校長室
学園生活向上! 部活編
リアクション公開中!
袴姿にたすきがけ、和装を纏った店員達が、火毛氈、それに逢うようにおかれた木製に赤い布張りをされたイス、ローテーブルに、大きな和傘で整えられた茶屋を用意していた。 飾り付けに豪華さがないのが、いかにも学生たち主催のお茶屋、という雰囲気が漂っていて気安い感じに仕上がっていた。 だが、その茶屋が囲んでいるの中央には8枚の畳が置かれていた。ご奉仕流護身術 出張ご教授と看板が置かれている。 到着するや否や、いわれるがままに海老茶色の矢羽根絣に紫袴姿へと着替えをさせられ、黒髪をメイドカチューシャで飾られた林田 樹(はやしだ・いつき)は、目を丸くして声を上げた。 「ええ? またか!?」 「給仕が足りないんです。さ、もうお着替えは済んでいるのですから」 林田 樹(はやしだ・いつき)はジーナ・フロイライン(じいな・ふろいらいん)が次々と作り出す和のスイーツ『桜餅パンナコッタ・桃色クラッシュゼリーのせ』、『抹茶ロールケーキ』の紅茶セット、『ミニ桜あんパン(2個)と抹茶セット』、『くず餅と玄米茶セット』などが次々と林田 樹の手に載せられていく。 「桜餅は角のお客様、ロールケーキは二番目で、葛餅は4番目です。アンパンは奥から5番目のお客様です」 矢継ぎ早にそういわれて、大慌てで言われたとおりに運ぶ。容姿端麗な彼女が配膳係をしていると、お客からの視線が異様なほど暖かくなる。そのうち、一人のお客が気を利かせて 「お姉さん、かわいいね」 そう声をかけると、最後の注文の品も置いてその場から脱兎のごとく走り出してしまった。 「樹様!? どちらへいかれるんですか~~~~!」 ジーナ・フロイラインの言葉もむなしく、林田 樹は袴を上品に持ち上げて駆け出していってしまった。中央の畳で護身術を教えていた椎名 真(しいな・まこと)は、手ぬぐいで汗をぬぐいながらその背中を見送った。 「どうしたんだい?」 「あうう、給仕役がいなくなってしまいました……せっかく好評なのに」 「今一段楽したところだから、手伝うよ」 「ありがとうございます」 金のツインテールを揺らしながら、頭を下げると、「いやいや」と椎名 真は手を振ると、中央でまだ護身術を教えているパートナーの英霊に声をかける。 護身術で女の子と組み手ができる! そんな淡い期待を抱いていた新入生達を次々とずたぼろにしていた原田 左之助(はらだ・さのすけ)は、その声に応えて手だけ上げると、まだ講義を続けていた。 「無理に引っ剥がさなくても指一本だけ曲げりゃ十分だ。意外に痛いからな、不意をつくならコレだけで十分だ」 「わあ! 本当だ」 「あと、狙うんだったら体の正面縦一直線ねらえよ。急所集まってるからな」 「すごいねぇ、ネノノ~」 「ええ、あの蹴りは凄く参考になります!」 お茶をおいしそうに飲みながら、レロシャン・カプティアティ(れろしゃん・かぷてぃあてぃ)とネノノ・ケルキック(ねのの・けるきっく)は中央で行われている護身術体験講座を眺めていた。 それを眺めていたのは、テディ・アルタヴィスタ(てでぃ・あるたう゛ぃすた)だった。彼は遠い昔騎士として戦場に出ていたので、いまさら女性達が教わるような護身術など必要ない……そんなことを考えながら団子をほおばっていた。 「はぁ」 ため息をつきながら、空を見上げる。テディ・アルタヴィスタの脇にはもう30枚目になろうという空の皿が積み上げられる。 ふと、パートナーの皆川 陽(みなかわ・よう)に視線を送る。今は一生懸命『パラミッター』なるサイトの宣伝をするためにビラをまいていた。 「リアルではあまりしゃべれなかったり、親しい友達がいなかったりでも、ネットの中なら自分のキモチが書けたり。そんな独り言に思いがけず誰かからの反応がもらえたりして、ちょっと幸せになったり出来ますよ」 そうやって、パラミッターについての説明をしながらビラを配っていると、時折「君もやってるの?」と問いかけられる。皆川 陽は苦笑しながら言い訳を始める。 「あ、ち、違うんです! ボクじゃなくって、友達が楽しいって言ってて! 頼まれたんだよ」 「いいわけがましー」 不機嫌そうに、そのパートナーの姿を見つめる。そのうち、人がまばらになると茶屋のイスを借りて腰掛けると、携帯を開く。 今にも鼻歌が聞こえてきそうなほど、楽しそうな笑顔を浮かべる彼に、ついにぷち、と何かがテディ・アルタヴィスタの中で切れてしまった。 「……友達だって、言ってくれたのに」 幾度も、皆川 陽に永劫、魂を分かち合う仲という意味で「陽は僕のヨメだ!」