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君を待ってる~雪が降ったら~

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第6章 銀世界決戦
「な〜にが楽しんだろうねぇ……雪かきなんかただの重労働だろ」
 雪国生まれの黒脛巾 にゃん丸(くろはばき・にゃんまる)にとっては、雪は天災以外の何でも無かった。
 なので、はしゃぐ生徒達を暫く眺めていたのだが。
 その内、とある男の存在がにゃん丸の心のやわらかい部分を傷つけた?!
「お、俺なんか県から奨学金もらってると言うのに……言うのに!」
 嗚呼、視線で人が殺せるならば!
「金持ち、イケメン、文武両道だと〜!世間の厳しさ教えてやっちゃっちゃらー!!」
 義彦をロックオンし、にゃん丸……いや忍丸の殺意はMAXである。
興奮しすぎてろれつも回ってませんよ?!
「刀真! いつまでも白花ちゃんにデレデレしてるんじゃねぇ!」
「雪合戦は楽しそうですし別に構いませんが……何か殺気立ってませんか? にゃん丸」
「いいから加われ! 合コンしてた事ばらすぞっ!
「ちょっ、にゃんん丸?!」
「月夜さん、合コンって何ですか?」
「……さぁ、何かしら。後で刀真にじっっっっっっっくり、聞きましょうね」
焦る刀真を右手で引きずり込み。
「壮太もだっ! 夜魅ちゃんに男らしい所見せてやれっ!」
 夜魅とほのぼのしていた壮太を無理やり拉致り。
「俺達はシャンバラの守護者……の前に蒼学男子の守護者だ! いざ雪合戦で勝負!」
 にゃん丸は義彦に戦いを挑むのだった!
「いくぞ! 影分身氷雪地獄! 男なら自分ひとりの力でかかってこいやー!」
雪玉を乱射しつつの挑発に、義彦はニヤリと口の端を釣り上げ……乗った。
「良いコースだ……中々やるな!」
「何の!」
「余裕の顔してられんのも今の内だぜ!」
 かくしてにゃん丸・壮太らとの激しいバトルが始まるのであった。
「やっぱさあ、これだけ積もった雪見てるとねえ。黙って雪かきとかしてられないよねえ」
 東條 カガチ(とうじょう・かがち)エヴァ・ボイナ・フィサリス(えば・ぼいなふぃさりす)と共に一応、除雪用スコップで地道に作業していた。
 だがしかし、眼前で始まった楽しそうな雪合戦を見て、じっとしている事ができようか……いや出来まい!
 という事で。
「おっ巽ちゃん捕捉……てぇぇぇぇぇっ!」
 いそいそと雪玉を発射するカガチであった。
 当然、ターゲットは反撃してくるわけで。
 戦火は拡大の一途をたどるであります!
「こうちょうの人使いの荒さも今に始まった事ではないし、ぱぱっと終わらせるかえ」
んしょ、んしょ……。
………………。
「だああやってられるかえこんな事ー!!」
 既にシャベルを放り投げていたセシリア・ファフレータ(せしりあ・ふぁふれーた)は勿論、この騒ぎに嬉々とした。
「雪じゃ、雪! 遊ばなくてどうするのじゃ!」
 というわけで、真面目に雪かきをしていた御凪 真人(みなぎ・まこと)を巻き込む事、決定、イェ〜イ!
「眼鏡、眼鏡……」
 突然の後頭部への攻撃。
 落ちた眼鏡を手探る真人は。
「ちょっと大丈夫? ほら、眼鏡はここよ」
 パートナーのセルファ・オルドリン(せるふぁ・おるどりん)から眼鏡を受け取り、『敵』をロックオンした。
「雪かきとかそんな事より野球……もとい雪合戦しようぜなのじゃー!」
「雪合戦ですか、いいでしょう。体も暖まりますし、乗りましょう」
 頭の中では冷静に、必要部の除雪が終わっているという判断もあって。
真人はおもむろに雪玉を作り始めた
「うりゃりゃりゃりゃりゃりゃー!!」
「む、装填が早い。ここは一旦距離を取って……」
「逃がすか! 必殺、チェインスマイトー!」
「ちょっと、真人……てか男子。少しは手伝え!」
 先ほどから力仕事を担当していたセルファは呆気にとられ……ついで、怒った。
 だって女の子なのに力仕事担当で、男の子達は無邪気に遊んでってどうよ?
