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【金鷲党事件 一】 ~『絆』を結ぶ晩餐会~ (第1回/全2回)

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【金鷲党事件 一】 ~『絆』を結ぶ晩餐会~ (第1回/全2回)

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第四章 敵は「まほろば」にあり

「ハイナ様。警備班が、正門に突入したテロリストの撃退に、成功したとの事です」
「そうでありんすか。皆さんに、『ハイナがよくよくお礼を申し上げていた』と、お伝えしておいて下さいまし」
 ハイナは、警備本部からの報告を客船「まほろば」の一等喫茶室で受け取った。
 まほろばは、晩餐会の第六会場という位置づけではあったが、実際に乗船できるのは、警備本部が承認したごく一部の要人達に限られていた。不特定多数の出席者が集まる晩餐会において、少しでも警備の負担を減らすための措置である。
 今、まほろばの一等喫茶室には、テロリストの襲撃を受けて、それら要人と、彼らのシークレットサービス達が避難していた。

「テロリストを撃退したそうですね」
 今の報告を聞いていたのだろう、蒼空学園校長、御神楽環菜(みかぐら・かんな)がハイナに語り掛けてきた。
「今、景信さんが事後処理をされているそうでありんす。災難に遭われたお客様の中にも、亡くなられた方はおられなかったそうで、ほんに、ようごさんした」
 ホッとしたように微笑むハイナ。

「アルコリア様。この状況は、危険ですわ」
 喫茶室に面したデッキで海風に当たっていたシーマ・スプレイグ(しーま・すぷれいぐ)は、突然のナコト・オールドワン(なこと・おーるどわん)の呟きに、彼女の方を振り返った。
 ナコトは、虚空を見つめたまま言葉を続ける。彼女の【防衛計画】が、発動したのだ。
「重要人物が狭い空間に集中し、しかも窓一枚隔てた外は、見通すのも難しい夜の海。襲撃には絶好の状況ですわ」
 シーマは、身を乗り出して海を見た。水面に、不自然な波紋がいくつも浮かんでいる。
「敵襲!海からだ!!」
 喫茶室に向かってそう叫ぶのと、水中から全身黒尽くめの襲撃者達が跳び出してきたのは、ほぼ一緒だった。
 襲撃者達は、舷側を飛ぶようにして駆け上がる。
「予測の範囲内ですわっ!」
 既に『ライトニングブラスト』の準備を終えていたナコトが、デッキに降り立ったばかりの襲撃者を、消し炭に変える。
デッキの方はナコトに任せ、シーマは、身を翻して舷側の手すりを飛び越えた。
 そのまま垂直な舷側を駆け下りると、水中から跳び出して来る襲撃者の顔面に『盛夏の骨気』を嵌めた鉄拳を食らわす。
 一撃で、襲撃者の頭蓋が砕けた。



「全員、その場を動かないで!身を低くして、テーブルの下に隠れて!SSは周囲を警戒!」
 環菜がそう指示を出すのと、喫茶室の扉を蹴破って襲撃者達が部屋に踊りこんでくるのは、ほぼ同時だった。
 エリザベート・ワルプルギス(えりざべーと・わるぷるぎす)の護衛についていた志方 綾乃(しかた・あやの)神代 明日香(かみしろ・あすか)は、シーマの叫びが聞こえるや否や、すかさず彼女を挟みこむように動いていた。
そのまま、エリザベートを少しでも襲撃者から離すよう、じりじりと移動して行く。
「ご安心下さい。エリザベート様」
「大丈夫ですよ。エリザベートちゃん。私達が、必ず守りますからぁ」
 室内に入り込んだ襲撃者達は、それぞれに武器を構えると、一斉に突っ込んで来た。
その内の1人が、抜き身の日本刀を逆手に構え、こちらに向かってまっしぐらに進んでくる。
「今よ!」
「はいっ!」
 後半歩で、襲撃者の刀の間合いに入るというタイミングで、2人は作戦を発動した。
 綾乃が指に嵌めた『光精の指輪』を発動させ敵の目をくらませる一方、明日香は氷の盾を作って攻撃を防ぐ。
 これが、2人が事前に打ち合わせて置いた作戦である。だが今回、このどちらも空振りに終わった。
 てっきりエリザベート目掛けて突っ込んで来たと思っていた襲撃者が、直前で身を翻し、すぐ横を走り抜けたのである。
 駆けて行く黒い影を必死に眼で追う明日香。その視界に、飛び込んで来たのは、今まさに黒い波に呑み込まれようとしているハイナ・ウィルソンの姿だった。



