼が意識を取り戻すまでの間は、フィオナも沙耶もいつもの喧騒を止めて献身的に介護を行っていたので、彼の願いは一時的かもしれないが、叶えられたと言っていいだろう。

「ミーミルさん、よかったら百人一首かるた、読んでくれないか」
 和原 樹(なぎはら・いつき)フォルクス・カーネリア(ふぉるくす・かーねりあ)を連れて、百人一首かるたの読み札をミーミルに差し出す。
「えっと、私ですか? あの、私、上手く読めるか自信ないですけど、それでもと言うのでしたら」
 ミーミルが、申し訳なさそうな顔をして答える。話す分には問題ないのだが、読みとなると不安が残り、書きとなると誰かのサポートがないと満足に書けない段階なのである。
「あ、じゃあ私が読みましょうか?」
 豊美ちゃんが読み札を手に取り、一通り目を通す。
「あ、小倉百人一首ですね。これなら大丈夫ですー。新百人一首だと自信がないですー」
 豊美ちゃんが言うように、百人一首と一概に言っても、実はいくつかの種類があり、その中で最もメジャーとされているのが『小倉百人一首』なのである。
「よし、勝負だ、フォルクス」
「いいだろう……その勝負、受けてやる」
 樹が取り札をランダムに並べ、フォルクスと相対する。
「全部書いてあるので、全部読んじゃいますねー。では……秋の田の刈穂の庵の苫をあらみ わが衣手は露にぬれつつ
「もらった!」
 樹の手が伸びるより速く、フォルクスの手が天智天皇の描かれた札を取る。
「まずは一枚だな。樹、負けた時は……分かっているな?」
「ま、まだ負けたわけじゃないだろ! 豊美さん、次お願い!」
「はいはーい。春すぎて夏來にけらし白妙の 衣ほすてふ天の香具山
「それだ!」
 今度は樹の手が、フォルクスより速く持統天皇の描かれた札を取る。
「よしよし。フォルクス、俺が勝ったらお屠蘇で乾杯な」
「……悪酔いしても知らんぞ」
 そうして、豊美ちゃんが読み手を務める中、二人の勝負が続けられる――。

 ……只今判定中……

「もらった!」
 フォルクスが51枚目の取り札を手にし、勝負が決まる。ちなみにこの時点での樹の取り札は、34枚だった。
「く、くやし〜……」
「勝負は時の運というが、勝ちは勝ちだ。樹……負けを認めた証を貰おうか」
「うぅ……部屋に戻ったらやるよ」
 一勝負ついたところで、アルマ・アレフ(あるま・あれふ)と彼女に引きずられる形で如月 佑也(きさらぎ・ゆうや)が現れる。
「あっ、そっちもかるた? ……って何これ、分かんなーい。それよりもねえねえ、これにしよ?」
 言ってアルマが、ひらがなと絵の描かれた札を見せる。いわゆる『いろはかるた』である。
「あら、これなら、ミーミルさんも参加できるのではないですか?」
 ミリアがやってきて、ミーミルに簡単なルール説明をする。いろはかるたはたとえことわざの意味が分からなくても、最初の文字を聞き取ってそれが書いてある札を取ればいいので、『ゐ』と『ゑ』に対応することわざさえ覚えておけば、何てことは無い。
「……はい、私、覚えました!」
 そして、ミーミルは記憶力はいいのである。というより潜在的な力は計り知れないのである。
「ではミーミルさんは、私と組みましょう」
「じゃあ佑也、あたしと組もっか!」
「ちょ、俺はやるなんて一言も――」
「いいじゃん新年あけましておめでとー! なんだからさー」
「何だその理由は……」
「フォルクス、俺と組むか?」
「いいだろう樹、やるなら一番を目指すぞ」
 並べられた取り札を前に、樹とフォルクス、佑也とアルマ、そしてミリアとミーミルが相対する。
「はい、じゃあ次も私が読みますねー。では……犬も歩けば棒に当たる
「取ったー!」
 犬が描かれた札を、アルマが素早く払う。
「優勝者には、佑也からお年玉をプレゼントー!」
「勝手に決められてる!?」
「次いきますよー。花より団子
「それだ!」
 花と団子が描かれた札を、樹が手にする。
骨折り損のくたびれ儲け
「ありました!」
 3枚目で、初めてミーミルが札を手にする。
「取れましたよ、ミリアさんっ!」
「偉いわ〜。その調子です、ミーミルさん」
 そうして、豊美ちゃんが読み手を務める中、三組の勝負が続けられる――。

