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リアクション
氷面が落ち、ミストの檻が晴れ崩れた時、全身を水晶化された人影が多くに見えた。
…… 私の…… 放った……
伸ばしたまま固まったミネルバに、力無く歩み寄る。
…… 私が…… 撃った光の…… 水晶の……
指先に触れる、感じるは温もりにあらずに水晶の硬度、冷たく硬い指の腹。
…… 水晶に…… 水晶を…… 水晶に……
横たわる生徒たちも水晶と化している、動けば常に何を言わずとも傍に居たあの顔もこの顔も、みんなみんな水晶に。
…… 水晶…… ! …青龍鱗!
「青龍鱗… 青龍鱗があれば……」
「青龍鱗はありませんよ」
ナナが勝負に出た。
「追跡していた方から連絡がありました、強奪者を取り逃がしたと。ですから、青龍鱗の行方は誰にも分かりません」
連絡など来ていない、状況すら分からない、それが現状なのだが。
「… 青龍鱗が…… 無い……?」
「えぇ、青龍鱗で解除する事は、できません」
「そんな………… 青龍…… 無… けれ…… 解除でき…………」
伸ばした手、その先にミネルバの瞳が見えて。
「この、まま…? ずっと、このまま…………」
庇おうと跳び込んでいたベルナデット、横たわったままの六花の瞳も固まっている。固まったまま、もう、瞬く事も、ない−−−
「あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛〜〜〜〜〜!」
頭を抱えて体を折り、また反らして。喉を刈き切らすような軋声をあげて。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛あ゛あ゛ぁ゛〜〜〜〜〜!」
髪は逆立つように浮き、体から衝撃波が放たれているかのように、辺りの空気が揺れている。
「危っ!!」
「避けろ!!」
轟音と共に放たれた波動の砲撃は、赤く紅く輝いていた。
それを避けた葛葉とエヴァルトが振り向き見れば、巨大な水槽の氷壁が、水晶の壁に姿を変えていた。
「おぃおぃ、あの大きさで水晶化させる効果かよ」
「ズィーベン!」
2人が背筋に寒気を覚えたとき、ナナの声に合わせてズィーベン・ズューデン(ずぃーべん・ずゅーでん)がパッフェルに背後から迫っている所であった。
大砲を放った直後だというのに、また発狂した状態にも関わらず、パッフェルは瞬速で振り向いてみせた。
彼女の頬が見え始めた時、ズィーベンは地面にバニッシュを放ってから宙へと跳んだ。
そのまま駆け迫っていたなら赤く輝く大砲に叩き抜かれる所であった。ズィーベンは宙から頭上に迫ると、パッフェルにキュアポイゾンを唱えた。
パッフェルの動きが瞬きに止まった。ズィーベンは力の限りに、瞬く時間の許す限りにキュアポイゾンを唱え続けた。彼女の体内の毒を解毒してしまう為に。
「きゃぁぁっ!!」
「ズィーベン!!!」
大砲が、ズィーベンの全身を水晶へと変えた。対象が一人であるなら、これまでの光で構わないはずに……。
パッフェルの様子に変化は無い。瞳の色も紫色のままであったが、ミルザムだけは、この攻防に光明を得ていた。
「お2人とも、彼女を捕らえて下さい!」
「あ、いや、しかし」
ミルザムの警護と護衛を務めてきた大野木 市井(おおのぎ・いちい)とマリオン・クーラーズ(まりおん・くーらーず)は、この危険な状況であなたの側から離れる事など出来ないと伝えた。
「構いません、とにかく彼女を止めるのです」
「しかし−−−」
「行きなさい!!」
「はいぃっ!!」
叫び押されて2人は飛び出した。強い口調で言われたのは初めての事だった、それだけに体だけが素直に飛び出してしまったのだが。
意識があるのかさえ怪しい。軋声で叫びながら大砲を放っている。赤い輝きを放たぬ砲撃は簡単に地を抉り掘っていた。
「あれを止めろって?」
「私たちも加わろう」
フィーネ、そしてイーオンも加わった。ミルザムの元を離れた今、パッフェルを止める事が彼女を護ることなのだと。駆ける面々は同じに思っていた。
放たれた、輝きの無い波動の大砲。イーオンはこれに正面からファイアストームを叩きぶつけた。
力比べの末に、押され破れたが、ランチャーの動きは止めていた。サイドから、フィーネは足元へ氷術を放つ。
足元が凍らされようとも、パッフェル変わらずにランチャーを向けて−−− 上空を見上げた。
小型飛空艇が迫っていた、いや、すぐに大野木が宙に飛び出したので、乗り手の居ない飛空艇が突墜してきた。
叫声と共に砲撃で撃ち落とす、そこへマリオンのライトニングブラストとフィーネの雷術が彼女を襲った。
フィーネが砲撃された時、マリオンが彼女に抱きついた。ランチャーが装されている右腕に、軋声と共に蹴りを浴びながらも必死にしがみついていると、彼女の首元に飛びついた者がいた。
「なっ! ミルザム様っ!!」
驚きに緩まろうものなら、抜けようと右腕が暴れ出す。マリオンは顔を押しつけてランチャーを押さ込んだ。
「落ち着きなさい! 落ち着いて!!」
正面から抱きついたミルザムはしっかりと腕を背中に回してパッフェルを。
「落ち着きなさい! 青龍鱗があれば、青龍鱗があれば彼女たちを元に戻せるのでしょう?」
抗い呻く、それでも決して離さない。それ所かパッフェルに触れる箇所から、ミルザムの体が紫色に変色していった。
「青龍鱗は必ず見つけます、取り返します、それで! あなたなら元に戻せるのでしょう!」
力は込められている、押さえつけようと必死に、それでも、背に回る腕が震えているのは、それだけではないようで。パッフェルの体から毒が浸食している。紫色の皮膚は拡大してゆく、それは彼女の腕にしがみついているマリオンの肩にも浸食を始めたようで。それでも2人ともに決して力は緩めるような事はしなかった。むしろミルザムは、より強く抱きしめているようだった。
「あなたなら…… 元に戻せるのでしょう?」
声も、瞳も揺れている。
パッフェルは、自分が軋声をあげている事を感じられた。それに気づいた。
耳に触れた頬の温もりを、胸を包む温もりを……。
「ティセラ………… っ−−−」
大野木がパッフェルの首に手刀の一撃を。
ミルザムの腕の中でパッフェルは気を失った。
「これで… 良かっ…… た? んだよな……」
「えぇ、ありがとうございます」
ようやくに、狂嵐の目が収まった。
ミルザムを含めた一同は、みな一様に安堵の息を雫して緊張を解き放った。
「ミルザム様!!」
「マリオン!!」
皮膚が紫色に、しかも色の濃度が常に変化をしている。揺れる水のように、切れかけの電灯のように。
一同が一斉に行動を始めた。治療に当たれる者、そうでない者は水槽の処理と村の視察、また青龍鱗の行方にトカール村との連絡など。誰が指示をするでもなく、みな、それぞれに役割を見出して動いていた。
共に事件を終結させた事で得た達成間や一体感、また自信がそうさせたのだろう。
やるべき事も考えるべき事も山のようにある。そう気を引き締めて、
治療を受けるミルザムも、唱えられたキュアポイゾンに効果を感じないでありながらも、皆の動きと事態の終幕を想い−−−
痛みに顔を歪めても、頬を上げて笑んでみせた。
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