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リアクション
第四章 いつか誰かの涙のもとで 3
失われた瘴気の反動か、ガオルヴは悲痛の叫びをあげた。
瘴気を失ったガオルヴに、一番槍で攻撃してやろうと、
「その他大勢は俺の活躍を後ろで指咥えて眺めてなッ!」
誰かが飛び込んだ。眼帯をつけたその若者は、威勢よくガオルヴの懐へ飛び込んだのだが――
「うわああぁぁぁん……!」
あっさりと返り討ちにされた。苦しむガオルヴがぶんと振り回した腕に殴り飛ばされ、若者はノックアウト。壁に激突して気絶してしまった。
それはさておき――仕切りなおしとばかりに豪腕の男が叫ぶ。
「うし! よくやった、リーズ! 後は俺たちに任せておけ!」
ラルク・クローディスの声を合図に、全員が突撃を開始した。
桐生やミネルバと協力し合い、ラルクはヒロイックアサルト――剛鬼によって身体能力を大幅に強化させる。駆け抜ける鬼の豪傑が、桐生の踊るような銃撃連射――右手のカーマインと左手のマシンピストルという二丁拳銃によって作られた隙を突いて、強力な拳でガオルヴを殴りつける。
「パワーブレスでサポートよぉ〜」
「えーい!」
オリヴィアとミネルバは、そんなラルクにパワーブレスやディフェンスシフトといったサポート技をかけて連携する。
「うおおおお! 唸れ! 俺の筋肉!」
「強引だねぇ、ラルクくんは」
オリヴィアとミネルバのサポートを受けたラルクは、桐生とともに敵へと風のように乱撃の疾風突きを叩きつける。その様子を端から見て楽しんでいるのは……
「いやいやぁいい光景だねェ」
ナガン ウェルロッドだった。彼はにやにやとしたピエロ特有の笑みを浮かべながら、ラルクたちが必死で戦うのを傍観していた。それでも、敵の気を引く囮としての役割を担っているのだから不思議なものである。
ラルクたちに負けてはいられないと、ウィング、武、そして蒼空の騎士パラミティール・ネクサーが名づけ親のアシャンテとともに戦う。
「……別に投稿した覚えはないんだがな……」
アシャンテからすれば呆れることであるが、パラミテイールもとい、エヴァルトからすれば、いわゆるヒーロー物の博士的立ち居地であった。
「行くぜっ! パラミティールキーーック!」
エヴァルトは持ち前の身体能力に加えてパワードスーツの能力も付加。更にドラゴンアーツの力で並の人間を優に越えた身のこなしを見せた。壁を蹴り、ダイレクトジャンプ、そして、敵の攻撃手段である爪を加速した蹴りで砕く。
「私も、頑張っちゃうんだからっ!」
エヴァルトたちに負けず、小鳥遊 美羽も巨大な刃渡り二メートルはあろうかという光条兵器を用いてガオルヴに挑んだ。バーストダッシュで美脚のスカートを翻しながら地を蹴った美羽は、敵の頭上へと飛んだ。
そして、落下する勢いでそのまま狙いを定める。
「これで終わりよ、ガオルヴ! こっのおおぉ!」
振りかぶった光条兵器が、ガオルヴの頭上から叩き込まれる。轟然とした音を鳴らして、刀身がガオルヴの頭から体にかけてを斬り裂いた。
更に――
「カカカッ! 封印されてつまらぬかったのであろう。斎と戦え! 闘争を楽しもうぞ」
美羽と同じくガオルヴに真っ向勝負を挑む鹿島 斎は、カグヤのアドバイスを受けて頭上へと飛び上がった。
「斎、美羽が切り裂いた痕を狙うといいじゃろう」
「カカカッ! 斎に任せておくがいいっ」
美羽が切り裂いて間もない傷跡に向けて、斎は刀を構えた。一閃。剣線が筋を描いた瞬間、ガオルヴの傷は更に深くまで抉り穿たれる。
「これで決めてみせます!」
「俺の出番再来だ、オラアアァァ!」
続けて、ウィングは俊敏な動きで敵の懐に入ると、月光のような一閃。刀が敵を幾重にも切り裂く。そここにパラミティール・ネクサーには負けてられないとばかりの改造人間パラミアントが飛び込み、蹴りに突きといった体をフルに使った攻撃を繰り広げた。
状況は、一変していた。
それまで、まるで傷つけることが出来なかったガオルヴを、地球人たちが圧倒しているのである。瘴気を失った魔獣に、もはや恐れるべきものはない。力は確かに強大であるが、このまま戦い続ければ、勝てる。
