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ぼくらの栽培記録。

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ぼくらの栽培記録。
ぼくらの栽培記録。 ぼくらの栽培記録。

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3日目

「──きゃあああぁあ!!!」
 朝。
 温室に一番に入った繭は、悲鳴を上げた。
 管理人からもらった球根を仲良く並べ、大きく成長していたはずの植物に……

 顔が出来ている!

「ふ、フラワーロック???」
 大昔流行ったとされる玩具のようなものが、今、目の前に。
 だが、それだけでこんなに驚くはずはない。
 顔が……顔が………

 同一マッチョオヤジ顔、だった。髪は勿論無く、頭はつるつるテカテカだ。

「き、気持ち悪いです〜〜」
「本当ですねぇ〜〜」
 繭の背中から覗き込むようにして見ていたロザリンドだったが、意を決してゆっくり近づいてみた。
 体を揺らしていた植物達は、足音に気づいて一斉に視線を向けると──

「腹がへったぞー!」

「飯よこせー」

 喋りやがった!
「!!!????」
 驚くこちらを無視して、わぎゃわぎゃと喚き散らす。
「何あれ……」
「か、可愛くない……」
 波音とアンナ、そしてプレナとポロロッカは呆然としていた。
 頭はつるつる、顔はごつくて、目はつり上がり気味。口汚くて我がままで──
 とにかく良い所がない。
「これ、どうすれば良いのかなぁ…?」
「あはは…あははは。喋ってるね」
 プレナと波音は顔を見合わせて引きつった笑みを浮かべあった。
「……に、虹花ちゃん……」
「虹には程遠い存在、です…ね?」
 ヴァーナーの落胆した姿を見兼ねて、ロザリンドは、わざと明るく振舞った。
「せっかく…お名前つけたのに……ざんねんです。あ、でもでも、名前で判断しちゃいけないですよね! ね、虹……」

 ででん! と。

 オヤジ顔したリアルまっちょ君が、眼光鋭くヴァーナーを見つめている。
「……や、やっぱり違うです〜〜〜〜〜!!!」
 ヴァーナーはロザリンドの胸に飛び込んだ。
「こわいです〜〜〜」
「ヴァーナーちゃん〜〜〜〜」
 二人はしっかりとハグしあった。


3日目)8時:どんより  担当 アリア・セレスティ


……ちょっとショックが大きかったわ。

一体何が起きてるの? 顔? 確かに管理人さんは『顔』って言ったけど──

何よあれ!?

可愛くないったらないわっ! 七色の花が咲くなら、あれは無いでしょう?

しかも話すし! 喋るし! 催促するし!!

意味が分からないわっ。



「グァバジュースを飲んでみるか?」
 大佐が声をかけた。
 植物たちは途端に目を輝かせる。犬のように息を吐き出し、金魚のように口をぱくぱくさせる。
 ジュースの中に失敗作となった薬品を混ぜてはいるが──少なくとも毒になるようなものでは無いはずだ。
 大丈夫、大丈夫だ。
 心の中で、大佐は自分に言い聞かせて、頷く。
(実験してデータが欲しいなんて微塵も思っていない!)
 管理人が用意していたであろう紙コップに注ぎ、口元に持っていく。
 じゅるじゅると音を立てて旨そうに吸い上げる。
「美味美味♪」
 一号が満足そうに答える。
「くれくれ〜こっちにも〜」
 他の連中が口々に叫ぶ。
「分かった、待ってろ」
 あれ…なんだか……楽しくなってきた。
 大佐の行動に反応して、周りの皆も徐々に動き始めた。


3日目)9時:どんより  担当 繭住 真由歌 ノートリアス ノウマン



「ん……?」
 真由歌は違和感に気付いた。一番端の五号がいない。1,2,3,4……鉢は何度数えても4つしかなかった。
「どうしたんですかぁ?」
 明日香が声をかける。
「五号がいない」
「え?」
「5号が消えてる」
「え? 誰か持ってっちゃったんですか!?」
 ノルニルが慌てふためきながら言った。
「もしかしてぇ、管理人さんが持っていったのかもしれないですねぇ」
「それは無いですよ、明日香さん。管理人さんは出張に出かけられています」
「じゃあ一体誰が……」
「…………」
 ノウマンから無言の圧力を感じる。
 何か良い考えが閃いたのなら話してほしい。圧迫される……
「……あ! もしかしてぇ、珍しい花が咲くって聞いた誰かが持ってったとか?」
「それ私が同じこと言いましたよ、明日香さん」
「あれぇ? そうだっけ」
 ノルニルの突っ込みに、明日香は舌を出した。
「──皆は知らないの?」
 真由歌は、オヤジ顔植物達に尋ねてみた。
 相変わらず調子の悪そうな二号だけは無反応だったが、残りの三株は口をそろえて「知らない」と言った。
 朝目覚めたら、消えていたと……
「おい、そんなことよりも腹がへったぞ! 飯だ、めし! 早くよこせ!」
「…………」