「にしし、そんなにガミガミ怒ってばっかだとガミガミ星人になっちゃうぜ」
 そんなセルファの神経を逆なでするのは、もう一人のパートナーであるトーマ・サイオン(とーま・さいおん)だったりした。
「ねぇちゃんもさ、せっかくの雪なんだし楽しもうぜ♪」
 ペチ、と。
 雪がセルファの顔面にヒットし。
「ありゃ? ねぇちゃんてば意外と鈍い……?」
 ブチっという音と共にセルファが切れた。
「……うふ」
 とか何とか、危険な笑みが浮かび。
 強く強く握り固めた雪玉……てか氷玉。
「ちょっとセルファ、それぶつけたら怪我人、いえ死人が出ますよ」
「人を小馬鹿にするワルガキには丁度良いのよ」
 気付きギョッとする真人に物騒に言い返し、セルファは攻撃を開始。
「避けるな! そこになおれぇぇぇぇぇぇっ!」
「え〜、そんなのヤだよぉん♪」
 そりゃもう、楽しそうに追いかけっこを始めるのだった。

「えっと……夜魅ちゃん?」
 同じ頃、七枷 陣(ななかせ・じん)は夜魅に男らしく頭を下げていた。
「……あの時はゴメンな?……オレぶち切れてて、『クソガキ』とか『どうなろうが知った事か』とか言っちまって……」
 この間の暴言を陣は深く反省していたのだ。
「ううん、あたし別に気にしてないし」
 実際、夜魅自身にそんな余裕もなかったし……そもそも災厄自体元はと言えば夜魅のせい、なのだし。
「それにあたしこそ……」
 チラと見られ、リーズ・ディライド(りーず・でぃらいど)は緩く頭を振った。
「きっとね……ボクの祈りが陣くん達に届いたのは、夜魅ちゃんがいたからだよ」
 いや、もし例えそうでなくても。
「この場合は……やっぱり、ありがとうだよ、にはは♪」
 にぱっと笑うリーズを小さく小突き、陣は改めて夜魅を見た。
「こんな事言うのもなんやけど……連れになって欲しいなって思う。あかんかな?」
「連れ?」
「友達って事だと思うよ」
 小首を傾げた夜魅はジュジュの言葉に安堵した。
「うん、いいよ」
「あんがと。じゃあ早速やけど、こんなに積もってるし、雪合戦でもしてみる?……って、始まってるやん?!」
 そう、いつの間にか周囲で仁義なき戦いが繰り広げられていたり。
「雪合戦?」
「雪をこうして丸めてな、ぶつけるんや。何かバトルロイヤルなっとるけど……」
「夜魅ちゃん、ボクが雪合戦の必勝法を教えて上げる」
ちょいちょいと手招いたリーズ。
「えっとね〜、こうやって手頃な小石を雪玉の真ん中に忍ばせておけば相手に有効な打撃を……いだだだだ」
「お前は雪合戦初心者にな〜に要らん事教えとんねん…え〜っ!?」
「痛いよぉ〜! 髪引っ張んないでよぉ〜! ボ、ボクはただ必勝法を……」
「何が必勝法かっ!……って、ちょっと待って待って待って!」
「ん〜と、小石をこうして……」
 リーズをシメてた陣は、鵜呑みにした夜魅を慌てて止めた。
「えっとな? さっきコレが言ってた事は危ないから絶対やっちゃあかんよ? マジで。怪我人出かねんから」
「? うん、分かった……?」
 陣から真面目に言い含められ、リネンやコトノハ達にも大きく頷かれた夜魅は、ちょっと不思議そうな顔ながら頷き。
