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年越しとお正月にやること…アーデルハイト&ラズィーヤ編

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年越しとお正月にやること…アーデルハイト&ラズィーヤ編

リアクション

 12月31日 12:00
 今日はコマ回し大会である、時間になってフューラーが会場に姿を現し、マイクを握った。
『本日はコマ回し大会です、大晦日にもかかわらず集まっていただき、真にありがとうございます!』
「コマの参加者はこちらに来るんじゃ、このセットを失くすでないぞー!」
 コマの参加者が、今日使用する機材などを受け取りに並んでいる。老師が昨日のヘッドセットのほかにコマなどの機材を併せて配っていく。
『コマはひもの巻き方など、ある程度の習熟を必要とします、ですから公平性を規して我々は今配らせていただいたものを用意しました』
 フューラーは自分もコマを取り出した。後ろのディスプレイによく映るように持ち上げる。
 コントローラーじみた大きめのグリップの先にくぼみを合わせるようにとりつけ、回転力はグリップの端に空けられた穴に歯のついた細長い棒を通し、グリップ内の歯車を回してコマを回転させるというシステムになっている。
 フューラーが手に持つコマから、ヒパティアが姿を現した。
 これならばだれでも平等にコマを回す事ができ、ミスも少ないだろう。
 直径10mほどのステージが設置されていて、石ころなどにコマがぶつからないようフィールドを設定している。この中でコマはぶつかり合い、跳ね飛ばし押し出し、回転不能に叩き込んで勝敗を決するのだ。
 赤組と白組にも練習用のステージが用意されていて、それぞれに回す練習や相談をしていた。
「コマ本体にはモータージャイロを内臓、後付で味方からの援護を回転エネルギーに変換したり、コマの乗り手の意思を表したりできます。方向転換などもできますので縦横無尽の活躍を期待いたします!」
 コマには紅白の帯が描かれて敵味方を区別している。
 また少し作戦タイムが置かれ、コマ参加者はそれぞれコマを試している
 
 白組サイドはおおむねのんびりとコマを試している。こちらは和気藹々と話を進めていた。
 
 風森 巽(かぜもり・たつみ)がコマをくるくる回して眺めていた。手のひらに少しあまるくらいの大きさで、本体自体は凧と同じく、あまり目立たないように表面はマット仕上げになっている。コマの上面の中心に丸いチップのようなものがついている。
 フゥ・バイェン(ふぅ・ばいぇん)がひょこりとそこから姿を現した。立体映像だが、とても小さいのがフゥは不満だ。
「ふうん、こうなってるんだ」
「んじゃあ、回してみますよ」
 コマをグリップにセットして棒を通す、滑らないように指をひっかける部分がついていて力を逃さないようだ。
 勢いをつけて引っ張ると、コマは回転をはじめた。回転エネルギーにあわせてか、フゥの姿は大きくなった。
「おおお、すごいですね」
「………ううぅ、なんか回りっぱなしで気持ちが悪くなってきた……」
「ねえ、コマが回ってるからって、自分もご丁寧にまわる必要はないんじゃないかなーって、思うんですけど」
 はっ、とフゥは動きを止めたが、ちゃんとコマは回っている。
 
「なるほど、こんな感じですか」
 歌菜がコマ、大和が回し手として軽く練習をしていた。
「ダンスを踊っている気持ちですね」
 くるくると歌菜は大和の周りを回り、映像でも回ってみせた。すっと差し出された大和の手をとって、バレエのように踊ってみる。
「現実だと、たぶんこんなにうまく踊れないでしょうけど」
 大和のほうにも微かながら触れられた感触がある、ヘッドセットのおかげで、互いに感触を呼び起こすことができるのだ。そのままエスコートの姿勢で微笑んだ。
「では、行きましょうか」
「ええ、がんばりましょうね」
「二人ともがんばってねー」
 ラキは傍らで二人の睦まじい様子を眺め、にこにこと応援していた。
 昨日の残りの豚汁をせしめてほこほこと抱えながら、おなかも満たされるし目の前の二人は幸せそうだし、いいことばかりだ。
 