 ……再び判定中……

 全48枚中、樹ペアが19枚、佑也ペアが12枚、そしてミリアペアは善戦の17枚だった。おそらくミーミルの語学が5は上がったことだろう。
「百人一首じゃ負けたけど、かるたで勝てたから、ま、よかったかな」
「我は二連勝だな。新年から運に恵まれているようだ」
「佑也ー、あたしにお年玉はー?」
「だから、あげるなんて一言も言ってないだろ……」
「ミーミルさん、楽しかったですか?」
「はい!」
 勝負が終わったところで、炬燵の方からラグナ アイン(らぐな・あいん)ラグナ ツヴァイ(らぐな・つう゛ぁい)が一行を呼ぶ。
「皆さん、勝負が終わったのでしたら、こちらで一休みしませんか?」
「ボクと姉上が用意したお雑煮とお汁粉もあるぞ」
 そして、勝負を通して知り合った者同士が、交流を交わしながら賑やかな時間を過ごす。
「どうですか、佑也さんっ。似合ってますか?」
「あ、ああ……いいんじゃないか?」
「……視線がなんかやらしいですぞ、兄者。ボクに見惚れるのはかまいませんが、姉上に下卑た視線を向けるのはやめて欲しいですな」
「む、向けてなどない!」
「佑也ぁ、いいから早くお年玉ちょうだい♪」
「だからやらないと何度言えば……はぁ、新年からこの調子か……」
 アインとツヴァイ、アルマに散々相手をさせられた佑也が、疲れ果てた様子でミリアからお酌を受けていた。
「朝起きると、アインが俺の布団に潜り込んでたりするんですよ。そのたびにツヴァイにけたぐりまわされるし、アルマは変な薄笑いでこっち見てくるし……」
「あらあら、それは大変ですわね。でも、賑やかでいいではありませんか」
「そうかもしれませんけど……ああ、神様。どうか俺に平和という名のお年玉を寄越してやってください」
 手を合わせて拝む佑也、しかしこれまでのパラミタで起きた、そして今も続いている事件のことを思えば、今この瞬間は間違いなく平和であることに違いはなかった。

