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パラミタ黒ウサギは、悪夢を見せる

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パラミタ黒ウサギは、悪夢を見せる

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7 触れてはいけないもの


 痩せ過ぎなのを気にして、いつも厚着をしていえるロザリンド・セリナ(ろざりんど・せりな)だが、ここでのメイド姿は胸元が大きく開いた超ミニスカートのセクシーなものだった。
「どうして、こんなメイド服なのでしょうか」
 物陰を移動して大広間に侵入したロザリンドも正気を保っている。
 パーティの会場を歩くと、トランプ兵たちがロザリンドの足をうっとりと眺めている。
「もしかしてセクシー路線なんでしょうか」
 ロザリンドは力強く頷くと、キッチンに向かう。
「女帝がお酒を所望されていますが、一番強いお酒をください」
 対応したのは男なのにメイド姿の如月 佑也(きさらぎ・ゆうや)だ。
「はいよ」
 ウオッカのボトルを差し出す佑也。お互い相手の格好をみないように、視線をそらす。
 ロザリンドはウオッカを手に回廊を歩く。見張り番のトランプ兵を見つけると、
「女帝様さまからの差し入れです」
 ウオッカを差し出す。
「いや、いらぬ」
「女帝様のご好意ですから」
 最初は断っていた兵も、ロザリンドにごり押しされると、つい杯に手が出る。
 酔って足元がおぼつかないトランプ兵も出てきた。
「とっても男らしい飲み方ですねぇ」
 ロザリンドのおだてに兵たちは杯を重ね、そのうちその場に寝転んでしまった。
 いびきまでかいている兵もいる。
「やれやれです」
 ロザリンドはミニスカートの裾を引っ張った。

 そこに、隠れ身を使って隠れていた菅野 葉月(すがの・はづき)ミーナ・コーミア(みーな・こーみあ)が顔を出す。
「すごいですね、君がみんな倒したのですか」
 葉月が感心している。
「交代の兵がくるかもしれないから、この人たちはアタシ達が部屋に隠すよ。ロザリンドは戻って!」
 頷くロザリンド。
 葉月とミーナーは兵を引きずって部屋に連れていき、逃げられないように紐で縛る。
「すまないけど、こうすれば戦闘に巻き込まれずにすみます。それにしても…」
 葉月は鼻をつまむ。酒臭いのだ。



 お宝を目指す人がいる。
 街にとどまる黒ウサギは怪しげなウワサを流している。女帝の城には触れてはいけない宝があると。
 その宝に惹かれて、自ら穴に飛びこんだものも多い。
 

 ドサッ。
 国頭 武尊(くにがみ・たける)は、アイリスたちと一緒に穴の中にもぐりこんだのだが、出てきた場所は違っていた。
「あのウサ公、俺をだましたなぁ」
 落ちた場所は城の外だ。
 黒ウサギはだましたわけではない。城内に落ちると、男はトランプ兵に女はメイドになる。城外ならそのままだ。
 いつものように軍服風に改造したツナギを纏い、ローグのスキルを駆使して、場内を目指す。
 武尊は歩きながらブツブツつぶやいている。
「光学迷彩と隠れ身を使って姿を隠し女帝の城に潜入し、トレジャーセンスを用いて宝物庫みたいな場所を探し、鍵はピッキング、トラッパーで罠を探し、博識で品定め、誰かに見つかったら煙幕ファンデーションだ、俺が見つけられない宝があるかぁ」
 実際すぐに武尊は宝の部屋を探しだし、両手ほどの大きさの宝石箱を見つけた。


 ドサッ。
 ガートルード・ハーレック(がーとるーど・はーれっく)パトリシア・ハーレック(ぱとりしあ・はーれっく)と共にメイドになって城の中を楽しんでいる。
「パトリシア、見ましたか?本当にトランプが歩いています」
 隠れ身を使って姿を消しているため、小声で話すガートルードだが、声が興奮している。
 ガートルードは外見年齢24歳くらいの大人だが、、実は13歳の子供だ。まるで絵のような城の様子にはしゃいでいる。しかし、本当の目的は宝探しだ。
 英霊のパトリシアもガートルードに協力している。
 ガートルードも武尊同様ローグのスキルを総動員して、両手ほどの大きさの宝石箱を見つけた。


 ドサッ。
 街を散歩していた遠鳴 真希(とおなり・まき)は偶然穴のなかにおっこちた。
「メイドって、いっぺんやってみたかったんだよね!」
 以前に真希は同じような経験をしている。だから、なんとなく楽観的だ。
 始めは歩や見知った友達と楽しくメイドしていた真希だったが、しだいに皆が調度品に変えられて、一人になることが多くなってきた。
「ここどこだろう?」
 ついに迷っている。
「うー、お城ってやややこしいよっ」
 ふと、小部屋を空けると、両手ほどの大きさの宝石箱が置いてある。
「うわぁ! きれーっ!」
 手に取る真希。

