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【十二の星の華】空賊よ、星と踊れ−フリューネサイド−3/3

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【十二の星の華】空賊よ、星と踊れ−フリューネサイド−3/3
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第5章 空賊達の挽歌・火踊りのププペ



 撤退していくミッシェル空賊団と入れ替わりに、今度は別の大型飛空艇が接近していた。
 無数に飛び交う飛空艇の中でも一際異彩を放つ藁作りの船である。はためく空賊旗は炎に包まれたドクロ。初見ではなんとも弱そうな船という印象を拭い去れない飛空艇なのだが、空峡をある程度知る者ならこの船を見た瞬間、ガチガチと歯を鳴らしているはずだ。何せ、空峡でも畏怖される【火踊りのププペ】の船なのだから。
 甲板には民族服を着た褐色の肌の団員が整列していた。
 感情もなく飛び交う小型飛空艇を見つめ、一斉に火術を放った。
「しっかり捕まってろよ、セイニィ」
 緋山政敏は汗ばむ手で操縦桿を握りしめ、雨のような火球の隙間を縫って飛行する。
 スプレーショットで牽制するも、空賊達は恐れず火術を連発する。精霊を信仰すると言うププペ空賊団の特殊な宗教の中では死とは恐れるものではない。それゆえ、彼らは狂気をはらんだ戦士として恐れられている。
「なんだ、こいつら……、銃弾で仲間が倒れても平気な顔をしてやがる……!」
「ふん、ただの悪党よりこーゆータイプが一番厄介なのよ」
 セイニィは指示を出す長身の黒人、ププペに視線を向ける。
 彼はなにやら両手に炎を宿らせ、不可思議極まりない舞を舞っていた。それはとある人物に『火の精霊の加護を強める踊り』として教わったものだ。どこかに合図を送っているような不審な動きだったが、特殊な宗教観を持つ彼なので、大空賊団の空賊達は『何かの儀式的なものなのかもしれない』と別段気にする事はなかった。
「クウゾクガリ、ミツケタ。ププペ、ナヲアゲル。ヤキハラエ」
 政敏とセイニィの乗る飛空艇を見つけると、ププペは部下に合図を出し、炎の波状攻撃を集中させた。
「下がって、政敏! ここは私が受けきる!」
 そこに政敏のパートナー、カチェア・ニムロッド(かちぇあ・にむろっど)が割って入った。
 紋章の盾を前面に構え、降り注ぐ炎を全て防御する。だが、十数発にも及ぶ高熱を受けて盾が持つはずもなかった。真っ赤に灼熱し変形を始めた盾を破棄して、カチェアと政敏は散開した。
「火力が凄まじすぎるわね……。ファイアプロテクトでも使わない限り耐えられないか……」
 その時、ボンと炸裂音がしてカチェアの船から黒煙が上がった。
「おい、大丈夫か……!?」
「熱で電気系統がやられたみたいね……。ごめん、二人とも気をつけて……! それから、リーン」
「わかってる、私がカチェアの分までカバーするから」
 もう一人の政敏のパートナー、リーン・リリィーシア(りーん・りりぃーしあ)は頷く。
 ゆっくりと高度を下げていくカチュアを見送り、政敏たちは距離を保ってププペ船の周囲を旋回し始めた。


 ◇◇◇


 時を同じくして、安芸宮 和輝(あきみや・かずき)もププペ船に攻撃を仕掛けていた。
「作戦はわかってますね。二人が気を引きつけている間に、私があの船の駆動系を狙います……!」
 パートナーのクレア・シルフィアミッド(くれあ・しるふぃあみっど)安芸宮 稔(あきみや・みのる)は頷く。二人は小型飛空艇に二人乗りしている。操縦を担当するのは稔で、クレアは後部座席でなにやら布にくるまった荷物を抱えている。
 ふと、クレアは「ん?」と不審な点に気が付き、ププペの船をまじまじと見つめた。
「……あの、駆動系ってどこなのでしょうか?」
「船の作りなどどれも似たようなものです。見ればおおまかな位置ぐらいは……」
 和輝はもう一度ププペの船を確認する。
 外見はどこかジャングルの部族が使うような藁を編み上げて作った船の大きい版である。船室も見当たらなければ、帆すらない。船尾と船首にプロペラのついた柱があるのだが、民族船との差異はその辺りぐらいしか確認出来ない。
「えーと……、たぶん底のほうにエンジンがあると思います」
 まあ、その部分しか動力を置けそうな場所がないので間違いないだろう。
「しかし、もっとこちらに来る人がいるかと思いましたが、あまりいませんね」
「弾幕なしであの船に近付くのは至難の技ですわ」
「無い物ねだりをしても進みません。手はず通りに動きましょう。私は前方に回り込みます」
 和輝が移動するのを見届けると、稔は飛空艇は最大速度で走らせ、飛来する炎に突っ込んだ。覚悟はしていたものの、間近で見ると対空砲火は尋常ではない。クレアを炎から守るため、稔は盾を構えて突き進む。
 と、いこうと思っていたのだが、稔は直前になって重大な事実に気付く。
「……すみません、シルフィー。持ってきたと思ったんですが、盾がどこにも見当たりません」
「……え?」
 次の瞬間、二人の飛空艇は炎に飲み込まれた。
「きゃああああ!!」
「シルフィー、落ち着いてください。まだ船の動力は死んでいません、どうにか消火するのです」
 必死で炎を払う稔であったが、次から次へと炎が飛んでくる中で、それは不可能と言うものだった。
 消火をあきらめた彼はシルフィーから布にくるまれた何かを取り上げた。すこし燃えてはいたものの、ただの布ではなく耐火性の布を使っていたため、中の荷物(火炎瓶やらロケット花火)は無事だった。
「私はこれより特攻をかけますので、シルフィーは退避を。パラシュートの使い方は知っていますね?」
 きょとんとするクレアにパラシュート的な装置を着けさせ、飛空艇から突き落とした。
「きゃあああああ!!」
 そして、ほとんど自由落下に近いかたちで、稔はププペ船に突っ込む。
 射程に捕らえたところで、大量の火炎瓶を取り出し、投下。藁で出来てるププペ戦はいい具合に乾燥しており、あっという間に炎は燃え広がった。消火活動を妨げるため、ロケット花火を構える稔だったが、誰もそんな事は始めなかった。
 彼らはこの状況でも、ただただ執拗に攻撃を続けているのだった。
「攻撃一辺倒とは……、なるほど、これが空峡で名を上げた空賊の覚悟と言うものですか……」
 せめて攻撃の妨げになるようロケット花火をバラ撒くも、大した効果はなかった。
 ゆるやかに落下していく稔の飛空艇を、ププペ船の前方上空に回り込んだ和輝は無念そうに見つめる。
「この仇は私が取ってみせます!」
 和輝は飛空艇を走らせ、動力部と思しき船底に爆炎波付きの光条兵器を叩き込んだ。そこから、じわじわと炎が燃え広がっていくのを確認し、また別の角度から爆炎波を繰り出す。相棒の想いに答えるため、和輝は必死で剣を振るった。


