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ようこそ、浜茶屋『海桐花』へ

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ようこそ、浜茶屋『海桐花』へ

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 夏のお客様 

「浜茶屋『海桐花』、新装開店だよ〜!」
 水着に海桐花のエプロン姿で空飛ぶ箒に乗り、カレンは拡声器で浜辺に呼びかけた。
 小型飛空艇に乗ったジュレールはサンドイッチマンのように身体の前後に看板をかけられている。看板には勇が作ったチラシが貼られ、海桐花の外観や新しく増やしたメニューの写真、そして宣伝文句がでかでかと躍っている。
「海で遊んでるとお腹がすくよねっ。おいしい料理と快適な空間の、浜茶屋『海桐花』に来てね〜」
「送迎やデリバリーも承っておる。おお、そこで遊んでる子ら、我の飛空艇に乗ってはみぬか?」
 ジュレールは、浜辺で遊んでいる子供にも積極的に声をかけた。子供の心を捉えれば、家族揃って浜茶屋へ来てくれるのでないかというもくろみもあるが、元々ジュレールは子供と遊ぶのが好きなのだ。
「浜茶屋ですか、いいですねぇ。そろそろお昼にしましょうか〜」
 カレンの呼びかけに、メイベルはパートナーたちを昼ごはんに誘った。
「毎度あり〜。良かったら好きなものをデリバリーするよっ」
「ありがとうございますぅ。でも私たちは休憩がてらに浜茶屋にお邪魔させていただきますねぇ」
 ピンクのセパレーツ水着の上に、メイベルはヨットパーカーを羽織り、麦藁帽子を被る。セシリアはセルリアンブルーのホルタービキニの上にTシャツをかぶった。
「僕はお腹ぺこぺこだから、デリバリーじゃ運びきれないくらい食べると思うしねっ」
 運動したからには食べないと、と言うセシリアに、
「うん、ぜひぜひたくさん食べて行ってねっ!」
 元気な笑顔を向けると、カレンはまた別の場所で海桐花を宣伝しにむかった。
 メイベルたちは人工芝に囲まれた浜茶屋の中に入ってゆく。

「いらっしゃいませ〜♪ 今日も暑いですね〜。っくりしていって下さいね♪」
 浜茶屋に入るとすぐ明るい声がかけられ、小学校高学年という辺りの女の子が、水着エプロンで迎えてくれた。
「いらっしゃいませ〜♪ ハルカちゃん、あっちの席が空いてますから案内お願いします〜」
 紫桜 遥遠(しざくら・ようえん)は店内を見回して、空いている席をハルカと呼んだ女の子に示す。
「はい、こっちです〜」
 にこにこと案内するハルカに、メイベルはちょっと目を見開き、そして笑う。
「あ、あら……」
「しっ、接客にはこちらの方が良いでしょう?」
 ちぎのたくらみで幼児化した上に女装した緋桜 遙遠(ひざくら・ようえん)は、メイベルにこっそり囁きかけた。
 接客にはやっぱり可愛い女の子。空京でもこれで接客のバイトをしているから、遙遠の『ハルカちゃん』ぶりは板についている。
 上は2段、下のスカート部分は3段のフリルになったピンクストライプの水着に浜茶屋のエプロン、という格好のハルカちゃんを、遥遠は満足そうに眺めた。
(やっぱり一番可愛いのはハルカちゃんですね〜)
 客として来る人の水着姿も楽しめて、ハルカちゃんの姿もたっぷりと楽しめて、と遥遠は幸せに浸る。この環境で働けるなんて、なんて良いバイトなんだろう。
「遥遠……仕事に集中してくださいね」
「あ、はいはいっ、えっと注文は何にしましょうか?」
 遙遠に注意され、遥遠ははっと我にかえってメイベルたちに尋ねた。
「やっぱりここは店員さんのお勧めにしようかな。美味しいのをよろしくねっ」
 真っ先にセシリアが言うと、メイベルとフィリッパも肯く。
「では私もそうしますぅ」
「そうですわね。色々持ってきていただいて、みんなで食べましょうか」
「はい、じゃあ美味しいもの色々持ってきますね」
 遥遠は上機嫌で注文を受けて立ち上がった。
「楽しそうでいいですねぇ」
 うきうきと仕事をしている様子が見える遥遠にメイベルが微笑むと、遙遠も意味ありげに笑みを返した。
「まあ、人の色々な顔も見られますし」
 男性でいる時には見られない人の姿が見える、と言った後、遙遠はころっとハルカちゃんの口調に戻り。
「いらっしゃいませ〜、すぐおうかがいしますね〜♪」
 新たに入ってきた客に、愛嬌をふりまくのだった。
 
