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五機精の目覚め ――翠蒼の双児――

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五機精の目覚め ――翠蒼の双児――

リアクション


第五章


・懐疑


 ヒラニプラ側。
 地下四階へ差し掛かるまでの間に、にゃん丸はエミカ、ガーネットに対して自らの疑問をぶつけた。
「エミカさん、あのさ」
「なーにー、いきなり改まっちゃって?」
「俺、司城先生がワーズワースじゃ無いかと思ってるんだけど」
「え、先生が?」
 意外、という感じの反応を見せるエミカ。
「一月の『研究所』の時は、ベースキャンプを遺跡の爆発に巻き込まれない位置に設営、三月にはリヴァルトが放浪中の時、司城先生の姿もなかった。それに、『研究所』のデータを解析しただけで、その紫電槍・改を作れるもんかねぇ?」
「うーん、なんか昔はすごい事やってみたいだから、あたしは疑問に思わなかったんだけどなー」
 司城、リヴァルトとは十年の付き合いがあるエミカだけに、なかなか納得がいくものではなかった。
「だけど、どうにも手際がよすぎるんだよねぇ。教授としてやってきて、封印を解くタイミングを見てたとか……ガーナさんはどう思う?」
「あの男女だろ? まあ、なんつーか掴みどころはねーが、悪いヤツじゃなさそーだぜ。ただ……」
「ただ?」
「なんでもねー。見た目は全く似てねーしな」
 どうやらガーネットから見ても、司城は自分の創造主とは似ても似つかないらしい。見た目に限っては。
「ガーナさんがそう言うなら、違うんだろうなぁ」
 少し考え、エミカに視線を戻す。
「その点エミカさんは信用できるよなぁ。すぐ顔に出るし」
 その言葉に、エミカは少し機嫌を損ねたようで、
「あれ、それ褒めてる? なんか考え垂れ流しのアホの子みたいに言われてる気がするんだけどー」
「違うって。素直で正直なんだなと思って言ったんだよ」
「ほんとに? 常に気が向くままにヒャッハーだから分かりやすいなんて思ってたら――突くよ?」
 むすっと頬を膨らませて紫電槍・改を起動する。
(……自覚はあるんだ)
 と、にゃん丸は思ったものの口には出さない。
「なーんて、冗談だよ。キミがそんな事考えてるわけないもんねー」
 あはは、と笑顔を見せるエミカ。
 彼女は感情豊かで時たま暴走するように見えるが、意外としっかりしているところもある。それはにゃん丸も何度か見てきている。
「よーっし、このまま奥まで行くよー!」
 遺跡の中でPASD本隊どころか、遺跡内にいる全員に聞こえるかのような勢いで気合いの声を上げる。もし、機甲化兵がいたらこの音だけで反応してしまう事だろう。
「ちょ、え、エミカさん! そんな大声出しちゃ……」
「大丈夫だって。あたしとガーナ、それにみんながいればあんなのちょろいちょろい」
 彼女に危機感の二文字はない。

            * * *

「何だろう、ここ?」
 先頭を行く沙幸美海が付近を見渡してみる。通路は先へと続いているが、シャッターが下りて塞がったようになっている箇所が存在していた。
「封鎖されてるようですわね。なぜここだけ開いてるのか、かえって不自然ですけれど」
 通路を上から見る事が出来たならば、十字路になっていると分かっただろう。沙幸が慎重に天井に視線を送ると、溝のようになっているのが分かった。しかも、かなりの幅がある。
「もし侵入者がいたら、シャッターが下りるってわけね」
 おそらく防衛システムの一種なのだろう。と、いうことはどこかにセンサーのような仕掛けがありそうだった。
「ここまでと同じように、解除しとかないとね」
 二人がトラッパーと博識で解除しようとする。壁を調べれば、配電盤が出てくるので、そこの配線を切ってしまえばいい。逆に、そこを刺激して電気を供給すれば遺跡内の照明を蘇らせることも出来るのだ。
 地下二階以降、本隊がスムーズに進む事が出来たのは、それが理由だ。供給源は不明だが、電力は生きていたのである。
「まずはこうして、と」
 通路の先が灯り、目視出来るようになった。
「沙幸さん、あれは……」
 美海が目線の先にある姿を捉えた。
「……女の子?」
 十四、五歳くらいといったところだろうか。
 切り揃えられた長い黒髪に、白い肌。和服、それも振袖のような意匠の服装であった。
「あれが五機精の一人、かな?」
 そう思うのも無理はなかった。
「……見つけたッ!」
 自分達より先に遺跡に存在している少女。月白 悠姫(つきしろ・ゆき)にとって、判断材料はそれだけで十分だった。
「待って、まだセンサーが――」
 だが、制止するには反応が遅れた。
 悠姫が駆け出した直後、防衛システムに引っ掛かり、警報が鳴る。
「悠姫!」
 彼女のパートナーである日向 永久(ひゅうが・ながひさ)マルグリット・リベルタス(まるぐりっと・りべるたす)がそれを追いかける。
「な、道が!?」
 正面のシャッターが勢いよく降りてくる。
「ダメです、もう間に合いません!」
 影野 陽太(かげの・ようた)が咄嗟に叫んだ。シャッターに押し潰されたら間違いなく死ぬ。
 それほどに落下速度が速かった。まるでギロチンである。
「この程度、あたいにとっちゃ軽いもんだ」
 ガーネットが正面のシャッターを破壊しようとした。
「ちっと全員離れてな!」
 肘を後ろに引き、渾身のパンチを繰り出そうとする。
 だが、
「ち、どんだけ頑丈なんだよ、これ。くそ、全力が出せれば……」
 ガーネットの一撃でも、わずかに表面がへこむ程度だった。本来の三割の力とはいえ、彼女に壊せない以上、これを突破するのは難しい。
 しかし、まだ詰んだわけではない。
「あの……配電盤、いいですか?」
 陽太がそれを調べる。
 セキュリティの発動により、正面と後方のシャッターがロックされてしまったようだが、別のものは操作出来そうだった。
 ここに来るまでの間に、陽太はある程度遺跡の構造や防衛システムについてを分析していた。技術官僚のなせる技である。
「開けます」
 左右にある、最初から閉まっていたシャッターが上がっていく。
「退路は残ってますが……」
 その時だった。
 背後から機甲化兵が行進してくるのが見て取れた。
「一体、この数どこから来たのよ!?」
 後方にいる教導団組が迎撃に出る。おそらく、警報が鳴ると自動的にその場所の敵を配乗するようにプログラムされているのだろう。
 一方の本隊は、選択を迫られていた。
 右か、左か。
「向こうからもかよ!?」
 が右側の通路の先から立ち向かってくる姿を捉えた。
 機甲化兵である。
 銀色に輝くボディに、槍と盾を構えた姿は、まさしく古代の騎士、といった感じだ。
「……皆さん、先に行って下さい。ここは私達で食い止めます」
 エメが本隊に、左側の通路から最奥を目指すように促す。そちらには敵がいないようだった。
 相手は機甲化兵だ、四人いれば十分足止めになる。右側の通路が先へ続いていようがいまいが、すぐに合流出来るだろう。
 彼らはこの時はそう考えていた。

 PASDの面々は、ガーネットを守るように陣を組んで進んでいく。
「ガーナ、さっきの女の子、見覚えある?」
 五機精か、もしくは有機型機晶姫ならば、彼女は知っているはずだ。
「……いや、あんなヤツ知らねーな」
 だとすると、先刻の少女は何者なのだろうか?