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【2020年はじめ】こたつにみかん、であけまして

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【2020年はじめ】こたつにみかん、であけまして

リアクション



●新年ならではの遊びに興じましょう

「のう、ルミーナ。おまえの所のミルザムとクイーン・ヴァンガード……」
「あら、こんな時でも敵情視察ですか? 抜け目がありませんわね、アーデルハイトさん」
 羽子板で羽根を打ち合いながら、アーデルハイトとルミーナが会話を交わす。緩やかな軌道を描きながらお互いを行き来する羽根は、きっと二人の読み合いなぞ知らないであろう。
「敵、などとは言っておらん。あの十二星華の者共の方がよっぽど胡散臭いわ。あ奴らに国を建てられるくらいなら、まだ素性の知れてる者に託した方がマシじゃ」
 羽根を打ち返しながら、アーデルハイトが言い放つ。
「イルミンスールはどうなさるおつもりですの?」
「私らの願いは魔術結社の地位向上、国の建立もその布石に過ぎぬよ。……エリザベートはまた、カンナと蒼空学園に個人的な恨み……というよりは、単に負けたくないだけじゃの。ま、今のところは特別害にもならぬ故、やりたいようにやらせておるよ。邪魔になるかもしれんが、大目に見てやってくれ。生徒の刺激にもなるじゃろうて」
 飛んできた羽根を、今度はルミーナが打ち返す。
「そのような事、話していいんですの? 私たちはあなた方の味方というわけではないのですよ」
「ならば鏖殺寺院や十二星華に話せと? それこそ御免被るわ。利用するにしても、相手を選ばねば自らの崩壊を招く結果になるからの」
「……今のは、評価されていると取って宜しいのでしょうか」
「さて、どうかの? ……ほれ、羽根が落ちたぞ。罰ゲームとやらは貸しにしておいてやろう」
 不敵に微笑みながらアーデルハイトが立ち去る。背後を振り返ったルミーナの視界に、地面に落ちた羽根が映った。

「御神楽校長、比較的新入生の意地を見よ!」
 環菜とエリザベートが『ハイブリッド羽根突き』に復帰してからしばらくして、エヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)ロートラウト・エッカート(ろーとらうと・えっかーと)のペアが環菜に勝負を挑む。
「いいわよ。手加減はしないけど、お手柔らかに頼むわね」
「カンナちゃん、校長だからって言い分がヒドイよ〜」
 ロートラウトの言葉に、何か文句があるかしら? と言いたげな表情を浮かべて、環菜が先攻で羽根を打ち出す。エリザベートに火力で劣る分、環菜はこういった部分で強さを補っているとも言えた。
「既に勝負は始まっているぞ。油断するな!」
 ロートラウトに注意を促して、エヴァルトが羽根を打ち返す。互いに威力よりも正確さを重視し、相手が打ちにくくなる場所へ落とそうと打ち返す様は、ネットとコートのないバドミントンとでも言うべきだろうか。
「それー!」
 飛んできた羽根を、手持ちの武器に取り付けることで取回しをよくした羽子板で打ち返すロートラウト、そんな彼女の姿を見てエヴァルトは、今朝の初夢の内容を思い返す。
(今この瞬間にでも実現すれば、素晴らしい上に勝負にも勝てそうな気がするのだが……)
 『ロートラウトがサポートメカを見つけて変形合体する』という夢の実現を願うエヴァルトだが、流石にそんなことはなく、そして返された羽根が迫ってくる。
(ならば、自らの力で勝利を収めるのみ!)
 羽子板に雷の力を宿らせ、エヴァルトが羽根に電撃を乗せて振り抜く。落下位置に向かった環菜がそれを受け止めるが、次の動作に移る動きがそれまでよりも格段に鈍い。
(電気系統に故障が生じたか!? 勝機は今!)
 視線でロートラウトに命じれば、それに応じてロートラウトが羽子板から闘気を打ち出し、それに押されて羽根が環菜側へと飛んでいく。勝利を確信した二人が足を止めた一瞬の矢先――。
「引っかかったわね」
 いつの間にか落下位置に移動していた環菜が、お返しとばかりに二人の間を抜ける正確無比な一撃を見舞う。
「ええっ!? カンナちゃん、動けないんじゃ――」
「そう見せかけただけよ。リズムを狂わせようとしたのは、あなたも同じでしょう? 私もそれを真似しただけよ」
 身に付けた強化スーツ――クイーン・ヴァンガードで制式採用されているものの、プロトタイプ――を撫でて、環菜が微笑んだ。
「くっ……やはり恐るべし、デコ校長……!」
 悔しげに呟いて崩れ落ちるエヴァルトへ、筆から油性ペンに持ち替えた環菜が迫る――。