 ◇◇◇


 そして、再び政敏の飛空艇に視点を戻す。
 ププペ空賊団の対空砲火は相変わらず熾烈を極めていたが、いつまでも逃げているわけにはいかない。幸いこちらにはウィザードのリーンがいる。彼女の魔法よるサポートがあれば、船の懐に潜り込める可能性がある。
「……それじゃ、私が雷術で道を切り開くわね。あの空賊たちは怯まなさそうだけど、一瞬だけ視界を奪う事ができるわ」
「頼んだぞ、リーン。俺たちはおまえを信じて全速力で突っ込む」
 全てを委ね、政敏の飛空艇は速度を上げた。リーンは精神を統一し、ププペ船に掌を向ける。
「よっし……、いくわよ!」
 だが、何も起こらなかった。それもそのはず、彼女のスキル欄には何も設定されてなかったのだ。
「……あれ、雷術ってどうやるんだっけ? えっとその……、なんだっけ……?」
 そうこうしてる間に、炎の直撃を食らってリーンの乗った飛空艇は落下していった。
「きゃー、ごめん、政敏ーっ!」
「……い、いやいや、ごめんで済まないだろ! り、離脱! 急速離脱!」
「なにやってんのよ、あんた達……」
 意味がわからなさ過ぎてセイニィは唖然とした。
 政敏の飛空艇は無事ププペの攻撃射程から逃れる事が出来たが、セイニィはププペに接触する事はついに叶わなかった。
 だが、政敏の謎の行動でププペの注意を引きつけた時、橘 恭司(たちばな・きょうじ)は懐に潜り込む事に成功した。
「船が藁で出来ているのにそこのリーダー格が炎使い……、これは使わない手はないな」
 小型飛空艇から飛び降り、ププペの眼前に着地する。
「……オマエ!」
「どうした、炎使い。かかってこいよ、それともこんな近くじゃ炎を使うのは恐いか?」
「ププペ、シヲオソレナイ! ププペ、セイレイニマモラレテル!」
 ププペを挑発し攻撃を誘うと、加減する事なく炎を繰り出してきた。他の団員は流石に団長を巻き込む恐れのある攻撃は出来ないのか、じっと戦いを見守っている。攻撃をしてくるのが一人だけならかわすのはそう難しくない。
「どこを見てる、炎使い。まだ俺には一発も当たってないぜ」
 恭司はそう言いながら、かわした炎が船体に当たるよう誘導する。
「チョコマカウゴク、ププペ、イライラスル!」
 苛立たしげに彼は攻撃方法を変える。掌から発射していた炎を、そのまま拳に留め、格闘術で挑んできた。長身からは想像もつかない素早い身のこなしで、恭司の脇腹に強烈な火炎掌打を叩き込んだ。
「がはっ!」
 炎に包まれながら、恭司は床に転がった。
「オマエ、ププペ、アマクミテル! ププペ、ツヨイ、セイレイノセンシ!」
「そ……、そいつは結構な事だな……!」
 二撃目を放とうとするププペをバーストダッシュで回避、上空に飛び上がり、しびれ粉を巻き散らした。
「ナ、ナンダ……!?」
「そいつを知る必要はもうない」
 しびれ粉による麻痺が、ププペの回避をほんのすこし遅れさせた。そのわずかな遅れが、ププペの明暗を分けた。
 恭司は高周波ブレードを抜き払い、ププペを一刀両断に斬り裂いた。左肩から入った刃は右脇腹から抜け、軌跡から噴水のように血が噴き上がった。剣の描いたラインを彼の上半身は滑り落ち、その場で絶命した。



 『火踊り』のププペ、死亡。