「ガッシュ、昨日はお前のコタツのおかげでよく眠れたぜ!」
 ショウは元気いっぱいで、コマ回しに意欲的だ。
「でもお前、大丈夫か? ガンガンぶつかっていくことになるんだぞ」
「うんがんばるよ、心配しないで。僕だってやればできるんだ」
 気の弱い弟分が頑張ろうとしているのはいいことだ、その手助けをするのも、兄貴の役目だろう。
「さあ、パワーブレスをかけますから、二人ともおとなしくしてて」
「はあい」
 アクアが二人に祝福を与えようと用意をしている、彼女も小さな弟の頑張りに微笑んでいた。
「俺は封印解凍も使うぜ、幸い俺の方は防御なんて考えなくていいらしいからな」
「気をつけてね、お兄ちゃん」
 ショウはコマをセットし、グリップをつかんだ。本気の本気を見せてやらねば。
 
 鬼崎 洋兵(きざき・ようへい)は、日本人ではあるが、こういった遊びをやったことがない。
 何度か回してみて、さらに手の中のコマをためつすがめつして、興味深げにいじくりまわしている。
「よくわからんが、用はおじさんとユディで頑張れば、怖いもんなんてないってことらしいな」
「はいっ! 洋平さん! 私、がんばって回ります!」
 穴が開くほど見つめられているユーディット・ベルヴィル(ゆーでぃっと・べるう゛ぃる)はうっとりと答えた。
 うっとりと、続けてこうつぶやいた。
「がんばって回りますから、皆様お手柔らかに、さもないとどうなるか分かりませんわぁ…」
 敵方を見渡して、恋する乙女の表情の裏に、空恐ろしいものを隠しているのだった。
 
 
 赤組サイドも、おおむね和やかに行っているのだが、一部がいやに注目を集めていた。
 
 ミレイユ・グリシャム(みれいゆ・ぐりしゃむ)デューイ・ホプキンス(でゅーい・ほぷきんす)がコマの上にちょこんと現れたのを見てはしゃいでいた。
「わあ、デューイかわいいよ!」
「いいから、回してくれたまえ」
 現状にも可愛いといわれたことにも彼は動じない。
「で、でもデューイが目を回したらどうしよう!?」
 シェイド・クレイン(しぇいど・くれいん)はため息をついて彼女をなだめた。
「昨日の凧合戦も、どかどかぶつけ合っても怪我をしている人はいなかったでしょう、コマも同じで多分大丈夫ですよ」
 
 ケイラ・ジェシータ(けいら・じぇしーた)は投げ方の工夫をいろいろと試していた。
「紐を使うんだと思って練習してきたけど、これは楽だね」
 当初考えていたやり方は使えない、御薗井 響子(みそのい・きょうこ)と相談してもっとも力とスピードを得られるやりかたを模索している。
「このやり方が一番いいと思う、かと。それでは、がんんばるから大福を忘れないようにね」
 ケイラは握ったグリップを身体に引き付け、体から放すと同時に棒を引き、推進力と回転力を同時に獲得するやり方を考えた。
 パワーブレスも使って力を高め、最初が肝心の必殺投法のつもりだ。
 
 五月葉 終夏(さつきば・おりが)ニコラ・フラメル(にこら・ふらめる)をコマにして、右、左ととにかく命令を出していた。
「私が指示を出すからさ、フラメルは基本逃げ回って、必要なときにそれに従って動いてよ」
「終夏、分かっているだろうが、あまりぶつけるなよ? さあどう派手にやろうかな」
「そうそう、とにかく目立つことを考えればいいの。思うんだけど、吹っ飛ばされても耐えられたらきっとかっこいいよー」
 そうか! とやる気になったニコラをおだてて、終夏はとどめを刺した。
「ガンガンぶつけ合うのって、やっぱり派手でいいよねえ、それに電脳世界だから、実際には痛くないって」
「ならば…私の勇姿を見せてやる!」
 ブランカ・エレミール(ぶらんか・えれみーる)シシル・ファルメル(ししる・ふぁるめる)と共に二人の様子を眺めていた。
「ノせられてる、乗せられてるよニコラ…」
「ニコラさん、きっと大変な目にあうかもですね…」
「まあ、俺らにできることは、応援だけだね」
「そうです、応援をがんばるですよ! フレーフレーしっしょーうー!」
「ニコラー、がんばれー、屍は拾ってやるからなー」
 
