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リアクション
放送開始
「はーい、放送開始でございます。五、四、三、二、一、キュー」
PA機器の前に座った、電子兵機レコルダーが、金魚鉢の中のシャレード・ムーンに合図を出した。
時報と同時に、番組のテーマソングを流し始める。(V.公式サイトの、トップ>コミュニティ>プロモーションムービーから『START!』を御再生ください。)
「はーい、みなさんこんにちは、今夜も始まりましたミッドナイト・シャンバラ。まだまだ暑い夜、みなさんはどこでこのラジオを聞いていらっしゃいますか? くれぐれも、身体には気をつけてくださいね。さあ、楽しいおしゃべりとみんなの元気で、暑さなんか吹き飛ばしちゃいましょう!。ミッドナイトシャンバラ、今夜も元気よく開始ですっ!」
テーブルの上のカフをあげたシャレード・ムーンが、元気よく番組を始めた。
「この番組は、世界樹のマップならお任せ月刊世界樹内部案内図、修理はお任せアサノファクトリー、紅茶とケーキの美味しいカフェテラス『宿り木に果実』、ヴァイシャリー錦鯉協会、その他の提供でお送りいたします」
『ミッドナイト・シャンバラ♪』
電子兵機レコルダーがジングルを流すと同時に、シャレード・ムーンがカフを下げた。これで、金魚鉢と呼ばれるスタジオ内の音声は電波に流れなくなる。
「バイトー、ジュース持ってきて。あ、カレーラムネ持ってきたら殺すわよ。CMのうちに、早くね」
副調整室(サブ・コントロールルーム)むかって、シャレード・ムーンが言った。
パタパタとスポーツドリンクのペットボトルとコップを持った日堂真宵が、重い防音扉を苦労して開けて、スタジオ内に飲み物を届けた。
『機晶姫の修理、整備、改造はアサノファクトリーへ。親切、丁寧、スピーディーで、良心的な対応を致します。御来店、お待ちしてます』(V)
『CMあがりますでございます』
電子兵機レコルダーがサブコンから、シャレード・ムーンのヘッドホンに指示を出した。
「はーい」
シャレード・ムーンは、カフをあげた。
ふつおたコーナー
「普通のお便りコーナー〜♪」
シャレード・ムーンが半分裏返ったようなキャンディボイス全開でコーナー名を叫んだ。
「最初のお便りは、ペンネームはさくらんぼ大好きさん。
初めてお手紙を差し上げます。
はーい、初めまして。
闇龍の難を乗り越えて雨季の恵みのいやます候、シャレードさんはご健勝でいらっしゃいましょうか。
私の在住するシャンバラ大荒野は今日も美しく、生と死の躍動に奮えています。
このたびは、そんな大荒野の素敵な日常の一部をご紹介いたしたく、かく筆を執りました。
勿体を付けずに申しあげますに、『さくらんぼ狩り』のことです。
まあ、美味しそうですねえ。サクランボって結構好きなんですよ。特に二つくっついているやつ。
近場で探したり、ツァンダのあたりまで遠出をしたりして、皆で収穫。
たらふく蓄えたものをサルヴィン川に晒して洗う際は、指先に当たる瑞々しい感触がとても心地よいものです。
一番立派なものはどれか等、皆で談笑しながら吟味するのも楽しみのうち。
生のままでも良いものではありますが、中身を抜いて干す加工をすると、保存が利くようになります。しわしわになっちゃいますが、これも見慣れるとかわいく、味わい深いのです。
干しサクランボ? なんだか変なことする人ですねえ。そんなことをして美味しくなるのかしら?