「敵の狙いはハイナさんよ!早く!!」
 環菜の護衛についていた樹月 刀真(きづき・とうま)漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)影野 陽太(かげの・ようた) 達は、環菜のこの言葉で我に返った。
「俺を無視したこと、後悔させてやる!」
 影野 陽太は、ハイナに襲い掛かろうとしている襲撃者の背中目掛けて、ハンドガンの引き金を引く。
キンッ!キンッ!
 だが、2発の銃弾は、横合いから飛び込んで来た別の襲撃者によって全て弾かれてしまった。続け様に引き金をひく影野。
 しかし、目の前の襲撃者は驚異的な剣捌きでその全てを弾き返すと、返す刀で影野に激しい突きを見舞ってくる。
(この距離じゃ、銃は無理だ!)
 咄嗟にそう判断した影野は、後ろに下がって刀をかわすと見せかけて、逆に相手に向かって突っ込んだ。
「こんのぉ!」
  そのまま、激しい揉み合いながら、床の上を転がる。だが、敵は体術にも優れていた。
 襲撃者は、巧みに影野を押さえ込み馬乗りになると、彼の首に手をかけた。物凄い力で締め付けられ、肺が酸素を求めてあえぐ。
 燃えるような頭の痛みに、あいまいになっていく意識の中で、影野は、指先に触れる「何か」を掴み取った。
 パンッ!
 乾いた音がして、銃弾が襲撃者の体を貫く。
 影野が、無意識の内に掴んだハンドガンで、襲撃者の体を打ち抜いたのだ。
 だが、激しい乱戦の最中、気を失った影野に駆け寄る者はいなかった。



 キンッ!カィィィン!
 刀真の光条兵器『黒の剣』と襲撃者の刀が、激しく火花を散らす。
 刀真は、自分とハイナの間に立ち塞がった襲撃者を、未だ抜くことが出来なかった。
 月夜の『パワーブレス』で攻撃力の上がった刀真ならば、満足な防具も身に着けていない相手など一撃で仕留めることが出来る。
 だが、敵はその事に気づいているのか、あえて自分から踏み込んでこようとはしない。
徹底して守勢に廻りつつも、刀真が前進しようとすると、その頭を抑えるようにして攻撃を加えてくる。
 月夜が幾度か光術やバニッシュで目くらましを試みてみたが、そのいずれも効果がなかった。黒装束に、特殊な仕掛けが施されているのかもしれない。
(こいつ、時間稼ぎをするつもりか……!)
 ハイナの護衛達も善戦してはいるが、このままではいずれ力尽きてしまうのは間違いない。
 迷っている時間は無い。刀真は腹を括った。
「月夜、コイツは俺が引き受ける。その隙に『あの呪文』でハイナ様を助け出せ!」
 そう叫び、真正面から激しく襲撃者に打ち込んでいく。
「早くしろ!」
「わ、わかったわ!」
 刀真に言われるがまま、呪文の詠唱に入ろうとする月夜。
 それを見た襲撃者の体が、大きく横に動く。
(かかった!)
 刀真は両手で構えていた剣を左手1本で支えると、自分の横を通り過ぎようとした襲撃者の喉笛を右手で引っつかんだ。
 金剛力で器官を握りつぶさんばかりの力で締め上げながら、宙吊りにする。
「が……がはっ」
 何とか刀真の手を振りほどこうと、闇雲に振り回されていた襲撃者の手足が、急にだらりと垂れ下がった。口の端から、一筋の血が流れる。
(自決したのか!)
「刀真、後ろっ!!」
 月夜の声に咄嗟にしゃがみ込んだ刀真の頭上を、大きく横薙ぎにされた刀が通り抜ける。
 刀真はそのまま前に身を投げ出すと一回転して立ち上がった。
 そこに襲撃者が、突きを加える。
「どうあっても通さないつもりか!」
「無論」
 襲撃者は口の端を吊り上げ、にやりと笑った。



