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【空京百貨店】呉服・食品フロア

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【空京百貨店】呉服・食品フロア

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6、甘味どころ『新月』・夕


 ヘッドホンがトレードマークの佐伯 梓(さえき・あずさ)は甘いものに目がない17歳。今日はケイラ・ジェシータ(けいら・じぇしーた)と『新月』でおやつを食べながら、彼女のパートナー・バシュモ・バハレイヤ(ばしゅも・ばはれいや)を紹介してもらうはずだった。
「やっぱ後ついてきて良かったね。そういう事じゃないかって思ってたんだ」
 新月の暖簾をくぐる梓の後ろでイル・レグラリス(いる・れぐらりす)がチェシャ猫のような意地悪笑いを浮かべている。パンクな服装の梓に布製のぬいぐるみを持つイルのコンビは、友達というには少々その……上下関係がありそうな雰囲気だった。
「俺から甘いもの取ったら俺っていう存在が消えちゃうぜー」
「甘い物ばっか食べてるから頭がふわふわしちゃってるのかな。すごいね」
「口止めなら、今度あたらしいぬいぐるみ買ってやるからーっ」
 甘いもの禁止令が出ている中での新月来店……他のパートナーに知られてしまったらただでは済まないかもしれない。黙って欲しけりゃそれ相応のってことらしい。


「佐伯さん。こっちこっち!」
 さわやかなワンピース姿のケイラが手を振っている。あのジャンパースカートの女の子がバシュモだろうか? 梓も手を振り返し、キープしてもらった向かいの席に腰をおろした。
「うちなーバシュモっていうんやー、おにーちゃんたちよろしくー!」
「イルです。おねーさん、宜しくお願いします!」
「なーなーイルおにーちゃん、うちとちょっと髪の毛にてるわーおそろいやねー」
「ふふふ、そうだねー♪」
 猫かぶりのイルはにっこり礼儀正しく挨拶すると、バシュモと仲良く談笑している。よかったー……、給仕さんも可愛いし七夕楽しみながら甘いもの食べよー。
「店員さんにおススメとか聞こうかな。クリーム餡蜜は定番だよね。家にいるときは甘いもの食べないからなぁ。佐伯さん何にする?」
「ワガシを食べるときは、まっちゃ、まっちゃもいっしょに飲む! うちはしってる!」
 キリッした瞳で言いきったバシュモだが、果たして実物を見たことは今まであるのだろうか……。初めてデパートにこれたのが嬉しくて、なににしよかなー。これもうまそやなー。と目移りしてなかなか決められないようだった。
「抹茶パフェ、クリームあんみつに白玉とか豆乳プリンとか? 和風なスイーツとにかくいっぱい食べたいなー」
 梓は片っ端から頼むことにした。イルはテーブルに並んだ甘味の多さにあきれた目をしている……デザートは別腹っていうけど流石に飽きない?
「にへへへへ、ぜんざいとあんみつやでー。うちこの白玉ってやつがすっきやわー、ぷるぷるもちもちー」
「てへえへ。うまうま。飲み物はおすすめあるかなー」
 梓の頬についたクリームをハンカチでそっと拭いてあげると、ケイラはメニューをじっと眺めて考え込んでいる。
「まだなんか頼む? ケイラのも一口ちょうだいー。俺のもちょっと食う?」
「ねえ皆で全部頼んでメニュー制覇とかしてみない? 胃袋には自信があるよ♪ 店員さんすみません、ここからここまで全部くださーい!」
「まっちゃ……にがー。あううう。……なーなー、あのひらひらしたやつなにー?」
 抹茶の苦さに涙目になっているバシュモが指さしているのは色とりどりの短冊だった。
「えーとねー。布を織るのが得意な織姫と、牧場やってる彦星っていう兄ちゃんがいたのねぇ。結婚したら働かなくなっちゃって、偉い人に怒られて年に1度しか会えなくなったんだよー」
「そうなんやー!」
「凄いなぁ」
 博識な梓がざっくりした説明をすると、ケイラとバシュモはなるほどーと頷いている。ああ、日本の行事って素敵だね!
「ねえ、ボクすごくでっかいクマのぬいぐるみ欲しいな。この百貨店にあるんでしょ?」
「ぬ、ぬいぐるみー?! おねにーちゃん! うちもーうちにもーかってー! いぬのー!」
「後で見に行こうね。大丈夫。お金は梓が持ってるよ♪」
 天使のような笑顔をバシュモに向けるイル。梓は聞こえないふりをしたかった。磯辺焼きを食べていたケイラは思わぬ展開にむせそうになり慌てて緑茶で飲み下した。
「ええっバシュモぬいぐるみ欲しいの……!? お、置く所無いから手で持てるくらいのにしようか? ね?」
 財布が痛むのは自分だが、ぬいぐるみが欲しいと駄々をこねるバシュモをあやすケイラの頭をなでなでする梓。うん、まー。俺の方が年上だしさ、小さいのなら買ってあげようかなー。今回だけー……。