 
「夏だー! 海だー! お日様いっぱいだー!」
 海につくなりクマラ カールッティケーヤ(くまら・かーるってぃけーや)は靴を脱ぎ捨てて砂浜を走り回った。焼けた砂は熱いけれど、それがまた、海に来ているのだという気分を盛り立てる。
「海に来ると、夏が来たって気分になるよねっ」
 友人同士で誘い合って一緒に海に来たルカルカ・ルー(るかるか・るー)は、水着の上に羽織っていた服を脱いだ。下から現れたのは目のやりどころに困るほどの、真紅のマイクロビキニに腰パレオ。悩殺プロポーションをさらしながらも、ルカルカの目は蒼系のブリーフ水着になったダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)の、若干日焼けしているきれいに筋肉のついた身体に釘付けになる。
(ほわ……素敵……)
「ん?」
 視線に気づいたダリルに、ルカルカはほにゃっと表情を崩す。
「なんでもな〜い。ね、ダリル、あの沖にある岩礁に行ってみない?」
「結構距離があるな」
「うん、だから人も少ないだろうし。ゆっくり寛げそう」
「岩礁か。俺も行って見たいぞ」
 夏侯 淵(かこう・えん)は緑系のトランクス水着の上に、日焼け防止にとダリルから借りた白シャツを着ていた。身体のサイズの差は明らかで、シャツの裾は腿まで達している。
「だったらみんなで行こうね。あ、でもその髪の毛は邪魔かな」
 淵の豊かな赤い髪をルカルカは後ろで1本の三つ編みにした。これで大丈夫と、一番下は白いリボンで蝶結びで留めておく。
 これは泳ぎやすいと喜んだのもつかの間。
「お嬢ちゃん可愛いね〜、こっち来てアイスでも食べない?」
 三つ編みお下げの所為で女の子と思われたのかからかわれ、怒髪天をつく。
「俺は男だ〜っ!」
 星になれとの勢いで叩きのめすと、淵はふんと鼻を鳴らして海に入った。
 泳ぎには自信のあるルカルカたちが沖の岩礁に行こうと相談しているのと対照的に、エース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)は丁寧に日焼け止めを塗ると、ゆったりめのスイムパンツの上に白っぽいパーカーを羽織った。何かあっては大変と、持ってきた荷物の中には消毒薬や虫刺されの薬、冷却ジェルシート等が入っている。
「エースも岩礁まで泳ごうよ」
 ルカルカに誘われて、エースは大きく首を振った。
「カナヅチなんだよ俺……」
 言った瞬間、隣にいたメシエ・ヒューヴェリアル(めしえ・ひゅーう゛ぇりある)が吹き出した。
「おっと失礼。しかし、やっぱり……ねぇ」
「仕方ないだろ。俺の故郷は暑いけど水の少ない地域だったから、海水浴にはあまり行ったことないんだ」
「いや、泳ぐ機会があまり無くて、結果泳げないというその事情は分かるよ。しかしなんとまぁ、どんくさ……いや」
 最後の方は咳払いで誤魔化すと、では、とエースに浮き輪を渡す。
「せっかく海に来たのだから、ここは水泳訓練といこうか。ちょうど、泳ぎを教えてくれそうな人もいることだしね」
「いいよ、ルカが教えたげる。教導団式でねっ♪」
「ええっ、お手柔らかに頼むぜ」
 エースはこれが命綱とばかりに、浮き輪をしっかりと持った。
「メシエは肌白過ぎだ。もっと日に当たれ……って、吸血種族だったな。この日差しだが平気か?」
 ダリルに気遣われて、メシエは首を振る。
「私は太陽の日差しも暑いのも平気なのだよ。海は大好きだから、むしろ日差しは沢山浴びたい」
「そうか。ならいいが、日射熱射には気をつけろ」
「ああ、分かっているよ。さて私もエースに付き合うとするか」
 メシエはそう言うと、必死に浮き輪につかまりながら泳ぎを教えてもらっているエースに泳ぎ寄って行った。
 
