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ぼくらの栽培記録。

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ぼくらの栽培記録。
ぼくらの栽培記録。 ぼくらの栽培記録。

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1日目


1日目)朝:晴れ  担当 七瀬 歩(ななせ・あゆむ)


今日から日誌を付け始めます。

トップバッターなんで、ドキドキしています。

管理人さんは、一週間ほど出張に出かけられるそうです。

花が無事に咲くかどうかちょっぴり心配です。



「この球根……やっぱりちょっと気味が悪いですねぇ」
「そうですねぇ。穴がぼこぼこ開いているです…」
 ロザリンド・セリナ(ろざりんど・せりな)ヴァーナー・ヴォネガット(う゛ぁーなー・う゛ぉねがっと)が、球根をじっくりと観察していた。
「でも、管理人さんが1週間後には綺麗なお花が咲くと言ってました。どんな花になるのか楽しみですねー」
 ロザリンドの言葉に、ヴァーナーもにこにこ笑って。
「はい! イイ子にそだってきれいなお花をさかせてくださいです♪ 虹花(ニジカ)ちゃん」
「虹花ちゃん?」
「七色のお花が咲くそうなので、虹花ちゃ…ん。ど、どうですか?」
「可愛いですね♪」
(…虹花ちゃんかぁ……)
 ロザリンドはぼんやり思った。
(大きくなると綺麗なお花が咲くのですよね……桜井 静香(さくらい・しずか)校長と見に来ようかな)

『──校長、綺麗ですね』
『ううん、ロザリンドの方がもっと綺麗だよ』
『え、そんな……嬉しいです』

「そんなこと起きたりして! いやー、そんなこと言われたらどうしましょうー!!」
「……ろ、ロザリンドおねぇちゃん?」
 鉢の前でクネクネと悶えるロザリンドに、ヴァーナーは目をぱちくりさせた。
「あぁあははははは、なんでもないですよ」
「そうですか、良かったです」
 ヴァーナーはにこにこ笑うと、持っていた球根をぎゅっと抱きしめ、そして、ちゅっと口付けた。
「7色のお花が咲くように7色のフルーツやオヤツをよういしました。早く食べてほしいです」
(オカシとかもたべるってきいたので、きっとタネ子さんみたいな子だと思うのですが…)
「イイ子になぁれ〜イイ子になぁれ〜♪」
 ヴァーナーは愛しそうに、何度も何度も球根を撫で続けた。

「──久しぶりに入ったね、温室」
 どりーむ・ほしの(どりーむ・ほしの)は、パートナーのふぇいと・たかまち(ふぇいと・たかまち)と一緒に温室へやって来た。
 中では既に、何人かの生徒達によっての球根植え作業が始まっていた。
「手伝う?」
「う〜ん、どうしよっかなぁ」
 七色の花も気になるんだけど、あっちで蠢いてる触手の森の方がもっと気になる……
 どりーむは辺りをきょろきょろ見回した。
 また触手で女の子を襲って目の保養をさせてくれないだろうか。
……相変わらず恐ろしいことを考える、どりーむだった。
「あ……!」
 視線の先に捕らえた可愛い女の子、佐倉 留美(さくら・るみ)。……なんとなく獲物の匂いがする♪
「ふぇいとちゃん、ふぇいとちゃん! あっちに行こう!!」
 どりーむはタネ子さんの様子を見に行こうと、ふぇいとを引っ張った。
「えぇ!? ね、ねえ? やめようよ、また触手に恥ずかしいことされちゃうよ?」
「その時はあたしがもっとすごいことしてあげるから大丈夫よ」
「……もっとすごい…」
 ふぇいとは、顔を赤らめた。
 一体どんなことをされちゃうんだろう……
 期待と不安でいっぱいになる。
 どりーむは強引にふぇいとを引きずり、留美の近くまで行くと偶然を装って声をかけた。
「あれぇ? 留美ちゃん?? こんな所で会うなんて奇遇だね」
「…え? あぁ! どりーむさん!」
 触手の方をうっとりと見つめていた留美は、慌てて視線を反らした。
「タネ子さんが気になるの?」
 問いかけるどりーむの顔は笑っているが、目の奥は笑っていない。
「……それとも──…触手?」
 留美はその言葉に心臓が跳ね上がった。
 まさか襲われることを想像して興奮していたなんて、バレるはずがない。
 だけど──
「せ、先日の触手の森……いろいろな意味ですごかったですわよね。あの時かなりの数の触手が切り刻まれましたので、現在どうなっているのか少し気になりまして……肥料をあげた後に少し奥まで様子を見に行こうかと」
「ふぅん……」
 どりーむが腕を組んで、何かを考え込む。
「あの…?」
「じゃあ、その時はあたし達も一緒に行くよ」
「……えっ?」
「なんてったって、触手は危険だもんね〜」
「あ、ありがとう……」
 訳も分からず、留美は感謝の言葉をこぼした。
(ふふ……ふふふ…可愛い女の子は、皆あたしのものだもんね〜!!!)
 どりーむの邪心は、ふぇいとと留美には読めなかった……。