「よっしじゃあ、習うより慣れろや……行くで!」
 陣はリーズの口を塞ぎつつ、そう声を上げた。
「……ちょっとちょっと、はしゃぎ過ぎじゃないの!?」
 雪像の仕上げをしていたヴェルチェはむっ、と顔をしかめた。
 雪玉が当たって雪像が壊れる事はないだろうが、万が一という事もある。
「……クレオ」
「うむ、承知じゃ」
 手近な雪玉にクレオパトラの氷術をかけて貰ったヴェルチェは、応戦した。
 警告と威嚇を込めたそれは、ノーコンのリーズでなく陣を偶然直撃し。
「ぐおっ……だ、だからな、夜魅ちゃん……アレは絶対やっちゃあかん……のや」
 パタっ、と前のめりに倒れた、ドクドクドク。
「うわっ生きてる?!」
「……本当、やっちゃいけないんだね」
 リーズや夜魅があたふたする中。
「ここは大丈夫らしいですし、雪像から離れてもらうよう、説得してきますね」
 恭司はヴェルチェに言い置き、雪像を守るべく、雪玉持って参戦した。
「ほらほら、避けないと当てちゃいますよ」
「ダメです、夜魅さんには一球たりとも当てさせません」
「いや……それはそれでつまらないのでは」
 夜魅を庇って雪玉を受けたリネンに苦笑しつつ、恭司は反撃の雪玉をかわし。
「甘い!」
 けれどその瞬間、顔にパシャっと当たる誠治の雪玉。
「ナイスコントロール♪ 油断大敵だぜ……って、待て!」
「いやですね、待てと言われて待つ者はいませんよ」
 恭司はにぃぃぃぃっこりと、誠治に対して集中攻撃を浴びせたのだった。
「あれは雪合戦……雪玉をぶつけあう遊びだそうですよ」
「面白そう、入ってもいいよね!」
「はい、その方が楽しいと思います」
「うん、じゃあレッツゴー!」
 フィサリアは遠く見える浩人にヒラヒラと手を振りつつ参戦し、アリア・ブランシュもまた。
「これはシオンに教えてもらったんですけど……あれ、そういえばシオンは……?」
 いつの間にかいなくなっていたパートナーを気にしつつ、仲間に入ったのだった。

 その頃シオンは。
(「俺はこの瞬間を待っていた……!」)
リュートの背後に密かに迫っていた。
手にはガチガチに固めた雪球……というか寧ろ氷球。
(「奴の背後は取った、隙だらけな今がチャンス!」)
 それをシオンは雪球を大きく振りかぶり、ぶん投げた!
「喰らえリュートっ!日頃の恨み思い知れっ!」
 だが、リュートはそれをひょいとかわし。
「あぁそこ、気を付けた方が良い」
「へ……?…………うわぁぁぁぁぁぁぁぁっ」
 シオンには何が起こったか、分からなかった。
「あっあれ? 気持ちよくリュートを昏倒させて俺最強☆……なはずだったんだが、何故俺は穴の中にいる?」
 そう、シオンには分からなかった。
 追いこもうとしたリュートに逆にこの場所に誘い込まれたのだと言う事も。
 足元……雪玉を投げようと踏み出した正にその場所に、穴が空いていた事も。
 ちなみに、この穴を掘ったのはトーマだ。
 雪かきをサボり、イタズラの為にこんな事をしていたのは……セルファねぇちゃんには内緒だよ?