 しばらくエースに付き合って、浜に近いところで遊んでいると、
「お? ルカルカ! 1本どうだ?」
 浜茶屋『海桐花』の移動販売員として浜辺を回っていたウォーレンが、肩にかけていたクーラーボックスからラムネを取り出して見せた。
「うん、飲む飲むっ」
「1本目は俺のバイト代からの奢りだ」
「あ、ウォーレンさん、俺、陣中見舞いを持ってきたんだ。えっと……」
 エースはばしゃばしゃともがいて浜に戻ると、荷持ちから出したスルメをウォーレンに渡した。
「お、これは嬉しいな」
 好物に目を細めるウォーレンの横から、クマラはクーラーボックスを覗きこむ。
「うまそー」
「だろ? だが違うぜ、本当に美味しいんだ。店の方が種類も量もあるし、中は涼しいからそっちにも寄ってくれ。カキ氷もいろいろあるからな」
「ならば俺が代金を出すから皆でカキ氷を食べに行こう」
 ダリルの提案に、クマラが真っ先に飛びついた。
「オイラ、カキ氷食べたい!」
「だったら案内するぜ」
 こっちだ、と歩き出したウォーレンについて一行は浜茶屋を訪れた。
「いらっしゃいませ。たくさんお客さんを連れてきてくれたんですね」
 両手の平と腕に焼きそばの皿を載せた橘恭司が、入ってくるウォーレンに気づいて顔を振り向けた。
「ああ、上客を連れてきたぜ」
 ウォーレンが言う間にも、ルカルカはもうカキ氷の注文に入っている。
「ミルク宇治金時アイスとフルーツものせて♪」
「俺はアイス乗せイチゴで頼む」
 淵も遠慮なく頼んだ。
 クマラはカキ氷を注文した後、エースにねだる。
「エース、お願いした通り、現金大目にお財布持ってきた? だったら、焼きそばも食べちゃおうかなっ。ウォーレンさん、とびきりおいしい焼きそばひとつちょうだいな♪」
「ふむ。では私は飲み物でも振舞おうか」
 ダリルは成人している者にはビール、未成年者にはジュースを取った。けれどクマラだけは、外見で未成年にふるい分けしてジュースを前に置く。
「なんでオイラはジュースなんだよー」
 むくれるクマラの額を、メシエははじいた。
「その外見でアルコールはいけないな」
「ちぇーっ。でもいいや。ジュースだって美味しいもん。おかわり!」
 クマラがコップを高く上げて振る。
「あんまり食べ過ぎないようにね。ひと休憩したら岩礁まで泳ぐんだから♪」
 スキューバが趣味のルカルカは、今から潜るのが楽しみでならない。といってもただ浮かれているのではなく、ダリルと協力し、体力保持の方策は十分に考えてある。海が好きだからこそ、その怖さも知っているからだ。
「岩礁かぁ、楽しそうだね。でもエースが……」
「俺はいいよ」
 エースはそう言って荷物からデジカメを取り出した。
「その間、これで浜辺の花を撮ってるから。さっきハマユウが群生しているところを見つけたんだ」
 せっかくだから、とエースは取り出したデジカメを構えて、浜茶屋で働くウォーレンの姿や、カキ氷を前に談笑する皆をカメラに収めていった。夏の日の思い出、この楽しさを写真の中に留めようとするように。