 試合前から既にボコボコにされている坂下 鹿次郎(さかのした・しかじろう)は、それでも己の欲望の追求をやめなかった。
「拙者が勝ったあかつきには女性は皆巫女さんの格好をしてもらうご褒美を所望したいでござるぅ!!」
 姉ヶ崎 雪(あねがさき・ゆき)が、フューラーに提案を迫るべく突進していく鹿次郎を何度となく叩き潰しても、ゾンビのごとく復活しては以下略なのである。もうとっととPODに放り込んでコマでブン回してやらなければならない。
「除夜の鐘に縛り付けるのは、後にとっておきますわ…鹿之助、頼みましたわよ」
 山中 鹿之助(やまなか・しかのすけ)はごつい身体に似合った立派なひげを撫でて胸を張った。
「仕った! これも某に科せられた使命、そして試練なれば…!」
 まるで姫と、姫に仕える武士のような二人である、彼女らはこれから、コマ回しという戦場にて命を張ろうとしているのだ。大げさだが、鹿之助はまじめだ。
「ヒパティア殿! 拙者の提案を聞いてほしいでござる!! 是非とも巫女服を着てくだされぇぇぇぇ!!!」
 なんということか、鹿次郎はコマからすっぽ抜けて、なおもフューラーの元に向かおうとしていた。さすがにこの状態でやるとは思わなかった。
 運悪く執事とAIは近くにいなかったため、叫びながら突進する鹿次郎に自動的に注目が集まることになる。
 フューラーはさすがにひきつって、ヒパティアに姿を消すように言い、近寄らせる前に彼を凍結した。
「…これ以上ボケたことぬかしてっと、失格にいたしますよ?」
 幸いそのつぶやきは彼らにだけしか届いていなかった。雪は、執事のキャラがブレた! と思った。
 鹿次郎が変な事をしてごめんなさいねー的な視線を送りつつ頭を下げ、固まったままの鹿次郎を蹴り転がして雪は戻っていった。
「これも試練…あれも試練…七難八苦、今生においての艱難辛苦である…!」
 鹿之助は、すべて試練として乗り越えるつもりである。
 でかい身体も、立派なひげもなんだかしょんぼりしている彼は、死後も『七難八苦を与えたまえ』と願ったばかりに、今生での苦労人人生が決定してしまったのであった。
 
 12月31日 13:00
 ようやく開始時間に到達した。
 合図とともに自軍からステージの周りにあつまり、思い思いのタイミングでコマを放つ。
 こちらでも乱戦模様を見せるであろうシチュエーションである。
「さて、今日も楽しい試合を見せてもらおうかのう」
「今日も楽しみですわ、皆様頑張ってくださいませ」
 
 
「うふふふ、お手柔らかにってお伝えしたはずですよねえ? 途中ですけれど!」
「えええっと、とりあえず終わるまで待つのはお約束でしたねすいませんんん!」
 ニコラはユーディットに追い掛け回されて逃げ回っていた。死に物狂いである。
 彼は、ユディが口上を述べる途中でうっかりぶつかりに行ってしまったのだ。
 負けず嫌いの彼も、なんか笑顔でコワイ人はさすがに背筋にくるし、やってはならないタブーを犯した自覚があった。
「あーあ、フラメルのバカ、そろそろ助けにいってやるか」
 終夏は火術を放ってユディの足止めをした。足元で弾け、わずかに軸をぶらした。
「きゃんっ!」
 頑張って回したのだから、洋兵はあとをユディに任せてのんびりしていた。相方の悲鳴にあわてて援護をはじめる。
「なぬぅ? そんなのアリなの? おじさん聞いてないよ」
 おっとり刀で駆けつけた洋兵は、とりあえずスプレーショットで牽制をかけた。
「もうっ、遅いです」
「すまんすまん」
 ユディが洋兵に気を取られたすきに、ニコラに指令を出した。
「フラメル、もうちょっと右…そこだあっ!」
 おもむろにニコラもろともに、雷術でユディを弾き飛ばしにかかったのである。
 終夏は、ニコラに雷術をぶつけるのではなく、先ほどのように足元にぶつけ、フラメルを文字通りはじいてユディを攻撃したのだ。
「お…おおまえは鬼かぁぁぁぁっ!」
 下手をすると、自分まで転倒することになる。思い切りの良さというか、無謀というか、命をだいじにと言いたくなる終夏の所業に、ニコラはもう涙目だ。
 しかし、ユディは完全に弾き飛ばされて、せめてもとばかりによよよ…とセクシーに転んだ。ハンカチを噛んでうらみ節、うるんだ瞳で洋兵をにらむ。
「…洋兵さんも、もっと働いてくだされば…ああん…」
「う、うるせー、おじさんは年なの!」
 