 それはさておき。
「背後を取られていることとずっと殺気立った目で見られていること……気づいていないとでも思ってたんだろうか……」
 足元の穴、もといシオンを見下ろしリュートはやれやれと呆れ顔だ。
「結構深いから一度落ちたら上がってくるのに少し時間がかかるだろうけど……大丈夫、死にはしないさ」
「とにかく俺をここから出せーっ!」
 顔を真っ赤にしたシオンの講義にも、リュートが顔色を変える事はなかった。
 だが、続いた独り言にその眉がピクリと上がった。
「ったく……アリアの見てない所では本当に容赦ねぇなあいつ。あいつが天使とか一体何の冗談……」
「……その一言は少し許せないな……ちょっと黙ろうか」
「ってコラっ、リュートこの野郎っ雪落とすなっ、埋まるっ!」
 ざっざっざっ、周囲の雪を容赦なく穴に放りこんでから。
「さっ、ではアリアの所に戻ろうか。心配しているかもしれないからね」
 リュートは半ば雪に埋まったシオンに一瞥する事さえなく、さっさと背を向け。
「くそっ、このまま一方的にやられてたまるかっ。何とかしてここを抜け出して雪玉の集中砲火浴びせてぜってー泣かす!」
 そうしてシオンは瞳に炎を宿し、絶望からの脱出を図るのだった。

「雪原で無邪気にはしゃぐ若人達、何とも微笑ましい光景ですな」
 白い世界にポツリと落ちた影。
 いつものように黒い服をまとった斉藤 八織(さいとう・やおり)は、その白さに少し目を細めた。
「確かに大変微笑ましい光景ですが……雪合戦の只中を進んで行くのはどうかと思います!」
そんな八織にパートナーのカース・レインディア(かーす・れいんでぃあ)は僅かばかり非難めいた声を上げた。
「ですが、これが一番の近道なのですから仕方ないですな」
 寸胴のカートを押した八織はしかし、意に介した様子もない。
 皆に温かいものを食べて欲しい、とけんちん汁を作った八織である。
 料理をふるまう会場……朱華達が作ったかまくら付近まで運ぶのに最も距離の短いルートを選んだのは、皆に料理を食べて欲しい逸る心の表れ、なのだが。
「いえ、急がば回れと言いますし……」
 雪玉飛び交う中を堂々と直進していく姿はいっそ清々しい。
 とはいえ、それがカースの心の慰めになるわけもなく。
 先ほどから雪玉が視界に入る度、一々身構えてしまうカースである。
「いざとなったら八織殿はこの身に代えてでも!」
 共に寸胴のカートを押しながら、カースがそんな健気な覚悟をしている事、八織はまったく気付かなかったのだけれども。
 ちなみに幸いにして、カースの心配は杞憂に終わった。
 八織達が危険な配達をしている頃、他方でちょっとした騒ぎが起こっていたからである。

「うわぁ……もうかなり盛り上がってます」
 当事者……ようやく校庭に辿りついたリース・アルフィン(りーす・あるふぃん)の顔には、ガッカリした色が浮かんでいた。
雪遊びをみんなと楽しみたい!、とおねーちゃん……アリス・レティーシア(ありす・れてぃーしあ)と一緒に校庭に来てみたのだが、来るのが少し遅かったらしい。
「おねーちゃんが校内で迷子にならなければもう少し早くこれたのに」
 目の前の光景は楽しそうだ。
「私もみんなといっしょに雪合戦したいなぁ……でも、なかなか仲間に入れてもらうタイミングがつかめないよー」
 迷うリース。
 かといって、今から一人で雪だるまとか作って遊ぶのも……何か嫌だったから。
「よし、勇気を出して混ぜてもらいに行くよ!」
 リースは勇気を捻りだすと、両手に雪玉を持って合戦場へと乗り込んだ。
 のだが。
「リュートてめぇこの野郎! もうぜってぇゆるさねぇ!」
「えぇいちょこまかとすばしっこい! 影分身氷雪地獄・改!」