「明けましておめでとうございます、校長。今年も蒼学に負けないよう、校長直々に鍛えてもらえませんか」
 一方エリザベートには、ザカコ・グーメル(ざかこ・ぐーめる)強盗 ヘル(ごうとう・へる)のペアが勝負を挑んでいた。
「いい心がけですぅ。それではぁ、いきますよぉ!」
 エリザベートが念を込めれば、手を離れた羽子板が、まるでもう一人誰かがいるかのように振る舞いながら羽根を打ち出す。可動範囲は人間のそれと比べものにならない程に広く、意思も分かりにくいため非常に打ち返しにくい。
「流石校長、ですがこの程度でしたらまだ……!」
 それに対してザカコは、微弱な意思を読み取って先回りし、時に瞬速の動きを交えて羽根を打ち返していく。
「なかなか、やりますねぇ。では、これはどうですかぁ?」
 エリザベートの背後に12の火の玉が浮かび上がり、羽子板にも炎がほとばしり、打ち出された羽根と火の玉が一斉にザカコへ襲いかかる。
「おいおいマジかよ、こりゃヤベーんじゃねーか!?」
「……ヘル、後ろに付いてください。行きますよ!」
 ザカコの指示に従いヘルがザカコの背後に付いた直後、ザカコの身体から冷気が立ち昇り、羽子板に氷が付着する。気合を込めた一撃を振るえば、炎と冷気が相殺し合って消し飛び、残った炎の羽根は氷の羽子板に打ち返される。
「おお、スゲエぜ!」
「いいですねぇ。ではお次はこれですぅ!」
 エリザベートが羽子板に魔力を込めれば、それに打たれた羽根が突如姿を消す。
「おい、どこ行ったよ!?」
「羽根をテレポートさせる、それも想定済みです……!」
 呟いたザカコが気を集中させれば、消えていた羽根が自分の近くに姿を現す。後は羽子板でそれを打ち返すだけ――。
「そうはさせないですぅ」
 言ったエリザベートがぱん、と手を叩くと、再び羽根が姿を消す。ここまですると何でもアリの世界でもあるが、羽根を打ち返すまではエリザベートのターンなので、反則というわけでもない。
「……自分では使えて数度、その後は感覚で打ち返すしかないですね……ヘル、カバーは頼みますよ」
「お、おう! 取れる自信サッパリねえが、やるだけやってやるぜ!」
 引き寄せてはテレポートの応酬が数回続いた後、再び消えた羽根が地面スレスレのところに現れる。技の酷使で疲労したザカコでは追いつけず、ヘルも果敢に羽子板を伸ばすが、羽根の柔らかい部分がかすっただけで、無常にも地面に落ちる。
「私の勝ち、ですねぇ。ですが、ここまで善戦するとは予想外ですぅ。相手がカンナならあなたが勝っていたですぅ。落書きはしないでおいてやるですからぁ、これからも鍛錬に励むといいですぅ」
 エリザベートの言葉に、離れたところにいた環菜が視線を向けつつも、何も言ってこない辺り、エリザベートの言葉は的を得ていたようである。
「……そこまで言っていただけたこと、光栄に思います」
 晴れ晴れとした顔で、ザカコが礼を返す。