『白組ユーディット・ベルヴィル、鬼崎 洋兵コンビ、思い切った体当たり作戦に敗北、失格となりました。しかしヒモはいけませんねえヒモは』
「うむ、ヒモはいかんの、ヒモは」
「ええ、いけませんわね、ヒモは」
 
 
 初激から激しくぶつかり合った響子とガッシュは、互いを警戒して一旦距離をあけた。
 パワーブレスと投法で威力を高めた響子のコマと、同じくパワーブレスと封印解凍で威力を高めたガッシュのコマはほぼ互角だったのだ。
「パワー型か、耐えられるかガッシュ?」
「大丈夫、最初の予定通りスキルを撃って」
 爆炎波をまとわせ、奈落の鉄鎖のタイミングをはかる。
「ん、炎できましたか」
「響子、無理しないでね!」
「かたじけない、いきます!」
 また双方とも同時に行動を起こす。
 ガッシュはバーストダッシュでぶつかりに行き、響子もまたぶつかりに行くと見せかけてスウェーで回避、くるりと背後に回りこんで追い討ちをかけようとしたところに、ガッシュに奈落の鉄鎖がかけられて、吹っ飛びの威力を耐えた。
 結果ウェイトの差で挙動を乱した響子に、ガッシュが再びバーストダッシュで炎を纏ったまま体当たりをする。
「いくよおっ!」
 気合一閃、ガッシュの黒い翼が広がり、炎に照らされて、敵を包み込むように襲い掛かった。
 ガキン! というすごい音がして、響子は場外にまで吹っ飛ばされた。
 
「ガッシュ! 頑張ったな!」
「やりましたわ!」
「えへ、お兄ちゃんお姉ちゃん、ありがとう」
 ガッシュは二人に満面の笑みで迎えられ、照れくさそうに笑った。
「申し訳ない、負けてしまいました…」
「いやあ、あれは相手もすごかったよ、だから気にしない!」
「ケイラがそれでいいのなら」
「それじゃあ、大福買いに行こうね」
 響子は目をキラキラさせて喜んだ。
 
『赤組、御薗井 響子、ケイラ・ジェシータコンビ、コンビネーションの応酬を見せてくれましたが、少しの読み違いで敗北、失格となりました。しかし素敵な光景を見せてくださいましたね』
 
