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学園生活向上! 部活編

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学園生活向上! 部活編

リアクション

 校門前で、間もなくはじめられる催しの宣伝が行われていた。
 制服姿に白衣を纏ったリュース・ティアーレ(りゅーす・てぃあーれ)は、やうやうしくお辞儀をすると目いっぱい息を吸い込んだ。

ここにいる僕と君
 今出会ったのは必然の確率
 限りなくゼロ近くともゼロじゃないなら
 その確率を手にしよう

 扉開けば
 そこに可能性が待ってる
 心繋がるその時を、その夢を
 追い求めてみない?

 ここにいる僕と君
 全ての可能性は
 今、ここに生まれているのだから

 さぁ、行こう
 始まりの場所へ

 僕と君の明日がすぐそこにある


 その美声に聞き惚れている客たちに、一生懸命ビラ配りを行っているのはシーナ・アマング(しーな・あまんぐ)だった。そのまばゆい銀髪に、桜色をした霞草の髪飾りで彩っていた。彼女が引き連れてビラ配りを手伝っている使い魔たちも、その霞草を頭に差していた。普通は白いその花が、桜色に染まっているのを見てみちゆく女性が足を止めて声をかけてきた。

「その花、霞草?」
「はい! この霞草も幸姉様の化学でお化粧したんですよ。是非S×S×Labを見に来てください!」

 そういって差し出されたビラを受け取っていると、その後ろでカラスや紙ドラゴン、フクロウ、ネコ、ネズミといった使い魔たちがせっせとビラ配りを手伝っていた。楽しそうなシーナ・アマングを龍 大地(りゅう・だいち)は少しはなれたところから見守っていた。もちろんその手にはビラを持っているのだが、かわいい少女と動物達が配っているほうに、やはり人は向かうようだった。
 時折ナンパが彼女に声をかければ、龍 大地はすっ飛んで、口元に笑みだけ浮かべてその手をひねり上げる。

「俺の妹に、何か用か?」
「大地兄様!」
「わ、わるいって! ちょっとかわいいねって声をかけただけで!」
「そうかそうか。そのかわいい子が配ってるんだ。このビラも貰ってくれるよな?」
「お、おうよ!」

 勢いに押されて、そのナンパは龍 大地が持っていた全てのビラを持って校舎のほうへと飛んで逃げてしまった。

「まったく。そうだ、リュー兄は?」
「あ、あっちで休んでます」
「おう、ちょっと待ってるんだぞ」

 そういい残すと、既に配るビラもなくなったシーナ・アマングは使い魔たちに「お疲れ様」と声をかけて頭をなでてやる。リュース・ティアーレは校門の脇に用意したパイプイスに腰をかけて、一休みをしていた。

「どうしたんですか?」
「リュー兄も歌で疲れただろうし、シーナも俺もビラ配り終わったし、飲み物でも買ってくるよ」
「ああ。シーナもがんばっていましたしね。お釣りは、好きなものかっていいですよ」

 そういって、お金を渡すと龍 大地はにっこりと笑って駆け出すと、手近な屋台で飲み物を3人分と、こんぺいとうで彩られた綿菓子を買った。


「わぁ! すっごくおいしいです!」
「自分の分は買わなかったんですか?」
「飲み物だけで十分だよ。それに、俺、兄貴だしさ」

 えっへん、と胸を張る龍 大地にリュース・ティアーレは柔らかな微笑を向けた。




 S×S×Labと銘打たれた出し物は、薔薇の学舎のプールの一つで行われることになっていた。まるで南の島をそのまま持ってきたかのようなリゾート施設になっている。中央には実験のために用意された小島(ビート板の素材でできている)が浮かんでおり、その中央に立てられた旗には学者の校長のブロマイドが張られている。

「S×S×Labの実験ショーへようこそ!」

 プールの入り口で営業スマイルを振りまいていたのは愛沢 ミサ(あいざわ・みさ)だった。実験がメインのこの出し物に関しての、簡単な説明を大型ディスプレイに映し出しながら、営業スマイルで説明を始める。

「ここで体験できるのは、火に水をかけると消えるよね? でも何の変哲もない普通の花火が、水に入れても燃え続ける! っていう実験だよ。ちょっと大がかりだけどね」

 彼女の言葉通りに、デフォルメされた花火が火の中に入って消える絵と、燃え続ける絵の2つが映し出され、大きな『?』で彩られて画面が埋め尽くされてそれがエンドレスで流れるという仕組みになっていた。