「私と勝負してくれる方はいませんかー?」
 豊美ちゃんが杖を羽子板に持ち替えて、一緒に打ってくれる人を募っていた。
「はーい! 豊美ちゃん、一緒に遊ぼっ!」
「あそぶあそぶ〜」
 それに応じて、クラーク 波音(くらーく・はのん)ララ・シュピリ(らら・しゅぴり)が名乗りをあげる。波音はピンクの桜柄、ララは黄色の猫柄の振袖を身に纏っていた。
「お二方ともよく似合ってますねー。では私も……えいっ」
 豊美ちゃんが羽子板を上から下に振ると、あら不思議、何時の間にやら赤色の牡丹柄の振袖に着替えていた。振袖なところにツッコミを入れたくなるかもしれないが、そこは気にしてはいけない。
「それではいきますよー」
 豊美ちゃんが羽根を打ち出し、エリザベートや環菜の行っているのとは違う、ある意味で本来の羽根突きが催される。
「あっ、豊美ちゃん。あの時はごめんなさいっ」
「えっ? な、何のことですか?」
 飛んできた羽根を一旦受け取って、豊美ちゃんが尋ねる。
「あのね、修学旅行の時、あたし豊美ちゃんのスカート捲くろうとしちゃって……」
「ああ、ありましたねそんなこと。いいですよー、私も大人気なかったですから。あ、だからって見ていいとか、身せるつもりはないんですよ? ……そうでなくてもバレちゃってますからね……
「? どうしたの、豊美ちゃん?」
「ああいえ、何でもないです何でもないです。……私はあのこと、全然気にしてないですよー。だから、あなたも気にせず仲良くしてくれると、嬉しいです」
 笑顔を見せる豊美ちゃんに、不安げだった波音の表情が和らいでいく。
「……うん! ありがとう、豊美ちゃん!」
「ありがとうなの〜! 豊美おねぇちゃん、ララにも羽根突きおしえて〜!」
「はい、いいですよー。じゃあまずは持ち方からやってみましょうねー」
 豊美ちゃんに基本的な遊び方を教わったララを交えて、三人でゆったりとした打ち合いを繰り返す。
「そうだ、豊美ちゃん。豊美ちゃんにも何か技とかあるのかな?」
「えっと、エリザベートさんや環菜さんほどじゃないですけど、あるにはありますよー。じゃあ特別にあなた方にお見せしますねー」
「わ〜、たのしみたのしみ〜」
 波音とララが見守る中、羽子板を水平に構えた豊美ちゃんが、羽根を上空に放る。軽い力で放られたはずの羽根は遥か高くまで飛び、そして重力に引かれて落ちてくる。
「貫け羽子板! 陽乃光一貫!」
 そして、豊美ちゃんの得意技『陽乃光一貫(ひのひかりひとぬき)』の要領で羽子板を突き出せば、普段は魔力の刃が飛び出す代わりに羽根が刃の如く、音速を超えた超音速で飛び荒ぶ。波音もララも、豊美ちゃんが羽根を打ったのは見えても、打たれた羽根がどこに飛んでいったのか分からない程であった。
「わぁ、すごいすごい〜」
「凄い……けど、豊美ちゃん。羽根はどこに行ったのかな?」
 手を叩くララの横で、首を傾げる波音の元に、どこからか羽根が飛ばされてくる。それには一枚のメモのようなものが括りつけられていた。
「えっと……『器物破損による壁の修理代請求 1000G』?」
「あああ! うっかりしてましたー! せめて上に打つべきでしたー! ごめんなさいカンナさーん!」
 頭を抱えて悔やむ豊美ちゃん、だが、おそらく上に打てば天井を貫通し、やはり環菜から請求書がいっていたことだろう。

