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君を待ってる~雪が降ったら~

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君を待ってる~雪が降ったら~

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第2章 凍えた大地
「これだけ雪があるんだから皆で何か出来る筈。そうだ、雪祭りをしよう」
 雪原をじっと見つめていた天城 一輝(あまぎ・いっき)は閃いた。
 そうと決めたら行動は早い。
 賛同者を募り、パートナーのローザ・セントレス(ろーざ・せんとれす)コレット・パームラズ(これっと・ぱーむらず)に指示を出しつつ準備に入り。
「すみません、少しお時間いただけますか?」
 御神楽環菜を訪れたローザは、資料を元にテキパキとプレゼンを行った。
 一輝から託されたビデオテープには、除雪作業の進行具合や雪祭りの設営風景が収められていた。
 更に立ち上げた携帯用パソコンには、「雪国で除雪に使われているプラスティック製シャベル」や「スノーダンプ」の画像が付いている。
「ん〜、確かにこれなら今日一日で終わりそうだけど……」
「ご安心下さい」
 ダメ押しとばかりに差し出されたのは、一輝が作成した除雪と雪祭りのスケジュール。
「このように撤去したいので、除雪器具の使用と雪祭り運営の許可を下さい」
「学校としては校庭が使えるようになれば良いし、雪祭り云々は良いけど……シャベルとか直ぐに用意出来るものはともかく、本格的な除雪機は直ぐには用意出来ないわよ」
「とりあえず、許可いただければ……当てはあるようですし」
 そういう点では抜け目のないパートナーを思い出したローザは、許可を手に意気揚々と一輝の元へと帰ったのだった。
「ルーシーさんの出店はここ、クルードさんや紗月さんの雪像作りはここで……かまくら作りたいって人もいたな……って事はこの辺に雪を集めて」
 その間に一輝は一通りシュミュレーションを進めていた。
 その脳裏に過ぎる、過去の風景。
 父がいたあの頃。
 共に雪祭りの会場に行き、設営を手伝った事もあった。
 壊され失った筈のものはそれでも、一輝の財産であり宝だった。
 どうすれば集めた雪を効率良く会場内の雪像に運べるのか……一輝に知らしめてくれるのだから。
「難しい顔して考え事か?」
「いや、そういうわけじゃないが……持ってきてくれたか」
「ああ。借りてきた、使ってくれ」
 一輝に応えた林田 樹(はやしだ・いつき)が持ち込んだのは、除雪作業用の車両だ。
「ちゃんと使えるんだな?」
「当然。ここまで持ってきたわけだしな」
「バッチグーです♪」
 樹のパートナーの一人ジーナ・フロイライン(じいな・ふろいらいん)が車両上からVサインを寄こした。
 ちなみに除雪車が入るスペースを作り出したのもジーナだった。
「それは頼もしいですね。一気に雪をどかせます」
「おぉ〜、スノーダンプにスノープッシャーか……他にも色々と揃ってるじゃないか」
「この雪にこの道具、タツミの家にいた頃を思い出すなぁ」
 プラスチック製の雪を運ぶ道具や雪を押す道具を見、歓喜の声を上げた風森 巽(かぜもり・たつみ)に、ティア・ユースティ(てぃあ・ゆーすてぃ)もニコニコと頬を緩めた。
 札幌育ち、由緒正しい道産子の巽にしてみればこのシュチュエーションはたまらない。
 何故人は雪かきをするのか?
 それはそこに雪があるからだ!
