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リアクション
十二星華が一人、パッフェル・シャウラ(ぱっふぇる・しゃうら)によって水晶と化した村、ガラクでは、二つの勢力が相対していた。
一つはパッフェルと彼女を慕う生徒たち。もう一方は女王候補ミルザム・ツァンダ(みるざむ・つぁんだ)を擁するクイーン・ヴァンガード、そしてパッフェルの狂行を止めようと立った生徒たちである。
熟考する時間はない、それでも今にも始まりそうな戦いを僅かにでも遅らせる事が出来たなら。
シルヴィオ・アンセルミ(しるう゛ぃお・あんせるみ)は、困惑の色を滲ませているミルザムの瞳に、自身の背を映すように歩み、立った。少しばかり見上げれば、漆黒のグリフォンの背から見下ろすパッフェルの冷たき瞳が見えた。
「ずいぶんと余裕があるんだな、パッフェル。青龍鱗は追わなくても良いのか?」
「…… 何?」
「とぼけるなよ、青龍鱗を奪って逃げたのは、お前の仲間じゃないんだろ? ミルザム様に揺さぶりを掛けてる場合じゃないんじゃないか?」
「ミルザム様? そこで固まっている”お人形”さんの事?」
「”お人形”さんは、果たしてどちらなのかしら?」
アイシス・ゴーヴィンダ(あいしす・ごーう゛ぃんだ)もシルヴィオの論に加わった。今のパッフェルになら挑発混じりの会話が成り立つと。
「エリュシオンが背後に居るのでしょう? いえ、結局 ティセラ・リーブラ(てぃせら・りーぶら)も、エリュシオンに寄りかかっているからこそ立てているに過ぎないのでしょう?」
パッフェルの口元に力が。ランチャーを装する右腕に震えが起こる。
それでも動きを見せないパッフェルの隙に、シルヴィオはミルザムへ問いた。
「最善を、現実にします」
拳も背も震わせて、表情だけは気丈に、笑顔を見せようと。
「彼女を止めます、蠍も止めます、ヴァルキリーたちを避難させて、泉の完成も阻止します、信じています!」
淡々と、しかし加速して言い、最後は強く言い放った。それでも言っている事は無茶が過ぎる−−−
「私は、あなたたちを信じています!!」
取り巻く生徒たちに、隊員たちに向けてミルザムは揺れる事のない瞳を向けた。
一見して詰んでいると見える状況ではあるが、しかも強引な力技にしか思えない策であるのだが、一同の背筋を熱くするのには十分であった。
「シニョーラ・ミルザム。貴女が貴女であり続ける限り、俺は貴女のヴァンガードである事をお約束します」
跪ずいたシルヴィオは鞘に収めたままの剣を捧げた。女王候補宣言以降、ずっと彼女の行動を見続けてきた、そして今の彼女の振る舞いこそが、彼女に誓いを立てる事を決めさせたのだ。
ミルザムが捧げられた剣を受け取った時、パッフェルの低い声が辺りに響いた。
「…… ティセラを…… ティセラの事を……」
「ティセラ? そうね、貴女のご親友にお伝えなさいな。自らの意思で動いてるつもりでも、結局は彼らの思う壺。ティセラも”お人形”さんですわ」
「…… ティセラを…… ティセラを悪く………… 言う……な……」
追い打ちをかけるアイシスに、パッフェルは遂に唇の端を咬み切った。
「ティセラを悪く…… あぁぁあぁ! ぁぁあぁああ!! ぁぁぁあああああ!!!」
地を抉る波動の砲撃、直径3メートルを超える砲撃がランチャーから放たれると、地には硬度などまるで無かったかのように、一瞬で抉り潰されてしまっていた。
「大丈夫ですか?」
「あぁ…… あぁ、助かったよ」
とっさにアイシスを抱き寄せたシルヴィオであったが、それは正にランチャーの銃口が弾けるように輝いた瞬間だった。
影さえも残らない−−−
瞼を閉じたシルヴィオが次に瞼を開けられたとき、それは燦式鎮護機 ザイエンデ(さんしきちんごき・ざいえんで)の硬く、その腕の冷たさに気付いた時だった。
「大丈夫ですか?」
「あぁ…… あぁ、助かったよ」
ザイエンデに腕を添えられて…… 力が抜けただけ、腰は抜けてない。2人は揺れながらもそれぞれの足で立ち上がった。
地を削った際の衝撃で、辺りには土煙が起こっていた。
「加速ブースターは、まだいけますか?」
悪い視界の中、パートナーの神野 永太(じんの・えいた)はザイエンデの隣に並び立った。ブースターは見るからに赤く熱を帯びているようだった。
「少し時間を頂けるなら、恐らくは」
「なるほど。ではやはり、先にアレを狙いますか」
共に見上げた上空に捉えるは、パッフェルが腰掛ける漆黒のグリフォン、大きな影が靄の中に浮いていた。
携帯電話とライフルを握りしめて、永太が飛び出した。ザイエンデは六連ミサイルポッドを構えると、地面に向けて発射した。
地に直撃し、轟音が鳴り響く瞬間を狙いて永太はスナイパーライフルを掃射した。
音に紛れた銃弾は、グリフォンの片翼に射し埋まった。悲鳴と共に上体を上げるのを見て、両名は次弾の狙いを定め−−−
「うっ、おっっと」
砲撃では無かったが、即座に射撃が襲いかかってきた。方向からしても、パッフェルに間違いないのであるが。
「もう立ち直ったのですか? ただの反射だとしても、恐ろしいですね」
「どちらにしても、する事は同じです。次弾いきます!」
取り乱していたはずに。初弾と同じようにミサイルを地面に放ち、その音の中で射したのだが、土埃も晴れてはいないにも関わらず、グリフォンを避けさせるのではなく、ランチャーでその弾を撃ち落として迎撃したのだった。
「くっ、何と器用な−−− うっっと」
撃ち落とすだけでなく、反撃まで。永太は携帯を耳に当てながらに、身を跳ばし避けながらグリフォンを視界に捉えてはミサイルの轟音を待った。
「妙だな…」
轟音鳴り響く中、鬼崎 朔(きざき・さく)は唱えるように呟いた。
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