鉢が一つ、消えていた……



 ネージュは、ゲームソフトとのタイアップ商品「ギガポーション」を与えた。
 成分はマカ濃縮エキス、高麗ニンジンエキス、行者ニンニクエキス、スッポンエキス、無水カフェインなど。
「はやく〜はやく〜! めし〜めし〜のみもの〜」
 まるで生まれたばかりの雛鳥のように、ピーチクパーチク餌を求めている。
 それが鳴き声ではなく言葉なだけに、なおウザイ。
 体を揺らして踊り続ける、キモイ顔の植物。
(もっと可愛かったら良かったのに……)
 ネージュは心の中で毒づいた。
「わらわは、ネージュ殿の用意した栄養剤を吸収しやすくするために、乳酸菌シロップを用意したんどす。苦いドリンク剤を少しでもストレス無く吸収させる為には、甘いものが必要どす。未殺菌のもので、植物の組成にもお腹にも優しいものにしたんどすぇ。健やかに大きく育ってもらいたいものやわぁ」
 瑠璃羽はネージュからドリンクを受け取ると、その中に注ぎ入れた。
 初めは嫌そうな顔をしていた連中だったが、飲んでみると、案外イケたらしい。
 激しく身体をシェイクさせながら「もっと」と催促をした。


3日目)10時:どんより  担当 林田 樹と林田 コタロー


くもり

おんど22ど


ねーじゅしゃんが、おみずをあげましら。

おはなしゃん、うれしそーに、のんれましら。

おみず、らいすきなんれすね。


ねーたんは、きょうも、おはなしゃんのちかくは、めーっていうんれす。

はっぱが、わしゃわしゃして、あぶないんらって。



「あたしはね、ぽてちを持ってきたんだー」
 どりーむはバッグの中からぽてちを取り出し、袋を破いて食べさせ始めた。
「わ、ほんとにお菓子食べてるね」
 ふぇいとが歓声をあげる。
「ふふっ……慣れてくると、結構愛嬌があって可愛いかも…って、あーっあたしのおやつー!」
 地面に置いておいたバッグの中のおやつを、葉っぱを器用に使って持ち上げ食べている植物たち。
 バッグの中にはぽてち以外にも、チョコ、クッキー、八ッ橋、いちご大福、プリンなどなど、どりーむが自分で食べようと思っていた、甘くておいしい物がいっぱい入っていたのだ。
 それを。
「おのれっちょこくださいなっ手打ちにしてくれる〜」
 TVで時代劇──お代官様が、町娘の帯を引っ張ってくるくる回る──を見た影響が出たようなのだが、間違っている。
 ちょこざいな、だ……
「よくもどりーむちゃんのおやつをっ」
 ふぇいとが雷撃魔法で花を攻撃しようとしたので、周りにいた人たちが慌てて止めに入った。
 そんな喧騒の中。
 樹は、日誌を記入することも、ふぇいとを止めることもそっちのけで、ひたすらデジカメで写真を撮り続けていた。


のりーむしゃんのおやつも、おはなしゃん、たべましら。

とっても、うれしそーれす。おいしかったんれすね。



「二号さん……やっぱり元気が無いんですね」
 繭は心配そうに呟いた。
 お菓子で喜ぶってことは甘いものが好きなんじゃ──と考えた繭は、紅茶を持ってきた。
(毎回同じ味だと飽きちゃうかもしれないから種類を変えつつ上げてみよう)
 そう思っていたのだが……
「お水がいいかな。二号さんには」
 口元に近づけても飲もうとしない二号には、鉢の中の茎部分に、そっと自前の水を流し込んだ。
「元気になるお水です。早く良くなってください…」
 繭は力なく微笑んだ。

「腹へった〜! もっとくれ〜!」
 喚き声が更に大きくなっていた。
「……しょうがないなぁ。てへへ、ちょっと形が悪いけど、味は大丈夫だから安心してね〜♪」
 葵がホワイトデー用に作っていたクッキー。
「あとね〜分量間違えて沢山あるから遠慮なく食べてね☆」
 その言葉に、三号は軽く引いた。
「おい……分量間違えたって…大丈夫なのかよ? そんなもの俺に食わせる気かよ?」
「し、失礼な人ですね。せっかく葵ちゃんが作ったものを分けてあげようとしていると言いますのに!」
 エレンディアが頬を膨らませる。
「市販のやつはねえのか?」
「持ってきてないよ! あっそ! 分かったもん。じゃあいいよ」
「あああ〜〜〜待て待て! 食ってやるから」
 葵は溜息をつくと、三号のあんぐり開けた口の中へ、クッキーを一枚放り込んだ。
「………」
 一瞬。
 顔がほころんだのを、葵とエレンディラは見逃さなかった。
「ま、まぁまぁだな」
 憎まれ口は相変わらず。
「……美味しいなら美味しいって言えばいいじゃない」
「う、うるせえ!」
 三号は赤くなってそっぽを向いた。だが。
「イングリットちゃんも食べたい〜〜〜」
「ダメだ! 俺のだ!」
 間髪入れずに三号が否定した。
「ぶー」