「七色のお花がどんなものか気になります! 管理人さんイチオシですし、きっと素敵なお花の筈♪」
 鉢に土を入れながら、プレナ・アップルトン(ぷれな・あっぷるとん)は笑った。
 横でパートナーの穂露 緑香(ぽろ・ろっか)も大きく頷く。
「珍しい植物があるとのウワサを聞いて参上っす♪ でも特に興味があるのは話題の七色のお花さん…秘伝の味をご馳走する代わりに花弁の一枚でも頂けないっすかねぇ? 新しいギャザリングへクス魔法スープの材料にしたいっす」
「んっふっふ〜♪ 花も良いけど魔法スープにも惹かれるね」
 仲良く一緒にやって来たクラーク 波音(くらーく・はのん)が、緑香の話に微笑んで答えた。
「美味しそうですねぇ」
 波音のパートナー、アンナ・アシュボード(あんな・あしゅぼーど)も興味深そうに相槌を打つ。
「え……」
 途端にプレナの顔色が蒼ざめた。
「あぁっ! それじゃあギャザリングへクスドリンク飲みますか? 波音さん! アンナさん!」
「ぽ…ポロロッカ! それはまた後で良いんじゃないかなぁ。今はこっちの作業を終わらせないと!」
「そ、そうですかぁ……?」
 プレナの慌てふためく様子──そして、緑香に気付かれないように送ってくる意味深なアイコンタクトと首振り。
 相当危険なスープだということが判断できる。
「…危なかったんだ…助かった……」
 波音はアンナに目配せして、こくりと頷いた。そしてすぐさま話を逸らす。
「だ、だけど早く大きくならないかなぁ。これじゃあ食べ物をあげられないよね? プレナお姉ちゃん」
「うーん、そうだよねぇ。顔? が出来るまでは無理なのかなぁ……」
「食べ物はねぇ、アンナと一緒に桜餅を作って持ってこようと思うんだっ! アンナ料理が得意だから、教えて貰いながらだけど、てへっ」
「ふふっ、波音ちゃん、とっても気合入っていますね」
 アンナが可笑しそうに笑う。
「春の季節だし、桜餅が良いかなと。道明寺と長命寺の2種類に、こしあん・つぶあんの2種類! 球根さんの好み分からないから、色々組み合わせて作ってみるよっ!」
 もしかして。
 球根さんの反応とか見ながら好みのを沢山あげればいいのかもしれない──
「あたしは絶対、道明寺のこしあん派っ! ただ、やっぱアンコは甘めに作りたいなっ♪ 甘さ控えめがいいって人も多いけど、やっぱお菓子だもんねっ♪ 球根さんも甘いのがきっと好きだよねっ!」
「あ、ちなみに私は桜餅は長命寺の粒あん派です」
 アンナが横から口を挟む。
 そんな様子をプレナは笑って。
「七色のお花さんに日本のわびさびの心を…じゃなくて、日本のおやつを味わってもらおうね! 4人でワイワイとピクニック気分で! ね♪ はのんちゃん、アンナちゃん、ポロロッカ!」
「うん!!」