「ちょ〜っと熱しただけでボロボロになるなんてぇ、あの羽子板ってヤツは気合が足りないですぅ」
「木製なんだから当たり前よ。そもそも羽子板も羽根もほとんど使ってなかったじゃない」
「失礼ですねぇ〜、ちゃんと使ってたですぅ。こう、ぶんっ、とですねぇ」
「……まあ、いいわ。とにかく壊しちゃった分はこっちで発注しておくから、それまで少し休憩ね」
 炬燵の置かれた場所に、ハイブリッド羽根突きで遊んでいたエリザベートと環菜が戻ってくる。二人の対戦は、無数の火の玉を顕現させるエリザベートとそれを正確なスマッシュで撃ち落とす環菜という、もはや羽根突きである意味が無いような気がするものであったが、結局両者の羽子板と羽根が負荷に耐え切れず破砕してしまったため、勝負つかずのノーコンテストとなった。
「あっ、お帰りなさい、お母さん♪ どうでしたか? 楽しかったですか?」
「まぁまぁですぅ。次はミーミルもやってみるといいですぅ」
「はい♪ あ、お母さん、お雑煮とお汁粉がありますけど、食べますか?」
「甘いのはどっちですかぁ? 甘いのがいいですぅ」
「ふふ、じゃあ持ってきますね」
 微笑んでミーミルがお汁粉をもらいに行くのを見やって、エリザベートが炬燵に腰を下ろす。
「お疲れ様です、エリザベート。見事な戦いぶりでしたね」
「あれくらいいつものことですぅ。カンナと決着をつけられなかったのが残念ですぅ」
 シャーロット・モリアーティ(しゃーろっと・もりあーてぃ)の労いにも、エリザベートはまだ戦い足りないといった様子で、炬燵の上の蜜柑に手を伸ばす。その横では霧雪 六花(きりゆき・りっか)が、蜜柑の皮むきに悪戦苦闘していた。ヘタの部分からでは硬くてむけず、何とかひっくり返して飛びつけば、にじみ出た汁の直撃を食らって蜜柑汁塗れになってしまっていた。
「……向こうの攻撃は、動作に移るまでが早かった。まるでワタシと同じ」
 シャーロットに拭いてもらいながら、六花が環菜の戦いぶりを評価する。
「ちまちまするのは気に入らないですぅ。一発撃ち込めばそれで終わりなんですからぁ、後はその威力を持った攻撃を連発すればいいだけですぅ」
「それは、エリザベートにしか出来そうにないですね。本当、尊敬しますよ」
 頷いて、シャーロットが嗜みとするハッカパイプをふかす。……一発の威力だけならエリザベートに引けを取らないであろうと思われる、さて豊美ちゃんはと言うと。
「せっかく用意してもらったのに、壊してしまってごめんなさい。特注のを用意させますから、それまでお待ちください」
「えっと、そんなにかしこまらなくていいですよー。元はといえば私が勝手に持って来ちゃったものですからねー」
 環菜に頭を下げられて、慌てて頭を下げ返していた。高飛車なところがある環菜も、流石に相手が『かつて日本を治めた天皇』だとかしこまるようだ。もっとも、豊美ちゃんにそんな意識はないのだが。
「あ、私、お雑煮持ってきますね! 環菜さんは羽根突きでお疲れでしょうから、そこでゆっくりしててください」
「そんな、それくらい私が――」
 環菜の静止を振り切って、豊美ちゃんがお雑煮を取りに行く。
「まあ、歴史がどうあれ、今は俺たちがお邪魔する立場にあるのだ。おば上の好きなようにさせてやってくれ」
 立ち上がろうとする環菜が、馬宿に諭されて仕方なく炬燵に腰を下ろす。ふと横を見ると、パメラ・サカザキ(ぱめら・さかざき)がお雑煮と格闘を繰り広げていた。
「ん〜、んまい! こうして腹一杯餅が食えるなんて、幸せだなぁ……でも、どこまでも伸びるのがちょっと食い辛いな」
「そうね。だから私の場合は、先に一口サイズに切ってからお雑煮にしていたわ。……まあ、それはそれで、お雑煮らしくないって思うこともあったわね」
「へぇ、そうなんだ〜……って、か、カンナ校長!?」
 今頃になって隣に環菜がいることに気付いたパメラが、慌てて姿勢を正す。
「そんなにかしこまらなくてもいいわ。あの子だって言ってたじゃない。それに今日は元旦、今日くらいは無礼講だわ」
「は、はぁ……ま、カンナ校長がそう言うってんなら、ま、いっか!」
「環菜さん、お待たせしましたー。……あ、お餅、切った方がよかったですか?」
 お雑煮を持ってきた豊美ちゃんに、環菜が首を振って答える。
「いえ、このままで大丈夫です。この方がお雑煮らしいですから」
 箸を手にした環菜が、伸びる餅と格闘を繰り広げながら、異国の地で味わう祖国の味を堪能する。
「おっ、カンナ校長いい食べっぷり! 私も負けてられないね!」
「じゃ、じゃあ私も――」
「おば……豊美ちゃんは止めておいた方が無難ですよ。詰まらせたら大変です」
 そうして、賑やかで楽しい時間が流れていく。