シャレードさんも大荒野にいらっしゃる折には、参加なさってはいかがでしょうか。きっと皆さん、大歓迎ですよ♪ かしこ」
いや、これは本当にサクランボ狩りなんだろうか。なんだか、果物狩りよりも首刈り族を連想させたりもするのだが。
「えーっと、あの辺って、サクランボ採れましたっけ? うーん、脳内サクランボなのかなあ。でも、たくさん採れたら、今度少し送ってくださいねー。待ってますよー」
何かすっきりしないまま、シャレード・ムーンは次のお便りに移った。
「えーっと、この手紙は……。よ、読めない……。凄く芸術的な文字です。うーん、前衛的? あ、封筒に何か入ってますね。翻訳だあ。うん、これで分かります。じゃ、内容いきますね。
パラミタ珍獣行宛て
えっと、まだそういうコーナーないんで、ふつおたに入れちゃいました。ごめんなさい。
残念ながら聞いた話で実際に見たわけじゃないんだが、何でもジャタの森にはとんでもねぇアライグマがいるらしい。
人間相手でも平然と襲い掛かってきて、犠牲者の頭は哀れ骸骨になるまでキレイに洗うんだとか。
そんな習性からついたあだ名が『裸SKULL』・・・みんなも気をつけてくれよな。
噂じゃ人に化けてどこかの学校に潜りこんでるらしいから。
ペンネーム男なのに花嫁さんからです。
そうなんですよねえ。知らない人も多いみたいですけれど、アライグマって猛獣なんですよ。なんてったって、一応熊は熊ですし。クマー、なんちゃって。
でも、人に化けてるって、それって獣人じゃないのかなあ。でも、なんで裸スカルって裸がついてるの。もしかして、その獣人さん、すっぽんぽんで人を襲うのかしら。怖いなー。
ねえ、これって、七不思議のコーナーの方がよかったんじゃないの?」
わざとらしく、シャレード・ムーンが副調整室の誰かに確認をとるような演技をする。
いきなり名指しされた気がして、PAの前に座った電子兵機レコルダーが戸惑う。とりあえず、しかたないので、両手で大きく頭の上に丸を作って答えた。
「なんだか、ふつおたでもいいそうです。もう、ふつおたのコーナーって何でもありだよね。それにしても、最初の人間じゃない文字って誰が書いたんでしょうね。もしかして、そのアライグマ本人が手紙書いてきたんだったりしてえ。ふふふ、それはないかあ。ないよね。ないといいなぁ……」
★ ★ ★
「狐樹廊、アストライトはどこ?」
顔を合わせ様に空京稲荷 狐樹廊(くうきょういなり・こじゅろう)の胸倉をぐいとつかんで、リカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)が訊ねた。
「あれあれ、いかがいたしました?」
涼しい顔で、扇子をパタパタとさせながら空京稲荷狐樹廊が聞き返す。
「えっ、まあ。ちょっとね。アストライトに用ができただけよ、ちょっとね」
空京稲荷狐樹廊を放して、リカイン・フェルマータがとぼけた。
「ししょー、どーしたんッス」
アレックス・キャッツアイ(あれっくす・きゃっつあい)が、パタパタと駆けてくる。
「ラジオ聞いていたら、突然飛び出してくッスからあ」
やっと追いついて、はあはあと肩で息をしながらアレックス・キャッツアイが言った。
「いや、ちょっとアストライトがやらかしたのよね。とはいえ、一人でできるとはとうてい思えないんだけれど……」
そう言うと、リカイン・フェルマータはあらためて空京稲荷狐樹廊をチラリと見た。
「そうですねえ。アストライトなら、クイーン・ヴァンガードの本部あたりに行っているのでは……、おや、リカイン、どちらへ?」
「えっ? ああ、ちょっとアストライトの息の根を……。げふんげふん、じゃなくて、アストライトと息抜きに。狐樹廊、アレックスをしばらく頼むわね」
そう言うと、リカイン・フェルマータは走りだしていった。よほど急いでいるのか、超感覚を使ってアライグマの耳と尻尾を顕わにしている。
そう、アストライト・グロリアフル(あすとらいと・ぐろりあふる)が投稿したに違いないハガキに書かれていたアライグマとは、間違いなくリカイン・フェルマータのことだ。
「どうしようッス」
アレックス・キャッツアイは、去っていくリカイン・フェルマータと空京稲荷狐樹廊を見くらべておろおろとしている。
「まあ、たまにはかわいい後輩に試練を与えるのも悪くないでしょう」
扇子ですっと口許の笑いを隠しながら、翻訳を作った空京稲荷狐樹廊は言った。
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