「ルミーナさん、俺たちとダブルスで勝負しませんか?」
 勝負が終わり、少し離れた場所で皆の遊ぶ様を眺めていたルミーナとアーデルハイトのところへ、風祭 隼人(かざまつり・はやと)アイナ・クラリアス(あいな・くらりあす)が対戦を申し込みにやってきた。
「ふむ、私らに勝負を挑むとは、なかなかに見所のある者じゃの。よかろう、付き合ってやるかの」
 立ち上がったアーデルハイトに、あ、と呟いて隼人が告げる。
「俺はルミーナさんと組みたいので、アーデルハイトさんはアイナと組んでもらえませんか?」
「私とですか? ええ、私はそれでも構いませんけど……」
 ルミーナが視線を、何やら険しい表情を浮かべているアイナへ向けつつ言う。
「……私もそれで構わんの。嬢ちゃん、作戦タイムじゃ、こっちへこい」
 アーデルハイトがルミーナに『任せておけ』と目配せをして、アイナを呼び寄せる。
「私が援護してやるから、嬢ちゃんは向こうの坊っちゃんにキツイの見舞うがよいぞ」
「……アーデルハイトさんにはお見通しなのね。でも今は、その申し出受けさせてもらうわ」
「それでよい。蒼空の者が腑抜けていては頼りないからの」
 そして、準備を終えたとばかりにアーデルハイトとアイナが、ルミーナと隼人に向き合って立つ。
「では、いきますわ」
 ルミーナが羽根を打ち出し、羽根突きが開始される。これといった能力や技を使うこともない、今のところは穏やかな羽根突きであった。
「楽しいですね、ルミーナさん!」
「そうですわね。あ、羽根、いきましたわ」
 ルミーナと隼人のペアも、何も知らない者が見たら仲睦まじいカップルに見えなくもない様子で、羽根突きを楽しんでいた。
さて、そろそろかの。……そろそろ私の本気を見せてやろうかの!」
 アーデルハイトが頃合いとばかりに、羽子板から炎を噴き出させ、炎に包まれた羽根を打ち出す。
「! 危ない、ルミーナさんっ!」
 危険を察知した隼人が、自らの身を挺して羽根を受け止める。炎が髪を焦がすが、羽根は羽子板に弾かれ、ふわりと宙を舞ってアイナのところへ飛んでいく。
「覚悟しなさい、エロ隼人!」
 アーデルハイト謹製ギャザリングヘクスで遥かに効果の高まったパワーブレスの加護を纏い、アイナが羽子板を振り抜く。飛び荒ぶ羽根を隼人は避けられない、否、避ければ背後のルミーナに当たるのを知ってるためあえて避けず、それも羽子板で何とか防ぎきる。
「大丈夫ですか?」
「え、ええ、これくらい大したことないです。……アイナ、また俺に突っかかってくるのか。一体俺が何をしたっていうんだ……
 ルミーナの心配する声に、気丈に答える隼人。もちろん、アイナが何を思っているのかは彼の知るところではない。
「隼人……私の『破怒羽灸(はどうきゅう)』は108発まであるわよ!」
 一方でアイナは、二発目のスマッシュの準備を終えていた――。

「はぁ……こたつにみかん、いいですねぇ」
「隼人君はあと何発耐えられるかな? 私は20発で限界だと思うね」
 そんな四人の和気藹々? な羽根突きを、炬燵で蜜柑を頬張りながらソルラン・エースロード(そるらん・えーすろーど)と士元が見守っていた。既に隼人がアイナのお仕置きを食らってズタボロになることを想定して、彼を保健室に運ぶための担架の準備は済ませていた。
 ……結果、36発目の破怒羽灸(はどうきゅう)を食らったところで隼人が地面に伏せ、二人の手により運ばれていく。
「まだ3分の2煩悩が残っているのね……はぁ」
 アイナと隼人、二人のすれ違いはまだまだ続きそうである。