「楽しんでねー…さらだばー」
「あら、素敵」
「いいのか? 休まないと光条兵器が使えないぞ?」
「いいのよ。このレースの日傘も、なかなかかわいくて好き」

 スウェル・アルト(すうぇる・あると)はうっとりしたようにそう呟いた。ヴィオラ・コード(びおら・こーど)はため息をつきながら、今の彼女では使うことのできない光らなくなった光条兵器を腰に携えていた。
 安全な場所で休憩をすればSPが回復する、そういっているのだがパートナーはそれよりも沢山の催し物を見たくて仕方がないらしく、せわしなく動いていた。予備にと買って来た傘も気に入ってもらえたようだったので胸をなでおろした。、

「さぁさぁ、実験を見ていく方は箒であの小島まで運ぶよ!」
「こんな大掛かりな実験ができるなんて、相当名のある人たちなんだろうなぁ」
 
 火御谷 暁人(ひみや・あきと)は感心しながら、愛沢 ミサの箒の後ろに乗せてもらい、小島まで運んでもらう。降りた先にいたのは、風森 望(かぜもり・のぞみ)ノート・シュヴェルトライテ(のーと・しゅう゛るとらいて)と、取材に来ていた羽入 勇だった。運んでいる愛沢 ミサのFカップを見て、わずかにしょんぼりとしながら自分の胸元に手を当てた羽入 勇の姿を、風森 望は見逃さなかった。

「もしよろしければ、お友達になりません? お友達といわず、恋人に!」
「あなた、いきなり何を言ってるんですの……っ!」

 ノート・シュヴェルトライテに勢いよく突っ込みを入れられ、風森 望はちぇ〜、と唇を尖らせる。羽入 勇が苦笑していると、スウェル・アルトとヴィオラ・コードも到着し、プールサイドには見学のみの観客も集められると、ようやく催しが始められるようだった。
 島村 幸(しまむら・さち)がプールサイドにて深々とお辞儀をすると、マイクを握って高らかに宣言をする。

「我がS×S×Labはパラミタの科学とその他の発展の為に化学や医科学、工学はもちろん魔術から機晶石技術まで幅広い分野にわたり基礎研究から応用研究まで多様な研究活動をパラミタで展開している総合研究所です……であり……」

 長い説明ゆえか、中央の浮島にいる観客は舟をこぎ始める。それを妨害する勢いで、薄茶色の髪をした少年、アスクレピオス・ケイロン(あすくれぴおす・けいろん)が氷術で自分の四方に壁を作る。透明度の高い氷ゆえに、硝子の壁が彼を囲んでいるようにも見える。

「あー、とにかく、入り口で行った水中花火の実験に使う手持ち花火の安全性の証明且つ、花火の仕組みについても勉強してもらおうと、今ここで作ってみるぞ。この氷の壁は、万が一のことがあったら危険だから作ったものだ」

 そういって、数種類の火薬と、テープを取り出して手際よく説明をしながら手持ち花火を作っていく。その解説に、観客達も聞き入っている横で、島村 幸は口元を歪めながら陰形の術を使い、こっそりと最後のデモンストレーションようにおいてある大型花火のところに駆け寄る。
 『火薬倍増の幸特製花火』とわざとらしく書いた花火を、こっそりその中に紛れ込ませる。

「ふふふ。馬鹿騒ぎのないS×S×LabなんてS×S×Labじゃないから仕方アリマセンよね」

 とってもうれしそうに微笑むマッドサイエンティストは、これから起こるであろう実験の成功よりも、最後に起こるであろう大混乱へ期待に胸を膨らませるのであった。

 白衣に黒のミニタイトスカートという助手らしい格好でプールサイドの観客にアンケートを配っているのは遠野 歌菜(とおの・かな)だ。
 にっこりとした微笑からか、誰もが無意識にそのアンケートを受け取り、早速記入しようとペンを握り締めて、更さらっと記入するものもいれば、文面を見て顔を引きつらせるものもいた。

「アンケートにご記入お願いしまーす♪ ここに名前を記載して頂ければオッケーでーす♪」
「あの、お姉さん? これ、アンケートじゃなくて、入会契約書じゃ」
「SSLに入会されますよね? よね?」

 ウルウルと瞳を潤ませてそう言い放った観客の目の前でしゃがみこむと、ミニスカートからのぞくふとももが彼女の誘惑に拍車を駆ける。

 スクール水着に浮き輪を身につけているのはミレイユ・グリシャム(みれいゆ・ぐりしゃむ)だった。腕には『救護係』と書かれている。
 だが、その水着は異常なほど胸の部分がぶかぶかなようで、少ししょんぼりとしていた。