「……わわっ……むぎゅっ?!」
 シオンやらにゃん丸やらの雪玉乱れ飛びに無策で飛び込むのは……無謀でございました。
 運悪く乱戦の中央に出現したリースは格好の的、だったりして。
「はっはぐぅ、ええっちょっ……さすがにこれは……」
 集中砲火である。
 ああこんな筈ではなかった。
 もっとこう、カッコ良く仲間に入れる筈だったのに。
「むぅ、か弱き女生徒を集中攻撃とは、許せんのじゃ!」
「確かに、今助けます!」
「あっ、ありがとうございます」
 それでも、助けに入ったセシリアと真人の姿は感激もので。
「やはりここは、か弱き女性の味方をするべきでしょうね」
 恭司もまたどこか楽しそうに言うと、周囲の雪を手早く集め。
「とりあえず、両側を牽制しつつ、態勢を整えましょう……あちらの層の薄そうな方に狙いを集中させて」
「はっはいっ!」
 恭司に応えるリース。
 怒涛の反撃を受けたシオンが沈むのを、リュースは溜め息と共に見届け、アリアは慌てて回収に入ったとか。
「夜魅ちゃん、あそこの勢力をやっつけよう!」
 にゃん丸達を指さす勇。
 先ほどまでいつものようにファインダーを覗いていたのだが、あまりに楽しそうなので遂に加わっていた。
「本人達は楽しそうだけどさすがに威力が高いわ」
「……雪玉、準備完了」
 遊雲がさりげにたくさんの雪玉を作り。
「そういう事なら一口乗るよ? ほら、巽ちゃんも」
「任せろ、こちらはプロだ。敵は手ごわいが、皆で力を合わせれば必ず倒せる!」
「いや、皆さんノリすぎじゃないですか?」
「いいや真人、これは天の裁きなのじゃ!」
 カガチやセルファもノリノリで立ちあがり。
「そろそろ落ちるのじゃぁぁぁぁぁぁぁ!」
 にゃん丸に刀真に壮太に義彦に……雪合戦を始めた者達に、一斉攻撃を仕掛けた。
「のあぁぁっ、負けるか!」
「てかにゃん丸、何、悪い事したんだよ!」
「いや、皆ハイになってるだけだと思うぞ」
「月夜も白花もどうしてそっち側なんですか?」
「……自分の胸に聞いて」
 そして、そうして。
「にゃん丸も義彦おにーちゃんも強い……りっかちゃん、GO!」
「のっノォォォォォォォォっ!」
「!? 掴まれ!」
「て、それもまた反則やで!」
 夜魅の禁じ手でにゃん丸と義彦が諸共に吹き飛ばされたとか。
「あははっ、すごい……楽しすぎ」
 目の端に涙まで浮かべながら、仲間に入れた事を喜んでいたリースはふと、気付いた。
「あれ? おねーちゃんはどこに行ったんだろ?……あ、あんなところで写真撮ってる」
「リースは楽しそうにみんなと雪遊びしてるなぁ……ああ、可愛い」
 うっとりしつつ、可愛い子中心で写真を撮っていたアリスは、こちらに気付いたリースが駆けてくるのをニコニコ見守った。
「あっ転んだ……うふふ、本当にリースは可愛いわね」
「ね、おねーちゃん。私の写真も一枚撮って欲しいな……」
 アリスがカメラを構えているのは見た事があったが、写真を取られた覚えのないリースは知らなかった。
 アリスが可愛い子の写真を『マイ可愛い子ファイル』に収めている事を。
 そして勿論、その筆頭がリースである事なんて。
 本人に気付かれずに撮る方法はいくらでもあるし、その方が自然な写真が撮れるというものた。
「ん? そうね……うん、リースの写真は、私の宝物にして大事にするからね!」
 途端、嬉しそうに笑み崩れたリースを、パシャというシャッター音が捉えた。
「ついでだから、この写真を新聞部の記事に役立ててもらおうかしら」
 雪まみれになって夜魅や巽とハイタッチをかわしている勇に目を細め、アリスはくすっと微笑んだ。

「全員、そこまで!」
 そんな中。