「俺たち一人ずつじゃ負けるのは必至! だが、タッグなら校長二人だろうと負ける気はしねえ!」
「言いましたねぇ〜! カンナ、あの二人をギッタンギッタンにしてやるですぅ!」
 ウィルネスト・アーカイヴス(うぃるねすと・あーかいう゛す)の挑発に乗ったエリザベートが、環菜とのタッグマッチを組むことをあっさりと承諾する。だがこれは、エル・ウィンド(える・うぃんど)とウィルネストが考え付いた作戦でもあった。
(校長達の仲はすこぶる悪いし、無理やりタッグマッチに持ち込めば勝機はある!)
 エルの思惑通り、エリザベートはやる気満々なのに対して、環菜は乗り気でないのがありありと見て取れた。魔術の力量では比べ物にならない差があったとしても、羽根突きの場で使える魔法は限られている。となれば、二人のコンビネーションはそれなりに意味を成すものである。
「うっしゃあ、行くぜー! エル、俺たちのコンビネーションを見せつけてやろうぜ!」
「ああ、ウィル。だが校長二人が相手だ、油断せずに行こう」
 実際、ウィルネストとエルのペアは息の合ったプレイを見せているのに対し、エリザベートと環菜のペアは主にエリザベートが出しゃばって打っているだけで、環菜と協力する気が全くなかった。
「校長ペアさん、足並み揃ってないぜ? ……まだまだだね」
「ムカツくですぅ〜! あなたたち、覚悟するですぅ〜!」
 憤慨したエリザベートが、無数の火の玉と共に羽根を打ち出す。それもウィルネストの氷術を織り交ぜたショットに、難なく打ち返される。
「おや、部屋の中でも初日の出が見れるとは、風流ですね?」
「昨日校長がーカンナのデコはエルより眩しいって言ってたよ〜う?」
 そして環菜には、エルの光術やウィルのマイク攻撃といった妨害が浴びせられる。エリザベートのように乗せられやすい体質ではない環菜も、少しずつイライラが募ってくる。そして、環菜が弾いた羽根が、チャンスボールとばかりに高く宙に浮き上がる。
「今だ、エル!」
「行くぞ、サンダーグラヴィティドロップ!」
 ウィルの声に応え、エルが宙高く飛び上がり、羽根に落下する勢いとサンダーブラストによる雷光を纏わせた一撃を見舞う。
「何だか知りませんが、打ち返してやるですぅ〜」
「おっと、これでもそんな台詞が言えるかな?」
 羽子板を構えたエリザベートが羽根を視界に捉えかけたその時、ウィルネストが氷片を霰のように降り注がせる。
「い、いたいですぅ! 目に入ったですぅ!」
 下を向いたエリザベートの真横を、羽根が地面に穴を開けて着弾する。
「どうだ! 俺たちの勝ちだ!」
「ボクたちのコンビネーションの勝利だね」
 勝利を喜ぶ二人が、「くやしいですぅ〜」と声をあげるエリザベートへ歩み寄り、墨と筆……ではなく、コップに入った謎の液体を取り出す。
「バツゲームが顔に落書きだけじゃ足りねーと思ってな、俺、おまけを用意してきたんだぜ?」
 ほくそ笑むウィルネストが用意したのは、『5倍濃縮オレンジジュース+5倍濃縮コーヒー+お湯』という、つい好奇心で混ぜてしまって後でこの世の絶望を味わう飲み物ナンバーワンにランクインするかもしれない代物であった。
「うわ、クサイですぅ〜。こ、これを飲めというのですかぁ?」
「校長はボクたちに負けたのですから、飲んでもらわないといけないでしょうね」
 エルの言葉に、何も言い返せないエリザベートが、恐る恐る手を伸ばした矢先、環菜がコップを奪い取る。
「エリザベートの勝ち負けはどうでもいいけど……私にしたこと、まさか忘れたわけではないわよね?」
「え〜なんのことだったかな〜」
 とぼけるウィルネストを、環菜がいつも装着しているバイザーを外して睨みつける。
「ヒッ!! ……ハイ、ワタシガノマセテイタダキマス」
「ウィル!? どうしたんだ一体……ギャアッ!!」
 ウィルネストを止めようとしたエルが、環菜の顔を直視した瞬間、顔をひきつらせて卒倒する。そしてウィルネストも、自らが用意した飲み物を飲み干した後、やはり卒倒する。
「これからは、発言には気を付けることね」
 再びバイザーを装着した環菜、一体そこにはどんな秘密が隠されていたのだろうか――。

