First Previous |
1 |
2 |
3 |
4 |
5 |
6 |
7 |
8 |
Next Last
リアクション
弥涼 総司(いすず・そうじ)を中心に集まったメンバーは、一部では大変有名な面々。
それが良い意味でならよかったのだが、彼が部長を務める『のぞき部』は、その名称からどのように有名かは説明もいらないだろう。
けれども、新入生にとっては初めて見る先輩の顔。何やら勧誘のために部長が演説するらしいと幾人か足を止める。
取材に回っていた椿 薫(つばき・かおる)を捕まえた鈴木 周(すずき・しゅう)が、2人揃って総司の後ろについてビラ配りを始める。
「新入生の皆さん、このたびは、ご入学おめでとうございます。スカートも風にそよぐ春……昨今ではパンツも空を舞うといいます」
真面目な顔をして何を言い出すかと思えば、さすがのぞき部。
新入生を祝う気持ちはあれど、足を止めてしまった新入生は人は訝しげな目で3人を見ている。
しかし、パッと身は制服をきちんと着ているし、勿体付けた演説は聞こうとして聞かなければそれっぽい物に聞こえていたのかもしれない。
メイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)は自分も演劇部の勧誘をしっかりやろうと、総司から少し離れた場所で勧誘を始める。
「演劇部です〜、以前の講演の上映会を行うので、見に来てください〜」
部員ではないがパートナーのセシリア・ライト(せしりあ・らいと)とフィリッパ・アヴェーヌ(ふぃりっぱ・あべーぬ)にも手伝ってもらいながらの宣伝。
チラシには拠点である百合園の簡単な説明と演目内容、募集人材などが温かみのある手書き文字で綴られている。
コピーしたチラシもカラフルなペンで1つ1つ可愛らしく彩っているのがとても女の子らしい。
「役者以外にも脚本に照明、いっぱい人手がいるんだ。良かったら上映会だけでも来てね」
セシリアに差し出されたチラシを受け取ったクレタは、つい立ち止まって文字を追う。
百合園が拠点と聞いて上映会に顔をだしても良い物かと思ったが、隅の方には『男性の見学も歓迎』と書いてあり、演目内容も難しくはなさそうだ。
「なぁヴィナ。これ、えーくんに丁度良いんじゃないか?」
隣からチラシを覗き混むようにロジャーも内容を確認し、口を綻ばせる。
演目は長い物ではなく短い物を数種類やるそうなので、これならばエーギルも飽きずにじっとしていてくれるだろう。
フィリッパがそのやり取りを見て、にこやかな顔でしゃがみエーギルへ飴を手渡した。
「あらあら、随分と可愛い子もいらっしゃるのね」
「わー! あめだー! ねぇねぇあめだよっ、えーくんあめもらったよ。みてみてヴィナ・アーダベルトー」
上機嫌でもらった飴をヴィナに差し出すので、ほんの少しだけ怖い顔をしてエーギルに注意する。
「コラ。俺に見せる前に、お姉さんに言うことは?」
「あ! えっとー、えっとね。あめ、ありがとうだよっ! えーくんね、とってもうれしいの。だからね、ありがとうなんだよっ!」
えへへと貰った飴を大切に握りしめながら返事をするので、フィリッパも嬉しそうにエーギルの頭を撫でてやる。
そんな和やかな時間は、そう長く続かなかった。
「我々のぞき部は『のぞき』をテーマに青春を謳歌する事を目的として結成された部活です。皆様も……ってやっぱガラじゃねぇなぁーオメェ等!」
部長のかけ声に続こうとした周と薫は、ふと拳を振り上げる前に我に返る。
スカートだのぞきだと言っていたせいか女生徒は既に立ち去った後で、演説を聞いているのは変熊とにゃんくまだけ。
「ど、どうする部長!? あいつら覗くような服着てねぇぜ? つか覗きたくもないけど!」
「大丈夫でござる! 正面に百合園生もいるでござるよ! ……薔薇学生に阻まれているでござるが」
「……のぞくぞオラァ! これがオレ達のデモンストレーションだぜー!!!」
半ばヤケとも取れる総司のかけ声に続く周と薫。しかし薫は総司と周が駆け出したのを見計らって変熊へ突撃リポートを開始する。
「さぁ、のぞき部の勧誘が開始されたわけでござるが変熊殿! コメントを頂いて良いでござるか?」
「え、俺?」
別にのぞきを趣味でもなく、いつでもオープンな変熊にとってリポートされるとは思ってもみなかったのだろう。
