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五機精の目覚め ――翠蒼の双児――

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五機精の目覚め ――翠蒼の双児――

リアクション


・ナイン


 ヒラニプラ側地下四階。
 警備システムにより起動した機甲化兵達と後方支援組が戦っている。
「足止めが精一杯、ですね」
 地下一階に比べれば数は少ない。それでも、彼らだけで防ぐのは難しかった。辛うじて相手を一時的にショートさせる程度だ。
 しかし、そんな時、
「誰か近付いてきます!」
 禁猟区に何かが差し掛かったのを感じる。近い、そして反応した時には、
「……何が起こったの?」
 後ろから迫っていた機甲化兵がただの金属片と化していた。機甲化兵に気を取られて気付かなかったわけではない。
 目の前でただ腕を振っただけで五、六体の機甲化兵を無力化出来る存在が、果たして人間と言えるのだろうか。
 それは彼らに目を向けず、駆け抜けていった。
 敵か、味方か。そんな事を考える暇すらない。ただ、その人物には、自分達に対する殺意も害意もなかった。
「……後ろはもう大丈夫ね。今のが気になるわ。追いましょう」
 どちらにせよ、やるべき事を成すまでだった。

            * * *

「騎士の機甲化兵、ですか」
 先手を打ったのは、片倉 蒼(かたくら・そう)だ。機甲化兵の関節部を狙って、ナラカの蜘蛛糸を繰り出す。
「こんなところで、足止めを食ってはいられないんですよ」
 エメもまた、轟雷閃で撃って出ようとする。
 しかし、それは機甲化兵の盾で弾かれてしまう。蒼の蜘蛛糸ですら、振り回される槍によって防がれてしまう。
「なんだ、コイツ? 今までのヤツと動きが違い過ぎるぜ!」
 周の攻撃もまるで効かない。
 機甲化兵の防御は完璧だった。それはまるで、主に指一本触れさせんとする騎士のように。
 電撃を防いでいるのは、左腕に持っている盾だ。
「エメ、俺がヤツの注意をそらす。その間に一発やってくれ!」
「わかりました!」
 二人が左右から機甲化兵を挟み込む。
 キン、と周の攻撃が盾で受け止められる。
「蒼!」
 エメが蒼に指示を出す。ナラカの蜘蛛糸を槍に巻きつけ、押さえつけようとする。そして無防備になった隙に、エメが轟雷閃を関節部に叩き込――
「――ぐッ!!」
 周が盾で押し出され、機甲化兵が勢いよく回転する。それによって槍の蜘蛛糸も引きちぎり、さらにエメの轟雷閃をも盾で防ぐ。
「周くん!」
 レミが周に駆け寄り、ヒールを施す。
「くそ、強え……あん時のドゥーエってのもだけど、コイツも初期型とかいうやつか?」
 甲冑の騎士はただ何も語らず、槍を向ける。その動きには他の機甲化兵のような、機械的なものがなかった。
 こちらの攻撃を予測し、その全てを防ぐ。機械にしか出来ないような無茶な動きこそあれ、その反応速度は驚愕に値する。
 周の予想は当たっていた。
 目の前に佇む銀色の騎士こそ、一番最初に造られた機甲化兵――ウーノであるのだから。
 プロトタイプにして、それ以降に製造された全ての機甲化兵を純粋な戦闘力において凌駕するもの。
「ま、そんなことはいいか。俺はお前なんかの相手はしてらんねーんだ。ガーナ達に心配かけるわけにもいかねーからな!」
 立ち上がり、再び機甲化兵へと駆けていく。迫る槍の突きを、スウェーでかわしつつ、腕の関節を狙う。
「うらぁッ!!!」
 機甲化兵に槍を弾き、轟雷閃を叩き込もうとするが、敵は身体を捻り盾を繰り出す。そのまま弾かれた槍を地面に突き、宙を舞う。棒高跳びのような感じだ。