「一か所に集めて溶かしますか?」
協力を申し出た神野 永太(じんの・えいた)影野 陽太(かげの・ようた)に、巽と樹はそれぞれ頭を振った。
「下手に溶かすと融雪水が凍って危ないし、地面がぬかるんで泥だらけになるし、地道に雪かきした方がいい」
「それに出来れば除雪した雪を、必要としている奴らに届けたいんだ」
 雪像作りをしたいと言う友人や、雪灯篭を作ると言っていたコトノハ達。
「そうだねぇ。じゃあ、車両はこのルートで雪を集めて、雪を必要としている人達の元に運ぼうか」
 御神楽理事長から貰った校庭の見取り図を広げた緒方 章(おがた・あきら)が、一輝に確認しつつ采配を振るう。
「ふむふむ、ここが完全除雪地区で、この辺で雪が必要か……で、このルートで進めばいいんだよねぇ。……と、するとぉ……」
「雪が集まり過ぎても危ないでしょう。こちら側を回ると効率も悪いですし、この辺りの雪は人海戦術で片づける……でどうですか?」
「良いんじゃないですか。炎術で地道に溶かせば危険もないですし」
 少し考え、一輝は永太や陽太にGOサインを出した。
「ではそっちは頼む。くれぐれも無理や無茶はしないように」
「はい、任せて下さい」
「そっちこそ、除雪車の扱いにはくれぐれも気を付けて……行こうか、雛子」
 ごく自然に並んで向かう雛子と義彦を陸斗が、
「こっちは任されたんだから、除雪もれがないようにしないとな」
「そうだねぇ、まぁ僕の指示通りに進んでくれれば間違いないさ。僕を信じてね、樹ちゃん」
「勿論、信じてるさ」
「樹ちゃん……♪」
 打ち合わせしつつ言葉を交わす樹と章をジーナが、とてもとても剣呑な眼差しで見つめていたのだった、ギリギリギリ。
「そういえば春川さん、花壇の方は大丈夫なのかな?」
 巽は一つ溜め息をつくと、空気を変えるべく雛子に尋ねた。
「はい。アリアさんが守ってくれまして……校庭が一段落ついたら行こうと思ってます」
「うんうん、じゃあ頑張ってちゃっちゃと終わらせちゃおうか……それじゃ、トナカイさん、頑張って運んじゃお〜」
 ティアは言い、そうして除雪作業は始まった。
「とりあえず、道を作ろうか」
 まだ一部ギスギスしていたけれど、巽は先導するように、雪上を危なげなく進み。
そして、作業を始めると皆それぞれ大人だった。
「林田様と仲良く並んで除雪作業ですよ〜。へっへ〜んだ、うらやましーだろー、なのです!!」
 勝ち誇ったように言い放つジーナだが、勿論章も負けていない、負けてられない……あれ?
「いやぁ〜、全然。こっちは事前の打ち合わせと常時接続している樹ちゃんとのケータイホットラインで身も心もほかほかなのさ、良いだろ、カラクリ娘」
 ……お、大人の対応、は?
 ……。
 車両上と地面の上と。
 そこそこの距離をものともせず、二人の間に火花が散った。
 大切な大切な大切な、言葉では言い表せないくらい大切な樹にちょっかい出す目障りな相手なのである。
 バチッバチバチバチっ☆
 けれど、本格的に罵詈雑言を放とうとした正にその瞬間。
「……ジーナ、洪庵」
 決して大きくない、なのに2人にとっては絶対に聞き逃せない声が、割って入った。
静かな瞳の中、穏やかな声音の中、怒りがチラ見えするのはジーナと章の気のせいだろうか?
否。
樹を愛する二人だからこそ、僅かな怒りを感じ取ってしまう、ええ、樹さんは怒ってますよ?
正確には、怒る寸前……ケンカがすぎてバトルに発展なんてなったら、除雪作業や雪像作りどころではなくなってしまうのだから。
「あ、はぁい。真面目にお仕事します……」
「ワカリマシタイツキチャン、マジメニヤリマス」
 途端、ぎこちない笑みを貼り付けた2人。
「分かればよろしい。さぁ、作業を続けよう」
 樹は鷹揚に頷いた。


「やるべき事はちゃんとしないとですからね」
 大量の雪を前にした永太は、炎術を使った。
 使う量より大量な雪、余分なそれを除去する為だ。
 中途半端がダメなら少しずつでいい、完全に蒸発させればいい。
 そう、地道に事に当たっていた。
「おおっすごいね、炎術って。やっぱりカッコいいや」
「そりゃ同感だがな、陽。さっさと抜けないと風邪引くぞ」
「うん、そうなんだけど……テディ助けて」
雪に埋まった皆川 陽(みなかわ・よう)テディ・アルタヴィスタ(てでぃ・あるたう゛ぃすた)に懇願した。
 手にはスコップ。
