天御柱学院へ

なし

校長室

蒼空学園へ

【学校紹介】超能力体験イベント「でるた1」の謎

リアクション公開中!

【学校紹介】超能力体験イベント「でるた1」の謎

リアクション


第13章 光の壁

「よし、あれが出口だな! 会場から出るぞ!」
 クリストファーの導きによって、ランディたちは会場からの秘密の出口をみつけるkとができた。
 サイコ粒子の詰まった袋を大事に抱えたまま、ランディが開口部から外に抜け出ようとしたとき。
「何だ、この感触は? ……あっ!」
 ランディは足を止めた。
 頭痛にも似た感覚に、戸惑う。
 次の瞬間。
 ランディは、目の前に深い海の底の光景が広がっているのをみて、驚いた。
(むう。これは……精神感応! 俺の心を引き止められる奴がいるとは! 誰だ?)
 ランディの問いに、深い海の底のどこかから、明瞭な「声」が響きわたる。
(僕は海人。イベント会場にいる。みんなのおかげで、やっと少し思い出すことができた)
 強化人間X、いや、海人の声だった。
(イベント会場に? ああ、資料に載っていたな。お前は、強化人間Xか! なぜ、海人などと名乗っている?)
 ランディの質問を、海人は無視した。
(僕がイベントに参加したのは、警告を伝えるためだ)
(ああ? 何をいっている?)
 ランディは、苛立った。
(だからこそ、君たちの侵入を許した)
(何だって!? まさか、お前が!)
 ランディは、昨夜イコンを制御不能にした「力」の持ち主が海人だったと悟り、さすがに愕然とした。
(正直、お前のことはノーマークだった。寺院の資料には、お前のデータはなく、単なる客寄せとしてしか認識されていなかったのだ。だが、くそ、資料を鵜呑みにした俺もバカだったな。機密をわざわざ「機密」といって発表するはずがないと思ったんだが、甘かった!)
 ランディは、次第に自嘲気味になっていく。
(君たちが一番欲しがっているそれは、非常に危険なものだ。開発の仕方によっては、人々を滅ぼすことにもつながりかねない。そのことを、寺院にも伝えて欲しい)
 ランディは、海人のサイコ粒子のことをいっているのだと気づいた。
(そうだ、この粒子こそ、今回のイベントで展示された中でも機密中の機密、最高機密だ! そのことは、あえて「機密」といわなかったことが実証している! だが、俺たちの上の目はごまかせなかった。なにげない発明品を装っても、この粒子こそ学院の技術の結晶なのだ!)
(ランディ。警告を、伝えて欲しい)
 海人は、同じ言葉を繰り返した。
(ああ、伝えるさ。って、まさか!)
 ランディの勘が、恐るべき真実に思い当たる。
(X! お前がイベントに参加した目的は、そういうことだったのか! お前が本当に警告したかった相手は、一般参加者たちでなく、鏖殺寺院から粒子を奪いにくる俺たちだったんだな! だから潜入を許した! ああ、何て野郎だ!)
 ランディは、相手の掌中で踊らされるというのが非常に嫌いなため、激しい怒りが燃えあがるのを感じた。
(少し違うな。僕は、両方に警告したかったんだ。優先順位で君たちが上ということはない)
(全部が全部、お前の思いどおりになると思うなよ! 警告は伝えるが、別にお前のためじゃない!)
(ありがとう、ランディ。最後に、その粒子は置いていって欲しい。君たちには過ぎたものだ)
(ハッ、バカをいうな! だから、お前の思いどおりにはならん! この粒子はもらていく!)
 気がつくと、ランディは海人との感応を抜け出て、サイコ粒子の袋をきつく握りしめていた。
「お話は終わりというわけか! くっ、開口部が!」
 ランディが驚いたことに、どこかから現れた巨大な岩が、会場からの出口を塞いでいた。
「これもXの仕業か。ショットガンで破壊する!」
「でも、ランディ。そのXって奴の力が本物なら、これを破壊したってそう簡単には出られないと思うぜ。それこそ、粒子を置くまでな」
 ヒップス・パーカーがいった。
「大丈夫だ! Xは、俺をナメているようだが、俺も百戦錬磨の兵士だ。奴の弱点にはピンときたさ」
 ランディがぶっ放したショットガンの弾丸が、開口部を塞ぐ大きな岩を粉々に破壊する。
「さあ、これと同時に!」
 ランディは、胸ポケットの中にあった装置のスイッチを入れる。
 次の瞬間。
 ちゅどどどどどどどーん!
 イベント会場のあちこちから、大きな爆発が巻き起こった!
「Xめ、一般参加者との精神感応に忙しくて、俺たちが爆弾を仕掛けてまわっていたことには気づかなかったな。奴も万能ではないということだ。そして! 奴は、生徒たちを放っておくことはできない! これこそ奴の弱点! 奴は甘ちゃんなのさ!」
 高らかに笑いながら、ランディは障害のなくなった開口部をくぐり抜け、会場の外に抜け出る。
「本当だ。普通に出られるぞ」
 同様に脱出しながら、ヒップスは目を丸くした。
「いま、奴の注意は会場内で炎に包まれた生徒たちに向いている! 逃げるぞ!」
 ランディたちは駆け出していた。