「美味しかったですぅ〜。このお汁粉とやら、気に入ったですぅ〜」
「じゃあ、作り方を聞いてみましょうか。……あ、お母さん、汁がついてます」
 エリザベートの口の周りについた汁を、ミーミルが丁寧に拭っていく。
「あれじゃ校長の立場がないわね。……まあ、見た目は間違ってないわね」
「見た目だと、私は環菜さんの妹くらいですかね? それはそれで面白そうです」
「確実に無理があると思いますよ、おば……豊美ちゃん」
 皮肉を口にする環菜の横で、実年齢のことを異次元に葬って豊美ちゃんが口にし、それにツッコんだ馬宿が豊美ちゃんに杖で突付かれる。
「あれ、二人とも勝負ついたんだ?」
 そんな一行の前に、緋桜 ケイ(ひおう・けい)悠久ノ カナタ(とわの・かなた)ソア・ウェンボリス(そあ・うぇんぼりす)雪国 ベア(ゆきぐに・べあ)が姿を表す。
「一時休戦なだけですぅ。新しい羽子板が来たら再開するですぅ」
「そうなんですか。じゃあ、その間に皆さんで一緒に、年賀状を書きませんか?」
 言ってソアが、炬燵の上にハガキやペンといった道具を並べていく。
「ああ、そういえばそうね。今じゃすっかりメールばかりで、考えもしなかったわ」
「私も日本にいた時は毎年書いてましたよー。やっぱり手書きが一番です。……あ、でもあれだけは認めますよ、えっと、何て言うんでしたっけ、ハガキを置いて、こう、がちょん、ってやるの」
 豊美ちゃんが身振り手振りで説明するが、肝心の製品名が出てこない。それも仕方のないことで、当の代物は十年以上前に生産を終了していた。
「なんだか面白そうですぅ。早く教えるですぅ」
 エリザベートに急かされて、ケイとカナタ、ソアとベアが並んで片側に、エリザベートとミーミル、環菜と豊美ちゃん、馬宿がもう片側について、さらに興味を持った他の生徒も一緒に、年賀状作りが開始される。
「まずは、誰に宛てて書くかを、こちらの面に書くのじゃ」
「私はお母さん宛てに……うぅ、綺麗に書けません……」
「大丈夫ですよミーミル、一緒に書けばきっと上手く出来ます」
 ソアがミーミルのサポートにつきながら、一文字ずつハガキに文字を書いていく。
「私は……仕方ないですねー、ウマヤドに書いてあげますよー」
「……別に、おば……豊美ちゃんからもらっても嬉しくはないですが」
「もー、素直じゃないですねー。本当は嬉しいって思ってるのにー」
「……人の心を勝手に捏造しないでくれませんか」
 文句を言いつつも、馬宿はハガキに『飛鳥 豊美』と書いてある。
「おっと、折角の機会だし、エリザベートはカンナに、カンナはエリザベートに書いてもらうぞ」
「はぁ? 何を言っているんですかあなたは。どうして私がお凸に書かなくちゃいけないんですかぁ」
「私だって、枝毛っ子に書くのは御免だわ」
 露骨に嫌そうな顔をするエリザベートと環菜。
「お母さん……」「環菜さん……」
 そこに、ミーミルと豊美ちゃんが、『仲良くしましょうよ』オーラを纏って二人に呼びかける。
「……し、仕方ないですねぇ、今日だけですよぉ」
「……ここで抵抗するのはリスクが大きいようね」
 渋々ながらハガキに互いの名前を書くエリザベートと環菜にはおそらく、『、でないと……』という言葉が見えていたことだろう。
「書き終わったかの? では、裏に各々好きな文字や絵を書くのじゃ」
 カナタの説明が終わり、各自が鼠の絵だったり新年を祝う言葉を書いていく。
「今年はえーと……ねずみ年ですよねっ」
「違うな、ご主人。今年はクマ年だぜ!」
「……えっ?」
「クマ、ですか? じゃあクマを描けばいいんですか?」
 ベアがあまりに自信たっぷりに言うので、ソアも「あれ、クマ年でしたっけ……?」と呟き、ミーミルは既にクマを描く気満々といった様子である。
「おう! ミーミル、描くならこれくらいカッコよく描いてくれよな!」
 言ってベアが、いつの間にか描いた絵を見せる。それはおそらくベア自身を模したであろう、『鼠を喰らう獰猛な白熊』のイラストであった。
「ね、ネズミさんが食べられちゃいます! ベアさん、乱暴なことしないでください!」
「あ、いや、これはあくまで『俺様ってこんなに強いんだぜ!』のイメージであって、実際にそうするわけじゃ……」
 そうこうしているうちに、「やっぱりクマ年なんてないです!」と混乱から回復したソアが、虚言を吹き込んだベアに詰め寄る。
「ベーアー! 駄目じゃないですか、ミーミルに嘘教えちゃっ!」
「ま、待てご主人、これは……ギャー!」