少々驚きながら、尊敬の眼差しを向けるにゃんくまのためにも、気合いを入れて答えねばとカメラの前で張り切って仁王立ちをする。
「実は最近、うちの部長が全裸になるくせがあるでござるので、真の全裸とはなにかききたいでござる」
「ほほう、全裸か。この良さに気付くとは、なかなかやるな」
さて、なんと答えるか。自分がこういった交流会のような場で全裸になると、大抵誰かに邪魔をされる物なのだが。
「……あの、そのカメラは雰囲気を出すための小道具か?」
「いや、まわっているでござるよ」
「ああ、録画して蒼学の部室で……」
「じゃなくて、のぞき部特設ステージでリアルタイム放送中でござる」
「………………」
まずい。変熊は直感的に思い、にゃんくまの後ろに立つ。不自然なくらい頭を撫でてやり、いつも隠せと言われているものを隠してみた。
けれども、遠くから地響きのような足音は止まらない。
「ファイファー!!」
しかし、現れたのは変熊を捕らえに来たのではなくのぞき部を焼却に燃える武神 牙竜(たけがみ・がりゅう)と緋桜 遙遠(ひざくら・ようえん)。
重攻機 リュウライザー(じゅうこうき・りゅうらいざー)は2人から少し離れた位置で牙竜の演説を空中にバカでっかく投影している。
(くっ、もうあつい部に追いつかれたか……だが、オレは屈するわけにいかない)
部長として、そしてのぞき部を不滅の物にさせるためにも捕まるわけにはいかない。
総司は木の上から胸元を覗くべく身を潜めていたので、見つかるにはまだ時間がかかるだろうと思っていたのだが。
木の下にいる人物の動きが止まり、バレてしまったかと緊張して息を潜めた総司が見たのは――!
「……ッ!?」
手招きする、逞しい男性……のぞき部部長ともあろう者が、標的を間違えてしまった。
「ようこそ……男の世界へ…………」
ポッと頬を染め恥じらっているつもりのようだが、その不気味な微笑みにバランスを崩し、木から落ちてしまう。そこへすかさず向かう牙竜。
いや、今はお手製のあつい部部長バージョンのケンリュウガー衣装を着ているので、ケンリュウガーと呼ぶのが相応しいだろうか。
「ファイファー!! 今こそ、煩悩の固まりを消毒してくれるううっ!」
メラメラと(むだに)闘志を燃やすあつい部ケンリュウガーは、総司を逃がすまいと対立する。
そして、のぞきよりもナンパへ興じる周へは遙遠がつき、変熊はその混乱に乗じて逃げ出そうとした。
――ポンポン
春の日差しを浴びて煌めく銀髪。その輝きに負けぬ微笑みは、数多くの女性を虜にしそうな爽やかさ。
しかし藍澤 黎(あいざわ・れい)の心の内は、そんな穏やかな物ではなかった。
「……変熊殿、実に斬新なファッションをしているな。それとも、童話にあるような我に見えない衣服なのだろうか」
のぞき部の出店があるということで、警戒態勢を引いていた自警団『ローゼンリッター』。
プロジェクターへ大きく映された変熊を見て、彼のいる場所へ駆けつけたようだ。
「いや、その、これは全裸についての質問に答えるためであって、いまから着替えるつもりだったんだ、うん」
にゃんくまが着ぐるみか何かであれば説得力はあるだろうが、身一つで参加している彼に説得力はない。
「師匠! おっしゃってたとおり薔薇学のみにゃさんはホモくさい奴らばかりですね!」
その空気を読まずして、高らかににゃんくまは叫ぶ。そのおかげで、無駄に周囲の視線を集めてしまった。
「変熊……貴様、薔薇学をどのような学舎と心得てるのだ」
「わーっ! 違ッ、俺そんなこと言ってない! 言ってない!」
ぶんぶんと手を振る変熊から解放され、にゃんくまはトコトコと部長同士の対決に顔を出す。
「ケンリュウガーかっこいいけど……ふぅん。歌菜お姉ちゃんの方が、きっとつよいにゃ!」
「なっ!?」
ふふんと得意げに仮面を持つにゃんくまはレベルか何かが見えたのだろうか。
戦意を喪失させる一言に続いて、フィルラント・アッシュワース(ふぃるらんと・あっしゅ)はこれ以上混乱が広がらないよう呼びかける。
「キミらちょっと場所って物をわきまえたらどないや。これは周りを巻き込み過ぎちゃうか?」
のぞき部の行動を取り押さえに来たと思ったケンリュウガーは、喪失した戦意をゆっくりと回復させていく。
