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【十二の星の華】悲しみの襲撃者(第3回/全3回)

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【十二の星の華】悲しみの襲撃者(第3回/全3回)
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第二章 説得 part1.絡み合う意図


「やはりリフルを守ろうとする者は少なくないな。葛葉、光条兵器を出してくれ。あちらへ回り込むぞ」
(また黒龍は無茶をする。あのリフルという女には何か思い入れがあるようだったが……)
 天 黒龍(てぃえん・へいろん)はパートナーの紫煙 葛葉(しえん・くずは)から光条兵器を受け取ると、リフルの警護が手薄な方へと移動する。しかし、黒龍がリフルに攻撃を仕掛けようと踏み出した瞬間、目の前にトライブ・ロックスター(とらいぶ・ろっくすたー)とそのパートナーであるヴァルキリーの千石 朱鷺(せんごく・とき)、獣人の蘭堂 一媛(らんどう・いちひめ)が現れた。トライブは仮面で、朱鷺と一媛は黒いマスクで顔を隠しているため、その正体は分からない。
「おっと、ここを通すわけにはいかないな。一身上の都合で、俺はゲイルスリッターの味方をすることにしているんでね」
 普段よりも若干クールな口調で、トライブが黒龍に言う。
「私にリフルを撃退する意思はない。少々挑発的なやり方になるだろうが、彼女を解放したいだけだ」
 黒龍も冷静な声で答えた。
「そんなことが簡単に信じられると思うか?」
「私の言葉に偽りがあったときは、私を斬ればいい」
 しばし無言で視線を交わす二人。と、不意に一媛がトライブの袖を引っ張った。
「飼い主殿、あちらを止めた方がよいのではないか」
「ん?」
 一媛が指さした先で猛然と走っているのは霧雨 透乃(きりさめ・とうの)。彼女は護衛の隙間からリフルに近づくと、説得を試みる生徒たちを押しのけてリフルに殴りかかった。
「私は戦うのが好き! 楽しくて仕方がない!」
 そう口にして両手に握った器、盛夏の骨気から躊躇なく爆炎波を放っていく透乃は、周りから見ればリフルを殺そうとしているようにしか見えない。
「なんだあいつは……! 二人とも、行くぞ!」
 トライブは朱鷺と一媛を連れて透乃の元に急いだ。トライブがリフルと透乃の間に入り、朱鷺がその前に立つ。朱鷺はディフェンスシフトを使用しながら言った。
「リフルを倒すつもりですね。それはわたくしたちが許しません」
 これには透乃のパートナー霧雨 泰宏(きりさめ・やすひろ)が即座に答える。
「待て。透乃ちゃんはリフルに自分の本心をぶつけ、リフルからも本心を引き出すつもりなんだ。中途半端な行動では本心を引きずり出すことなどできないだろう」
「ふん、おぬしらの事情になど興味はない。戦場では強い者の主張のみがまかり通るのだ。一媛たちを退けたいのなら、力でねじ伏せてみせよ!」
(一媛、顔を隠しても名乗っちゃ意味ありませんよ)
 一媛の言葉に、朱鷺はつっこみたい気持ちを必死で我慢した。
「誰だか知らないけど、邪魔するなら容赦しないよ」
 透乃が、一媛と視線を戦わせて言う。
「望むところだ」
「よ〜し、やっちゃうよ〜! せいぜい楽しませてよね!」
 心から戦いを楽しむ透乃に、大の戦闘狂である一媛。共に器を武器とする二人は、自然と引かれるようにぶつかり合った。
「あっはっはー! おぬし強いな!」
 敵が強ければ強いほど気分が高揚する一媛は、セスタスを手に高笑いをしながら華麗に舞う。しかし、己の燃え上がる魂を表すかのような炎を用いた攻撃で、透乃は一媛を焼き尽くさんばかりの勢いだ。
「やれやれ。無謀なことを言う連中が出てきたと思ったが、うちの狼娘も大概だな。相手との力量差というものをまるで考慮しちゃいない。仕方ない、サポートに回るぞ」