と言い放ってきたというのに、皆川 陽からその答えが返ってきたことはない。 勢いよく立ち上がって、足にこれ以上にないほどの力を込めて歩み寄ると、皆川 陽の携帯を取り上げた。 「そんなに楽しそうに、何をやってるんだよっ!」 「え、なに? ちょっと……っ!」 何を言われているのかわからない、そんな風で皆川 陽はテディ・アルタヴィスタの顔を見つめた。携帯電話を取り上げられて不満を漏らそうと思ったが、それよりもその気迫に負けて言葉をつまらせてしまった。 テディ・アルタヴィスタは視線だけ携帯のディスプレに向けると、その中に少し勝気な男と思われるメッセージが表示されていた。それを見て、涙が出そうなのを堪えてうつむいた。 「一体どうしたのさ?」 ただならぬ雰囲気に、皆川 陽はそれだけやっと問いかけた。テディ・アルタヴィスタは歯をぎりっと噛みしめて、それでも落ち着いて言葉を搾り出そうと肩を震わせた。 「友達、じゃないのか。陽は僕のヨメだって言ってるだろ!?」 「だから、友達と嫁は違うでしょ。それに、テディはお嫁さんいたんだろ?」 小さなため息をつきながら、皆川 陽はそういった。ほんの少しだけ、テディ・アルタヴィスタがその昔生きていた頃に結婚をしていたという事実を知ったときの、寂しさを込めながら。 その言葉に対して、信じられないくらいまじめな顔でテディ・アルタヴィスタは言葉を返してきた。 「ヨメはいた。大人になったらヨメを貰うんだ。嫌いじゃなかったし、想い出は大事だけど、でも! 今のヨメは陽だ!」 「……意味がわからないよ」 返ってきた言葉にさらにため息をついた。つかみどころのない物言いは、今に始まったことじゃないから呆れの含んだため息だった。それを聞いてか、テディ・アルタヴィスタは目いっぱい力を込めて叫んだ。 「一緒に美味しい物っを食べて美味しいって笑うのも、キレイな景色見てキレイだー! って言うのも、陽とがいい」 「別にそんなの、友達だってクラスメイトだって、たまたま近くにいた人だっていいじゃない」 「嫌だ、僕は陽がいい! 陽だけが僕のヨメなんだ!」 全身全霊かけて、声を張り上げたテディ・アルタヴィスタの言葉に、周りの人たちは思わず足を止める。目立つことが苦手な皆川 陽はそれに気がつくと顔を真っ赤にして手近にあった新しい大福をテディ・アルタヴィスタの口に放り込む。 「わかった、わかったから! このチラシを配り終わったら一緒に遊んであげるから、黙って座ってて!」 「むぐっ!?」 口をふさがれて、しばらくもごもごしているテディ・アルタヴィスタをおいて、皆川 陽はまたビラ配りに駆け出した。 「……ボクだけ、か。嘘じゃないと……いいんだけど」 遠い昔、結婚をした彼の奥さんはどんな人だったんだろう。嫌いじゃなかったといてもらえた女性は、どんな人だったのだろう。ふとそんなことを思うと、皆川 陽の胸がまた少し痛くなった気がした。 「ついてくるなああああ!」 「樹ちゃん! 何で逃げるんだい~~!」 執事服姿の緒方 章(おがた・あきら)は、袴姿の林田 樹を追いかけながら、求愛をし続けている。 その後ろになんでか明智 珠輝がついてきており、息切れを起こしている林田 樹を挟んで楽しげに会話を始めていた。 「やっと追いついた。で、珠輝くん。彼女が僕の恋人さ!」 「ふふふ、とてもかわいらしい人ですね。本当にその袴姿がかわいらしいです」 「か、かわいくなんかないからああああ!!」 かわいい、その単語一つでまた火がついたように駆け出す林田 樹を緒方 章と明智 珠輝が追い掛け回す。忙しさで手が離せないジーナ・フロイラインは、明智 珠輝を追ってやってきたリア・ヴェリーに声をかける。 「あ、あの!」 「大丈夫。任せてほしい」 かっこよくそういいはなったピンクの髪の王子様は、どこから持ち出したのか大きなハリセンで二人をはったおして、気絶させる。 「すまなかった」 「いえ! あ、これもしよければどうぞ。樹様を助けてくださったお礼です」 といって、桜色のロールケーキを差し出す。ぱあっと顔を明るくしたリア・ヴェリーはうれしそうにそれを受け取ると、【LOVE CAFE】が出展されている場所へと戻っていった。 林田 樹がいやいやながらもようやく手伝いを了承してくれると、椎名 真もまた護身術の指導に戻った。 「ん? 次は君たちかい?」 「私はこの気を乗じて宣伝~。百合園女学院のサッカー&フットサル部をよろしく~。誰でも入れまーす」 「ワタシはあの護身術の蹴りが試合に生かせないかなと思って習いに!」 不純な動機に椎名 真は苦笑しながらも、丁寧に礼をして相手をすることにした。