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

「それにしても珍しいねぇ、皐月が七日に働く事を許可するなんて」
 新月の厨房から顔見せにきた神代 師走(かみしろ・しわす)は、額の汗をぬぐいながら飄々と日比谷 皐月(ひびや・さつき)に話しかけている。皐月は食べかけのあんみつの味を褒めると、自嘲気味に笑って雨宮 七日(あめみや・なのか)の後姿を見つめてる。
『……新月で、働いてみたい』
 やりたいことを尋ねてみたら、自分のもとから離れてしまった。気になって様子を見に来たけれど、自分がいなくたって七日はきちんとやっている。
「そういった苦労は、あの子に背負わせようとしなかったじゃないか?」
「今までは、護ってるつもりで、遠ざけてたんだよな。世界っつーか、俺の知らない可能性も含めていろんなものから」
「うん……。ああ、気にせず続けなよ。ちょうど休憩だからさ」
 師走は軽く笑うと皐月の話を促した。時々相槌を挟む以外は、皐月と一緒に七日の姿を追っている。
「……そうやって隔離されてたから、オレと一緒に居る為にどんな危険にだって飛び込んだかなって」
「うん」
「……多分、一概に否定できる物でもないんだと思う。だからこそ俺は、七日自身に、やりたいことを聞いてみる。これからも」
「うん」
 自分用に淹れた緑茶をずずっとすすると、師走はしばし考え込んだ。皐月は、いろいろ考えているようで自分から見ればほんの子供だ。考えて出した答えに意見するのは野暮ってもんだが、『世界』ってなぁ自分以外の全部ってことなんかねぇ。
「見てごらん、皐月。給仕なんて華のある仕事は若い子に任せるのがいいもんだ。ああやって、話かけられることも結構多いみたいだよ」
 注文を取りに行った七日は小夏 亮(こなつ・りょう)に気に入られたらしく、何やら話しかけられている。ここからは何を言っているのかよく聞こえないが……。彼女も目の届かない場所で、自分の知らない人間関係を育んでいるのだろう。
「まぁ、あの子の仏頂面は接客向きじゃないけどねぇ」
 柔らかい表情で苦笑すると、師走は仕事に戻るため席を立った。……皐月がこの世界にいられるのは、コントラクターだから。まぁ、そんなの本人承知だろうし、のんびり変わればいいさね。変わらなくてもいいさね。


「あのバイトちゃん超萌え〜」
 先ほど七日におすすめを聞いたら抹茶パフェと言われた。ツンンツンした雰囲気の七日が、亮が好きそうな甘いものを一生懸命考えているのが可愛かったらしい。和服にポニーテールというのもなかなか……。そんな様子に速水 桃子(はやみ・ももこ)はご立腹である、その理由は……。
「なに遊んでたのよ、並んでって言ったじゃん!」
「並ぶとか無理ー」
 人気のメロンパンは行列が絶えない。これだけで1日が終わってしまうなど耐えられなかったため、桃子は代理を頼んで呉服フロアを冷やかしに行っていたのだ。しかし、帰るとそこに彼の姿はなかった。
「お待たせいたしました。抹茶パフェ2つ、以上です」
 無駄もない。愛想もない七日。和服に興味があってはじめたバイトだが、まかないも美味しいしそれなりに気にいっている。さっき皐月の姿が見えた。時間があれば会いに行こうか。
「バイトちゃんさぁ、なんでここでバイト始めたのー?」
「……普段、和服を着ている知り合いがいて、私も着てみたくなりまして」
 七日は給仕をしながら淡々と質問に答えた。制服のサイズはちょうどよく、奇麗なうなじが見えている。甘いモノ好きの彼女はそれに接することができる場所を選んだのだろう。
「ね、ね。彼氏とかいんのー?」
「はい?」
 ギャル男の亮はアドレス教えて〜、と軽いノリでアタックしている。七日が対応に困っていると、遠くから師走が『あっちのお客さんにお水お願いねー』と助け舟を出した。
 こういう時、どう対応すればいいのかまだ分からない。根が毒舌な分、無口になってしまいがちだった。


「あーあ、いっちゃった」
「桃子がいる前でナンパとかやめてよね〜っ! もー……メロンパン、パパに買ってきてもらおうかなぁ」
 桃子はたくさんいるパパの1人を思い浮かべつつ自分の抹茶パフェを食べた。亮はスプーンをくわえてだるそうに返事をしている。
「後でメロンパン狩りすればいいじゃん」
「桃子、自分でやるのヤダ」
 べえっと舌を出し、亮のおごりでクリーム餡蜜も追加する。桃子が払うなんてありえないんだから!