「ああ! あそこにも素敵な女の子が!」
「暴れたら浮島が沈むでしょ!」

 風森 望がミレイユ・グリシャムの姿にときめいているのを、パートナーであるノート・シュヴェルトライテが後ろから羽交い絞めにして取り押さえる。急に誰かが立ち上がったりすると、この浮島は簡単に傾いて今にもひっくり返ってしまうのではないかという不安感に駆られていた。
 そこへ、ようやく手持ち花火を持った七枷 陣(ななかせ・じん)が浮島に訪れると、浮島の見学者達に手持ち花火を配る。そして、それぞれの花火に火をつける。

「は〜い、花火の火が出始めたら水にじゃぷんと付けてね〜。途中で消えたら、残ってる先にセロテープを付けてもう一回火を付ければえぇからね〜」

 にこやかにそういわれて、素直に花火を水の中につける。確かに、花火は消えることなく燃え続けている。泡がかすかに花火から出ているのだが、それよりも花火の色に誰もが気をとられていた。

「おお! 凄い!」
「(花火が燃えやすいよう何本かの酸素スプレーで酸素をプールにあらかじめぶち込んどいたからだけどねぇ)」

 とにやりと口元を歪めている島村 幸は、もう最後に行われるであろうアトラクションが楽しみでしょうがなかった。愛沢 ミサが大型ディスプレイに映された水中カメラからの映像を、プールサイドの観客達にも見えるようにして、解説を始める。


「ここか! のぞき部がいるっていうプールサイドは!」
「のぞき部、今こそ正義の鉄槌をお見舞いします! ファイファー!」

 突如プールサイドに現れたのは、鈴木 周(すずき・しゅう)緋桜 遙遠(ひざくら・ようえん)だった。浮島で普通に催しを楽しんでいるのぞき部部員の風森 望をみて、拍子抜けしてずっこけてしまう。

「な、なんだ?」
「普通に、楽しんでますね」
「君たちが噂のあつい部か! どうだ、その熱き魂を教導団で生かさないか?」

 プールに背を向けて二人に声をかけてきたのはジャジラッド・ボゴル(じゃじらっど・ぼごる)だった。教官らしいその風貌の彼は、ぴらっと2枚の契約書を取り出して二人に差し出す。そして、教導団の制服を纏った美女達が写るブロマイドもちらつかせる。

「今なら教導団推薦、『喜び隊』のおもてなしがついているぞ?」
「とんでもない! のぞき部ならいざしらず、遙遠たちはそんな誘いには」
「うわぁ! すっげぇ美人だ!」
「……つられないでくださいよ」

 口元を歪めたジャジラッド・ボゴルの背後で、歓声が上がり3人はプールに視線を戻した。

「さぁて、実験はここまで。楽しんでくれてありがとー! 最後はデモンストレーションだよ!」

 助手役の遠野 歌菜がそう高らかに宣言すると、準備していた花火を箒で運んできたミレイユ・グリシャムから手渡しで浮島にいる七枷 陣が受け取る。

「間近で花火の打ち上げ見られるなんて、貴重やでー」

 そういいながら、いそいそと花火に火をつけていく。いくつか見事に打ち上げて、観客席から歓声が上がる。最後に、大きな花火を手に取る。そこには『火薬倍増の幸特製花火』とかかれていたのだが、本人は全く気がつかずに火をつける。その文字を見て、とっさに水に飛び込んだ浮島の観客達は、幸い被害にあわずにすんだのだが風森 望とノート・シュヴェルトライテが飛び込みそびれていた。

 盛大な爆発音と共に打ち上げられた七枷 陣と風森 望、ノート・シュヴェルトライテは、打ち上がった所をミレイユ・グリシャムに助けられた。箒に乗った彼女が3人を見事にキャッチする姿は、観客達からまた盛大な拍手を送られることになった。
 プールサイドに3人を下ろすと、すぐさまヒールをかけて声をかける。

「大丈夫?」
「あ、ありがとうな……」
「他のお客さんを助けてくるね?」

 そういい残し、プールに飛び込んで怪我をしなくてすんだメンバーの救出に向かった。助け出された彼らはびしょびしょになっていたので、七枷 陣の火術で服を乾かしてもらう。
 まるでそこまでがアトラクションだったといわんばかりに、愛沢 ミサが出てきてマイクを手に解説を始める。

「花火には塩素酸カリウム?が使われていて、それが分解する事で酸素が発生するから燃え続けられるんだって。花火から泡も出てたでしょ?」

 その説明に聞き入ってい観客の手から、いつの間にかアンケートがなくなっているのに遠野 歌菜は気がついた。

「ええ! どうしたの!?」
「や、それが……」
「さっきの火花で、燃えちゃって……あわてて消したんだけどな……」

 観客達が指差した方向には、炭になったアンケート用紙(入会契約書)の無残な姿があった。