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リアクション
第十章 殲滅――vs槍
槍の持ち手による膠着状態は、違う意味合いを持ちつつあった。
最終的には槍の持ち手はひとりだけになる。
普通に考えれば、気力や体力の尽きた者から脱落して、最終的に一番強い者が生き残ることになる。
だが、問題は「バーサーカー化」のトリガーだ。
現在、持ち手へのバーサーカー化は、持ち手それぞれに対して均等に、緩慢に進められていると考えていいだろう。
バーサーカー化の完成は、当然気力と体力の乏しい者が一番最初に達成する事になる。その完成が何をもたらすのかは、さっきまでの愛美が示している。
そう。弱い人間からバーサーカー化していくのだ。
しかも、手を伸ばせばすぐ届くような相手が。
至近距離にいる相手からの、あの規格外の攻撃を受けて、回避できる自信は、正直五人のうちの誰にもない。
(それでは、バーサーカー化が誰にも達成されない段階で、誰かを蹴落とせばいいか?)
それも正直難しい。誰かに攻撃をかけようとすれば隙ができる。その隙を、他の者達につけ込まれないとも限らなかった。
この膠着は、何としても脱したい――それは五人の総意である。
そして、そのきっかけとして、一番来てくれると嬉しいのが、外部からの介入だ。
(彼らは来る。しかも、全力で)
戦いは大乱戦になるだろう。勝機はその中にこそ、ある。
人の気配がした。
ひとりふたりではない、何十人もの足音だ。
五人は同時に、広間の入り口を見た。待ち望んでいたものが来たのだ。
三〇人近い人員が、ぞろぞろと入って来て整列する。
シーマ、ナコト、ランゴバルトがアルコリアの方を向いた。
(あなた達は下がっていなさい)
アルコリアが眼でそう告げると、三人の仲間は退いた。
キューが列の前に出た。
「槍を持つ方々よ。我の声が聞こえるか?」
五人は返事をしない。
ただし、すぐに攻撃をかける事もしない。
キューは、槍の持ち手に理性がまだ残っていると判断し、言葉を続けた。
「どうかその槍を手放して欲しい。槍も、それを持つ貴公らも、あまりに危険すぎる」
「イヤだ、と言ったらどうなる?」
イリーナが訊ねた。
「その時は――ここにいる全員で、貴殿らを止める」
「止める? できるのかしら?」
アルコリアが鼻で笑った。
「さっきの愛美さんひとりでさえ、止めるのにあれほど苦労したというのに? 私達を?」
「できますよ、今の私達なら」
翡翠が前に出た。
「容赦のできる相手じゃない――そのことを、みんなよく知ってますから」
槍の持ち手全員の口元に、凶悪な笑みが広がった。そして同時に、答えが出た。
「「「「「断る」」」」」
五人は槍を構え、穂先を目前に並ぶ者達に向けた。
キューと翡翠は顔を見合わせ、頷き――
直後、ふたりと、その後ろに並ぶ者達が一斉にしゃがんだ。
「「「「「!?」」」」」
その動きに意表を突かれた五人は、虚を突かれた。
しゃがんだ者達の後ろには、まだ立っている者達が並んでいる。彼らは魔法を放つべく、精神を集中していた。
その全員は、槍の穂先を――槍の穂先の下にある機晶石の位置を、確かに見た。
およそ十人の魔法が一斉に放たれ、槍に嵌る機晶石めがけて駆け抜けた。同時に機先を制した者達が全員槍に向かって突撃し、渾身の必殺技を機晶石に向けて叩き込んでいた。
轟音の中、その場にいた者全員が、何かが砕け散る音を確かに聞いた。
――機晶石が砕け散ると同時に、槍もボロボロと崩れていく。
五人の持ち手達は意識を失いこそしなかったものの、消耗の反動で、その場に座り込んだまましばらく身動きができなかった。
そして、槍破壊の作戦に参加した者達も同様に、緊張が解けて、その場にへたりこんで、そのまま立ち上がろうとはしなかった。
「……訓練用の迷宮だなんて、嘘ばっかり」
緊張が解けた反動で、ぼんやりしながら郁乃は思わず呟いた。
「危険を冒すから、冒険というのですよ」
桃花がひっそりとツッコんだのは、果たして郁乃に届いていたか。
勝利にも敗北にも、浸る者は誰もいなかった。
とにかく皆、疲れていたのだ。
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