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 あんみつに羊羹、寒天とかも? いっそ全品制覇……?
 御子神 鈴音(みこがみ・すずね)は大の甘党である。空京百貨店同時に店に駆け込み、パートナーのサンク・アルジェント(さんく・あるじぇんと)の目を丸くさせていた。
「どうしたの? セールやってたっけ??」
「……是が非でも行きたい……」
 普段、冷静にふるまうことが多い彼女がこんなふうに積極的になるなんて。
 ど、どうして???
 頭の上にちょこんと乗ったまま、必死に髪の毛にしがみつく。探し物なら役に立てそうだけどなぁ。
「何見るのー? あっ、メロンパン? ちょちょちょっ、私のことも考えて走ってよ〜!!!」
「ついた……」
 息を切らせているものの、鈴音の目は夢と希望を動力にしてキラキラと輝きを放っている。たどり着いたのは甘味どころ『新月』甘いモノ好きと女の子なら名前を誰でも知っている、空京百貨店の隠れた名所だった。
「なるほど! 鈴は甘いもの好きだもんねー。ここの制服超可愛いよ、バイト募集中だって!」
「……まずは、敵の持ちネタを知る。一撃で、仕留める……」
 表情に変化はないが、メニューを握る手には力が入っている。朝番の加夜が注文を受けにくると、無言でビシリと『抹茶パフェ』に人差指を当てた。一撃で、仕留める……!!
「あっ、それ一口ちょーだいっ」
 まずは抹茶パフェ、次は……みたらし団子! ところてん!
 彼女の注文は途切れない……!!


 昼になっても鈴音はそこにいた。
 彼女の後ろのテーブルには水原 ゆかり(みずはら・ゆかり)マリエッタ・シュヴァール(まりえった・しゅばーる)が、戦利品の話で盛り上がっていた。
「浴衣なんて高校の時以来だわ……」
 ゆかりは窓ガラスに映った自分の姿を見て照れくさそうにしている。彼女が着ているのは白地に金魚や蓮をあしらった、大人っぽいものだった。巾着袋と下駄を買いそろえるうちに、たまにはこのままのんびりしたいと考えたのだ。
「メロンパンもゲットできたし、色々買ってくれてありがとう♪ カーリーはクリーム餡蜜かしら?」
 マリエッタも自分の浴衣姿を見てはにかんだ笑顔を見せる。彼女は淡いピンク地に朝顔と金魚の柄の浴衣を選んでもらい、ショートの青い髪には蜻蛉玉のヘアピンを付けていた。鈴音が食べているのを見て自分も抹茶パフェを注文する。
 冷たくって、美味しいだろうなぁ。

『私の故郷ではね、夏はこういう服を着て涼をとるのよ』

 浴衣を見ている彼女が、教導団で忙しい日々を送っていることはよく知っている。自分のことは自分で、という彼女の姿勢は好きだけど……もう1年以上地球に帰っていないのだ。試着室で涙を流したゆかりを気づかって、マリエッタはいつもより元気にふるまうことにした。
「見て、カーリー。あっちのお兄さんたち、何か書いてるわよ?」
「あれは短冊って言うの。一緒にお願い書きましょうか」
「うん! えーと、何にしようかなー」
 何ならお願いできるのだろう?
 ゆかりは『内容はお星さまだけ分かればいいの』と教えてくれなかった。なら、自分も秘密だ。その願いの内容とは別に、今日が楽しい1日になればいいな。
「クリーム餡蜜って、ソフトクリームのことなのね。あたし生クリームと勘違いしてたわ」
「ふふ、私のと少し交換しましょうか」
 カーリー、元気になってかしら。
 ここに連れてくるのが無理やりだったと少し反省していたマリエッタは、それでも泣きやむのを待っているより良かったと思っている。あ、でも、地球を思い出して悲しくなったら和風のお店ってよくなかったかしら。うーん、うーん……。
「子供のころ好きだった柄が見れて、懐かしい気持ちになったのね。あなたがいてくれて良かったわ」
「そ、そう!?」
 あたしも、ゆかりと一緒に来れてよかったわ。……言わないけどね!