 トライブは朱鷺と共に一媛の援護に入る。透乃の側では、透乃のもう一人のパートナー緋柱 陽子(ひばしら・ようこ)が、落ち着かない様子で泰宏に話しかけていた。
「あ、あの……やっちゃん、私は一体どうしたら……」
「俺は透乃ちゃんを守りにいく。陽子さんは無理せず……そうだな、他に透乃ちゃんを妨害するやつがいないか見張っていてくれ」
「分かりました」
「では、陽子さんも気をつけて。何があるか分からないからな。透乃ちゃん、今行くぞ!」
 一人で三人を相手していた透乃に、泰宏が加わる。超攻撃的な透乃と強固な守りを見せる泰宏のコンビネーションに、トライブたちは分の悪い戦いを強いられ始めた。
「く、まずいな……」
 トライブが一呼吸置いて戦況を確認する。深く考えて戦っていない一媛は、いつぶっ倒れてもおかしくない。トライブが一時撤退も考えたそのとき、
「透乃ちゃん、やっちゃん、危ない!」
 陽子がありったけの声を振り絞って叫んだ。
「わっ、と」
 透乃が飛んできたブーメランを軽やかな身のこなしでかわす。泰宏は試作型星槍でチャクラム状の光条兵器を弾いた。
「もう、今度は誰? みんなして私のこと邪魔して!」
 透乃が不満そうな顔をする。
 透乃にブーメランを投げつけたのはナナリー・プレアデス(ななりー・ぷれあです)
 彼女は銀の生地に深青紫でLa Maison de Dieuと入ったチューブトップ、デニムのホットパンツと黒紫のレギンス、短い革手袋といういでたちだ。目を隠すようにしたリボンはシャギーのツインテールに巻いてから後頭部で結んで残りを靡かせてあり、LUNATIQUEと書かれている。また、彼女の頭には超感覚の効果で白い兎の耳が生えていた。
 一方、光条兵器で泰宏を攻撃したのも一人の少女。髪型こそストレートロングだが、ゲイルスリッターとそっくりの服装をしている。トライブはその姿に見覚えがあった。
「何!? もしかしてあれはこの間の……? 一体どういうことだ。ちくしょう、わけが分からなくなってきたぜ」
「リフルが二人? しかし、よくよく見ればあの方は随分と立派な胸をされていますね。リフルはぺったんこですから。……わたくしのようにね……」
 朱鷺が恨めしそうに言う。
 ゲイルスリッターの格好をした少女は、冷たい声でこう口にした。
「……私は十二星華の一人、乙女座(ヴァルゴ)の名をもつ者」
 この発言に、その場にいた者たちは大変な驚きに包まれる。中でも陽子の慌てぶりは一際目立っていた。
「え? え? 不思議な格好をした人にゲイルスリッターがもう一人? 何が何なんですか。ああ、二人ともこっちに来ます!」
「山羊座の十二星華……私には彼女を助ける義務がある」
 ナナリーは戻ってきたブーメランをキャッチすると、大鎌の形をした光条兵器を手に透乃に迫る。ステップを踏みながら鎌を振るう舞踊のような動は、回避行動も兼ねていた。
「えーい、一気にかかってこい! みんなまとめてやっつけちゃうもんね!」
 敵が増えた状況に、透乃は気合いの声を上げる。ナナリーはといえば、乙女座の十二星華を名乗る少女の存在が気になる様子で、透乃と交戦しつつも随時彼女の動きに注意を払っていた。
 その乙女座を名乗る少女は、ナナリーが透乃に仕掛けたのを見てテティスたちのいる方へと向かった。

「おいテティス、邪魔する奴の治療をしてどうする!」
「だって放っておけないわ」
「そんなの後で……」
「手遅れになったら困るじゃない」
 彼方やテティスは、数で勝るリフル防衛ラインを未だに突破できずにいた。そこに、ゲイルスリッターの格好をした少女が接近してくる。
「彼方、あれ!」
「何、新手か? って、ゲイルスリッター!? いや、でもやつは確かにあっちにいるし……」
「来るわ!」
 少女は再びチャクラム状の光条兵器を投擲する。光条兵器は二人の服だけを切り裂いて彼女の手へと戻っていった。
「くそ、次から次へと……これじゃいつまでたってもきりがないぜ」