「皆、出来上がったかの? では、この場で渡してしまおうかの」
 それぞれが思い思いの年賀状を手に、普段親しくしている者、ちょっと気になる者などへ想いを込めた年賀状を手渡していく。
「カンナのお凸がもっとピカピカになる魔法をかけておいたですぅ。ありがたく思うがいいですぅ」
「紫外線照射装置を貼り付けておいたから、取り扱いには注意しなさい」
 エリザベートと環菜が、年賀状の趣旨から外れているような気がする年賀状をそれぞれ手渡す。
「あはははは! ウマヤドー、これ何ですかー? ウマヤドは絵がヘタですねー」
「……おば上だって人の事を笑えた程度ではないと思うのですが」
 豊美ちゃんと馬宿の描いたネズミは、尻尾が9本になっていたり羽が生えていたりと、中々に混沌としていた。一体彼らはどんなネズミを見てきたのだろうか。
「はい、お母さん。新年、明けましておめでとうございます」
 ミーミルが、エリザベートに自作の年賀状を手渡す。
「これは、私ですねぇ。こっちはあなたですねぇ」
「わぁ♪ ちょっと見ただけで分かってくれて、嬉しいです! お母さん、大好き!」
 思わずエリザベートに抱きつくミーミル、体格の差と羽の分で、エリザベートが隠れてしまう。……ちなみに構図としては、『ネズミにまたがるエリザベートとミーミル』なのだが、それをきっちり判別できるのは、おそらくエリザベートだけであろう。
「はい、ベア。今年もよろしくお願いしますね。……少しは反省しましたか?」
「おう……って、あー!」
 笑顔で年賀状を差し出すソアの目の前で、あぐらをかいて頭に蜜柑を載せられたベアが、こくり、と頷く。すると当然、蜜柑が頭から転げ落ちる。
「あーあ、また落としちゃいましたね。というわけでベア、もう少しそのままでいてくださいね」
「か、カンベンしてくれー!!」

「う〜ん……一休みしたらまた遊びたくなったですぅ。カンナ、新しい羽子板はできたですかぁ?」
「とっくに届いてるわ。また壊しても問題だから、私との対戦はなしね」
「む〜、仕方ないですねぇ」
 環菜から羽子板を受け取ったエリザベートが、遊び場の方へと向かっていく。
「あ、待ってください、お母さんっ」
 環菜に続いてミーミルも、エリザベートの後を追って駆けていく。
「ウマヤド、私たちも行きましょう!」
「そうですね。たまには戯れるのもいいでしょう」
 豊美ちゃんと馬宿も、道具を手に後に続き、一旦、平穏な時間は終わりを告げる。
 ……そう、ここからは、過激で過酷な戦い『ハイブリッド羽根突き』の時間であった――。