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【DD】『死にゆくものの眼差し』

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【DD】『死にゆくものの眼差し』

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第一二章 夢の中から


 館内を回り、侵入者や不審者がいないか調べていた朱宮 満夜(あけみや・まよ)ミハエル・ローゼンブルグ(みはえる・ろーぜんぶるぐ)は、新たな異変に気がついた。
 被害者のひとり、珂慧が、再び鉛筆を動かし始めたのだ。しかも、書いているのは「首無し血まみれの男」ではない。
 文字だ。
  「 ・巨人にはどんなに近づこうとしても決してたどり着くことができない。
     また、ある一定以上の高さからは上に上がることができない。
     だから、雲の中に隠れている顔を見ることはできない。
    ・雲に隠れている顔の眼の部分は、作品「死にゆくものの眼差し」ではないか?
    ・巨人の傷はSPの限りをつくしてひとつでも治しても、
     巨人の腕が動いて同じところに再び傷を作る。
    ・転生前の魂がナラカから何かやっているとは考えにくい。
     この一件をやらかしたのは、絵に残っていたアルベール・ビュルーレの残留思念では? 
    ・餓鬼ソルジャー、巨大ハーピー、「岩山トカゲ」達は、自分達の体をすり抜ける。
    ・餓鬼ソルジャー、巨大ハーピー、岩山トカゲは、
     いずれもビュルーレの作品に登場した事物。
     それぞれ近代戦争の兵士、戦闘機、戦車の象徴であった。
    ・前向きな絵を描いた時に、頭に伝わってくる「絵を描け」という衝動に微妙な    ・巨人に呼びかけてみても返答はない。
    ・死因は何か? 風邪こじらせて肺炎起こしたのが死因。かなりの高齢だった。
     遺言は「人とは信じてもよいものか?」
    ・描く対象が巨大だから、大きな絵を描けばいいのでは?」
 列挙されている文字は、意味のある「文章」であり、「情報」だった。
 人が虚ろな眼で何かを書き連ねていく様は、背筋に冷たいものを走らせた。
 が、それ以上に、これは状況を打破するきっかけとなるかも知れない――
 満夜は携帯電話を取った。
「もしもし、峯景さん!? 朱宮です、今、白菊 珂慧さんの所にいるんですけど――」

 知らせを受けた対策本部では、さらにオルフェリアがこんな提案をした。
「スケッチブックに何か書けば、『向こう』と対話できるんじゃないでしょうか?」

「うわぁあっ!」
 話し合いの内容をメモしていた珂慧は、いきなり悲鳴を上げた。スケッチブックの真ん中に、いきなり紅の大きな字で「こちら美術館。応答求む」という文字が現れたのだ。
 投げ出されたスケッチブックを取り上げたのはフリードリッヒだった。その下に新たに文を書き連ねる。
  「こちらフリードリッヒ。現在画家の夢の中に在り」
 すると、また字が現れた。
  「こちら美術館の二色峯景。美術館で起きた騒ぎの調査をしている。
   そちらの状況を教えて欲しい」
  「こちらフリードリッヒ。
   周囲は曇天、薄暗い岩沙漠、腰から上が地面から出ている血まみれの巨人がひとり、
   周囲には餓鬼ソルジャー、岩山トカゲ、巨大ハーピーがぶつかりあい、
   戦争中。
   私達全員に『巨人の絵を完成させろ』という電波?が来ている。
   電波の言う巨人が『血まみれの巨人』というのは分かるけど、
   首から上が雲に隠れて不明。上に上って確かめることも出来ない」
  「フリードリッヒさん以外にも誰かいるのですね?
    誰かいるのなら、全員の名前を教えて下さい」

 現実側と夢の中で、同時に歓声が上がっていた。
 両者をつなぐ回路が生まれたのだ。