「カンナがのろまだから負けたんですよぉ!」
「勝手に巻き込んでおいて、言い掛かりは止めてほしいわね。そのつもはなかったけど、ここで決着をつけさせてもらうわ」
 エリザベートが負けた腹いせに環菜を責め、それに環菜がカチンと来たのか、羽子板を構えて臨戦体勢を取る。
「待った待ったー! 私も勝負に混ぜて混ぜてー!」
「校長ー! 俺と組んでください校長!」
 今まさに勝負が開始されようとしていた矢先、環菜側に小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)が、エリザベート側に出雲 竜牙(いずも・りょうが)が参戦を希望する。
「面白そうですぅ〜。あなた、ヘマしたらただじゃおかないですよぅ〜」
「任せてください! 二人であのデコっぱち校長の鼻を明かせてやりましょう!」
「……あなた、もしもの時は迷惑をかけるかもしれないけど、よろしく頼むわね」
「えっ!? 一体何を――」
 するつもり、と言おうとした美羽は、環菜が腕につけたハンドヘルドコンピューターを操作するのを見とめる。瞬間、電子音が響き、何か英語のような人工音声が響いた後、環菜がディスプレイを閉じる。
「行くわよ、エリザベート。魔法なんて、所詮科学に勝てはしないのよ」
「何を言うですかぁ、魔法こそ最大最強の力ですぅ! ガラクタに用はないですぅ!」
 環菜が羽根を打ち出し、勝負が開始される。羽根突きは初っ端から、エリザベートの火の玉と環菜の数倍に加速された動きの応酬という戦いに発展していた。
「何か凄いよー!? でも、私だって『音速の美脚』って呼ばれてるんだからね!」
 一方美羽も、その俊足で羽根に飛び付き、打ち返していく。大きく脚を開いても、ダイブして飛びついても、見えそうで見えないギリギリズムが、いつの間にか男性の観客を集めていく。
「動き回るだけじゃ、勝負はつかないぜ!」
 言って竜牙が、飛んできた羽根に対し、ドラゴンアーツとバーストダッシュの効果を羽子板ではなく足に付加し、それで足元の畳を踏み抜けば、畳が羽子板の代わりに羽根を受け止める。
「忍法『畳返し』! お命頂戴だぜっ、デ校長! その綺麗なデコを吹っ飛ばしてやる!」
 今度はドラゴンアーツの効果を羽子板と腕に付加し、竜牙が振り抜く。
「……吹き飛ぶのはあなたの方だわ」
 それに対して環菜がキーを押せば、バイザーに文字が浮かび上がる。そして環菜が羽子板をまるでバットに見立てて構え、飛んできた羽根を畳ごと打ち返す。
「な、何いいいいいぃぃぃぃぃ!!」
 高速で迫る壁を避けることは叶わず、竜牙が畳と共に遥か高くまで吹き飛ばされ、重力に引かれて落ちる。ちょうど畳の上だったので大きな怪我はなかったが、目を回してのびていた。
「……出力にムラがあるわね。今後の改良点かしら」
「あ、あの強化スーツにはあんな機能まであったの?」
 コンピューターを操作して、機能を解除する環菜を見やって、美羽がエリザベートへ歩いていく。
「はい、じゃあルールなので、落書きしちゃいますねー」
「うぅ、仕方ないですぅ」
 言って美羽が、エリザベートの頬にかわいい猫のヒゲを描いていく。