 ドサッ。
 鬼灯 歌留多(ほおずき・かるた)は、視力が著しく低く、見る事を諦めた目はいつも閉じている。普段は着物姿の歌留多だが、メイドに変えられたため、愛らしいメイド姿になっている。
 まずは超感覚と禁猟区で自己防衛。光学迷彩で姿を隠したまま進み、トレジャーセンスでお宝探し。
 探している宝はすぐに見つかった。しかし触るのをためらっている。しばらく様子を伺っていたが、だれも来ないので、持参した手袋をつけて、ゆっくりと触らぬようにやはり持参した風呂敷の中に箱を押し込める。
「触っても大丈夫なのかしら」
 風呂敷に包んだ両手ほどの大きさの箱をそっと刀の先で持ち上げる。

 ドサッ。 
 ロッテンマイヤー・ヴィヴァレンス(ろってんまいやー・う゛ぃう゛ぁれんす)が落ちた場所は、トランプ兵の休憩所だった。いつも着ている波羅蜜多ツナギではなく、淡いピンクのメイド服を着ている。髪の色にあっているので、黙っていれば愛らしい。しかし片手には、光条兵器の蛇節槍を掲げている。
「あたいの邪魔をする奴らはブっ殺す!いいかぁ、死にたくなければ離れてろ!」
 ロッテンマイヤーは蛇節槍で兵を威嚇しながら、部屋のひとつひとつを開けてあるく。
「おっ、これだろ!」
 部屋の中には、両手ほどの大きさの宝石箱があった。

「よし、開けてみるかぁ」
「中身はなんだろう?」
 ガチャーン!
「大変だわ、落としてしまった」
 見つかった5つの宝石箱の箱が開けられる。
「よかった、壊れていないわ」
 ひとつだけ、空かない箱があった。
 他はーーーーーーーーーーーーーー



 それぞれの部屋に女帝が立っている。微妙に服の色や髪のいろが違う。
 黒い髪の女帝は、武尊だ。影武者一号(スペード)。
 緑の髪の女帝は、パトリシアだ。影武者二号(クローバー)。
 赤い髪の女帝は、真希だ。影武者三号(ハート)。
 そしてピンクの髪の女帝は、ロッテンマイヤー。影武者四号(ダイヤ)。
 歌留多の箱だけが開かなかった。


8そして勝負



 アイリスは浴場にいた。有栖から、調度品になってしまった人間の戻し方を聞いたアイリスは戸惑っている。
「僕が人前で泣けるだろうか」
 皆が気を利かせて、アイリスだけを浴室に入れる。
 他のメンバーは外で待つ。
 大理石になった瀬蓮に気付くアイリス、そのまま歩み寄り瀬蓮を抱く。自然と涙が流れた。
 気が付くと、人間に戻ったセレンが立っている。
 他にも早川あゆみとブルースがいる。
「なんだか、一緒に感動してしまって…そしたら、戻っちゃたの」
 あゆみがにっこり笑う。
 浴室の扉が開く。
「あゆちゃん…よかった…」
 モリーが泣いている。
「モリー、泣かないで。大丈夫よ、だってここ夢でしょう?」
 あゆみが、のんびりと呟いた。


 瀬蓮が戻ったことで、女帝との戦いが始まった。あちこちにいる内通者を通じて、決行の時間が城内を駆け巡る。

 メイベルは、セシリアとフィリッパと合流して、瀬蓮を危険の及ばない場所につれてゆくことになった。
「危険の及ばない場所ってどこでしょう?」
「そういえば外に小屋があったよ」
「何の小屋なんでしょう、でもあの場所なら安心ですわ」
 三人の会話を聞いていた瀬蓮、少し元気が出てきたのか、
「行ってみたいな」
 積極的だ。
 4人は、城のはずれにある小屋を目指す。
 小屋の前で立っていたのは、天音だ。手にはピンクウサギを持っている。
「ちょうどいいところに来てくれた。この子を護ってほしいんだ。僕はもう戻らなくちゃいけない」
「この子?」
「ヴァーナーだよ」
 天音は、瀬蓮の腕の中にウサギを渡すと、そのまま去っていった。
「ええっ、ヴァーナーちゃんなの?」
 小さなピンクウサギは愛らしい目で、瀬蓮を見つめている。



 大広間ではパーティの余興が始まっている。
 トランプ兵たちが一列に並んで、ドミノ倒しを披露している。しかし、少し倒れては止まってしまう。スペードのAから並んだトランプ兵だが、いない数字があるのだ。酔ってふらふらしているトランプ兵も大勢いる。
「予備も含めて数組のトランプ兵がいるはずだ、いったいどうゆうことだ」
 女帝はカンカンだ。

 朱宮 満夜(あけみや・まよ)ミハエル・ローゼンブルグ(みはえる・ろーぜんぶるぐ)が前に出た。箒にのってやってきた二人は普段の服装のままだ。
「女帝、何かトランプを使ったゲームをしましょう」
 満夜の言葉に女帝が笑う。
「かまわん、それではもっとも簡単なゲームでどうか」
「はい、その代わり私たちが勝ったら人々を元に戻してください」
「一枚トランプ兵を選べ!一番強いカードのものが勝ちだ」
 ミハエルと満夜は顔を見合わせる。
「まずそなたから」
トランプ兵は一列に整列して後ろを向いている。