「う、うわー!」
「きゃー!」
 突如大爆発を起こし始めたイベント会場内部では、運営委員・一般参加者の区別なく悲鳴があがっていた。
 巻き起こる炎が会場を舐め尽くし、柱が折れて、崩れた天井が降ってくる。
「俺はKAORIを運び出す! 他のみんなは参加者を避難させてくれ!」
 月夜見望は、消火が終わってボロボロな姿のKAORIを抱えて叫んだ。
 ピンポンパンポーン
 再び、学院上層部からの放送が流れる。
「みなさん、落ち着いて下さい。不測の事態ですが、学院はレスキューチームの派遣を依頼しました。到着まで1時間ほどかかりますが、どうか冷静になってお待ち下さい。繰り返します。……」
 途中でスピーカーが炎を浴びて崩れ去ったため、放送は止まった。
「アホか! 1時間も待ってたら俺たち火だるまだぜ! まったく、急ごしらえのこの会場には、大規模火災に対応した消火設備がないんだから、まいっちまうぜ!」
 運営委員、そして参加者たちからも、口々に怒りの言葉がほとばしり出る。
「海人さん、急いで会場を出ましょう!」
 火村加夜は強化人間Xと呼ばれていた者の本当の名前を呼びながら、彼を乗せた車椅子を急いで押していく。
 海人担当の警備員たちが、車椅子の進路にある瓦礫を除去して道をつくっている。
「少し揺れるかもしれませんが、耐えて下さい。私は、何が何でもあなたをお守りします!」
 炎の熱さにも負けず、火村は叫んでいた。
「ああ……うう……」
 海人は、呻いている。
「やっぱり、海人さんのいったとおりになったわね。私は、人的被害を最小限に抑えるため、参加者たちの誘導に努めるわ! そして、海人さん担当の警備員さんたちも、何人か誘導にいって!」
 真里亜・ドレイクは叫ぶ。
「えっ、でも。海人さんにも何人かついてくれないと」
 火村は、口ごもる。
「もちろん、数人は残すわ! でも、海人さんもできるだけ避難誘導に委員を派遣して欲しいと考えているはずよ!」
 真里亜の言葉に、山田桃太郎はうなずいた。
「わかった。何人か、避難誘導にいってくれ!」
 山田の指示で、海人の警備担当者たちの一部が、参加者の避難誘導にあたり始める。
「海人さん、できるだけ急ぎましょう! 会場が崩れかかっています! きゃー」
 崩壊した会場の天井から降ってきた瓦礫を避けるように、火村は車椅子を押していく。
(これが、昨日みえた炎か……。うかつだった。みんな、死なせるわけにはいかない)
 車椅子で運ばれる海人は、強い決意をかためようとしていた。

