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リアクション
第四章 援軍と戦術――vsバーサーカー・2
何十度目かの回避をしながら、恭司は人の近づく気配を感じていた。
かなり多い。一〇や二〇じゃ利かない数が、間違いなくこちらに向かっているのが分かる。
別に決闘をしているわけではないので、助力が来るのは有り難かった。
(今の愛美は、凄まじく厄介だからな)
既にひとり、また助っ人が来てくれていた。ウィング・ヴォルフリート(うぃんぐ・う゛ぉるふりーと)、彼がこの迷宮に来てくれていたのは非常に有り難かった。
幸いな事に、ウィングもバーサーカーの撃退ではなく、愛美の救助を意図しているようだ。
――だが、その顔からは、もはや余裕は消えている。
(こいつは強いぞ、ウィング)
心中で、恭司はそう呼びかけた。
声に出さないのは、自分が無口だからではない。呼吸が切れて、喋る事が出来なくなりかけているのだ。
増長しているつもりはないが、ウィングは自分の事を相当な腕前の剣士と自負していた。
今ここにいる恭司にしても、いざという時は背中を預けられる男だ。太郎という格闘家は恭司の知り合いのようだが、その身のこなしを見れば、かなり以上の使い手だという事はすぐに分かる。
(だが、そんな相手三人を向こうに回して立ち回っている愛美さんは何なんだ?)
これ見よがしに、穂先の下の十字型の中に輝く機晶石。どうやらこの槍が原因と考えて良さそうだ。ならば槍をどうにかすればいい。
が。
(……もう一度だ!)
突き出される穂先に合わせ、二刀流に構えている高周波ブレードの片方を出した。
ブレードの刀身が穂先と十字部分に上手く噛み合い、動きが止まる。そこにもう片方のブレードで斬り下ろしにかかったが、逆に槍を引かれ、ウィングの体が引き寄せられる形になった。
たたらを踏むウィング。手元が軽くなる。噛み合っていた穂先が外れ、その刃が真っ直ぐにこちらの首を狙っていた。
(!)
横に身を捻り、仰け反るような姿勢で回避。彼はそのまま地面に身を投げ出し、転がりながら愛美と距離を取った。
「……大丈夫ですか……ウィング!?」
掠れた声で恭司が問う。
「あぁ……何とかな!」
「何か技は使えませんか!? 槍に当てられればいい!」
恭司の問いに、ウィングは首を横に振った。
「愛美さんの槍が速過ぎる! 狙いが外されたら、愛美さんの命が危ない!」
「なら根比べ続けるしかないようだな……ウィングと言ったな、お前もつきあえ!」
太郎の台詞に、ウィングは苦笑した。
(剣士に剣を振るうな、と言いたいのか?)
同時に、ウィングは少しだけ好感も持った。この格闘家、「愛美を倒す」という事は考えてないらしい。
実際、根比べ戦術の継続は間違ってない、とウィングも思っている。自分も、おそらくは恭司や太郎も大分消耗を強いられたが、交代要員がもうすぐ来てくれるはずだろう――
そう考えていた矢先、駆けつけてきた足音。
「愛美さん! 助けに来ました!」
「マナ! もう大丈夫よ!」
「愛美! そういう目立ち方は良くないよ!」
「マナミン! そのネタはウチの方が先や!」
(――ちょっと待て。後の方の台詞は何だ?)
声のした方を見てみると、美羽に未沙の姿が見えた。他にいるのは手に星輝銃を構えた少女に、妙にテンションが高そうなツインテールの女の子。少なくとも最後の台詞はこのツインテールが口にしたに違いない。
「気をつけろ、美羽、未沙!」
ウィングは怒鳴った。
「今のこの子は、化け物みたいに強いぞ!」
「知ってるよ、ウィング。さっきマリエルから聞いたもの」
「変な槍持っちゃって、マナミンただいまバーサーク中、そうでしょ?」
美羽と未沙が答えた。
「作戦を提案します!」
翡翠が叫んだ。
「目標は槍! 私と小鳥遊 美羽さんは目標の破壊に集中! 桜井 雪華さんと朝野 未沙さんは隙を見て愛美さんを拘束、動きを止めて下さい! 男性諸氏はその隙を作る為に、囮になって下さい! やれますか!?」
どうやらこの問いは、自分達「男性諸氏」に向けられているようだった。
「……任せておけ! 女を守るのは……男の仕事だ!」
呼吸を荒げながらも、太郎が答えた。
「しっかり狙え。愛美に当てたらただじゃおかない!」
そう言ってウィングは立ち上がり、身構えた。
恭司は無言で親指を立てて見せた。
肩越しに振り返った美羽もまた、親指を立てる。視線の先にはマリエルがいる。
「まかせてマリエル! 愛美は絶対に助けるからね!」
(歯がゆいね……)
湯島 茜(ゆしま・あかね)は内心で舌打ちをした。
戦いは、戦場を広間に移している。多人数がひとりを相手にするには、こちらの方が確かにやりやすい。
ここに来るまで、周囲から愛美という少女についての評判をちらちら聞いた。が、目前のバーサーカーはどう見ても「恋に恋する夢見がちな少女」には見えなかった。
今戦線に飛び込んでいる者達の戦い振りは、見ていてイライラする。いずれも相当な手練れのようではあるが、殺すつもりで来ている相手に手加減がどこまで通じるものか。
男は女に手を出さず、友は友を傷つけず――それらは尊ぶべき美徳ではあるが。
「まぁ、まずは見せてもらうね」
再び茜は小さく呟く。
その台詞を聞いたのは、隣に立つエミリー・グラフトン(えみりー・ぐらふとん)だけだった。
エミリーは横目で茜の表情を確かめようとしたが、被り物と前髪の影が下りていて、よく分からなかった。
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