「ふ、ふふっ……悪は滅びるべきなのだ。味方が増えた今、逃げ場はないぞのぞき部っ!」
ビシッと決めポーズをとるケンリュウガーへアタックするのはあい じゃわ(あい・じゃわ)。
変熊だけに構っていられないと黎が投げた物だが、弾んだあいじゃわは総司の顔面にもぶつかってから地面に転がる。
(まったく、変な人たちがいるなとは思っていたけど……)
パフォーマンスの一種だと思っているメイベルは気付いていないようだが、セシリアはいつこちらに飛び火してくるかと注意深く観察していた。
メイベルは勧誘、フィリッパもエーギルに懐かれて相手をしているので、2人を守れるのは自分しかいないからだ。
しかし先の変熊もそうだったように、混乱あるところにはそれに乗じて何かしようと企む者が少なくない。
カイル アモール(かいる・あもーる)はニヤリと口の端を上げ、ヴィナたちに近づいた。
(……金目のモン持ってるのはこっちか。でも狙うなら――)
ヴィナとロジャーの荷物は無視して、クレタのポケットにある財布を狙う。金額は2人よりも少ないだろうが、気付かれる方がやっかいだ。
喧嘩になった所で負ける気はしないが、自警団まで動いているならそれは避けた方が良いだろう。
そうしてカイルが財布を抜き取り、何食わぬ顔で通り過ぎようとしたとき――。
「ちょっとキミ、待ちなよ!」
メイベルたちのことを見ていたセシリアが、カイルの悪事に気付いて声をかける。
自分より年上のようだが、姉気取りで取り押さえられるわけもないだろうとカイルは笑う。
「なんだよ、俺が何かしたってのか?」
盗った物は素早くしまい込んでいたので、両手をひらひらと上げてみればセシリアはキッと睨む。
「今、財布を盗ったよね? どうしてそんなことするの」
「はぁ? てめぇ、言いがかりつけんなら覚悟決めてんだろうな?」
幼い外見をしていても、上から目線で睨まれればセシリアも口を噤んでしまう。黙った彼女を嘲笑うようにカイルは通り過ぎていった。
しかし、セシリアは言い負かされて黙ったわけではなかった。
「……待ちなって、聞こえなかった?」
まだ何か文句を言うつもりかとカイルが振り返った先。
セシリアはにこりと微笑みを浮かべたまま光条兵器のモーニングスターを取り出していた。
もしあのまま無視をしていれば、一撃見舞われていたかもしれない。さすが鈍器で後頭部を狙うと恐れられているだけのことはある。
「くっそ……つっ!」
「そこまでだ。乱闘騒ぎは控えてもらおう」
変熊に制服を着せている途中でセシリアが口論しているのが目に入り駆けつけた黎は、カイルが武器を取り出す前に腕を捻り上げて取り押さえた。
「あ、コラ! またんかいボンクラ!!」
黎が取り込み中になったことで、自分たちを取り押さえる人数が減ったのをいいことに、総司とケンリュウガーは脱走する。
長々と続いたフィルラントの説教から逃れるために一時休戦の協定を結び、彼らの対決は持ち越されることとなった。
変熊はまだ制服に着替えているし、薫はすでに次のリポート先へ向かってしまった。周を追いかけた遙遠も、もうこの場にはいない。
ころころと転がりながらなんとなく周囲を確認したあいじゃわは、ぽかんとしてるエーギルの前にたどり着いた。
「今日は、たのし、たのし、の日なのです。皆、笑顔が1番なのです」
「うんとね、えとね。えーくんもね、みんなすきなんだよぅ! ロジャー・ディルシェイドもね、クレタ・ノールもね、すきなんだよぅ!」
「おいおい、俺は?」
「うん! ヴィナ・アーダベルトもー!」
きゃあきゃあとじゃれ合うエーギルを見て安心したあいじゃわは、ゆっくりと黎へよじ登り定位置につく。
カイルのボディチェックをしていたフィルラントから財布を受け取ったクレタも、エーギルの前ということもあってあまり気にしないようにした。
その光景をカメラに収める羽入 勇(はにゅう・いさみ)は、出だしからこんな調子で大丈夫だろうかと心配になりつつも、どこか笑顔でシャッターを切る。
きっと、何があっても今のように学生の手でなんとかすることが出来るだろう。
ちょっぴり上級生になったようなその気持ちが、勇にとってはなんだかこそばゆい物だった。
First Previous |
1 |
2 |
3 |
4 |
5 |
6 |
7 |
8 |
Next Last