希望を見出した仲間たちは、次々とガオルヴに攻めかかる。やがて――傷つき、黒い禍々しい血をふき出すガオルヴは、荒れた呼吸をしながら崩れかかる。
リーズは剣を再び構えた。これで、終わりにしてみせる。そんな強固な決意が、彼女の目に宿っている。
「終わりよ、ガオルヴ!」
リーズはガオルヴに剣を突きたてようとした。
「!」
だが、それを防いだのは正面を阻む男の左腕だった。機晶姫の腕で出来たその左手は、リーズの一太刀をがっしりと掴んで離さない。
男――レン・オズワルド(れん・おずわるど)は、サングラスの奥にある窺い知れぬ目をリーズに向けていた。
「あなたは……!」
「……悪いが、殺させるわけにはいかない」
レンは静かに呟き、握っていたリーズの太刀を弾くようにして離した。アリス・ハーディング(ありす・はーでぃんぐ)は、傍らでそんなレンを見つめながら、蔑むような、見守るような、不思議な目をしていた。
「な、なんでこんなことを……! そいつは……」
「……魔獣か」
レンの自分を先読みした言葉に、リーズは声を詰まらせた。それに、レンはまるで哀しげな顔をしている。
彼は振り向いて、もはや動くこともままならないほどに傷ついたガオルヴに近づいた。ガオルヴの目は、静かにゆっくりと開き、彼を見据える。まるで、本能以外の意思があるかのように。
「こいつは狼だ。狼の魔獣。おかしいと思わないか?」
「おかしい……?」
「なぜ、こいつは魔獣としてここにいる。なぜ、こいつは生まれた。……これは、俺の憶測でしかないがな……クオルヴェルの集落は、狼の獣人たちの集落なんだろ?」
リーズは、一瞬レンが何を言わんとしているのか理解できなかった。だが、やがて行き着いた考えに、恐ろしくも激情の念を抱かされる。
「そんなこと……!」
「ありえない話じゃない。むしろ、可能性は高い」
「じ、自分もそう思うッス」
レンの隣にいたシグノー イグゼーベン(しぐのー・いぐぜーべん)は、彼の言葉に同意して頷いた。もし本当にそうだとすると、ガオルヴは何者なのだ。彼は一体、なぜここにいるのだ。シグノーとレンの言葉に、リーズは目まいがしそうな戸惑いを覚える。
ふと、そんな彼らに静かな声が聞こえた。
それは、まるで囁かれるようなか細い声。誰が喋っているのか、レンたちは辺りを見回した――それ以上に驚愕の光景を目にする。
「これは……!」
今まで周囲にあった光景は、全て消え去っていた。代わりに、残されているのは白く、発光する空間だけ。
何事かと、誰もが慌てふためいた。
すると、今度は空間が歪み、徐々に色みを帯びる。そして、一瞬にして弾けた。
開けた視界は、先ほどの神殿のようで、少し違っていた。多少、様相が新しいように感じる。苔の量も少なく、なにより、ガオルヴが瘴気を身にまとって悠然と佇んでおり、それに正対するのは一人の男でしかない。
「ゼノ……」
リーズが呆然と呟いた。
そこにいたのは、若かりし頃のゼノ・クオルヴェルであった。彼は憔悴しきった体を気力で支えながら、ガオルヴと対峙している。ゼノの目は、まるで死を見たときのように哀しげだった。
「シアード……覚えているか? 俺とお前が、いつか英雄になることを誓い合った日を」
ゼノは口を開いた。
「そんなお前と俺が、こうして戦う日が来るなんて、思いもしなかった。……英雄ってのはなんだ、シアード。俺は、今でも分からない。もし、こうしてお前を討つことが英雄なんだとしたら、俺はそんなの……認めたくない」
ゼノの頬に伝うのは、涙だった。剣に宿す魔力に反射して、涙は一筋のきらめきを持つ。
「……だけど、俺は戦うよ、シアード。英雄なんかじゃない。俺とお前の絆のために、それを守るために、俺は戦う。森を守るために、人を守るために、俺は――」
ゼノは剣を掲げた。そこから迸る魔力の光が、魔獣ガオルヴを包みこんだ。そして――
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