「雪! 見てみたい触ってみたい、少しでもお手伝いしたいな!」
 と遥々薔薇の学舎からやってきたのだけど。
 体力も特技もない普通の東京っ子には、荷が重すぎた。
「ほら、大丈夫かよ」
「ありがと……だって足場が悪くて中々上手くいかなくて……」
 ヘタり込みながら一つ、溜め息。
 永太や恭司は元より、テディもそこそこ役に立っているので余計、居た堪れない。
「そんな事、ないですよ。手伝いに来て下さった、その気持ちだけで嬉しいです」
「わっ……わわわっ……!」
 と。気付いた雛子に話しかけられた陽は「あわあわ」とか何とか言いつつ、口ごもった。
(「わ〜女の子だ、ちっちゃい!? て、話しかけられちゃったよぉ?!」)
 女の子に免疫の無い陽はどうしていいか途方に暮れ、すがる視線をテディに向けた。
「そう言ってもらえると嬉しいな。あまり役に立たないかもしれないけど、精一杯頑張るよ」
 その視線を正確に察したテディは、如才なく返した。
 ついでにというよりほぼ無意識に雛子の小さな両手を握りしめたりしたから、約一名の視線が痛くて陽はドキドキしたけれど。
「僕がいると助かるだろぉ〜? さぁ褒めろ褒めろ!」
「うん、助かったよ、ありがとう」
 ふふん♪、得意気なテディに素直に感謝する陽。
 女の子に面識のない陽にしてみたら、やはりテディはすごいのだ。
「そうだろ、そうだろう♪」
「……とりあえず、出来る事をしないとだね」
 得意満面だったテディは、メゲる事無く「よいしょっ」と立ちあがりスコップを握りなおした陽に一瞬目を見張り。
「だな」
 ニッと笑みを形作った。
「うんしょ、うんしょ」
「じゃわちゃん、手伝います」
 子供用そりで雪を運ぶあいじゃわに頬を緩めつつ、雛子は手を貸そうとし。
「……きゃっ」
 足元の雪が崩れ、ふらついた。
「ヒナ!……うげっ?!」
 次の瞬間、雪に顔を突っ込んだのは、雛子を助けようとして自分がバランスを崩した陸斗だったりして。
 幸い、「こんな事もあろうかと!」という黎のアイスプロテクトにより大事には至らなかったが。
「義彦さん、ありがとうございます」
「足元、滑るからくれぐれも気を付けて」
「って、何をやってるのだ陸斗殿!?」
 光学迷彩でもって密かにフォロー、な筈の黎にお小言をくらう事になったのだった。
「あい、雪なのです」
「ありがとな。危ないから少し離れて手くれ。……やはり炎で溶かすなら、こっちの方が手っ取り早いか」
閃崎 静麻(せんざき・しずま)の除雪方法は、爆破工作の火薬を使っての爆破だった。
ドカンとか地響きがしてぶわっとか雪煙りが上がるが、実は計算し尽くして慎重に爆破していたりする。
「ちゃっちゃか終わらせないと、日が暮れてしまうしな」
「にゅう〜。我も頑張るのです」
「確かに……終わらないと困りますものね」
 除雪後をコツコツ整地していた陽太はあいじゃわに一つ頷き、う〜んと身体を伸ばし。
 普段使わない筋肉が既に抗議を始めている事に気付いた。
「明日は筋肉痛でしょうかね」
 それでも、地道にコツコツ、は陽太のマイブームだし何より、環菜会長のお達しである。
 サボろうとか止めちゃおうとかいう選択肢は陽太的になかった。
「環菜会長が何をしようとしているのかは分かりませんが、精一杯お手伝いしないと、です」
 蒼空学園の為に心を砕く孤高の人を、手助けする為に。
「あぁぁぁぁぁぁぁっ、もう! 陸斗は何をやっているのかしら?!」
「そうですね、義彦さんに負けまいと気持ちが空回りしているのではないでしょうか」
「というかすごい埋まりっぷりですわね」
 白波 理沙(しらなみ・りさ)はパートナーであるチェルシー・ニール(ちぇるしー・にーる)ミユ・ローレイン(みゆ・ろーれいん)のコメントに脱力した。
「焦ってドツボにはまって……でも雪を片づけにきて足手まといになってるってどうなの?」
 自分が幸せだからかもしれないが、陸斗の恋を応援したい理沙である。
 あんな様では雛子に愛想尽かされても仕方がない……というより寧ろ、当然!?
「ここはやはり私が一肌、脱いであげないと!」
「人の為に必死になれる理沙さん、ステキですわ」
「一肌でも二肌でも、脱ぐならお手伝いしますよ」
 一生懸命な理沙を微笑ましく見つめるチェルシーと、ニコニコと可愛らしい中にどこか黒さをにじませるミユはほぼ同時に口にし。
 ツイ、と視線をぶつけた……バチバチっ!
