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【十二の星の華】悲しみの襲撃者(第3回/全3回)

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【十二の星の華】悲しみの襲撃者(第3回/全3回)
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part3.謎の女


「リフルさんは……こんなこと望んでないわよね」
「当たり前だ。リフルが自らの意思で襲撃などするわけがない」
 アイシス・ゴーヴィンダ(あいしす・ごーう゛ぃんだ)の漏らした言葉に、パートナーのシルヴィオ・アンセルミ(しるう゛ぃお・あんせるみ)がきっぱりと答える。
「必ずや、リフルにこんなことをさせたやつを探し出してやるさ……どうだ、黒幕に関して何か情報はつかめたか?」
「いや……リフルが消息を絶った翌日から捜査を開始したが、残念なことにこれといった収穫はなかった……」
「こっちも同じだ。俺はリフルが姿を消した瞬間から今日までパラミタ中を走り回ったけどよ、ちっとも尻尾を出しやがらねえ。ちくしょうめ、見つけたらただじゃおかねえ!」
 シルヴィオたちと協力してリフル洗脳の犯人をあぶり出そうとしている鬼崎 朔(きざき・さく)百々目鬼 迅(どどめき・じん)は、それぞれの調査結果を報告した。
「ふむ……さすがに敵もそう簡単には手掛かりを残さないか。だが、きっと犯人もしくはその息のかかった者が近くにいるはずだ。高みの見物を決め込んでな。一般人とは視点や動きの違うやつがいないか注意深く観察しよう。見つけたら、無関係の人を巻き込まないように接触だ」
 朔たちが頷く。
「ところで……あなたは?」
 シルヴィオは、自分たちのグループには入っていないはずの顔がこの場にあるのを認めて、声をかける。
「私? 私は如月 玲奈(きさらぎ・れいな)。キミたち、リフルを操ってるやつをぶっ飛ばすんでしょ? 私も仲間に入れてよ。こういうのは、黒魔を倒さないと第二第三の被害者が出るに決まってるからね!」
 シルヴィオは少し考えたが、やがて言う。
「分かった。人手はあって損にならないからな。では、如月さんは鬼崎さんと一緒に行動してくれ」
「ありがと! よろしくね、鬼崎さん」
「……よろしく頼む」
 こうして当初のメンバーに玲奈を加え、シルヴィオたちは黒幕を探しに散った。

 迅はパートナーのシータ・ゼフィランサス(しーた・ぜふぃらんさす)ネロ・ステイメン(ねろ・すていめん)とチームを組んでいる。
 今回三人にはそれぞれ役割とコードネームがあり、会場付近をバイクで捜査する迅が『探偵乙N(ぜっとえぬ)』、箒に乗り、迅と手分けして空から捜索を行うシータが『Nウルフ』、会場と捜査グループのパイプ役を担うネロが『探偵N』と決まっていた。
「くっそ、こっちも人だらけじゃねえか。こりゃバイクを突っ走らせるのは無理だな」
 迅が舌打ちをする。学園の外には、広場に入りきれなかった人々がごった返していた。ゲイルスリッターからの距離が遠いということで、逃げようとする者も少ない。
 一方、空を行くシータは快適だった。
「迅は大変そうだな。箒で来て正解だったぜ。よし、ココはウチに任せな! ……と言いたいところだが、目立ってるよなあ、ウチ。仮に犯人の近くを通ったとしても、絶対に警戒されるぜ……」

「私は隠れてるね」
「ああ」
 朔と玲奈は広場の中を歩く。玲奈は光学迷彩で姿を消した。
(避難していない人もまだまだいるな……。この中から犯人をみつけるのは相当難しい)
 朔が右に左にと視線を走らせる。すると、隣から玲奈の声が聞こえてきた。
「ねえ、あの人怪しくない?」
 誰かを指さしているのだろうが、光学迷彩を使っているので当然朔には見えない。
「どこだ?」
「あれだよ。噴水の脇にいる、あのハゲのおっさん」
 朔が言われた方を見ると、そこには確かに人並み外れたオーラを放つおやじが立っていた。
「はあ……はあ……リフルちゃん、なんてエロイ格好をしているんだっ!」 
 などと言っている。
「……いや、確かに怪しいが、あれはただの変た……」
「私、行ってくる!」
「お、おい」
 朔の言葉には耳も貸さず、玲奈はオヤジへと向かって走っていく。その勢いで光学迷彩用の布は吹き飛び、玲奈の姿が露わになった。
「ちょっとそこのおっさん!」
「へ? わ、私ですか?」
「他に誰がいるっていうのよ。おじさん、リフルとどういう関係?」
「ど、どういう関係って」
「まさか……リフルを洗脳したりしてないでしょうねえ」
 あまりにストレート。そしてあまりに見当違い。
「洗脳だなんてそんな! 私はただの無害な変態です!」
「悪者はみんなそう言うのよねえ」
 言いません。
「考えてもみてください。私にリフルちゃんを洗脳できるような力があったら、襲撃なんかさせずにあんなことやこんなことをさせてますよ。……ふひひ」
「……それもそっか。なーんだ、本当にただの変態だったのね。ごめんなさい、心置きなく続けて」
「へへ、どうも」
 玲奈は小走りで朔のところに戻ってくる。
「お待たせ。残念、人違いだったみたい。さ、次行こ鬼崎さん。どうしたの? 頭なんか押さえて」
「……なんでもない」

