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ぼくらの栽培記録。

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ぼくらの栽培記録。
ぼくらの栽培記録。 ぼくらの栽培記録。

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5日目

「今日は抹茶どら焼きを持ってきました。用意していたオレンジクッキーとカスタードプリンも食べて下さい」
 エルシーは微笑んだ。
 今日は5日目。
 七色の花が咲くと聞いて、凄く張り切ってお世話をするつもりでいた。
「ちょっと多めに作ったので、ケルベロス君にもあげてきたんですよ〜」
 いそいそと袋の中から取り出し、植物たちに与える。
「エルシー様、気をつけて下さいね」
 ルミが鋭い目をして言った。
「管理人さんの趣味は今一信用なりません。七色の花の球根なんて怪しすぎるにも程があるでございます」
 だが、エルシーはにっこり笑うと。
「大丈夫ですよ、お顔が不気味なのは全く気にしません。私が童話好きなの知ってるでしょう? 『みにくいアヒルの子』みたいなものなんじゃないでしょうか。……七色のお花さんだなんて素敵です♪」
 そんな様子を、ラビは羨ましそうに見ていた。
(お花なのにお菓子を貰えて、皆にお世話して貰えるなんて……)
「? ラビちゃん、何か言いました?」
「ううん〜。ラビもお菓子欲しいな」
「余ったら良いですよ」
「えぇ? 余ったら??」
 ラビは挑むような目つきで、お菓子を食べる植物達を見つめた。
「……な、なんだよ」
「別に…」
「見てたって残さねーぞ」
「………」
 ラビは頬を膨らませると、ぷいと背を向けた。


5日目)朝:11時  担当 アデレイド・ワーズワース


千切ったべにょべにょ動く触手を、大佐が三号にくっ付けて遊んでいた。

そのたびに三号は身をくねらせて喘いでいたが……

大佐はなんだか余計に火がついたのか、エリスが止めるのも聞かずに擦り付けていた。

そして何故かティアも一緒になって三号を弄び始めた。

危ない道に走らなきゃいいのだが。

あ、全く植物の成長のことを書いていなかった。

肥料や飲み物が適切な量とタイミングであったのか、球根は順調に成長を続けている。

花がどうやって咲くのかは謎なのだが……綺麗な七色の花が咲いて欲しいものだ。



 昼から戻ってきた皆が、植物の周りに集まって談笑していた。
 その時。
 一瞬、影が出来たと思ったら、端に置かれていた四号が、タネ子の口の中へと消えていこうとしていた。

「ぎゃ、ぎゃあああ〜〜〜〜〜!!!!!」


 暴れている四号を、奥へ奥へと引きずり込むタネ子。スプラッタ……
「ぎゃああぁあ〜〜〜っ!」
 タネ子が、まるで巨大な化け物に見える──獲物を襲い、喰らう、凶悪な──
「こ、怖い……」
 一号の囁きを耳にした静音が、守るように抱きしめた。
「大丈夫……大丈夫よ!」
 静音はぎゅっと手を力をこめる。
 皆は何が起こっているのか理解出来ず、その場から動けなかった。
 何も出来ず、ただ呆然と……その光景から目を離すことが出来なかった。
 やがて。
「…ぎゃ……ぁ…」
 四号の声が、聞えなくなった。
 ガラン。
 まるで路肩に唾を吐き捨てる親父のように、ぺっと、鉢を吐き出したタネ子。
 ビームのように、地面に突き刺さり、転がる。
 慌ててみんなその場所に駆けつけるが……中はもぬけの殻だった。
──誰も言葉を発しない。
 今、目の前で起きたことが真実だ。
「…タネ子さんが……こんなに…怖い存在だったなんて…」
 真由歌が呟いた。
 ノウマンは黙ったまま、首をうな垂れさせている。
 鉢の表面に書かれた『四号』の文字が、ひどく悲しい。
 タネ子の唾液でべとべとになった鉢を見ながら、真由歌は溜息をついた。
「四号…食べられちゃったんだね……」
「…タネ子さんに……食べられちゃったんだ。もしかして…五号も?」
 ネージュが訝しそうな顔を皆に向ける。
「そうどすなぁ…考えられますぇ」
 瑠璃羽が大きく頷いた。
 ネージュは鉢を掴むと、がくりと肩を落とした。
 助けられなかった……動けなかった……