「あらあら、チェルシーさんは小さいからあまりお手伝いには向いてないのではないかしら〜? お子様なんですからココはミユたちに任せたほうが……」
「だれがお子様ですか! ミユこそ別に手伝わなくてもいいですわ、わたくしがやりますわよっ!」
 可愛らしく小首を傾げたミユに、チェルシーは頬を膨らませ徹底抗戦の構えだ。
「……」
「……」
 そのまま二人は理沙の視界からフェイドアウトしていき。
「うるせーんだよ、この幼女がっ! 足手まといなんだから大人しくしろっての!」
 ミユは理沙の前で被っている大量のにゃんこを脱ぎ捨てた。
「あなたはこそ理沙さんから離れてくださいっ、この性悪アリスがっ!!」
 一方のチェルシーも理沙がいなければフルスロットルだ。
「文句があるなら相手をしてやらぁぁぁーっ!!」
「もー、邪魔ですわー!!」
ぼすっ。
どげしっ。
 雪を固めてぶつけあう……仁義なき雪合戦の開始だ。
 理沙は自分のパートナー達が局地的雪合戦を始めた事に、全く気付かなかった。
「義彦は悪い人ではないし、結構紳士的だからきちんとお願いすれば協力してくれるよね? 雪を片づけるの手伝って下さい、って」
 何も知らぬ理沙が考えた作戦はこうだ。
 理沙のお願い→義彦OK→雛子から義彦離れる→陸斗ガンガンいこうよ。
「最後の一つが大いに不安だけど★ でも義彦って女の子に優しそうだから……こっちには可愛い子と綺麗な子もいるし、雛子じゃなくてこっちに興味をもってくれるんじゃ」
 と思い、思い切って声をかけた理沙は。
「あの、私達女の子だけで大変で、手伝って欲しいの……ね?……て、2人が居なくなったーっ!?」
 背後を振り返って青ざめた。
「……え、えっと、スミマセン、綺麗どころが居なくなりました……ど、どうしよう……」
 ちなみに理沙に、自身が美少女だという自覚は全くない。
「綺麗どころならいるじゃないか……というか俺、女性の頼みを選り好みするように見えるのかな?」
そんな理沙にがっくりと肩を落として見せてから、義彦は笑んだ。
「雛子、少しこのお嬢さんを手伝ってくる……また、後でね」
「はい。私達はもう少しここを片づけますから」
「ごめんね、義彦。それと、ありがとね」
(「そして陸斗、頑張りなさいよ!」)
 ちょっとの申し訳なさと陸斗へのエールを胸に、理沙は呟いた。
「それにしても、うちのパートナーたちは一体どこに行っちゃったのかしら……」
 そんな理沙達が向かった先では。
「リアさんの熱い炎を見せてください……!」
「何のことかと思ったが、雪かきか」
 明智 珠輝(あけち・たまき)に引っ張ってこられたリア・ヴェリー(りあ・べりー)は一つ溜め息をついてから、永太との距離が十分あるのを確認し。
「空舞し炎の使い、我が意に応えよっ」
 炎術を放っていた。
 樹達の雪を集めているルートに掛からないのを確認し、炎が踊る。
「疲れたんじゃないですか?」
「アリスキッスだと……? 間に合っている、大丈夫だ」
と、最初は拒んでいたのだが、連続して魔法を使用していると流石にキツくなってくる。
「珠輝、言っておくがおまえの欲望のためじゃないからなっ」
釘を刺しておいてから、補給を頼むリア。
「って顔を寄せるな、阿呆! 手の甲!」
「分かりました、分かりましたから、そう睨まないで下さいよ」
 ちぃっ、とか密かに思いつつ、珠輝は周囲を見回した。
 雪かき要員さん達は皆、頑張っている。
 とはいえそろそろお疲れのご様子もちらほら。
 そりゃそうである、雪国育ちでないと中々こういう経験はない。
 何気なくサーチしていた珠輝の目は、一際目立つ美形をロックオンした。
「さぁ、私の熱いベーゼで回復してください……!」
思い切って声をかける……と。
「ああ、ありがとう」
 何の疑問も持たなかったらしいイケメンに、珠輝の胸が高まる。
「じゃあ……」
「って、他の方に迫るな馬鹿者!」
 寄せた唇は、背後からのリアの飛び膝蹴りで目的地を僅かに外れ、頬に触れた。
「うわっ惜しいです!」
 そのまま雪に埋まった珠輝は、横合いから伸びた手に引き上げられた。
「大丈夫か?……というか、これが魔法か、スゴイな。楽になった、ありがとう」
「いや、それはそうだが……珠輝の邪念をそう素直に喜ぶのは危険なんだが」
 純粋に感心し感謝する義彦はどうやら、パラミタに来たばかりらしい。
 しかも。
「え? ジェイダス校長の甥っ子さん?」
「ジェイダス校長に甥っこさんが居たなんて……! 驚愕です」
 リアと珠輝は思わず、まじまじと義彦を見た。
「薔薇学に通ってらしたのでしょうか? ジェイダス校長と仲良しさんなんですか?」
「いや、今までは地球……日本の高校に通ってたよ。伯父とも普通かな……ケンカしてるわけじゃないけど、相手すると疲れるしなぁ」
「成程、成程……で、女 性 と 男 性 ど っ ち が お 好 き で す か ?