 球根に優しく土を被せると、佐々木 弥十郎(ささき・やじゅうろう)は安堵の溜息をついた。
「こんなもんだねぇ」
「なるほど、部屋自体を温かくするとな。この透き通る石が決め手か。素晴らしい」
 服装もオーバーオールで、やる気十分のパートナー賈思キョウ著 『斉民要術』(かしきょうちょ・せいみんようじゅつ)が、温室を見回しながら唸った。
「ここは天国か……」
「びっくりしたかい?」
 斉民は興奮冷めやらぬ状態で、何度も頷いた。その他の熱帯性の植物についても生態が知りたくてうずうずしている。
 管理人に色々質問してみたかったが──出張に行っていてしばらく帰ってこない。
「育て方の質問がしたかった……」
「また次があるよ。今はこいつを精一杯面倒見よう」
「うん……」
「肥料はお菓子ということで……腕がなるねぇ。どんな物を好んで食べるんだろう?」
 ある程度成長したらお菓子を食べる珍しい植物。斉民の植物の研究知識に役に立てば良いんだけど……
 弥十郎は、鉢を綺麗に並べた。
「……あれ?」
 何か書いてある。マジックで大きく。
 一号、二号……残りの鉢の向きも変えて揃えてみた。
「なるほどねぇ。分かりやすいように……かぁ」


管理人さんが用意してくれた鉢には番号が書かれていました。

皆でそれぞれ協力し合って各鉢に肥料を混ぜた土を入れ、球根を植えました。……ちょっとだけ頭を覗かせて。

温室の土は他の所と違って、栄養素がたっぷり含まれているんだって。すごいなぁ。

これからどんな風に育っていくのか、期待とちょっぴりの不安が皆から見えました。



 歩は管理人から渡された分厚いノートを見ながら、ほぉ…っと息を吐いた。
 並んでいる五つの鉢を眺めていると、思わず笑みがこぼれる。
(管理人さんの用意してくれたお花だから、また珍しいんだろうなぁ……)
 くすりと笑いながら、皆が仲良く球根を植えている姿をノートに書き込んだ。
「えへへ、絵日記っぽくしちゃった♪ ……完成したら、参加できなかったお友達にも見せてあげたいなぁ…」

「……日誌つけるなんて、小学校のときの夏休み以来だからどきどきしちゃうよ。どんなこと書けば良いんだっけ?」
 遠鳴 真希(とおなり・まき)は、一番最初のページを読んだ。
「トップバッターは歩ちゃんだったんだね……あぁ、絵も描いてある。可愛い〜☆」
 ペンとノートは管理人によって用意されていた。
 しかし真希は、パートナーのケテル・マルクト(けてる・まるくと)に頼んで口述筆記することにした。
「記憶しといて、それを元に書き写せば簡単だよねっ」
 日誌用に喋った言葉を自身に記録する──手で書き込むのではなく、聞いた言葉がそのまま写し取られるイメージだ。
「えっとぉ、じゃあ始めるよ。お願いね」
「はい」
「1日目、10時……晴れ? ときどきくもり? あ、でも温室だから関係ないのかな? ──…テルちゃん、大丈夫? 書けてる?」
「大丈夫ですよぉ。真希さんは、書きたいことをそのまま言ってくだされば、ケテルが書いておきますよぅ」
「うん、よかった!」
 真希は息を整えて、再び語り出した。
「温室の中に入る前に、ケルくんとベロくんとスーくんに挨拶をしようとしたんだけど、眠ってたんだよね。ちょっと残念」
「どうぞ〜もっと喋ってください〜」
「──中に入ったら、もう作業が終わってて。球根が植えられた鉢が五つ並んでたんだよ」
「そうですか」
「でね……」
「はい」
「………」
「?」
「テルちゃん、書いたのちょっと見せて」
「え、え? もうですか?」
 なんだか嫌な予感がして確認しすると……。
 字が下手すぎて全く読めなかった!
「ああぁあぁ〜! テルちゃん、これ読んでみてよ!」
「何か問題でもありましたか、真希さん? ……あ、あれれ? よ、読めません〜」
「……手書きにしよっか」
 真希は苦笑するとノートにペンを走らせた。


1日目)10時:晴れ時々くもり  担当 遠鳴 真希とケテル・マルクト



「……やっとで安全そうな仕事が来はりましたぇ。もう舐め回されるんも、押し倒されるんも堪忍どすえ。今度こそ安全そうな仕事をこなしたい思うんどす…」
 清良川 エリス(きよらかわ・えりす)は、自分に言い聞かせるように呟いた。
「エリス? 何をぶつぶつ言っているの?」
 パートナーのティア・イエーガー(てぃあ・いえーがー)が机の上に置かれた日誌を覗き込んできた。
「あらぁ、まだ何も書いていないんですわね」
「そ、そうなんどす……中々先に進めなくて…」
「日誌を付ける場合でも、よりリアルに状況を記すべきだと思いますわ。チマチマ思い出して書くだなんて駄目ですわね!」
「な……」
「ということで、エリスには現場で体当たりに日誌を書いて頂こうかなと思いますのよ」
 悪魔の笑みを浮かべるティアに、エリスは恐れをなした。
(ふふっ……これは出来るだけ酷い目に遭う様に誘導しなければなりませんわねぇ)
「? また何を仲睦まじく……え? 日誌? ……でございますか?」
 もう一人のパートナー邪馬壹之 壹與比売(やまとの・ゐよひめ)が、清良川 穂須勢理之空佐知毘古(きよらかわ・ぽち)を引き連れて現れた。
「わたくしは…文字で日誌というものを書く風習が無かったので、よく分からないのでございますが……」
「と、とりあえず先に、日付と名前だけでも書きますぇ」