 夕方になった鈴音は七日に叱られていた。財布の中身が食べた量に全く追いつかなかったからだ。食い逃げするわけにもいかず、師走にとりなしてもらってバイトをすることになった。
「そういえばジャンケンで勝った事ないんだよな。ったく……」
「あたしの勝ちだからね。文句は無しよ!」
 リリィ・ブレイブ(りりぃ・ぶれいぶ)は恋心を寄せている虎鶫 涼(とらつぐみ・りょう)が甘いものが苦手なことは勿論知っている……。
 でも、デートしたかったんだもーん。口実が欲しかったのよっ。
「何故勝てないんだ……?」
 恨めしそうに自分の手を見る涼だが、新しいところを見るのは嫌いじゃなかった。和装の店員は珍しいな。ああ、なにか見たことあると思ったら七夕飾りか。
「俺、抹茶パフェ」
 これなら甘さ控えめだろう。うお、リリィはクリーム餡蜜の黒蜜スペシャルか。えっ、黒蜜ってビンで来るのか? 全部かけるって、おいおいおいおい……。
「美味しい! やっぱりきてよかったー」
 あたし達って、どう見えるかな。デートしているように、見えてる? ここってネットで評判良かったから元々来たかったんだけど……。
「〜〜でね、その時……って、聞いてる?」
「え、あ、何だ?」
 店内に飾りつけられていた短冊に注意が行っていた涼はリリィの話を聞いてなかった。怒ったリリィに足を踏まれて悶絶している。彼女が黙ると静かになって、気まずくなって短冊に願い事を書くことにした。


『親しい友達、パートナーを支えていけますように』


「……涼、何書いたの?」
「秘密だ、秘密」
 ふぅん、とつまらなそうな声を上げるリリィの願い事は決まっていた。いつも、勝ち気な性格が災いして、その、腐れ縁の状態になってしまう。


『もっと涼と仲良くなれますように』


「そんなに隠さなくてもいいだろ。まだ怒ってんのか」
「違うわよっ。あたしも秘密なのっ」
 〜〜〜っ。気づいてないのは百も承知だけど、今日の服って気を使ってるんだからね。はぁ、たまには甘さ控えめじゃない展開にならないかなぁ。夕飯の買い物をしながら、カートを押す彼の背中を見る。小さくため息。
「なあ」
「なによ」
「……思ってたより抹茶パフェ、食いやすかった」
「……次は、涼でも来やすいとこ探すから」

担当マスターより

▼担当マスター

相馬 円

▼マスターコメント

ご参加ありがとうございます、相馬円(そうま・えん)です。
食品フロアに人気が集まると考えていたので意外な結果でした。
公式オフ会・アクション欄でいただいたご質問へお返事いたします。
あくまで『相馬シナリオ』の場合なのですが、参考になればうれしいです。


1:ガイドにない場所(エスカレーターなど)は書いていい?
地球の百貨店にあるものなら問題ありません。
エレベーター、喫煙所、自動販売機などはネタとして使う場合があるためガイドには書いておりませんが、
『エレベーターが閉所恐怖症で使えなかったので階段で来た』などなら描写ができます。
ただし、物理的にキャラクターが離れてしまうのでグループアクション向けかもしれません。

2:現実っぽいアクションでもいい?
相馬は趣味も兼ねて都心の百貨店やアウトレットのパンフレット集め&取材をしています。
パンフレットは10枚くらい貯まりました。やっほーい。
なので、現実・ファンタジー問わずプレイヤーさんがやりたいことを基準に送ってください。
描写できないこともありますが、理由は極力個別メッセージかマスターコメントでお返事させていただきます。

3:ふふの人だ
と、サマフェスで言われました。ふふ。
相馬は『にやっ』や『ふふ』『てへ』が好きです。ぽわわん。

4:祭シナリオはやらないのか?
がっつり季節シナリオを作るより、シナリオ内で季節を取り入れたアクションができる方が個人的には好みです。
あまり考えていませんでした。

5:参加していないキャラの名前・存在って登場できる?
抽選に漏れてしまった方やNPCの名前は、自身のリアクションでは登場させません。
『あいつ』『あの人』などぼかした呼び方に直しています。
該当PCから許可が取れているか分からないのと、シナリオガイドにいないNPCを登場させると不公平が生じる恐れがあるためです。
そのため、相馬シナリオのゴビニャー関連のアクションも空京百貨店ではあくまで『心情・行動の動機』として扱っています。



☆アルバイトについて
今回フロア、または担当パートがリアクションで書かれた人は
これ以降百貨店シナリオではその配属先でバイトをしている扱いになります。
他のフロアでバイトできなくなる代わり、リアクションで書かれたフロアをほかの参加者はバイト担当できなくなります。
AのフロアでバイトをしたひとがBのフロアに一般客として来場することは可能です。


◆次回予告
7月21日(水)
ネコミミ師匠とお弟子さん(第3回/全3回)