 クレア・シュミット(くれあ・しゅみっと)パティ・パナシェ(ぱてぃ・ぱなしぇ)イーオン・アルカヌム(いーおん・あるかぬむ)十六夜 朔夜(いざよい・さくや)の4人は、壁を背に半円の陣を組んだ。その中心には、ハイナがいる。
 元々4人は、円華の護衛をする筈だった。それが、ハイナが急に晩餐会に出席する事なり、円華のたっての願いでハイナの護衛に変わったのである。
「私の代わりは幾らでもいますが、ハイナ様はこの世界に唯一の方。ハイナ様あっての葦原藩であり、明倫館です。あの方にもしもの事があったら、『マホロバとシャンバラを結ぶ』という私の夢も潰えてしまいます。お願いします。どうかあの方を、守って下さい。あなた達しか、頼れる方がいないんです」
 円華の思いに、何としても応えたい。それが、4人の共通する気持ちだった。
 黒装束達は、すっかりその4人を取り囲むと、隙を窺いながら、じりじりと迫ってくる。
 最初に仕掛けてきたのは黒装束の中でも一番大柄な男だった。
 4人の中で一番線の細い朔夜目掛けて、刀を振り下ろす。
 朔夜は、その一撃を体をひねって避けると、袖に仕込んでおいた組紐を、男の手首に素早く巻き付けた。
「フフッ。一度こうなってしまったら、どうあがいても絶対に外れませんよ、その紐はね」
 一見ただの組紐に見えるが、中に特殊な縒りをかけた鋼糸が仕込んである。この特殊な縒りのせいで、組紐は、外そうとすればするほど肌にきつく食い込むようになっていた。
 だが男は、組紐を解こうとするどころか、あっさりと刀を捨て、朔夜に体当たりしてきた。避ければ、円内に敵の侵入を許してしまう。
 咄嗟にそう判断した朔夜は、真正面から男を受け止めた。
 胸に伝わる痛みと衝撃に顔をしかめながら、男の無防備な首筋に必殺の薔薇を突き立てる。
 鋭利にとがらせた薔薇の茎は、正確に男の延髄を貫通し、脳幹にまで達した。しかし例え男の命を奪ったとしても、体の勢いまでは止められない。
 男の体を支えきれず、後ろに倒れそうになる朔夜。
「あぶないっ!」
 隣にいたパティが、朔夜を支える。
 しかし、それで陣が乱れた。たちまち、敵が殺到する。
 そこに、タイミングを見計らっていたイーオンのサンダーブラストが直撃した。黒装束の男が何人か、まとめて絶命する。
 だが、さらにその後ろから、最後の刺客が現れた。前のめりに倒れる男達の背中に跳び乗ると、それを足場にさらに高く跳躍する。逆手に構えた刃の先は、正確にハイナを狙っていた。
「やらせないっ!!」
 ハイナの前に立ちはだかったクレアは、大きく両手を広げ、刃の前に体を晒した。
(くっ……!)
 思わず目を瞑るクレア。刃物が肉にめり込む、嫌な音がする。だが、予想していた痛みが、いつまで経ってもやってこない。
 恐る恐る目を開けるクレア。
 そこには、首から苦無を生やして事切れている、黒装束の男がいた。
「あなた達にもしもの事があっては、あとで私が円華様に叱られます」
 驚いて振り返ったクレアの眼に入ってきたのは、ハイナと同じ明らかに間違った和服の着こなしをしている、見たことも無い女だった。