1日目)11時:雲ってますぇ  担当 清良川 エリス……



「あっ……!」
 叫んだがもう遅かった。
 ぺたぺたと。
 穂須勢理之空佐知毘古が日誌の上に飛び乗って、足跡を付けていった。


∵∵∵∵∵日∵∵∵∵∵∵∵∵ ∵∵∵∵∵ ∵∵∵∵∵∵ ∵∵ ∵∵∵∵



「ぽち……」
「あ〜ぁ、やってくれましたわね」
 ティアの呆れた声が、むなしく響く。
 壹與比売は悩んだ末に、絵を書き始めた。
 例の球根っぽい塊と、それを持ってるっぽい複数の人間っぽい何かの図。そして犬っぽい絵や、樹木っぽい絵。
「日誌とは大変難しいものでございますねぇ、皆さんこの様なものを当然にこなしてらっしゃるとは……」
 描かれた絵っぽいもの。
「う、上手いじゃないどすかぁー」
 精一杯のお世辞をエリスは言った。
「え……」
「これ、これなんか、げ、芸術性がありますなぁ」
「そうでございますかぁ? そんなでもないと思うのですが〜」
 満更でもない様子で、壹與比売は答えた。
「じゃあ今回はこの絵が記録代わりということで手を打ちましょうかね。でも次は……」
 そう言うと、ティアは意味深な笑みを浮かべた。

「……一応、名前などはちゃんと書いた方が良いみたいですね」
 パラパラとノートをめくりながら、牛皮消 アルコリア(いけま・あるこりあ)が呟いた。




 
撒水、確かに驚くべき植物なのだが、最も驚くべきは成長促進剤ではないだろうか、異常な成長速度である。



「………」
(なんだか飽きました……)
 アルコリアは一行だけ書くと、ペンを置いてしまった。
 これなら歩ちゃんの観察日記でも付けてた方が癒され可愛いだったかも……
「そっちに行こうかしら……日誌の続きは、連れて来たまぁやちゃんに任せて。そうしましょう!」
 立ち上がろうとしたアルコリアの耳に、ナコトの悲鳴が聞えた。
「!?」
「──何をやっていますのっ!?」
「おんしつ、すごい〜。そとには、すごいわんこがいるし〜。おそともはるだけど、なかはもっとはるだよ〜。でもなんかでかいすごいのもいる〜、くちがみっつぱっくんぱっく〜ん。まぁやはおどるよー! いぇい」
 くるくると踊りながらタネ子に近づく眞綾に、ナコトは叫び続ける。
「馬鹿羽虫! タネ子様の前で奇怪な行動なんて捕食されたいんですの!? ソレは食虫植物、貴女は虫の羽っ! 考えて下さいませっ!」
 勝手に伸びて枯れるモノの記録を取る意味を理解しかねますが、親愛なるマイロードが望むので不本意ながら子守を引き受けたと言うのに!
 あの羽虫、眞綾め〜〜〜〜〜!!
 般若の形相でナコトは眞綾を担ぎ上げた。
「ナコにゃん? まーやを怒ってる?」
「怒ってます!」
 タネ子の側から慌てて離れ、アルコリアの元へと駆け戻った。
 荒い息をつきながら、バトンタッチで眞綾を渡す。
「危ないでしょ、まぁやちゃん!」
「アルママにもしかられちゃった……しょぼん」
「罰として、観察日記を書いてもらいます!」
「かんさつにっき……?」


にょにょーっとなって くぃんくぃんきゅーん もにゃもにゃーで もぐっぱです〜



「……書いてあれば、きっと大丈夫です」
「そ、そうですわ。問題なんてあるわけないですわっ」
 二人は見なかったことにしてノートを閉じた……。