物凄く熱い眼差しで見つめつつの問いに、
「そりゃ勿論、女性だけど?」
 サラリと答えられた珠輝は、めげずに再アタックをかけてみたり。
「……では、好みのタイプ、なんてのは」
「特にはないかな。好きになっちゃえば関係ないし」
「ふふふ、という事は……私にもチャンスが!」
「いや、それは無いだろう」
 リアの突っ込みもどこ吹く風である。
「それより珠輝、それ以上変な事を聞くのは失礼では……」
「! そうですね、私が聞いてばかりでは申し訳ないですよね。なら、どうぞ私のことも好きなだけ探求してください……!」
「やるなぁっ!?」
 唐突に服を脱ぎだす珠輝の後頭部に、リア渾身のハイパーひざ蹴りが炸裂した。
「て事は雛子の事は別に好きじゃないの?」
「それは難しい質問だな」
 雪に頭から突っ込み、突き出た足をピクピクさせている珠輝の方を見ないようにしながら、理沙は雪を片づけつつの理沙の問い。
 義彦は意外と真面目に困った顔になった。
「彼女を見ていると不思議な気持ちになる……どうしようもなく魅かれてしまう。こんな気持ちは初めてだよ。そうだね、これが好きという事なのだろうね」
「……」
 藪蛇だったかしら?、思いつつも理沙は義彦の態度にどこか違和感なものを感じてもいた。
 上手くはいえない、乙女の勘的なものだが。
 とりあえず、一つ言える事は。
(「本当に、頑張りなさいよ陸斗!」)
 しかしその頃勿論、件の彼は炎術に巻き込まれそうになったり、除雪車に轢かれそうになってみたり、今日も今日とて不幸体質を遺憾なく発揮していたのだった。

「うん、ここが雪像の設営場所だから」
 一方、一輝はひたすら真面目に作業していた。
 雪像班の為、骨組みを立てベニヤ板で雪プロックの型を作った。
そうして出来た雪ブロックは、これから雪像作りやかまくら作りの役に立つだろう。
「みんな喜んでくれますよね」
「ああ、きっと楽しい雪祭りになる」
 少しだけ心配そうなローザに、一輝は大きく頷いたのだった。
「腰が痛い。これ、明日は絶対筋肉痛だよな」
 シャベルを片手にチマチマと作業中の政敏の弱音を。
「いつも寝てばかりだから、筋肉痛とか言うんです」
 カチェアは腰に手を当てて、ピシャリとやっつけた。
「明日から早朝ランニングを始めましょうね。我ながらいいアイデアです。リーンも協力して下さいね♪」
「ううっ、めまいが……」
 思わず倒れ込むのはただのポーズではない。
 多分軽口だと思う、軽口だよな、でも本気だったら……どうしようか?
思わず遠い目をしてしまった政敏の顔に、冷たい衝撃。
「戻ってきた?」
 雪を掛けた張本人であるリーンはクスクスと笑みをもらした。
 カチェアは真面目だけど、時には息抜きがいる。
「割とね。政敏には甘いのよね」
 カチェアに聞こえないような呟きは、楽しげで。
 何と無く、だけど。
 カチェアやリーンが楽しそうなら、ついでに夜魅も楽しそうだし、こういうのも悪くないか……口には出さず政敏はチラッと思った。
 雪の除去はどこへやら……雪原を走る夜魅を遠く見つめながら。