状況にストップをかけたのは、エヴァの一声だった。
 腕組みしつつ仁王立ち、なエヴァはニッコリ笑んでいたが。
 そのまとう雰囲気と額の怒りマークが、内心を如実に表していた。
「カガチはどうせ真面目になどしないでしょうし、最終的に校長のおっしゃる通りに場所が開けばいいのでしょうから」
 と多めに見ていたエヴァだったが流石にこれ以上は見ていられなかった。
 というか、雪像や折角キレイにした校庭に流れ弾が飛んでくる時点でダメダメである。
「総員、撤収作業! 日が暮れる前に、全作業を終了します!」
 場を睥睨するエヴァ。
 力尽きた戦死者はともかく、動ける者達は慌てて後片付けに動いたのである。
「ちなみに……あなたはいったい何の為に此処にいるのですか? カガチ!」
「……へ〜い。ごめんね、おねえちゃん」
「可愛くありませんよ。少し休んだら、最後の一仕事……キリキリ働いてもらいますからね」
「……あい」
 仕方ないか、余韻を残しつつ立ちあがったカガチはエヴァの後を追おうとして、ふとその足先を別方向に向け。
「あのな、夜魅ちゃん」
 死屍累々と戦死者(笑)が積み重なる戦場跡地で。
 嬉しそうにヘタり込んだ夜魅の横に腰を下ろし、囁いた。
「バジリスクの時、怖がらせてすまなかったな」
 幸い、周りには人がいなくて。
 だからこっそりと、口に出せた。
「……ううん、あたしが悪かったんだよ」
 ちょっと目を見張った夜魅は直ぐに、頭を振った。
「何でかな? あの頃は外に出たいってここから出たいってそれしかなかった……それしか考えられなくて……みんなにいっぱい迷惑かけちゃって……」
「……そっか」
「おじさんもだから、ごめんなさい……それと、ありがとう」
 小さな手に頭を撫でられ、カガチはちょっと驚いた。
 与えられたものを、他の者に与えたいというような、少女の心根に。
 照れたように笑ってから、たくさんのものを与えてくれる大切な人達の元へと帰っていく夜魅。
「皆、楽しく遊べましたね。風邪を引かないうちに着替えましょうね」
 ユーベルは用意しておいた着替えを夜魅やリネンに配り。
「楽しかったですか?」
「……うん。すごく……すごく、楽しかった」
 興奮だろう、頬を上気させたリネンに心の底から「良かった」と思ったのだった。
 一方、夜魅を見送ったカガチの胸にはくすぐったさと……そして、切なさが込み上げていた。
「……おっさん、か」
「小さな子から見れば、みなおじさんですよ」
「うわっ、気配感じなかったんですけど」
 エヴァに見られていた羞恥にそっぽ向くカガチ。
「それよりさっさと働いて下さいね」
 背中をドツくエヴァの手も声も、とても優しかった。
「ふぅ、一杯楽しんだのじゃー。くたくたじゃー」
 戦死者の一人、セシリアは大の字で雪に抱かれながら、ふっと口元を緩めた。
「……しかしまあ、騒動もたまには良いが、皆でこんな風に遊べる日常が一番じゃな。うむ」
 そうですね、同意する真人も肩で息をしながら、眼鏡の奥の目を細めた。
「願わくば、こんな楽しい時間が長く続くことを」
 知っているから。
 自分達が学生なのだと。
 夜魅や仲間達、出会った様にいつか別れの時も来るのだと。
でも、だからこそ。
「俺はこの絆と思い出を大切にしたい。思い出と絆がまだ見ぬ明日に進む力になれるように。別れの時が来ても、再会を笑顔で約束できるように」
 願う、心より。
夜魅達や自分達が紡いでいく新たな物語に、幸多からん事を。
「……ふっふっふ、ようやく捕まえたわよ」
「にいちゃぁん、オレ喰われるぅ、た〜す〜け〜てぇぇぇぇぇ」
 けれどとりあえず今は……トーマをセルファから助ける事が先決のようだった。