身構えて、言葉をかけつつ指導を施す。 「女性だったら…いきなり後ろからつかまれたりとかなら相手の足の甲を思いっきり踏みつけたりとかかな?」 「こう、でしょうか?」 「そう。実際には思いっきり踏みつけるといいよ。あとは、まぁ、男性相手なら金的かなぁ」 「はぁ」 「十中八九利くと思うよ。ただ蹴り入れる時、よほど体術の心得がない限りは靴でけることを意識したほうがいいかも」 そういって、今は裸足だったが畳の上に自分の靴を載せて靴の甲の辺りを指しながら、自分の足ではどのくらいの位置か、という解説を交えて一番けりやすい形をためしにやってみせる。 「こう、足の甲といっても、靴によっては先端がとがっているものも有効かな。普段の靴で、どこが一番硬いか意識してみると効果は絶大だよ」 「なるほど! スパイクだと足の裏でしょうか!?」 「す、スパイクを普段はいてるんだ」 ネノノ・ケルキックの発言に少々肩を落としながら、原田 左之助に身代わりに立ってもらいながら、急所を狙う。すんでのところで腕でそのけりを受け止めると、原田 左之助は感嘆の声を上げた。 「なかなかいいけりをするな。筋がいい」 「ネノノ・ケルキック~いいぞ~ネノノ・ケルキック~ファイトだ~」 「レロシャン、歌はいいですから」 急に応援歌を入れられて、顔を真っ赤にするとほめられたことに対する御礼をする。一通り指導をしてもらったので、ずたぼろにされた新入生のうちの希望者と戦うことになった。 「よ、よろしくお願いします」 「よっし! いくぜ!!」 いきなり駆け込んでその胸に飛び込んできたのだと悟ると、すばやいけりでその頭をボールに見立てて蹴り上げた。 「おお」 「こりゃ、護身術なんていらないくらい十分強いね」 椎名 真と原田 左之助が拍手をしていると、回りの御茶屋のお客たちも拍手でネノノ・ケルキックの蹴りを褒め称えた。 それに乗じて、レロシャン・カプティアティは手早く『百合園女学院サッカー&フットサル部』のビラ配りを済ませる。 「ああ、私もやりたかったなぁ」 「目で覚えてから、型をやってみればいい」 護身術の見学をしていた嵯峨 詩音(さがの・しおん)は、嵯峨 奏音(さがの・かのん)の言葉に目を丸くした。 「え、いいの?」 「ただし、私の目の届くところで練習しなさい」 その言葉に、嵯峨野 詩音は満面の笑みで頷いた。 新入生歓迎会と称したお祭りはそろそろ終わろうとしていた。ある程度片づけを開始しながらも、最後までお客さんを楽しませようと、どの催し物にも更なる気合が入っていた。 「お疲れ様。お礼の焼きそばとケバブだ」 ドレス姿でパイプイスにて休憩していたリアトリス・ウィリアムズにケバブと焼きそばを差し出したのは、スプリングロンド・ヨシュアだった。今は狼耳の男性の姿になっている。 「ありがとう。僕のダンスどうだったかな」 「ああ。評判だったな。あのダンスのおかげで人が集まったようなものじゃないか?」 「それはいいすぎだよ……でも、凄く楽しかった。また踊りたいな」 「またいつでも機会はある」 その言葉に、リアトリス・ウィリアムズはにっこりと微笑んだ。 羽入 勇が祭りの終焉をカメラに収めていると、薔薇の学舎の生徒に声をかけられた。 「きみ、もしよければうちの報道部に入らないかい?」 「あ、えっと。ゴメンね。報道では一緒にやろうって、決めている人がいるんだ。この写真のデータ、よければ、学校でも記事にしてあげて」 そういって、メモリの一部をその生徒に渡して、簡単な挨拶を残してその場を立ち去った。ふと空を見上げ、その青い空をもう一度カメラに収める。 「待ってるからね」 誰に言葉をかけたのか、彼女にしかわからないその言葉は空の彼方にとけていった。 チャイムが鳴り響き、新入生歓迎の宴は終わりを告げた。
▼担当マスター
浅野 悠希
▼マスターコメント
代筆を担当させていただきました、芹生 綾です。お待たせして申し訳ありませんでした。 ご参加いただいた皆様、お待たせして申し訳ありませんでした。 4ページまでは、浅野マスターの執筆分で、その後は私が書かせていただきました。 文体や改行などに違いがありますが、中途半端に似せるよりも、私なりの書き方をさせていただきました。 どうぞご了承くださいませ。 なお、私が執筆した部分の判定や登場シーンは浅野マスターのプロットを基に作成させていただきました。 皆様、お疲れ様でした。 既に季節は初夏へと向かおうとしておりますが、これからコミュニティをますます盛り上げていってくださることを、私も祈っています。 またお逢い出来ることを楽しみにしております。