「ミルザムは校舎の中に引っ込んじまったが……まあ、その姿を収められたからよしとしよう。後はゲイルスリッターとクイーン・ヴァンガードの戦いをばっちり撮ってやるぜ!」
 ミューレリア・ラングウェイ(みゅーれりあ・らんぐうぇい)は、ミルザムとクイーン・ヴァンガードの様子を撮影し、彼女たちが女王とその護衛に相応しいか見極めようと考えている。また、動画をあちこちにばらまいて広め、視聴者がミルザムたちを評価する材料とするのも目的の一つだった。
「よーし、それじゃあ――」
 ミューレリアがビデオカメラを構える。と、誰かが彼女にぶつかった。
「うわっ」
 尻餅をつくミューレリア。
「あ、ごめん!」
 彼女に手を伸ばしたのは、玲奈だった。
「すまない……私からも謝ろう」
 玲奈と一緒にいた朔が、地面に落ちたカメラを拾おうとする。そこで、朔は何かおかしいことに気がついた。
「ん……壊してしまったか?」
 画面の端、一人の女性が写った部分だけ画像が乱れているのだ。
「そんな簡単に壊れるカメラじゃないはずだぜ。どれどれ……なんだこりゃ?
変だな」
 ミューレリアも首をかしげる。
「他の場所を写してみてもらえるか?」
「別に構わないぜ」
 ミューレリアはカメラを拾い上げ、朔の顔にピントを合わせる。
「あ、直った」
 その言葉を聞いて、朔はぞくりとするものを感じた。
「一時的なものだったのかな。まあ、なんともなくてよかったぜ」
「……失礼する」
「ん? ああ」
 朔はくれぐれも黙っているよう玲奈に告げると、ネロ・ステイメン(ねろ・すていめん)に連絡を入れ、先ほど画面に映っていた女性を慎重に追跡し始めた。
「さて、んじゃ気を取り直してと――」
「あ、そこのあなた。ちょうどいいところに!」
 撮影を再開しようとしたミューレリアに、今度はリーン・リリィーシア(りーん・りりぃーしあ)
が話しかける。
「次は何だ」
 立て続けに邪魔が入って、ミューレリアは面倒臭そうな顔をした。
「悪いんだけど、少しそのカメラを貸してもらえない? ちゃんと後で返すから」
「え? ちょっと」
「ありがとう!」
 リーンはミューレリアの返事も聞かないうちにカメラを奪うと、走り去ってしまう。ぽつりと取り残されるミューレリア。
「……私、なんか悪いことしたか?」

「はい、こちら探偵Nです。鬼崎さんですね。どうぞ」
 角砂糖を舐めながら広場中心で待機するネロの元に、朔から連絡が入る。
「はい、はい……なんですって? 場所は? ……ええ。ポニーテールで緑色の髪をした女性……見た目は21、2歳……。はい、了解しました。至急他のメンバーにも伝えます。では」
 ネロは一旦携帯電話を切ると、急いで百々目鬼 迅(どどめき・じん)シルヴィオ・アンセルミ(しるう゛ぃお・あんせるみ)の番号をコールした。

「おう、探偵乙Nだ。……何、本当か!? ようし、すぐに行く! ――――もしもし、こちら探偵乙N」
『Nウルフだ』
「探偵Nから連絡が入った。……ああ、その通りだ。今から言う場所に急いで行ってくれ!」

「もしもし、シルヴィオだ。どうした? ……! 分かった。こちらもすぐに向かう。無理はするなと鬼崎さんたちに伝えてくれ」
「何か動きがあったの?」
 シルヴィオ・アンセルミ(しるう゛ぃお・あんせるみ)が電話を切るやいなや、アイシス・ゴーヴィンダ(あいしす・ごーう゛ぃんだ)が尋ねる。
「怪しいやつが見つかったらしい。広場にでかい時計があるだろう? その近くで今鬼崎さんたちが後を追ってる」
「本当? 私、先に行ってるわね!」
「頼む」
 守護天使のアイシスは、人混みの頭上を飛んで一足先に現場へと向かった。

「鬼崎さん」
「どこだ犯人は!」
 アイシスとシータ・ゼフィランサス(しーた・ぜふぃらんさす)が、ほぼ同時に朔の元にやってくる。
「静かに……あの女性だ」
 朔はターゲットを指さした。
「あのねーちゃんが? もっと見るからに悪そうなやつを想像してたんだけどな」
 シータは拍子抜けしたような顔を見せる。
「……犯人だと断定はできないが、何かある……」
「とりあえず、私が様子を見てきますね」
 アイシスはそう申し出ると、ゆっくりと距離を詰めて自然と女に並びかける。その瞬間、女が口を開いた。
「やあ、ボクに何か用かい?」
 アイシスが凍り付く。女は体内から何かを取り出した。
(光条兵器!?)
 それはアイシスを空高く吹き飛ばす。人々から悲鳴が上がった。
「おっと!」
 地面に叩きつけられる寸前、アイシスを迅が受け止める。
「なんとか間に合ったな。テメェが親玉か? ようやくツラ拝めたぜ……覚悟しやがれえええ!」
 迅はアイシスをそっと地面に寝かせると、怒りを爆発させて女へと向かっていく。
「本性を現したな! はああああっ!」
 朔も雅刀を抜けて飛び出した。
「元気だねえ。でも、ボクはキミたちと遊んでるほどヒマじゃないんだ。バイバーイ」
 迅と朔が女に迫る。が、攻撃が届こうかというところで敵は突如姿を消す。
「何!? どこ行きやがった!」
「何かのスキルか?」
「ちくしょう、出てきやがれ!」
 迅たちは、あと一歩のところで女を捕り逃がした。