「……うむ、覚えたのじゃ! では尋常に勝負なのじゃ!」
「せしせしには負けないですよーっ」
 周りの打ち合う様子から大体のルールを把握したセシリア・ファフレータ(せしりあ・ふぁふれーた)が、羽子板を構えた桐生 ひな(きりゅう・ひな)に羽根を打ち出す。
「開始早々いきなり必殺技ー! 光に飲み込まれてしまえば良いのですー」
「のわあっ!?」
 飛んできた羽根を、ひなが光を纏わせた羽子板で力の限り打ち返す。セシリアは打ち返すことができず羽根が地面に落ちる。
「まずはせしせしが罰ゲームですー。まーるかいてまーるかいて、はいっ!」
 ひなが、傍に置いた筆を墨汁入りのボトルに漬け、セシリアの両の頬に丸を描いていく。
「むむむ、油断したのじゃ……次は遠慮なく行くぞえっ!」
 セシリアが気を取り直して、羽根を高く放り投げる。
「妙技、フラッシュストリームじゃ!」
「あうっ! 目が、目が〜」
 打つと同時に、羽根から光を照射する術をかけたセシリアの技をもろに食らって、ひなが目を押さえてうずくまる。もちろん羽根を打ち返すことができず、羽根が地面に落ちた。
「にゃはは、観念しろなのじゃー♪」
 今度はセシリアが、ひなの顔を塗りつぶす勢いで筆を走らせる。
「やりましたねー。でも、パワーなら私が上ですよー!」
「私には魔法があるのじゃ! 必殺……アイスコフィンスマーッシュ!」
 ひながとにかく力任せでポイントを稼げば、セシリアは魔法を乗せた羽根で同様にポイントを稼ぐ。
「うー、顔がべったりなのじゃ」
「せしせし、頬もおでこも真っ黒ですー」
 そして、互いにポイントを取るたびに、墨をたっぷりと塗りたくっていく。やがて、顔の全てのパーツが墨で二度塗りされたところで、セシリアが勝負の終了を告げた。
「楽しかったのじゃーっ。……すっかり真っ黒になってしもうたが」
「真っ黒なせしせしも可愛いのですよーっ」
「うにゅー、くすぐったいのじゃー」
 互いの頬をすり合わせてキャッキャウフフするセシリアとひなの背後で、ナリュキ・オジョカン(なりゅき・おじょかん)が人2人分はありそうな巨大な羽子板を手に、にひひっ、と微笑みながら忍び寄る。
「さあ、ここからが本当の罰ゲームですー。潔くびたーんといきましょうです〜」
「う、うむ。しかし顔拓取りとは、ひなも妙な趣味があるのう。まあ、どうせ真っ黒だから構わぬがの」
「せしせし、笑顔でいくのですよ〜。私も一緒に取っちゃうのですよ〜」
 床に敷かれた和紙を前に、セシリアが首を傾げつつも顔を近づけ、ひなも笑顔を浮かべたまま顔を近づける――。

「今だにゃーっ!!」

 その瞬間、二人の横に進み出たナリュキが、振り上げた巨大羽子板を容赦なく振り下ろす。むぎゅっ、と音が2つして、セシリアとひながその羽子板にプレスされる。
「にゃはは、大成功なのにゃー! ……もーっと巻き込めたらもーっと面白かったけど……ま、いいにゃ」
 うんうん、と頷いたナリュキが、うんしょ、と巨大羽子板を垂直に立てる。床には二つの顔拓が、そして二人は仲良く羽子板の模様となっていた。
「にゃはは、ひなもせしーも素敵なのじゃー。……あ、じゃあこれは持ち帰ってやるにゃー」
 上機嫌に羽子板を担ぎながら、顔拓を回収したナリュキがその場を後にする。