 そして隙ありと攻撃を仕掛けようとしたエメと蒼を蹴りで吹き飛ばし、着地の際に槍を引きぬき、今度はその前方への回転を利用して周へと振り下ろす。
 スパッと、周の肩口が裂かれ、流血する。
「く――ッ!」
 即座にレミがヒールを施すも、今度は傷が深い。
「鈴木君! ぐ……」
 エメもまた、壁に強く打ちつけられてしまっていた。骨も何本かいったはずだ。それはパートナーの蒼も同じだろう。
 膝をつきそうになりながらも、ヒールを施しつつ立ち上がる。もはや執念としか言えないほどだった。
「負けられない……ですよ」
 だが、回復しようとダメージ自体が大き過ぎた。
 彼らは決して弱いわけではない。むしろ『研究所』の一件で戦い抜いてきたほどだ。それでも、今度ばかりは相手が悪過ぎた。
 まるで甲冑の中にほんとの人間が入っているかのような動作。その一つ一つに一切に無駄がない。
 彼らがこれだけのダメージを負いながらも、敵は無傷だった。銀色のボディが鈍く輝いている。
 静かに、銀色の騎士は動き出した。
 近い人間から確実に始末するために。
「……ここまで、ですか」
「エメ様!!」
 敵の槍は今にもエメの身体を貫こうと、勢いよく突きだされ――
「え……?」
 その刹那。
 槍先はエメの身体を貫いてはいない。それどころか、盾は砕け、槍は折れ、機甲化兵は仰向けの状態で地面に叩きつけられた。
 機体が地面にぶつかった瞬間の轟音で、エメは何が目の前で起こったのかをようやく理解した。
 一人の女が佇んでいる。
 漆黒のドレスに、腰の辺りまである金髪。
 背中からは漆黒の水晶で出来た二枚翼。
 彼女がエメの方を振り返る。金色の瞳で彼の顔を見つめていた。
「リオン、ちゃん?」
 彼が知っている少女よりも七、八歳は上の年齢だろう。女性と言うには幼く、少女と言うには大人びている。
「やっと、あえた」
 エメと蒼の顔を見て、黒いドレスの女――モーリオン・ナインは微笑んだ。
 そしてそのまま彼に抱きつく。
「!!」
 エメが驚いたのは、急に抱きつかれたからではない。これが『研究所』の時と同じであったら、彼の全身の骨は粉々に砕けていただろう。
 力を制御できるようになっている。
 その背後で、機甲化兵が立ち上がり、モーリオンに掴みかかろうとしていた。
「空気読んで寝てろ!」
 周が轟雷閃で機甲化兵ウーノにとどめを刺した。
「ありがとうございます、鈴木君」
「油断してんなよ。でも、小さい女の子だって言ってなかったか? それがこんな綺麗なねーちゃんだなんて」
 周が驚くのも無理はない。
 金髪ゴスロリの十歳くらいの女の子が急成長して現れるなどとは誰も思うまい。
「驚いてるのは、私もですよ」
 それでも、以前の面影は残っている。
「お久しぶりです。こちらをどうぞ」
 蒼がモーリオンに対して差しだしたのは、女の子の人形だ。黒いゴスロリドレスに金髪は、目の前の少女を思わせる。
「ご無事で、何よりです」
 笑い合う三人。モーリオンの翼はこの時には消えていた。どうやら、意図的に出し入れ出来るらしい。
「周くん、空気は読んでね?」
「分かってるって」
 実際は声を掛けたくて仕方なかったが、まずは再会を喜ぶ三人を見守る事にした。
「あれ、メール?」
 レミが気付いた。受信した時間はおそらくエミカらと離れるくらいの事だろう。そうでなければ、外部からの通信は効かないはずだ。もっとも、それは司城が連絡用に電波を飛ばせるようにした場合だけだが。
「周くん、これ!」
「ノインが、イルミンスールに!?」
 差出人は月夜からだった。イルミンスール側の遺跡でノインの声を聞いたというものだった。
「鈴木君」
 エメが周を呼んだ。
「リオンちゃんは今、ワーズワースを探しているそうです――ノインさんと」
 それは、彼女と一緒にいれば、ノインと会える事を意味していた。