5日目)昼:くもり  担当 カロル・ネイ 海宝 千尋


本当に驚いた。びっくりした。

タネ子に……四号が食われました。

みんな敵を討ちに行くと言って奮起しています。

どうやらこれからタネ子の所に行くみたいですが……



「四号の敵を取りに行くであります!」
 剛太郎は、植物のために持ってきた自衛隊の『コンバットレーション』の残り(白米、豆ご飯、、卵スープの素、はりはり漬け)と『缶メシ』の残り(とり五目飯、赤飯、たくあん漬け、鶏もつ煮、福神漬け、ウインナーソーセージ)と『乾パン』を持って、号令をかけながら奥へと突き進んだ。
 腹がへって、力尽きそうになった時はこれを食べる!
(四号…四号……あなたの敵はきっと、きっと自分が…しょ……触手……)
「!?」
 なぜだっ!?
 考えがどうしてもそっちに行ってしまう!
 剛太郎は邪な思考を消そうと、頭をぶんぶん振った。
「何を考えているんですか?」
 聞いたこともない程の低い声を出して、コーディリアが尋ねてきた。
「ななななななんでもないであります!」
「……」
 コーディリアの不信感は強まるばかりだった。
──四号の敵討ちに来た面子の半分は、触手に興味のある連中だった。
 誰も触手に近づかないので、大義名分、これ幸いと、機会を狙っていたのだ。ごめん四号。
「この奥を進めば……良いわけですわね」
 留美がごくりと喉を鳴らした。
 目の前では触手が蠢いている。そのうちの一つが、まるでペットででもあるかのように親しげに近づいてきた。
 元気一杯に育ってもらいたいと思い、植物のために持ってきたパラミタウナギのエキスが練りこんであるパイ菓子。
(触手が食べるのかは分からないですが、与えてみたらどうなりますでしょうか…)
 留美は触手に向かって一枚差し出してみた。
 すると。
「え……きゃっ!!」
 初めはパイに撒きついていた触手が、留美の腕を掴んだ。
「いやぁああぁん」
 あっと言う間に引きずりこまれ、絡み付いてくる。
「留美さん!」
 剛太郎が叫んだ。
 だが何故か声は喜んでいる。
 助けに行こうと走り出した陽子も簡単に捕まってしまった。
「ひぁっ……!!!」
「陽子ちゃん、大丈夫!?」
「だいじょ、う、ぶじゃ…ないです! 助けて、透乃ちゃ…ア…」
「………」
「やぁあ…あぁ、ぁ…」
「ちょ、助けないんですか? パートナーでしょ!?」
 コーディリアが慌てふためいて透乃に問いかけてくる。透乃はそれを横目でちらりと見て──
「……あっ!」
「え?」
 透乃の指差した方向お思わず見てしまった瞬間、コーディリアは背中を押された。
 ととと…という感じで触手の森へ──
「ナイス!」
 剛太郎は小さくガッツポーズをした。
「何を……ひゃっ…!」
 起き上がろうにも、触手に押さえ込まれて自由が利かない。
「やぁああ…! ダメぇえ!!」
 触手祭りが始まった……
 その光景を、黙って見つめているどりーむの姿があった。
「あたしってば…あたしってば……ど〜〜〜〜してカメラ持ってこなかったの!!」
 そう叫ぶと地団太を踏んだ。
 隣では触手に絡まれている面々を心配そうに見つめているふぇいと。
「……ふぇいとちゃん、そこは危ないからこっちに来て」
「あ、うん──…え? 〜〜〜!!!???」
 どりーむの予想通り、伸びていた触手をふぇいとは踏んづけてしまい、一瞬にして餌食になってしまった。
「あぁあぁあ……どりーむちゃん!」
「ふぇいとちゃん!!」
「たすけ……」
「ふぇいとちゃん脳内変換〜〜〜! それはあたしよ〜〜〜」
 その言葉で。
 ふぇいとの中のスイッチが切り替わった。
 とろんとした目つきに変わり、快感に打ち震え始める。
「どり…む、ちゃ……ん…」
「ふぇいとちゃん最高〜〜〜〜!」
 ぱちぱちと、拍手をしていたどりーむだったが。
「どりーむ……ちゃん…ぁあ、どり…ど…どりーむ、ちゃぁあ…あんっ…」
「ちょ、ちょっとふぇいとちゃん? いくらあたしでも、人前でそう連呼されたら、ちょっと恥ずかしいわよ。……でも」

(最高〜〜〜〜♪♪♪)

「……暗示にかかりやすい奴が多いみたいですな」
 赤い顔をしながら、剛太郎が言った。
「でも楽しいでしょ?」
「あ、あぁ……って、何を言わせるんでありますかっ!!」
 剛太郎が、更に顔を赤くした。
「ソーマ、行って」
 北都が無表情で言い放った。
「は?」
「行ってよ、敵討ち。大体、最初にタネ子の蜜を取りに行ってればこんなことにはならなかったんだよぉ」
「んなこと言ったって、勝手にタネ子潰すわけにいかねぇだろう」
「ごちゃごちゃうるさいよぉ!」
「え?」
 いきなり北都は腕を掴むと、自分を中心にしてソーマをぐるぐる回し始めた。
「おおぉおおおおおいおい!」
「えい!!!」
 遠心力で触手の森に突っ込んでいく。
「うわ、また……っ!」
 一度掴んだものは満足するまで放さない触手──ソーマの服の中へと滑り込む。
「……っ、……! ……」
 必死に声を押し殺すソーマを見ながら、北都は呟いた。
「声、出しちゃえばいいのに……」


敵討ちですが、触手に阻まれて先に進むことが出来なかったみたいですわ。

戻ってきたみんなは何故か顔を赤らめていたの。

あれはなんだったのかしら?

触手……まさかみんな楽しんだりしてないでしょうねぇ? 不謹慎よ?

カロルが「ちひろん先輩も行けば良かったのに」と言ってたけど、何かを期待しているのかしら。



「──やっぱりタネ子さんの頭、落とした方が良くないですか?」
「でも管理人さんの許可をもらってないし」
「勝手なことしちゃったらそれこそ大問題に発展してしまいます」
「でもこのままじゃもしかして……」
 そこまで言って、皆ハッとする。
 ゆっくり振り向くと、一号と三号が恐怖に震えていた。
「こ、怖ぇえぇよぉおおおぉ〜〜…俺たち食われるのかぁ……?」
 なんだかんだで、タネ子に食われても平気だと思っていたが、それは人間に限った事だったのかもしれない。
「………大丈夫、絶対に…そんなことさせなませんわ…!」
 リリィのその力強い言葉に、心細げではあるものの植物達は小さく頷いた。
 タネ子をチェックしながら時間が過ぎていく。
 夜だけはさすがに泊り込みも出来ないため、バリケードをタネ子対策に備えることにした。
 タネ子には、もう食わせない──