「ハハハハハ! 俺たちの勝ちだ!」
 炎をあげる会場を背にして、海岸に向かって走りながら、ランディは笑い声をあげていた。
「いろいろあったが、どうだ? 任務は無事成功ときている! これを持って帰れば、寺院からの表彰は間違いない! ハハハハハ! たいした『力』を持った奴がいたが、まんまと出し抜いてやったぞ!」
「ランディ、笑い過ぎだぞ。最後まで気を抜くな」
 ヒップスがたしなめる。
「ハハハハハ! なに、奴には何もできんさ! いったいどうやれば、燃え上がる会場の中の生徒たち全員を助けて、同時にこのサイコ粒子も取り戻すこともできるというのだ? そんなことは絶対できっこない!」
 ランディは、勝利を確信した。
「みえたぞ! 機体に乗れ」
 海岸にある大きな堤防の陰に隠してあったシュメッターリングに、ランディたちは乗り込もうとする。

(そうだ。みんなを助ける方法がひとつだけある!)
 海人は、気づいた。
(できれば使いたくないやり方だが、これしかない!)
 海人は、「力」を解放した。
「なに!? いまの感触は!!」
 海人の車椅子を押していた火村は、ものすごい「力」が海人の身体から放出されたのを感じた。
 「力」の奔流を浴びた火村の胸に、熱い何かが鼓動を打つ。
「これは! 私の中に、何かが目覚めようとしています!」
 火村は、自分の中に大きな変革が起きたことを感じていた。

「ハハハハハハ! あれ?」
 イコンのコクピットに乗り込もうとしたランディは、脇に挟んでいたサイコ粒子の袋が、もぞもぞとうごめくのを感じた。
「うお、なに!!」
 袋が破れ、砂鉄のような粒子が、もれだす。
 ランディは慌てて粒子をすくおうとするが、もれた粒子はそのまま宙を飛んで、イベント会場の方に向かっていった。
「しまった。まさか!」
 ランディは、言葉を失った。
 ピカアアアア
 粒子は、筋のようになって会場に飛んでいきながら、光を放ち始める。
「熱い、助けてくれー!」
 燃える会場内部では、逃げ遅れた生徒たちが悲鳴をあげていた。
 そこに、会場内に潜り込んだサイコ粒子が、どこまでも薄く広く拡散して、生徒たちの上に覆いかぶさるように展開された。
 しゅわあああああ
 薄く展開されたサイコ粒子はすさまじい光を放ち、炎や瓦礫をいっさい受けつけなくなる。
 その外観は、さながら、生徒たちを守る「光の壁」であった。
「こ、これは!」
「きれいだわ!」
 生徒たちは、危険も忘れて感嘆の声をあげる。
 サイコ粒子の「光の壁」は、全ての生徒たちに密着して、彼らを包み込み、いっさいの炎、いっさいの瓦礫からその身を守り始めていた。

「ちっ、サイコ粒子に、そんな使い方があるとは!」
 ランディたちは毒づきながら、機体を発進させる。
 正体はもうバレた。
 学院上層部は、機体にも気づいただろう。
 長居は無用だ。
「だが、Xよ、お前は愚かだ! サイコ粒子の危険性を警告しながら、自分でその粒子の大きな可能性を示してしまったのだからな! そんなに生徒たちを守りたいか!」
 嘲笑を浮かべながら、ランディはシュメッターリングを発進させる。
 粒子の現物は持ち帰れなかったが、データは記録してある。
 海人がみせたあの「光の壁」についても寺院に報告し、同様の粒子の開発を急がせるつもりだった。
「サラ、飛ばせ! 学院上層部は、ナメるわけにいかないからな! 追手がくるかもしれん!」
「わかったわ!」
 ランディたちの機体は、ものすごいスピードで海京上空から離脱していった。