 
 合図と共にステージに向かおうとした巽は、その前にフゥに荷物を見ろと叫ばれた。
「…あの、フゥさん、なんで俺の荷物の中にこんなものがあるの…?」
 無視しようとしたが、これは看過できない。ツァンダーマスクを示して巽はジト目になった。
「派手にいくためじゃん! 今年最後の大勝負をかっこよくキメないでどうすんの! 年末年始ヒーロー特番! ヒーローになるまでボイコットしちゃる!」
「一般参加だって言ったでしょう! あーもーわかったよ! やればいいんでしょう!」
 彼は開き直って、マスクをかぶった。風森 巽は仮面ツァンダーソークー1に変身した!
「チェンジ! 轟雷ハンド! 超・電・磁・コ・マ・ま・わ・しぃぃぃぃぃっっ!」
 轟雷閃を発動、コマを帯電させて仮面ツァンダーソークー1は、スズメバチに似た目元で敵を探した。
 銀のグローブに包まれた腕を振るって、全力でコマを投擲、ばりばりと放電しながらコマは強力な回転をみせる。
「コマを帯電させる事で磁界を形成し、安定した回転を実現させる! これが超電磁高速スピンだっ!」
「そして! あたいの隠れ身で姿を消す! 名づけて、超電磁高速スピンファントムっ!」
「…ちょっとまって、ただでさえ目立つのに、そっちにいかないで!」
 フゥは、なんとも目立った鹿次郎達に対抗意識を燃やしたのか、そちらに突っ込んでいってしまった。
 身を隠せる障害物などはないので不完全だが、それでもうまく敵の死角をついた攻撃は鹿次郎に強烈な一撃を与えた。
「あいたぁー!」
「だから言ったでしょう! 轟雷閃で電磁ゴマってなさいって!」
 まわりこんでフゥに追いついた巽は、雪がそういうのを聞いて同じことを考えていたのかと思った、これは対抗せざるをえない。
「わ、わかったでござるぅ!」
 轟雷閃をまとって、フゥのコマに対抗する鹿次郎に、
「これは援護よ援護、超電磁ゴマよ」
 と言ってがんがん雷術を叩きつける雪は、どう見ても目が『いっぺん死んで見る?』と語っている。
 ばりばりと互いのコマがぶつかり合って、与えられた条件は互角のはずである、しかし明らかに鹿次郎のコマは防御力が高く、ぶつかっていっても動じない。
「このっ、吹っ飛べっ!」
「某の忠義、三日月にかけて散らせはせぬ! 戦国独楽秘奥義『月山富田は天空が城』!!」
 雷術がエネルギーを与え、ディフェンスシフトが彼らを守っていた、巽たちには、これらを突破しきれる手段も援護する手段もなかった。
 とうとう何度目かのぶつかり合いは、フゥを吹き飛ばして横倒しの回転不能に陥れた。
「やったでござる!」
「ううぅ…負けてしまった…こんなユカイな仲間たちに…」
 
『おおお、とある魔術の超電磁ゴ…いえ何でもありません、白組フゥ・バイェン、風森 巽コンビ、スキルの工夫使用に敗北しての失格となりました!』
 
 
「よろしくお願いっしまーす!」
 ミレイユは元気に挨拶をして、コマを回した。
「こちらこそ!」
 律儀に相対した大和と歌菜も返事を返す。
 デューイは相手がコマを放つ前に鬼眼を使うが、相手の二人は手を取り合って跳ね除けた。
「俺達二人でいれば、負ける気はしません!」
 微塵も効果のなかったらしい相手を見て、ほうとデューイは感心した。
 財産管理で距離を測り、正確に飛び込んでくる歌菜のコマを弾幕援護で足止めする。
 少し離れた場所に着地した歌菜は、大和と目で合図をして技を繰り出した。
「行きますよ、歌菜!」
「うん、大和!呼吸を合わせて…!」
『エルヴィッシュスティンガー!!』
 大和の則天去私と、歌菜のヒロイックアサルトの合成技だ。
 コマが跳ね上がり、回転軸が地面に水平に変化して、回転面が敵と交差する。まるで斧を振り下ろすような攻撃が、デューイに降りかかった。
「いかん!」
 デューイは逃げを判断した。シェイドが爆炎波を放って目くらましをかける。
 それをすりぬけて、歌菜のコマはジャイロで体勢を立て直しきった。
「次です、畳み掛けますよ!」
「行きます!」
『ディバイダーイリュージョン!』
 大和が火術、歌菜がチェインスマイトを同時に繰り出し、コマは炎をまとって異様なモーションを獲得する。
「どうして!? コマが分身したよ!?」
 相手には、彼らのコマが二つに分かれて炎をまとって襲い掛かってくるように見えた。
 今度は彼には逃げ場は残されなかった、最後の判断でエンデュアで防御をあげ、轟雷閃をまとって飛び込んでいく。
「…しまったな…」
 カンで飛び込んだところには、スキはなかった。連続で叩き込まれる攻撃にデューイは回転力を削り取られ、とうとう力なく倒れ伏した。
 
「お、お見事ですわ! なんとコマが二つに分かれて見えるなんて…!」
『こ…これこそ愛の力でしょうか、私感動を抑えられません…こんなこともあろうかといろいろと仕込んでいた甲斐がありました! これがコンビネーションのあるべき姿です!』
「そ、それは私のセリフじゃ…!」
『赤組、デューイ・ホプキンス、ミレイユ・グリシャムコンビ、敵の華麗な合成技に撃沈、失格となりました…!』
 