「……皆さん、凄いですね。私はあのようには振る舞えそうにないので、普通の羽根突きでよろしいですか?」
「いいですよー。……実のところ、私ももう壁は壊したくないので、それでいきましょうー」
 そこかしこで、明らかに『羽根突き』の次元を超えた羽根突きが行われている中、ナナ・ノルデン(なな・のるでん)ズィーベン・ズューデン(ずぃーべん・ずゅーでん)、豊美ちゃんと馬宿の四人は本来の羽根突きを楽しんでいた。
「ボク、この次元でも結構キツイんだけどー。炬燵に入ってぬくぬくしてたかったのにー……あっ!」
 どうやらこの中で一番運動が苦手らしいズィーベンが、飛んできた羽根を打ち返せずに落としてしまう。
「はい、ズィーベンさん罰ゲームですー」
「済まんな、じっとしていろ」
 墨を含んだ筆で、馬宿がズィーベンの頬にバツ印を描く。既に丸印と三角印を描かれて、何ともな顔になっていた。
「ねえねえ、ボクだけこんなに塗られるのって不公平じゃない? 不公平だよね? 不公平だー!」
「まあ落ち着け。俺も何故かおば……豊美ちゃんの代わりにこの様だ」
 宥める馬宿の頬にも、バツ印がいくつか描かれていた。基本的に女性陣2人の方が運動神経がいいため、ある意味妥当な結果なのだが、たまに落とした豊美ちゃんの分まで馬宿は罰ゲームを受けていたのだ。
「罰ゲームを執行するのは女の子、受けるのは男の子の役目といいますし、いいのではないでしょうか?」
「いいと思いまーす」
 微笑むナナと、賛同する豊美ちゃん、当然のように二人の頬は綺麗そのもの。
「うのぉ! ま、待ってー!」
 そこに声が聞こえ、二人のところに別の羽根と、ミルディア・ディスティン(みるでぃあ・でぃすてぃん)がやってくる。
「はい、どうぞ」
「あ、ありがとう! さっき知り合った人と一緒に打ってたんだけど、ものすごい勢いで飛んでくるから追いきれなくて」
「ごめんなさいです〜」
 そこに、羽根をここまで飛ばした張本人、ミーミルがやってくる。
「ミーミル様!」
「あっ、ナナさん、ズィーベンさん、明けましておめでとうございます。ごめんなさい、軽く振ったつもりなんですけど意外と飛んじゃって」
「ミーミルって、もしかして力持ち? ちょっと打ってみてよ」
 ズィーベンに言われて、念のため数十メートル離れたところから、ミーミルが羽根を放る。
「えいっ!」
 打った瞬間、どのような原理が発生しているのか謎なくらい、羽根が猛スピードで上空を翔け、ちょうど一行の真下で重力に引かれてぽとり、と落ちる。
「ね? 見た目は普通なのに、凄いわよね」
 ミルディアの言葉に、一行がうんうん、と頷く。一体どこにあれだけのパワーが内包されているのだろうか。
「ねえ、あたしも混ぜてもらっていい? みんなでわいわい楽しみましょ!」
 そして、ミルディアとミーミルを加えて、賑やかな羽根突きが再開される。
「トヨミさんに、ウマヤドさんだね! 今年も全速全開で行くんでヨロシク〜!」
「はい、よろしくですー。じゃあ私は、全力全開でいきますよー!」
「……加減はしてくださいね、おば……豊美ちゃん」
 早くも意気投合したような感じのミルディアと豊美ちゃんを、馬宿が心配するように見やる。
「誰か、ボクの頬を守って〜」
「じゃあ、私が頑張ります!」
「……えっと、ミーミルはほどほどでいいと思うんだ、うん」
 声をあげるズィーベン、彼の頬は果たして肌色を保っていられるだろうか。……いや、多分無理であろう。
(昨年一年色々とありました。豊美さんや馬宿さんとの出会い、ミーミル様を巡る戦い、そして、精霊の方々を巡った事件……)
 そしてナナが、これまでの出来事を振り返りながら、飛んできた羽根に狙いを定める。
(これからどんな出会いや冒険が待っているのか、楽しみでもあり怖くもありますけど……それでも、皆さんとなら乗り越えられる。そんな気がします)
 振り抜いた羽子板に打ち返された羽根が、未来に向かって飛ぶ鳥のように宙を翔けていく――。