「おつかれデューイ、ありがとね」
「大変な目にあってしまいましたね…」
「いや、なかなか得がたい経験だった」
 寡黙な渋い白兎は、どこまで本気なのかはわからないが、敵ながらひどく感心した様子だった。
 
「いかん、あの合成技は容易く敗れそうにないでござる…!」
「そうだね、ここはひとつ手を組みましょう」
 赤組の勝ち残り、坂下 鹿次郎と五月葉 終夏は手を組み、まずはもう片方の白の生き残りに標的を定めた。
 
 モータージャイロがその補助をするとはいえ、既に皆かなりの回転エネルギーを失っている。
 その不足分を即席のタッグで補った二組は、即座に葉月 ショウのチームを襲った。
 とても頑張ったガッシュも、エネルギー不足と数の不利にはひとたまりもなく、対策も取れずに火術と電磁ゴマのタックルに場外へと飛ばされることになった。
「2対1なんて、卑怯じゃねえか!」
「何いってんの、勝ったほうが勝ちなんだよー!」
 とっさにショウもそのとおりだと思ってしまった。変なセリフだとは思うが返す言葉もない。
 
『白組ガッシュ・エルフィード、葉月 ショウコンビ、数の暴力になすすべもなく吹き飛ばされ失格…バトルロワイヤルですからね、気を抜いちゃだめです』
 
 白組最後の砦、遠野 歌菜と譲葉 大和は残念ながら味方へのヘルプに間に合わなかった。
「歌菜、我々が最後のようです、どうします?」
「もちろん、最後まで戦います。逆転しようね!」
 回転力が落ちているのはどちらも同じだ、それを覆せる可能性があるのは、きっと合成技のみである。
「もう少しだよ、がんばって!」
 ラキがヒールをかける、回転がわずかに回復した気がして歌菜は微笑んだ。
 
 紅白は対峙したが、歌菜達のほうはタイミングをはかっている。
「このままでは回転がさらに落ちて、同士討ちになりかねんでござる…」
「鹿次郎、あんた突っ込んできなさい」
「いや待って、それはこっちに任せて、そちらの攻撃力と防御力に賭けていいかな?」
 彼らは軽く打ち合わせ、行動を起こした。
「フラメル、いっちばん重要なこと頼んでいい?」
「重要だと!? よし任されてやろう!」
「じゃあ、フラメル! 潔く、華々しく犠牲になってね!」
「…!?」
 終夏は、雷術でニコラを相手の攻撃の真正面に放り込んだ。
 相手は動かざるを得なくなり、切り札である合成技を放った。
『デッドエンドストライカー!』
 大和のアルティマ・トゥーレと歌菜の爆炎波が同時に繰り出され、冷気とぶつかり合った炎で水蒸気があがる。
「ぎゃああああ!」
 水蒸気の目くらましの向こうからまともに攻撃をくらい、ニコラは吹っ飛んだが、そちらに気をとられて轟雷閃をまとった鹿次郎に対応できなかった歌菜は、自ら作り出した水蒸気を伝わった電磁ゴマの威力を受けてしまった。
「きゃあああ!」
「歌菜!」
 勢いよく吹っ飛ばされて、とうとう白組は最後の一組が地に膝をついたのである。
 
「私達は負けたけど、チームの勝利に貢献したんだよ! お疲れ様!」
「………」
 もうニコラには、彼女を罵倒する気力も残されてはいないのだった。
「…ええと、フレーフレー! ニコラさん!」
「シシルちゃん、もう手遅れだよ…」
 
『まさに肉を切らせて骨を絶つ! 白組の猛攻を身を挺して喰らい、活路を切り開きました! 最後に残りましたのは赤組、坂下 鹿次郎、山中 鹿之助コンビ! これにてコマ回しバトルは赤組の勝利が決定しました!』
 
「よしこれで巫女服の提案が…」
「ほんと、いっぺん死んでみる?」
 赤組へ勝利の一歩を捧げたものの、相棒に望みを物理的にすり潰され続ける鹿次郎である。
 
 12月31日、コマ回しバトルの凧揚げ合戦は、赤組の勝利で飾られた。
 凧揚げは白組、コマ回しは赤組、最終的な勝敗は明日のメンコ勝負で決定されることになる。